何度も言うがレース結果とかはかなり変わってるんで『モデル馬はこうだったじゃん!』などのツッコミはしないように。
全てはウマ娘ワールドの奇跡よ…オヌシ達が望めばナイスネイチャが三冠を取るように…
キングヘイローが全G1レースを制覇するように…ハルウララが有マ記念を勝つように…
ヒトの願いが定められた運命を覆すんじゃ!(迫真)
カブラヤオーはトレセン学園でもストイックでミステリアスなウマ娘だと思われている。
授業中、お喋りを一切せずに集中し、先生に当てられても答えだけを端的に答える姿や、授業が終われば忽然と居なくなり、気づけば放課後に一人ジャージ姿で走る姿。
クラスメイトが遊びに誘おうと話しかけようとしても、そもそもその場に居らず探してみたらトレーニングコースで走っていた、なんて事もざらだ。
寡黙で本当に必要な事以外喋らず、ストイックで何より走っていたい。
いつの間にか誰より先に教室から消えている事から、あの人は普段から走る事ばかり考えているのだろうな、それ以外あるのかな、など、神秘的であるとすら見られていた。
コースを鬼気迫る顔で走る姿は、きっと誰よりも勝ちたいと、走る事に真面目なのだろうと。
「ト゛レ゛ェ゛ナ゛ァ゛~゛!!こ゛わ゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛~゛!゛!゛!゛」
「わかった!わ~かったから!顔を押し付けるな鼻水、鼻水が!」
「ひ゛え゛え゛え゛ぇ゛え゛え゛ぇ゛え゛!゛」
その認識はとんでもない間違いである。
寡黙なのは何を喋ったらいいのか解らないだけだし、話しかけられる前に居なくなるのも話しかけられるのが怖いだけだし、よくトレーニングコースを走っているのもトレーニング中は誰かに話しかけられないからである。
遊びに行くなんて無理だ、何をすればいいか解らないし何を話せばいいか頭に何も思い浮かばない。
普通に話せばいい?その普通ってなんだよわかるわけない他の人こわい。
こっちは部屋の隅の端っこで固まってるからどうかお願い話しかけないでどうか放っておいて(懇願)
カブラヤオーとは、そんなビビリネガティブ根暗コミュ障ウマ娘である。
そもそもトレセン学園に来たのだって、お部屋に引き篭もっていたいのを、両親にいいから走ってこいと叩き込まれたのだ。
入学試験を受けないというのは、ご飯とお部屋を人(?)質に取られて、受けないという選択肢は奪われてしまっていた。
トレーナーにスカウトさえされなければ…と思えば、何処からかトレーナーすら見つけてきて、全方位逃げられない状態でトレセン学園に放り込まれた。
走る事に真面目なのは本当だ、何せご飯とお部屋とインターネットがかかっている。
インターネットの掲示板とかで、自分よりだめな人を見ると少しだけ安心できるのだ、書き込む勇気は無いが。
そんな放っておけばニート一直線のカブラヤオーだが、神が憐れんだのか、それともその能力だけに全て割り振られて他は全部要らないと捨てられたのか、走る能力だけはピカ一だった。
恵まれた心肺機能、天性のスピード、クラシックディスタンスを全力で飛ばしても耐えきる身体、ネット弁慶にすらなれないミジンコより劣る根性と比べ、走る事だけは一級品なのだ。
それをカブラヤオーの両親からも見せてもらっていたトレーナーは根気よく接した。
自分は味方だ、怖くない、どうか一緒に走ってくれないか。
おどおどして何を話せばいいかわからないカブラヤオーにも返事があるまでじっくり待ち、少しずつコミュニケーションを取っていった、結果。
『トレーナーさんなら養ってくれる』と調子に乗ったので全力で併走させた。
有無も言わせずトレセン学園に放り込んだご両親が正しかったのだなぁ、としみじみとスピカのトレーナーは実感した。
しかしそれでも問題は尽きたわけではない、何せカブラヤオーの勝負根性は捕食者が居ない環境のミジンコにすら負ける。
どのくらいかと言えば、『前にウマ娘が居たら怖くて前に行けない』くらい。
闘争心というのが欠片も無い事に、トレーナーも一度は頭を抱えたが、そこは発想を逆転させた。
