チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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さーて…まずは盛り付けだ…


第十八話 キングカメハメハのマツクニローテ(究極版)Final 前半戦 『最強を掲げろ』

 暫し、時を遡る。

季節は夏、七月の夏真っ盛り。

トレセン学園近くの公園で、ベンチに座っているウマ娘が一人。

本を読むのでもなく、何かをするでもなく、ただぼうっと蝉の声を浴びている。

そのウマ娘を見るものが見れば、目を見張っただろう。

何せ、彼女は去年のトリプルティアラウマ娘、名をスティルインラブ。

名家の令嬢、有力ウマ娘のアドマイヤグルーヴと繰り広げた激戦は、未だ記憶に新しい。

シニア期に入ってから、ことごとく掲示板入りすら逃していたとしても、彼女のファンは未だ多かった。

そんな彼女が、何をするでもなく、ただベンチに座っていた。

それはまるで、口さがない者たちが言うような、燃え尽きてしまったような灰のようで。

 

「おい」

「…あれ、アドマイヤグルーヴ」

 

 通りがかったのか、それとも探していたのか。

そんなスティルインラブに声をかけたのは、アドマイヤグルーヴ。

彼女は桜花賞、オークス、秋華賞、ティアラG1レースで三度、一番人気に推されながら、その三度とも、二番人気であったスティルインラブに敗れた。

無論、スティルインラブとのレースで一度も勝てていないわけではない。

秋華賞前哨戦であるローズステークスではスティルインラブに勝利し、だからこそ秋華賞では一番人気に推された。

最後のティアラを負けてなるものかと白熱したレースを展開したが、其処でも惜敗。

スティルインラブがトリプルティアラの栄冠を手にした。

 

 そして、その約一か月後のG1エリザベス女王杯。

無冠の女王とトリプルティアラのプリンセスは互いに負けてなるものかと彼女達のクラシックでも並ぶ事のないレースを繰り広げ。

結果は、アドマイヤグルーヴのハナ差での勝利。

無冠の女王が戴冠し、ライバルに正式にG1での勝利を一つ返したのだ。

 

 アドマイヤグルーヴは、シニアでもスティルインラブとそんな勝負を繰り広げるのだと信じていた。

強豪犇くシニアの中であっても、自分と彼女は熾烈な戦いを繰り広げるのだと。

しかし、それは叶わなかった。

 

 八着、八着、十二着。

これが、シニア期に入ってからのスティルインラブのレース成績だ。

金鯱賞、一度目の八着はレースのブランクと環境の変化、シニアの洗礼だと思っていた。

同じレースで走っていたが、自分だってシニアでの初めてのレースは七着だったのだ。

まるで上がってこない彼女に動揺し、自分も仕掛けが遅れて掲示板ギリギリであったが、彼女も次は持ち直すだろうと思っていた。

 

 しかし宝塚記念で、二度目の八着。

明らかに、伸びを欠いている。

オークスで見た彼女の走りは、あんなものではなかった筈だ。

 

 そして、G3レースでの十二着。

彼女は早熟なウマ娘だったのだと、クラシックで燃え尽きてしまったのだと、無責任な言葉が聞こえだした。

 

 そんな筈は無い。そんな筈は無いのだ。

あの時の桜花賞で、あの時のオークスで、あの時の秋華賞で自分の前を走った彼女が、トリプルティアラになった彼女が、あの時見せた走りがそこで終わるものだったなどと。

『次こそ勝つ』と睨みつけた自分に、『次も私だよ』と笑って応えた彼女が。

 

――でも。

あの時、エリザベス女王杯で。

『次も勝つ』と笑った自分に、彼女は睨みつけては来なかった。

返されたのは、とても綺麗で、透き通った笑顔だけで。

 

「――おい」

「二回も言わなくたって聞こえてるってば、なぁに?」

 

 まるでなんて事もないように、へらっと笑う彼女にずかずかと歩み寄って、両肩を掴んで睨みつける。

 

「ちょっと、アドマイヤグルーヴ、何の――」

「秋の天皇賞だ」

 

 認めない。認められない。

お前は自分に勝ったウマ娘なのだ。

三度も勝って、トリプルティアラを手にしたウマ娘なのだ。

認めない、認めてたまるか。

 

「秋の天皇賞に出ろ。私も出る。そこで、走れ」

「………」

 

