チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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そろそろ翔子ちゃん達が本格稼働し始めるので、カメラは移り始めるよ!


第二十話 いろいろなドラマがあってもダイジェストで流されるレースはある

 天皇賞の激走後、ウイニングライブを終えたキングカメハメハの控室にて。

 

「んー、有記念までお休みで!」

「あら、やっぱそうなっちゃう?」

 

 キングカメハメハはあきの診断を受けていた。

可能ならばジャパンカップも走りたかったが、そうすれば八割の確率で有記念後に故障するという。

菊花賞を走ったハーツクライはジャパンカップも有記念も両方出ても大丈夫とお墨付きをもらったのだが、生来の頑丈さが違ったのか。

 

「そう…ありがとう、津上トレーナー。手間をかけたわ」

「大丈夫ですよ、カメさんの事ですし。本当はレースに出た人皆を診れればいいんですけどね。でも、チームの皆が優先ですから」

 

 あきはその辺りは実に弁えていた。

できる能力があろうと、それでチームの皆の事が疎かになるならやらない。

あくまで余力でできる範囲で、友人の調子や、研究に付き合うに留める。

それだけでも、他のトレーナーにとってはあり得ないくらいありがたいのだ。

研究も加速度的に進み、シンボリルドルフ理事長の後押しもあって、近い内に津上あき理論(不完全版)のトレーニングがトレセン学園に導入されるだろう。

その為に必要な器具を開発する為、最近アグネスタキオンは研究所にカンヅメである。

何故に不完全版かは、ヒトだろうとウマ娘だろうと機械だろうと、レースやトレーニング時の内臓や骨や筋肉や他全てをリアルタイムで計測し、それに合わせた栄養と適した鍛錬をリアルタイムで更新しながら実行する事など不可能だからである。

いずれ技術が進歩すれば可能となるかもしれないが、完全に個人の能力でこれを可能とするものは、未来永劫あきしかいない。

 

「無理はしないでねー。ゆっくりやすんでほしいなー」

「そうです。カメハメハさんには来年のシニアもあるんですから」

 

 レグルスのメンバーは全員キングカメハメハと親交があるが、良く懐いているのはティアラ路線を走る予定の二人だ。

特にシーザリオなどは良く寮での食事も一緒に取っている。

というか、キングカメハメハはやたらティアラ路線を走るウマ娘に人気である。

なんならディープインパクトにもちょいちょい視線を投げているウマ娘も多い。

それについてはおおらかお姉さん属性って男女問わず効くんだな、とか、翔ちゃんはやっぱ人気者だぞすごいだろ、とか、あきは暢気に考えていた。

 

「多分。カメ姉はハーツさんにジャパンカップを勝ってもらって。有で勝てば帳消しって考えてそう」

「そ、そーんなことはないわよー?」

「言い淀んだって事はちょっとは考えたのよね?」

 

 逆にカネヒキリとヴァーミリアンは良い意味で遠慮が無い。

普通、G1を何度も勝っているウマ娘に対しては普通のウマ娘は多少は委縮するものだが、二人は余程年上やレース以外での肩書や地位がある人以外にはほぼ自然体だ。

前者は年長者への礼儀として、後者は目上の人に対しての礼儀や緊張はあるが、ただのウマ娘に対してはちょっと驚くほどフランクである。

あきは全く知らない事だが、もし二人に理由を聞けば『身内にもっととんでもない化物いるし…』と若干げんなりした顔で教えてくれた事だろう。

 

 ディープインパクトはキズナやアパパネとちょっと興奮した様子でレースの感想を語り合ってるし、ディープスカイは生中継を見ていたというアグネスタキオン女史と電話で何事か話している。

ウマ娘達がわちゃわちゃしているのを見て、あきは『実に良き』としみじみ頷いた。

レースでバチバチやっても、レースが終わればノーサイド。

逃げ宣言での惑わせとか作戦こそあれど、皆勝ったウマ娘を純粋に祝福してくれる良い子達ばかりである。

あきはこの世界に生まれてきて良かったと、基本は思っている。

だからこそ、この世界になんの脅威も無いようにと、今日も願うのだった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 それからのレースを簡潔に語ろう。

