チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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投下感覚は空いたり空かなかったりするかもしれません(事後報告する作者のクズ)
特に味覚がね(そんなわけがない)……駄目なんだよ…気温が高ぶるとボーッと光るのさ…まるで溶けたアイスだろ?(夏バテ)

いよいよ始まるG1編、まずは各ウマ娘紹介からでしょうか(棒読み)

*トプロさん実装&アンケートの結果に伴い、トプロさんの台詞を改訂しました。


第二十一話 G1ホープフルステーク・パドック編『前途洋々、未来は夢色』

 中山レース場控室にて、二人の姿はあった。

 

「翔ちゃん、ついにG1だね!」

「うん、皆強そうで楽しみ」

 

 あきはラインクラフトやシーザリオを応援した時と同じよう、はちまきなどのグッズフル装備である。

最近では『応援席でやべーウマ娘が居る』と噂になっているが、トゥインクルシリーズの古参ファンからはよく『どっちの?』と聞き返されているようだ。

なんでも『動きがヤベー黒いヤツ(おそらくこっちがあき)』と『顔がヤベーピンクのヤツ(まだ会った事は無い)』の二人がいるらしい。

美女美少女揃いのウマ娘の中で顔がヤベーとは一体、とあきは思うが、いずれ知れる事だろうと気にしない事にした。

 

「うん、実際強い子多いね。翔ちゃん居なければこのレースは誰が勝ってもおかしくないよ。んー、カブちゃん、シンボリクリスエスって子、キズナちゃんが特に、かな」

 

 中距離をずっと飛ばして逃げ続ける事が可能なカブラヤオー、まだ開花していないが2000から2500の間ではおそらく世代でも有数になりそうなシンボリクリスエス、素質は長距離気味だが中距離も十分射程範囲のキズナ。

ディープインパクトを除けばこの三人が一番勝率高いだろうな、とあきは見て判断した。

 

「他の四人は?」

「ダンスインザダーク、ナリタトップロードって二人は中距離も走れるけどどっちかっていうともっと長距離向きだね。ダンスインザダークって子はあまり無理しちゃダメだし」

 

 長距離では先にあげた三人よりも分があるが、現状では中距離で先の三人に勝つのは少し厳しい。

特にダンスインザダークは、素質に比して身体が出来上がっていないので、全力を出し続ければ故障や不調が出るだろう。

故障しない身体作りにおいては、最近、アグネスタキオン女史が頑張っているが、論文だけでは流石に実行するのが難しいらしい。

理論はできているので取り入れている所もあるのだが、肝心の計測器具が無いので効率化が困難なのだ。

それでもこのトレセン学園で、一年経たずに新しいトレーニング方法が普及し始めている事自体が、既に凄い事なのであるが。

 

「サッカーボーイとサクラスターオーの二人は距離適性どうこうっていうよりこっちも脚かな。特にサッカーボーイって子はマイルまでならこの中でも強いけど、現状だと中距離は厳しい」

 

 そしてサッカーボーイとサクラスターオー、こちらも素質に比して身体が出来上がってない典型例と言えるだろう。

走れないわけではない、強くないわけではない、だがこのままでは脚が保たない。

此処からクラシックの間までで、どれ程仕上げられるかで変わってくる。

 

「でも合宿で直接見たカブちゃんとキズナちゃん以外の全員、体幹出来始めてるから、タキオンさんの発表した論文の取り入れは始めてるんだろうね。んー、出来上がり始めるのが弥生賞辺りからかなぁ」

 

 骨の強化も体幹トレーニングも、やってすぐに効果が出るわけではない。

むしろ通常のトレーニングより効果が出るには時間がかかるだろう。

キングカメハメハの天皇賞秋に合わせて、論文だけでもと先に発表したようだが、ある程度リアルタイムで骨の強度を測る器具の作成と、足が絶対に壊れない範囲の筋力を測定する器具が特に難航しているようだ。

特に後者が難しいらしく、最悪前者を仕上げて、とにかく骨の強靭化と体幹鍛錬の優先という手で行こう、と視野に入れているらしい。

 

 だが、体幹の鍛錬は直接的には速さに繋がらない、というのがネックとなる。

長距離が安定するのでステイヤーに人気は出そうだが、マイラーやスプリンターの場合は筋力を鍛えた方がお手軽で実際そちらの方が速くなるのだ。

適切な筋力の見極めが出来れば、600mと言わず、1000mでもずっと全力疾走できる身体ができて、結果的にさらに速くできるのだが。

現実とはままならないものであるなぁ、とあきは溜息を吐いた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

