チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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まぁ読者的には『はよチートオリ主と翔子ちゃん達の絡みを書けや』とアクセス数とかここすきで示されてるのは知ってるんだが、すまんなこれは私の妄想の書きなぐりなのだ!
翔子ちゃん達は書く…書くが……!他のウマ娘を書かないとは言っていない……!
あとゼンノロブロイちゃんはアプリの方で登場してるのでつまりこの世界では過去に走っていた世代となっており、このレースには出ておりませんのであしからず。
あとレグルスの面子があんま出てこないと前話で言ったな、スマンありゃあ嘘だ。


第十九話 キングカメハメハのマツクニローテ(究極版)Final 後半戦『一瞬。全てをかけて』

『先行争いはシェルゲームにダンスインザムードが好ダッシュ!しかし外からローエングリンがハナを取ります』

『ダンスインザムード三番手で二コーナー周りましてマイソールサウンドが続きます、内にはトーセンダンディ外にはバランスオブゲームです』

 

 今年のクラシックを走る世代ではシェルゲームとダンスインザムードが先行し、ダイワメジャーが中団前め、キングカメハメハはいつも通りの真ん中だ。

ベテラン、シニア三年目、レース数的に来年はドリームシリーズ移籍となるG1ウマ娘ツルマルボーイはキングカメハメハの後ろで内に付き、同じくシニア二年目ヒシミラクルは後方から。

注目のシニア一年目、アドマイヤグルーヴはキングカメハメハの前を走り、スティルインラブは中団後ろ外目に付けた。

 

「タイトル獲ってねぇわりには粘るじゃねぇか、えぇ!?」

「うっさいわね!だからこうして獲りに来てんでしょうが!」

 

 ハナを行く逃げウマ娘、ローエングリンを追うのは同世代クラシックの二人、ダンスインザムードとシェルゲーム。

ダンスインザムードは桜花賞を勝ち、一時はその強さからすわトリプルティアラかと期待されたものの、気性が荒くレースに集中しきれず、実力を出し切れずに残り二つのティアラを負けていた。

しかしその負けん気の強さに陣営は賭け、秋華賞から二週間のわずかなスパンで天皇賞秋に送り出した。

人気は十三番と低いが、送り出した彼らは彼女ならきっとシニアウマ娘相手にも勝てると信じたのだ。

シェルゲームはキングカメハメハ達と同じクラシック世代となるが、毎日杯ではキングカメハメハに敗れ、青葉賞でもハイアーゲームの三着と、クラシックレースには出走を希望するも抽選を外れ、走る事は叶わなかった。

皐月賞を、ダービーを見ている事しかできなかった彼女は、だからこそキングカメハメハとの勝負を求め、この天皇賞秋に出走を決めた。

 

「(序盤の立ち上がりは悪くない。府中の直線は長い、だけどこのコースだと外側は厳しい筈。いつも通り真ん中を突っ切るなら内を差せば…!)」

「(私もあいつも外からの追込みがスタイルだ、だがこのレースで警戒すべき奴は中心を堂々割ってくるぞ。お前はどうする!)」

 

 今年でトゥインクルシリーズからの移籍が確定しているツルマルボーイは前を走るキングカメハメハを警戒する。

秋の天皇賞は内側コースが有利とはいえ、相手は常識を蹴倒してきた大王だ。

そんな有利など悠々と踏みにじって来ても不思議ではない。

アドマイヤグルーヴはスティルインラブがいつも通りの外からの追込みを選んだように見えたのを確認し、いつも通りのそれが通じる相手ではないぞと鋭い目線を送る。

自分の得意なスタイルを押し付けるだけでは勝てないレースをどう勝つか。

未だ同期のトリプルティアラに思考領域を割きながらも、アドマイヤグルーヴは己の勝利の為にどう走るかを考えていた。

 

「………」

 

 様々な思いが錯綜するレースの中で。

スティルインラブは、ひたすらに静かだった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『さぁ各ウマ娘これから三コーナーへ向かいます!先頭はローエングリン二番手シェルゲーム今1000mを通過!タイムは59秒多少速めか!』

