チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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待たせたな!とうとう翔子ちゃんがトゥインクルシリーズで走るよ!
一筋縄ではいかないライバルもこれからたくさん出てくるんだろうね!


第十四話 とうとう始まるレグルスの初重賞レース、独自設定タグが働く働く

 キングカメハメハの走ったダービーより約二ヵ月後。

函館レース場は常ならぬざわめきに満たされていた。

 

 G3、芝1200m、函館ジュニアステークス。

日本の多くで使われる芝と異なり、海外と同じ質の芝で行われる中央重賞レース。

地方所属のウマ娘も出走できる中央重賞であり、地方ウマ娘が勝利した場合、年末に行われる中央ジュニアG1三レースの内、一つへの優先出走権を得られる。

メイクデビューした一年目にのみ出走できるレースにして、6月にメイクデビューしたウマ娘にとって初めて出場可能な重賞レースであり。

このレースに出走するウマ娘達の『多くは』メイクデビューに勝利したウマ娘か、地方ステップレースにて勝利した地方所属のウマ娘である。

ただし、規定上として、この重賞レースは『メイクデビュー前のウマ娘』も出走を可能としている。

 

 勿論、重賞とは簡単に勝てるものではない。

例えそれがデビュー一年目限定のものとしても、メイクデビューすら勝っていないものが出走するのは普通、無謀とされる。

それがトレセン学園に入学したばかりの一年生となれば尚更だ。

 

 トレセン学園ではデビューしてから三年間をそれぞれジュニア、クラシック、シニアの一年ずつに区切っている。

そしておおよそのウマ娘は入学してからの一、二年をトレーニングに費やしてからデビューする。

中等部三年間を身体を作る事に使い、高等部からデビューする者も珍しくない程度には、トゥインクルシリーズは魔境なのだ。

レグルス達の面々と同じ世代のクラシックを走る、リギルのキズナも、同じ中等部とはいえ、年齢的には彼女達の先輩である。

 

 身体も出来ていない、レースの経験すらない中等部一年生が、幾ら規定上可能としても重賞レースに出走するなど、普通ならば一笑に付されるか、勝ち抜いてレースに出場したウマ娘達を侮辱していると怒りを買うものだろう。

しかし、今、この函館レース場ではそうなっていない。

それは何故か。

 

 上がり3F、30秒0。

その彼女にはトゥインクルシリーズ前走の記録が無い為、出走表に記されるのはトレセン学園にて改めて計測されたトレーニングタイムであるが。

中等部一年生、メイクデビューすらしていない新バ、ディープインパクトのその記録は、このレースに出る全てのウマ娘に警戒を抱かせるに足るものだった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

「翔ちゃんどう?ワクワクしてる?」

「ん。そうだね。楽しそう」

 

 パドック入り前、控室にて、あきはディープインパクトと会話をしていた。

まるでピクニックをしに来たかのようにウキウキしている幼馴染は、きっと自分に向けられている警戒と闘志を感じ取っているのだろう。

それに、出走表を見れば一人、面白そうな相手が居たのもあるだろう。

そのウマ娘は、トレセン学園にてリギルと並び、『双璧』と称される強豪チーム、スピカに所属しているウマ娘らしい。

ディープインパクトは3枠5番、件の彼女は1枠1番。

少し離れているが、まぁ、あきの見立てだと二人とも、枠番は関係無いだろう。

 

「うん、そうだね。楽しんできなよ!ボクもきっちり応援するからね!」

 

 今回は幼馴染四人組はお留守番の為、模擬レースの時に没収された応援グッズはばっちり完備である。

はちまき(刺繍自作)、団扇(イラスト自作)、はっぴ(シルクプリント自作)、タオル(染色を手製)、ペンライト(市販品カスタム)、あきの準備に手抜かりはない。

ライブでのコール&レスポンスも、動きがキレッキレのオタ芸も、あきは完璧に披露してくれるだろう。

 

「うん、頑張るね」

 

 なお、ディープインパクトはそんな応援してくれるあきを素直に喜べる品の良いぽやぽやお嬢様なので、今この空間にツッコミは不在であった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

ゲートイン前、ディープインパクトは1枠1番のウマ娘を見る。

学園の強豪チーム、スピカ所属のウマ娘。

速いのだろう、まるで周りをシャットアウトするかのように集中している。

なんとなく、本当になんとなくだが、模擬レースで使った威圧感は今回使わない方が良い気がする。

いや、むしろ。

ならば、取るべき戦法は――

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

『さぁ始まります芝1200m、函館ジュニアステークス。出走するのは十四人、果たして勝つのは中央のウマ娘か地方のウマ娘か、地方は中央G1への切符を掴み取れるのか』

『全てが決まる一分半未満、今!スタートしました!』

『おっとロケットスタートを決めたのは3枠5番と1枠1番のウマ娘!』

『これがデビュー戦中央所属のディープインパクトと!』

『同じく中央所属チームスピカのカブラヤオーだ!』

 