中山レース場、パドック前。

これから出走するウマ娘達が事前のパフォーマンスやお披露目をする場である。

通の間では『元からの推し以外で誰を応援するか決めたい時はパドックを見ろ』なんて言葉もある程度には、注目される場だ。

今も怯えを通り越して表情が無になっているカブラヤオーが、周囲から『見ろ、いつも通り大逃げをする時の表情だ…!』『このG1の舞台でも変わらず逃げるつもりか!なんて度胸だ!』などと騒がれている。

だが実際オープンレースだろうが、重賞レースだろうが、絶対に絶対に圧倒的な逃げをする、先行なんて甘え、みたいな走りをするので、とんでもない強心臓(身体性能的な意味ではなく、精神的な意味で)だと思われているのだろうな、とディープインパクトは思った。

 

「ディープインパクトさん!」

「貴女は…サクラスターオーさん?」

 

 そんな彼女に話しかけてきたのは、おでこを出して髪をつむじを超える程の高さで後ろに結び、桜色の瞳をしたウマ娘、サクラスターオー。

あきから脚の脆弱性が語られた一人。

 

「貴女と貴女のトレーナーさんに一度お礼を申し上げたかったんです!」

「?私とあきちゃんに…?」

 

 彼女が語るには、幼少の頃から脚の脆弱性は懸念されており、幼いころは驀進したいのに思うように驀進できず、歯痒い思いを抱いていたそうだ。

成長して多少マシになったとしても、思うように驀進できないのは変わらず、トレセン学園に入学してもほどほどの驀進で満足するしかないのかと考えていた。

しかしそこに知らされたのが『故障を防ぐ身体作り』である。

八月末に発表されたという論文は『現状、必要な検査器具の製造が難しいので効果は個人差がどうしてもでてしまう』との事だったが、彼女はそれに驀進した。

たとえ僅かでも満足に驀進できる身体になるのなら、数ヶ月驀進を我慢してでも後の驀進の為に身体作りに驀進する事を決意した。

始めて一ヶ月は十五分もできなかった『津上あき式体幹トレーニング』が少しずつ、少しずつ増えていった。

今では二倍の三十分を超え、四十分も見えてきた。

脚も以前よりもっと驀進できると確信できた。

これからも思う存分驀進する為に、まずは合格ライン六十分をクリアする為に驀進していくつもりだ。

 

「貴女達が居なければきっと私はほどほどの驀進で満足した振りをして、きっと我慢できなくなっていたでしょう!ありがとうございます!」

「うん、受け取るよ。できるといいね、全力の驀進」

「はい!!!!」

 

 ディープインパクトに話しかけようと思って近づいていたキズナは会話を聞いていたが、何回驀進が出てくるのだと思った。

というかほどほどの驀進ってなんなのだろう。驀進って『まっしぐらに進む』事だから程々も何も無いんじゃ…

いやそもそも何に向かってこの人は驀進しているんだろう。

一瞬聞こうと思ったが、『驀進に対して驀進しているのですっ!』と自信満々で答えてくる姿が目に浮かんだので、止めた。

最早この人にとって驀進とは概念になってるんじゃないだろうか。

なんでディープインパクトさんは疑問に思わず普通に答えられてるんだろうか。

でも全力の驀進とか言ってるって事はもしかして内容を理解してる…?

 

「ケッ、随分と仲良しこよしすんじゃねぇか。オトモダチになりに来たんなら来る場所が違ぇぜ、お二人サンよぉ」

「サッカーボーイさん」

 

 キズナが驀進について思い悩んでいる間に、また一人新しいウマ娘が彼女に声をかけた。

鋭い目つきに三白眼、アイシャドーでそれらを尚更強調し、覗く八重歯はかなり鋭い。

 

「テメェのトレーナーもご苦労なこったな、相手をわざわざ強くする為の情報を開示するとかよぉ。良かったじゃねぇか『トレーナーのせいで負けた』って言い訳が使えるぜ?」

 

 その言葉にキズナもサクラスターオーもむっとする。

サクラスターオーは恩義から、キズナはあきの為人とレグルスのメンバーを直接知っているから。

彼女はウマ娘の為を思ってやった事だし、レグルスのメンバーもそんな事を言う人たちではない、と口を挟もうとして。

 

「大丈夫」

「あぁ?」

 

 それより早く、ディープインパクトが答える。

うっすら微笑みすら返して、なんて事もないように。

 

「私も皆もそれくらいで負けるくらい弱くないよ。むしろ私は楽しみにしてる。強い人とは沢山走りたいから」

「ハッ、言うじゃねぇか澄ました顔してよぉ…!」

 

 ビキリ、とサッカーボーイの額に青筋が走りかけ、元々怖そうな顔が怖い顔になっている。

子供が見たらちょっと『泣き出しそう』な『迫力』のある顔で『メンチ』を『きって』いた所に、また闖入者が一人。

 