秋の天皇賞から半月後のエリザベス女王杯では、復活のスティルインラブをアドマイヤグルーヴがギリギリで差し切り一着。

前年度と同じくハナ差での勝負となるが、アドマイヤグルーヴが二連覇を達成した。

 

 ジャパンカップではホオキパウェーブ、コスモバルク、ハイアーゲーム、デルタブルースなど、ハーツクライ以外にもこの年のクラシックを賑わせたウマ娘達が参戦。

しかしハーツクライ、同期も先輩も外国ウマ娘も纏めて大外から切り捨てた。

大王に負けていられないと、世代混合G1で一着をもぎ取る。

 

 十二月前半、ジュニアG1レースの一走目、阪神ジュベナイルフィリーズ。

レグルスよりラインクラフトが出走、他のウマ娘を悠々千切って一着でゴールイン。

レグルスに初のG1タイトルを持ち帰った。

なおウイニングライブであきがキレッキレのオタ芸も披露し、『あのウマ娘は誰だ』と噂になりかける。

 

 そして同じくジュニアG1レースの二走目、朝日杯フューチュリティステークスではシーザリオが出走。

こちらも他のウマ娘とは基礎力が違うのだと言わんばかりに一着でゴールイン。

他の重賞レースでも暴れたディープインパクトも相まって、チームレグルスの名が徐々に広がり始める。

変わらずあきがキレッキレの応援を続け、『レグルスのトレーナー…?あれが…?』と徐々に話が広がり始める。

 

 そして暮れの中山、有記念。

キングカメハメハ、ハーツクライ、スティルインラブ、アドマイヤグルーヴ、タップダンスシチー、アドマイヤドン、ツルマルボーイ、コスモバルク。

出走する十五人のウマ娘の内、八人がG1タイトルを持つ正に世代を超えたグランプリレース。

意地とプライドのぶつかり合い、誰もが己こそが主役なのだと覇を競った。

最後の直線、大王が、心の底からの咆哮が、トリプルティアラのプリンセスが、エリザベスの女王が並び。

抜け出したのは二人のウマ娘。

キングカメハメハとハーツクライ。

先にゴール板を駆け抜けたのは――

 

――その差は、僅か2センチ。

たった2センチ、しかし確かに彼女は先に駆け抜けた。

一着、ハーツクライ。二着、キングカメハメハ。三着同着、スティルインラブ、アドマイヤグルーヴ。

勝利の雄叫びが、まずは一つ獲り返したと、暮れの中山に響いた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 そして同じく年末、中山レース場。

つい先日行われた有記念の興奮も冷めやらぬ中、もう一つの『暮れの中山』のレースがある。

ジュニアG1三走の最後の一つ、芝2000m、ホープフルステークス。

来年のクラシック戦線を担う、期待のウマ娘達が集まる注目の一戦。

出走メンバー達には早くも注目が集まっていた。

狂気の逃げウマ娘、カブラヤオー。

その末脚で勝利を飾れるか、キズナ。

名家シンボリ家の新星、シンボリクリスエス。

真冬に華を咲かせる事ができるか、サクラスターオー。

弾丸シュートでゴールを狙う、サッカーボーイ。

ナリタの冠名の輝きを背負えるか、ナリタトップロード。

メイクデビューでは圧巻の勝利、此処でもそれを見せれるかダンスインザダーク。

そして、デビューから此処に至るまで全てのレースが重賞レース、それを全て圧勝。

公式ワールドレコードホルダー、新星チームレグルスのエース、空を駆けるウマ娘。

ディープインパクト。

ホープフルステークス出走は以上八人。

 

 観客は感じていた、これは、ただのジュニアG1には収まらない。

中山のスタジアムは、異様な熱気に包まれていた。




さて、いよいよ顔を出してきた世代混合クラシックレースですがまぁなんだ。ウマ娘に出てない人たち縛りでやってもスゲー魔境だな!

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