 

 キングカメハメハは自身に向けられる警戒と闘志を感じている。

同世代のライバル達の負けてたまるかという熱。

シニアを走る先輩達の勝たせてたまるかという熱。

これがグランプリ、これが世代混合G1、熱が加速度的に溜まっていく。

この熱だ。この熱が、私を速くする。

溜まった熱を火山のように噴火させ、ゴールまで駆け抜けるのだ。

合宿でのトレーニングで、その距離は伸びた。

今までは四コーナーからの直線を、火山弾のように駆け抜けたが。

今の私なら!

 

『三コーナーから四コーナー中間を通過してダイワメjおおっと!?キングカメハメハキングカメハメハ外から上がる!?いつもより仕掛けが早いぞこれはどうなる!?』

 

「なっ、早!?」

「上がってきたかよ、大王さんよぉ!」

「早仕掛けだと!?」

 

 ダイワメジャー、ダンスインザムード、アドマイヤグルーヴ。

ダイワメジャーは今までの経験から、四コーナーに入る前から仕掛けた事に驚きを。

ダンスインザムードは闘争心を剥き出しに笑って。

アドマイヤグルーヴも予想より遥かに早い仕掛けに、自分の仕掛けのタイミングが間に合うか思考する。

他のウマ娘も同様だ、ツルマルボーイもヒシミラクルも、キングカメハメハを警戒していたウマ娘達は揃って反応し、彼女の走りに神経を傾けた。

 

 ただ、一人を除いて。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 そのウマ娘にとって、彼女は憧れだった。

彼女の走りを見てから、彼女の凛とした姿を見た時から、その血に相応しい高潔さと実力を知ってから。

ずっとずっと、憧れだった。

己とて、実力は負けていないと思う。

だが、そういう話ではない。実力でなく、地位でもなく、ただ、彼女のその姿に見惚れてしまった。

 

 桜花賞の時。一番人気に推された彼女に、そうだろうと納得した。

彼女と同じレースで走れる事にただ我武者羅になっていて、気づけば一位を取っていた。

 

 オークスの時。また一番人気に推された彼女に、そうでなくてはと思った。

桜花賞と同じく出遅れて、上がり3Fで一番速かった筈なのに掲示板すら逃した時、彼女が居るべきなのはそこじゃないと言いたかった。

 

 秋華賞の時。やっぱり一番人気に推された彼女に、やはり自分じゃなくて彼女に似合うと思った。

遅れずにゲートを出て、ぴったり彼女のマークを受けながら、心は常に燃えていた。

やはり彼女はとても強い。憧れた彼女は敗北を知っても折れず、さらに強くなって、そんな彼女が私を強いと思って戦っている。

その信頼に応えたくて、彼女といつまでもこんな風に走っていたくて、全力を出して。

体半分、ほんの少し速くゴールした自分にまた、『次は負けない』と、強い眼で言ってくれる彼女がどうしようもなく美しくて。

負けたくないと思った。負けてもいいと思った。どちらも、本当の気持ちで。

 

 そして、エリザベス女王杯の時。一番人気になった自分と、二番人気になった彼女。

前のローズステークスの時は負けたけど、G1では負けないよ、と。

前のローズステークスの時のように、人気はやるが勝ちはもらう、と。

彼女に勝つ為に走って。彼女も勝つ為に走って。

最後の直線、並んでゴールした後。

『やっと一つ返したぞ、次もG1でお前に勝つ!』と、彼女に笑顔で言われたあの日。

ほんの僅かな数センチ、ハナ差で駆け抜けられた、あの時。

スティルインラブは、世界が止まればいいのにと思った。

 

 あの日、あの時、あの場所が、あの刹那が美しくて、とても綺麗で。

あの一瞬が、この世界で最も綺麗に感じすぎて。

あの刹那より、この世界で美しいものがあると思えなくて。

此処で終わっていいと、此処で終わりたいと願ってしまった。

 