「あーほら姐さんもうパドック!姐さんのパドックの順番ですから!ほら行かないと!」

「あぁ?チッ、続きはレースだ。トプロ、テメェもシケたレース見せるんじゃねぇぞ」

 

 介入したのは金髪栗毛のウマ娘、ナリタトップロード。

同世代であるがサッカーボーイの事を姐さんと呼び慕っている。

 

「えーとね、姐さんもちょっと誤解されやすいんですけど、悪い人じゃ…悪い人じゃ多分無いから、そのですね?」

「うん、解ってる。心配してくれたんだよね」

 

 迷うように悪い人じゃないと言われても信用できるのだろうか。

しかし言葉は荒いし割と手が出るタイプなのでトップロードは『根は良い人なんです!』と素直に言えなかった。

だがディープインパクトはあの人殺してそうな顔で睨まれても彼女の気持ちが伝わってたらしい。

しかし何故それが心配に結びついてるのかナリタトップロードには皆目不可解である。

 

「え、ええっと、参考までに何でそう感じたのかとか聞いていいですか?」

「? だって、彼女もう体幹トレーニング四十分はできるでしょ?そんなに頑張ってる人だもの」

「!?」

 

 サクラスターオーは自分より長い時間できている事に驚いたし、ナリタトップロードも驚いた。

たしかにサッカーボーイは毎日汗水垂らしてやっているが、時間まで解るのかと。

 

「あきちゃんが言ってたよ。言動はたしかに荒っぽいけど、走る事には凄いひたむきな努力をしてるって。脚を見れば解るって」

「はー、そこまで解るんですね、そっちのトレーナーさん。ライブですごい応援してるだけじゃないんですね」

「うん。あきちゃんは凄いよ」

 

 あきを褒められたディープインパクトが嬉しそうに笑う。

ディープインパクトは幼馴染が大好きなので、なんなら自分が褒められるよりあきを褒められるのが嬉しいのだ。

ちなみにあきは褒められるのが大好きだし身内を褒めるのも大好きウマ娘なので、ディープインパクトがあきを褒めるとあきもディープインパクトを褒めだして、誰かが止めない限りエンドレスループに陥る。

 

「貴女のトレーナーさんも考え無しじゃないってのは充分解りました。でも、レースは別ですからね!」

「うん、楽しみにしてる」

「ふふっ、姐さんも言ってましたけど貴女も言いますね!後で見ててください!」

 

 ニシッと笑ってナリタトップロードもパドックの方へ歩いていく。

彼女も良い人だな、とディープインパクトは思った。

 

「深淵なる衝撃の同胞よ、終の決戦の戦場に見えし事、我は此処に寿がん(ディープインパクトさんですね!この年末のレースで走れる事が嬉しいです!)」

「えっ…と?」

 

 だが次に話しかけてきたウマ娘の言ってる事はちょっと解らなかった。

嬉しいということはなんとなく解るが、それがどれに対してかがちょっと不明だ。

 

「我が名は『闇ノ中二閃ク舞手』、汝の精妙なる導き手の恩恵を受けし中つ国の戦乙女の一人、されど決戦場で手心を加えはせぬ(私はダンスインザダークです!貴女のトレーナーさんのトレーニングは私も参考にさせてもらいましたけど、今日は負けませんからね!)」

「う、うん、よろしく」

 

 ぴんと開いた右手で顔の左を隠し、左手をぱっと開いてこちらに向けている、なんだか格好良さそうなポーズをする、髪をドリルツインテールにしている彼女だが、多分今日はよろしく的な事を言っている、と思う。

 

「なれば後はいざや開戦の刻を待つのみ。されば深淵なる衝撃の同胞よ、全て終わりし後のヴァルハラにてまた相見えようぞ(それじゃああとはレースですね、ディープインパクトさん、またゴールで!)」

「うん、楽しみにしてる」

 

 多分レースで決着をつけよう、的な事だと思う。

 

「ディープインパクトさん、よく解りましたね?」

「私も何を言ってるか解りませんでした!」

「ん、私も、多分?だから。きっとレースを楽しみにしてる、ってことを言ってたと思う」

 

 キズナもサクラスターオーも全く解らなかったらしいが、ディープインパクトもなんとなくのニュアンスしか解っていない。

あのウマ娘…ダンスインザダークもきっと良い人なんだと思うが、言葉はちょっと解らなかった。

 

「(……私には誰も話しかけて来ないのか)」

 