 このコースは短い、最初から速度を出して走り切る。

ディープインパクトはその鍛え抜かれたフィジカルに存分にモノを言わせている。

スタートを決めてハナに立つ、そのつもりだったが、しかし。

 

『ハナをとったのはカブラヤオー!後ろにぴったりディープインパクトがつける!逃げる逃げる五バ身六バ身どんどん引き離す二人旅!』

 

 注目していた相手は大逃げ。

先頭を取るのは自分だとディープインパクトに目もくれずハナを主張する。

 

「(――いや、多分違う。これは)」

 

 ディープインパクトは、メラッと闘争心をほんの少しだけ、威圧感として相手に飛ばした。

カブラヤオーの速度が少しだけ上がる。

自分も速度を上げて、また少しだけメラッと足を竦ませる威圧感を飛ばしてみた。

カブラヤオーの速度がまた少し上がった。

 

「(――面白い)」

 

 全く理由は解らないし、どのようにしているかも解らないが、彼女は『自分に飛んできたプレッシャーをそのまま速度に変えて』いる。

間違いなく速く、間違いなく強いウマ娘だ。

やはりトレセン学園は、トゥインクルシリーズは面白い。

いろんなウマ娘が居て、とても勉強になる。

自分ももっと強くなれる事間違いなしだ。

ディープインパクトはとても嬉しくなって、喜びの感情を全開にして笑った。

 

 カブラヤオーの速度が凄く上がった。

 

 勿論、ディープインパクトは離れずに追いかけた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

『これは何バ身離れているのかいやこれはメートルか!先頭二人後続をさらに突き放しスピードを上げたぁ!』

 

「おいおい、カブラヤオーの逃げ足についていくのかよ……」

 

 アンダーリムの眼鏡をかけた男性、スピカのトレーナーは頭をがしがしと掻いた。

強いのは解っていた、妹弟子から聞いたのもあるし、練習を見ていたのもある。

しかしディープインパクト自身が『得意なのは差しや追込み』とレース前のインタビューでも答えていたのは何だったのかという走りだ。

あの大逃げで差し・追込みが得意とは、とんだ詐欺だ、と考えて、気づく。

スピカのトレーナーは柵を掴み身を乗り出して走るディープインパクトを見た。

 

「……違う。『あれ』が、あいつの短距離での差しのペースか!」

 

 そう、ディープインパクトが取った戦法は、『差し』。

『大逃げ』カブラヤオーに対し、ああも簡単に先頭を譲ったのは、『その方が都合が良かった』から。

そしてレースは、勝負の第四コーナーに入る。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

『カブラヤオー内ディープインパクト外から四コーナーを周る!減速しない止まらない二人のデッドヒート!』

 

 ディープインパクトはカブラヤオーに感謝していた。

彼女の走りはとても面白く、参考になった。

この破滅逃げを支える脚と強い心肺機能は、天性の才能もあるだろうが、良いトレーナーと巡り会えたのが一目瞭然として解る。

やはり強く、速いウマ娘とレースするのは良い。

だから、彼女には本気を見せよう。

凄く楽しく、面白いレースをしてくれたお礼だ。

また彼女と走りたいと、ディープインパクトは心から思った。

 

 ぐん、と姿勢を低くする。

頭を相手の腰まで下げて、しかし顔は決して下げず、蹴った力を全て前へ前へと進めるように。

 

『最後の直線ディープインパクト身体を低くしさらに加速ゥ!カブラヤオーを抜いたぁ!』

 

 重力が身体を縛る。

けれど彼女の走りは、それを真正面から否定するかのように。

 

『飛んでいる!ディープインパクトが飛んでいる!まるで直線飛行!ディープインパクト今一着でゴォールインッ!』

 

 まるで天を翔けるが如く、ゴール板を通り過ぎた。

 

『二着にカブラヤオー、カブラヤオーです!彼女も強い走りを見せてくれました!そして今、かなり離れて三着ゴールイン!』

 

 そのタイムは、1分05秒1、上がり3Fは事前タイムと同じ、30秒0。

 

『ディープインパクト、これがデビュー戦にして重賞レース初勝利となります!デビューを重賞勝利で飾りました!これはとんでもないウマ娘が出てきました!』

 

 芝1200m日本レコードを超え、世界レコードを記録した。

 

 ディープインパクト、衝撃のデビュー戦。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「あの、カブラヤオーさん」

「はっ、はぁっ、はっ、ふえ?」

 

 減速して止まって息を整えたディープインパクトが、同じく減速して止まって息を整えているカブラヤオーに話しかけた。

ディープインパクトはとても上機嫌そうに笑って。

 

「また、一緒に走りましょう?」

「     」

 

カブラヤオーは逃げ出した。

肩で息をしていた筈なのに、何故かそれを感じさせない速さで控室までの道を駆け抜けた。

後に残されたディープインパクトのきょとんとした顔が、印象に残る形でカメラに写されているのであった。




ちなみにライバルは(年代不問で)どんどん出てくるでな!なお勝てるとは(白目)
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