前に誰か居たら走れないのなら、後ろから追わせればいいんじゃね、と。
普通なら考えついても即座に棄却するようなバカげたものであるが、カブラヤオーがレースで勝つにはそれしかない。
闘争心が欠片も無いなら、恐怖心で前へ前へ進ませれば良い。
プレッシャーもバ群に追い込まさせようとしても、それを感じ取れば取るほどカブラヤオーは加速する。
こうして、狂気の逃げウマ娘、カブラヤオーが誕生した。
だが、これも問題が無いわけがなかった。
何せ『一度でも抜かれた瞬間、もう先頭に行けない』。
抜かれた瞬間、前に行こうとする恐怖心が先に行きたくない恐怖心に変わるのだ。
つまりディープインパクトにコーナーで抜かれた後の最後の直線、カブラヤオーは全力で走れていない。
そうでなければ、控室まで全力で逃げては来れていない。
今回は後続が離れていたので、前に行けずとも後ろから追われる恐怖で二着になれたが、課題は未だ多かった。
「死ぬんだぁ、私このままみんなに見捨てられて干物になって一人さびしく死ぬんだぁ」
「んだよまーたウジウジへばりついてんのかオラ、ちゃっちゃ離れろ、お前これからライブだろーがよーオラオラー」
「ひいぃ、むり、ライブむりぃ」
「ぐえぇぇ、締まってる、オルフェ、締まってる!」
顔面ぐちゃぐちゃでトレーナーの服に粘液を染み込ませていたカブラヤオーをライブに向かわせるべく、レース場に付いてきていたもう一人のスピカ所属のウマ娘が引き剝がそうとする。
彼女の名はオルフェーヴル。
クラシック三冠ウマ娘であり、今はドリームシリーズを走る、スピカ所属では最強と見做される名ウマ娘にして希代のクセウマ娘である。
同チーム所属、同じく今はドリームシリーズに所属する、『トリプルティアラウマ娘』ブエナビスタとどちらが強いかは今でも取沙汰されているが、どちらが見ててハラハラするかは圧倒的大差でオルフェーヴルという程。
クセウマ娘っぷりはトレーナーに対しても変わらずで、尋常じゃなく手を焼くのだが、しかし。
何故か同じチームスピカ所属、今のクラシック世代を走るハーツクライと、カブラヤオーと同じ世代を走るジャスタウェイには良い先輩しているという、ちょっとトレーナーにもどうにも読めないウマ娘である。
日本ダービーで激走し、休養中のハーツクライにブエナビスタとジャスタウェイはついているので、オルフェーヴルもてっきり残るかと思っていたが何故か函館の方についてきた。
「それじゃダメだぜオルフェ、いいか、こいつを使うんだ」
「おっ!よっしゃオジュウ!行くぜー!」
「ちょっと待てその練りカラシをどうする気だ!?待て!落ち着け!ぐわーっ!?」
そして何故かチームメンバーでも無いのにスピカのチーム室に良く入り浸るウマ娘、オジュウチョウサン。
トゥインクルシリーズの平坦芝競走と比べると些か下火だが、障害物芝競走での絶対チャンピオンに君臨したウマ娘である。
勿論ドリームシリーズでも大暴れしているし、何ならたまに平坦芝の草レースに出て勝ってるなどちょっと理解不能な事をやっている。
こっちの方は本当に何で来ているのか、スピカのトレーナーはまるで理解できない。
オルフェーヴルと同じく何故かハーツクライとジャスタウェイとは仲が良く、不思議とオルフェーヴルとウマが合うようなので、もしかして自費でついてきたのか、函館まで。
ともあれ、二人のウマ娘の活躍(?)により、カブラヤオーは無事ライブに連行されたのであった。
――――――――――――――――
カブラヤオーがライブに連行された後、控室にて。
「それで、オルフェ。どうだったんだ?」
「あぁ、ありゃーヤべーな。真夏に常温放置した納豆と同じくらいヤベー」
相変わらずどんな例え方なのか読解は不可能だが、オルフェーヴルの眼から見てもディープインパクトはヤバイらしい。
まぁ、中等部一年で世界レコード叩き出すウマ娘がヤバくなければ何なのだという話にもなるが。
「でもあいつ今年のURAファイナル出れねぇんだろ?なんだよ運営無能修正パッチ当てろよなぁ」