 そして一番最初にパドックを終わらせ、威風堂々、自信満々な様子で腕を組んで仁王立ちし、不敵な笑みをたたえていたシンボリクリスエスが、実は気さくに話しかけられるのを待っていた事は誰も気づかなかった。

カブラヤオーは言うまでもないが、他の六人もその威風に『こいつはやるな』と闘争心が騒き、レースで応えてやると話しかけなかったのだ。

ディープインパクトも『強そうな人が居るなぁ』と楽しみにしていたが、相手も楽しそうにしていたので水を差すのも悪いと話しかけなかった。

威風の無駄遣いである。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『さぁいよいよ始まります、中山レース場、芝2000mホープフルステークス、集まったのは来年のクラシック戦線期待のウマ娘達です』

『まずは三番人気シンボリクリスエス、かのシンボリ家の期待の新星、『十冠の皇帝』の偉業に追いつけるのか追い越せるのか、背負う期待は重圧か追い風か』

『二番人気は驚異の逃げウマ娘カブラヤオー、最初から最後までレースを作るのはこの私、諸人は自分の背中だけを見ればいい、このレースではかのウマ娘にリベンジ達成なるか』

『そして一番人気!これまでのレースは全て重賞、その全てを圧倒的な実力で勝ってきました、早くも三冠確実と騒がれるその実力は、この希望花開くレースでも見せつける事ができるのか!』

『空を駆けるウマ娘、ディープインパクト!』

 

 周り中から歓声が降り注ぐ。

ホープフルステークはG1はG1でもジュニアG1だ、クラシックやシニアと比べても少々人気は劣る。

だというのに、この会場の人数は、熱気は、一体なんなのか。

まるでクラシックやシニアのG1のようだ。

 

「ま、翔ちゃんのレースだからね。当たり前だよ!」

「その一言で片づけていいものじゃないのよね?」

「普通に考えて。名門が複数人出てるのと。リギルとスピカの学園最強チームに勢いのある新興チームが挑んでるって図だから」

 

 この熱狂が全てディープインパクトに向かっている事をまるで疑ってないトレーナーバカに対して鋭いツッコミが入る。

なお実際にはカネヒキリの指摘通りで、シンボリ冠名とサクラ冠名のウマ娘が居る事、今の所ジュニアG1を二つとも取っている新興チームが、果たしてリギルとスピカ相手にも取れるのか。

勿論、今までのジュニア重賞レースで圧倒的勝利を重ねているディープインパクトに対する人気も充分にあるだろう。

 

「というかー、うちのチームはトレーナーもー、なんだか有名になってるんだけどー、ねーししょー」

「発表された論文もそうだが、ウイニングライブのキレッキレのオタ芸がな…師匠が応援してくれるのは嬉しいのだが」

「トレーナーは担当ウマ娘の一人目のファンじゃん!だからボクは全力で応援するんだよ!」

 

 実際、あきはディープインパクト以外の四人に対しても変わらず全力で応援している。

レースではうちわを振り回し、ウイニングライブではライトとうちわでオタ芸&会場の盛り上げをする。

実際あきのコーラスやオタ芸で他の観客もノリにノッて、ライブが大盛り上がりになったなんて事もある。

だが、それはそれとして恥ずかしくないかと言われればちょっと恥ずかしいのだ。嬉しくないとは言わないが。

 

「ほら!皆も!翔ちゃーん!がんばれー!!」

「はいはい。お嬢ー!頑張るのよねー!」

「お嬢様。がんば」

「カネヒキリ、お前はもうちょっと声を張れ!お嬢様ー!頑張ってくださーい!」

「おじょー!がんばるのー!!」

 

 内心、応援しなくてもブッ千切るんだろうなぁとは思ってもヴァーミリアン、カネヒキリ、シーザリオ、ラインクラフトにとってディープインパクトはライバルであり、仲間である。

彼女には勝ってもらいたいし、強い走りを見せてもらいたい。

彼女達にとって、ディープインパクトとは憧れであり、己のトレーナーの執心を一等に受けるウマ娘であり、勝ちたいライバルだ。

強い事など百も承知。だが、それは挑まないという事ではないのだから。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 中山レース場、芝2000m、クラシックへの希望を胸に、ホープフルステークス。

 

1枠1番シンボリクリスエス。3番人気。

2枠2番カブラヤオー。2番人気。

3枠3番サッカーボーイ。8番人気。

4枠4番サクラスターオー。5番人気。

5枠5番キズナ。4番人気。

6枠6番ナリタトップロード。6番人気。

7枠7番ダンスインザダーク。7番人気。

8枠8番ディープインパクト。1番人気。

 

 希望を咲かせるウマ娘は、以上8人。

クラシック前哨戦、ホープフルステークス。

いざ、出走。

 


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