 まだ、一度しか勝っていない。一度しか返していない。

あの一度で終わってしまったなんて。

あの一度で終わらせてしまうなんて。

そんなのは、絶対に認めない。

 

「用件は、それだけだ。いいな」

「……」

 

 返事は聞かず、手を放し、アドマイヤグルーヴは踵を返して立ち去った。

スティルインラブは、黙ってその後姿を見ていた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『最強の称号とは何だろうか。三冠レース、トリプルティアラ、グランプリ、盾の栄誉。

 最強の称号とは、人によって変わるのだろう。しかし、彼女は今新しい概念を打ち立てようとしている。

 皐月賞、NHKマイルカップ、日本ダービー、変則三冠。

 異例の称号を得た彼女は、【最も強いウマ娘が勝つ】と称される菊花賞でなく、シニアのウマ娘も鎬を削る秋の天皇賞を選んだ。

 距離の不安と言う者もいる。2400が限界で、それより上は適性外だと、見もしないのに言い放つ者もいる。

 違うだろう。彼女は、別の形で最強を目指しに行ったのだ。

 前年トリプルティアラ、スティルインラブ。そのライバルエリザベス女王ウマ娘、アドマイヤグルーヴ。

 天皇賞春、宝塚記念を勝ったヒシミラクルに。今年の桜花賞ウマ娘ダンスインザムードなど。

 トゥインクルシリーズを走る強豪の中の強豪が集うこのレースで、最強を目指し選んだのだ』

 

 ―『週刊ウマ娘特別号 天皇賞秋を走るウマ娘』より―

 

 

――――――――――――――――

 

 

『さてとうとう始まります秋の天皇賞ですが、今回注目のウマ娘はやはりキングカメハメハでしょうか?』

『えぇ、やはり彼女が注目されますが、しかし他の面子も負けておりません。

 代表的なのはシニア期に入って低迷しておりましたが前走にて三着に入り調子を取り戻してきたスティルインラブ、そのライバルアドマイヤグルーヴでしょうか。

 ですが春天ウマ娘ヒシミラクルや、今年に入って安田記念で悲願のG1を勝ったツルマルボーイ、同世代では皐月賞二着のダイワメジャーや桜花賞を獲ったダンスインザムードなど油断できない面々が揃っています』

 

 ハーツクライの激励を受け取ったキングカメハメハは燃えていた。

ハーツクライは見事菊花賞を勝ち、最強を吼えてみせた。

ならば自分はトゥインクルシリーズ最強を此処に示してみせようと。

この場にはリギルもスピカも、そしてレグルスも来ているだろう。

津上あき、彼女のおかげで、ハスミと一緒に此処まで走ってこれた。これからも一緒に走っていくだろう。

そのお礼に見せてやるのだ。お前達の敵は、クラシックで走るウマ娘達ばかりじゃないぞ、と。

強い相手と戦うのが趣味みたいな子もいるから、きっと喜んでくれるだろう。

 

「キングカメハメハ」

「あら、アドマイヤグルーヴ先輩。今日はよろしくね。尤も、負けてはあげないけど」

「戯け。それはこちらの台詞だ」

 

 言い返し去っていく彼女の闘志を感じる。良い闘志だ、肌にぴりぴり来る。

しかし、彼女の闘志は自分にも向きながら、どうも他のウマ娘の方に向かっている気がする。

自分を見ていない、という事ではないが、もっと他の者を見ているような。

おそらくその先は、ライバルと言う彼女、スティルインラブなのだろうが、しかし。

 

「………」

 

 何故だろうか、どうにも、違う。

強いのだろう、それは解るが、覇気というものが無い、気持ちが乗っていない。

あれが、本当にトリプルティアラウマ娘なのだろうか?

あれでは途中までは好位で走れても、伸びはしないような。

しかし彼女だけには構っていられない。

このレース、強敵は多い。誰にも油断はできないのだ。

 

『さぁ各ウマ娘ゲートイン完了しました。盾の栄誉は誰の手に、トゥインクルシリーズ最強を決めるかシニアの意地を見せるか』

『栄光の2分間、答えは2000m彼方、今、スタートしました!』

 

 泣いても笑っても二分で決まる。

最強を決めるレースが今、始まる。




次回もチートオリ主たちあんま出てこないと思います(素朴)

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