「オジュウ、お前本当何でいるの…いややっぱ言わなくていい」
視界の端に見える土産袋を見るに存分に観光も楽しんできたらしいが、オジュウチョウサンが何で此処にいるのかは考えても無駄である。
むしろ観光がメインでこっちに来たのがついでとか、このウマ娘には普通にある。
「URAファイナルの件は仕方ないだろう、あれは無所属やジュニアのウマ娘も確かに参加できるが、それも十五歳からだ」
「十五歳未満のウマ娘が参加する場合、クラシックもしくはシニアのレース走ってるのが条件だってんだろ?」
「んなこたー知ってるけどよー、でもアタシがアイツとヤれんの最速で来年のURAファイナルじゃねーかー。おいおいどんだけ待たせんだおいよー」
「おいオルフェ脇腹殴るな、本気じゃないの解るが地味に痛い、痛いって言ってんだろ!」
トレーナーの脇腹をデュクシデュクシと言いながらパンチするオルフェーヴルだが、ドリームシリーズに移行する時は本当に揉めた。
過去、トゥインクルシリーズはジュニア、クラシックはそれぞれ一年限りだが、シニアは引退、もしくはドリームシリーズに移行しない限り何年でも走れたのだ。
ただ、中央地方無所属全てのウマ娘が参加できるURAファイナルの設立以降、シニア期の故障率の多さも鑑みられて、規定が変わった。
『ジュニア・クラシック・シニアの三年間でG1レースを三回以上優勝したウマ娘、もしくはトゥインクルシリーズにて三十回以上レースに出走したウマ娘』はドリームシリーズに確定移行である。
オルフェーヴルは勿論クラシック時点で前者の条件を満たしており、シニアの一年目を終えればドリームシリーズに確定移行であったわけだが、シニアで参加した凱旋門賞を二着で敗れたのが世間的には余程悔しかったらしい。
何とかもう一年延長を!と署名運動も起こりかけたが、オルフェーヴル自身の鶴の一声で騒動はやっと収まったという事があった。
「まー負ける気はしないけど?あれを育てたやつぁー、まーすげーんじゃねーかなー」
「……そうか、ありがとよ」
「なんで礼を言ってんのかわかんねーなー」
ディープインパクトを見て不安になった心を読まれたかもしれない。
だが、その上で『お前だって凄いだろ』と不器用な心遣いをされたようで、トレーナーとしてありがたいやら、情けないやら。
いつも手間をかけられ振り回されても、それが嫌ではないのは、自分がウマ娘が好きなのもあるだろうが、きっとこういう事なのだろう。
カブラヤオーに限らず、チームのウマ娘を勝たせたい。
ディープインパクトに負けたくない。
スピカのトレーナーは、改めて心を決めた。
――――――――――――――――
絶対に負けたくないと決心して、ともあれまずはカブラヤオーの応援をしようと足を運んだライブ会場にて。
「キャー!こっち向いてー!チュウしてぇー!ハイ!L!O!V!E!L!Y!ラブリー翔ちゃん!キャー!」
そこには、最前列被りつきでハチマキ団扇ハッピタオルコンサートライト完備でキレッキレのオタ芸で踊り狂うディープインパクトのトレーナーが居た。
凄い目立っている。
応援の熱烈っぷりもそうだが何ならバックダンサーよりキレッキレのダンスで、テンポ良くハイ!ハイ!と声掛けまでして注目を浴びている。
その上で『そんなもの知った事か!』とばかりにたった一人の熱量でG1レースライブ並に会場を盛り上げていた。
なんならキレッキレのオタ芸ダンスと団扇応援で分身してるかのようにすら見える。
いや今姿がブレなかったか?どういう身体能力しているんだ!?と、スピカのトレーナーの脳内が混乱に満たされた。
「ありゃーヤベーな。買い物袋に入れたまんま忘れて放置して三日目、発見した未開封のアイスくらいヤベー」
例え方は相変わらず解らないが、オルフェーヴルの感じたヤベー度合いだけは十分に伝わった。
だが自分はそのヤベー度合いに負けないくらいに頑張らねばならない。
まずはオタ芸の練習からしなければならないのかと、スピカのトレーナーの決心はちょっとぐらついた。
この後無事正気に戻ったのでただちに問題はありません(棒読み)