 彼女がずっと、自分を気にかけているのを知っている。

彼女が自分を終わらせてしまったのではないかと、それを認めたくないと思っているのを知っている。

でも、それで良かった。

きっと彼女の傷になってしまうかもしれないけど、あの刹那より美しいものと出会えるとは、もう思えなかった。

この天皇賞だって、彼女に諦めてもらう為だった。

だって、自分はもう熱くなれない。あれより綺麗なものは、見れはしない。

彼女に自分を振り切って。迷っている彼女を切り捨てて。

あの日、憧れた彼女に戻って欲しいと。自分の事なんて、捨て置いて走って欲しいと。

そう思って『いた』。

 

 火山が噴火する。『大王』が熱を帯び火を纏う。レースに出ている他のウマ娘の意識全てが、キングカメハメハに集中する。

アドマイヤグルーヴもそうだ。彼女の意識も、視線も、視界も、思考も。

キングカメハメハが独占している。『スティルインラブではなくて』。

 

 そう、望んでいた筈なのに。願っていた筈なのに。

 

 何故か、脚は前に出ていた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『キングカメハメハ上がる!キングカメハメハ上がる!四コーナー周って先頭ローエングリンも外からかわす!内からダンスインザムードとアドマイヤグルーヴが追うがまだ差が縮まらない!』

『直線に入るキングカメハメハがコースど真ん中を駆け抜ける!』

 

「こぉんの負けるかぁー!」

「お前だけに行かせるものか!!」

 

 左後方から二つ、とても高い熱が届く。ダンスインザムード、アドマイヤグルーヴ。

二人も強いウマ娘だ。このレースに勝ってもおかしくない。

いや、このレースに出ているウマ娘は誰でも勝っておかしくないのだ。

それだけの熱がある。だがその熱こそが、キングカメハメハを速くする。

火山弾は燃え盛りながら飛ぶのだ。

 

「いいわ、熱くなって…っ!?」

 

 瞬間、右後方、大外から感じた『冷気』。

これは違う、日本ダービーの時のような、あの時のハーツクライのような、『大王を相手に』食い破るような、勝ちを狙うような熱気ではない。

一体誰が、一体何が来たというのか!?

 

『大外から、大外からスティルインラブ上がってきたぁ!そのまま先頭争いに突っ込むか!』

 

 上がってきたのはトリプルティアラ、スティルインラブ。

レース前に見た覇気の無さなんてまるで嘘のように。

歯を食いしばって、必死な眼で。

まるで彼女がトリプルティアラを獲った時のように、大外から、先頭争いに突っ込んだ。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 諦めた筈なのに、もうそんな一瞬など来ないと思っているのに何をやっているのか。

 

「(違う…!)」

 

 彼女に忘れ去って欲しいのではなかったか、彼女に走り去って欲しいのではなかったか、自分は何をやっている。

 

「(違う…!!)」

 

 願ってもないことだ、彼女には新しいライバルができるだろう、いつか自分の事だって『あぁ、あんなウマ娘も居たのだったな』と思い出す程度になる筈だ。

 

「(違う…!!!)」

 

 それなのに、なにをみっともなく、みじめったらしく、必死になって走っている。

 

(違う!!!!)

 

 彼女の思考、彼女の視界、彼女の熱意、彼女の視線の先。全て、キングカメハメハが集めた。

 

「(それは!『其処』は!!)」

 

 かつての桜花賞のように。かつてのオークスのように。かつての秋華賞のように。

――かつての自分と同じように。

 

「(『私』の場所だ!!!!!!!)」

 

 脚が前に出る。歯を食い縛る。前だけを見詰める。息を吸い込む。

 

『其処』を退けえぇぇええぇぇぇぇっっ!!!!

 

 名前が示すように。未だあるのだと証明したいが為に。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『伸びる伸びるスティルインラブ一気に詰める!残り200を切った此処でアドマイヤグルーヴも加速!』

 

「(お前は…!やはり、それでこそ、お前は!!)」

 

 大外から大王に迫るライバルを見て、アドマイヤグルーヴの心に別の火が燈る。

そうだ、それでこそ私に勝ったウマ娘だ、それでこそ私が勝ちたいウマ娘だ、それでこそ私が勝負すべきウマ娘だ!

勝ち逃げなんて許さない、本気の全力のお前でなければ意味は無い!

がちん、とトリガーが弾かれる。青く燃える高熱の闘志が湧き出る。

そうだ、お前にだけは負けられない!

 

「あぁあああああぁ!」

 

 諦観は無い、心を縛る鎖は無い、スティルインラブは叫びのままに走る。

何のことは無い、そう、ただ『負けたくない』のだ、他に何を負けても、ただそれだけは譲れない。

諦観を脱ぎ捨てる、己を縛る鎖を砕いて振り解く、感情を開放する。

バカなことかもしれない、でもただ一人、どうしてもそうしたい人がいる。

そうだ、だから其処(先頭)だけは譲らない!

 

「誰だってそうよね!でも!勝つのは私!!!!」

 

 自負がある、誓いがある、誇りたい人と渡したいものがある、キングカメハメハは熱を引き出す。

己の為に全てをかけてくれた人がいる、己の無茶に付き合ってくれた者がいる、己の為にプライドなどかなぐり捨ててくれた友がいる。

心はいつだって煮え滾っている、マグマがいつも燃えている、制御しなければ危うい程に。

冷えて固まる火山弾ではない、いつだって内側に、燃え盛る溶岩が詰まっている。

間違いない、お前達は類稀なる強者だと認める。ならば後先などは考えない。

だから、絶対に私が勝つ!

 

『スティルインラブとアドマイヤグルーヴが詰める三バ身二バ身キングカメハメハに追い縋るどうだ内と外に並んだ今ゴォールインッ!』

『三人並んでゴールしました!これは判りません!写真判定となります!変則三冠の大王と!トリプルティアラのプリンセス!エリザベスの女王!一体誰が勝ったのか!』

 

 写真判定は長引いた。その時間はたっぷり十五分。

掲示された結果は、それぞれがハナ差1センチ。一着と三着の差でさえ2センチしかない大接戦。

一着、キングカメハメハ、二着、スティルインラブ、三着、アドマイヤグルーヴ。

 

 大王が、究極を証明した。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「心配をかけさせよって、この戯け」

「……ねぇ、アドマイヤグルーヴ」

「なんだ?」

 

 レース後、互いに肩で息をしながら、スティルインラブにアドマイヤグルーヴが話しかける。

スティルインラブは、視線を迷わせ、口を何度か開け閉めしながら、絞り出すように言った。

 

「本当はね。あの時、あのエリザベス女王杯で、終わってもいいって、此処で終わりたいって思ったの。あの時が、あの一瞬が、あんまりにも綺麗だったから」

「………」

 

 アドマイヤグルーヴは、薄々と感じていた事が本当だったと知る。

あのレースで、スティルインラブはまるで満足しきったかのように微笑んでいたのだから。

 

「でもね。でもね!……私はやっぱり、貴女に見てて欲しい。貴女の前で、視界を独占したい。……ごめんね、気持ち悪いでしょ」

「全く……」

 

 勝手に満足した気になって、勝手に終わろうとして、あげくに戯けた事を言い出す、困ったライバルは。

俯いて下を見るそいつの額を、人差し指でぐんと上げて。

 

「戯け。私はお前の背中をいつまでも見る気は無い」

「あう…」

「お前が私のを、じゃない。私がお前の視界を独占するんだ。もう情けない走りなどするんじゃないぞ」

「え……」

 

 笑って人差し指を離し、控室へと去っていく。

なにせこの後はライブもあるのだ。走って赤らんだ顔だって、きちんと冷やさねばならない。

答えなんて聞いてやらずに、アドマイヤグルーヴは彼女に背中を見せた。




言い訳はしねぇ。ただスティルさんとアドグルさんは尊い。これだけは伝えたかった(小並感)

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