チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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最近熱くなったり雨が降ったりと気温気候の変化が激しいですね。
どうか皆さんも身体に気を付けてお過ごしください。
クーラー効いた部屋から出ずに食っちゃ寝して過ごしてぇなぁ俺もなぁ(ダメ人間感)


第二十五話 一目見るだけで心を圧し折る場合もある。なお見られただけなのでそれに気づくかどうかは別問題

 桐生院桜には幼少の頃より憧れているウマ娘達が居る。

彼女達に出会ったのはほんの偶然だ。

名門の一員として出席したパーティー、其処に彼女達は居た。

桜にとって、名門であるとかそういうものとは微塵も関係無く。

ただただその出会いは衝撃的だった。

 

 桜は昔から、ウマ娘達の『音』が聞こえた。

シナスタジア、共感覚というものらしいとは今では学んだが、子供の頃はそんな事も解らず、ただその『音』を聞くのが大好きだった。

重々しい身体の芯に響くような『音』や、静かでさらさらと流れるこちらも落ち着いてしまうような『音』、激しく燃える炎のような気持ちが昂る『音』。

素晴らしいウマ娘であればあるほど、桜に聞こえる『音』もまたわくわくするような、とても楽しい『音』だった。

だからこそ彼女はこの『音』をもっと聞きたい、できるならば自分もこの『音』を奏でさせる助けになりたいと、そう幼い子供の頃から思っていた。

幸いにして桜の家はトレーナーとして名門の桐生院という家であり、彼女の聞こえる『音』も相まって、夢への道は立派に舗装されていた。

 

 小学生も高学年の頃、とあるウマ娘の名門一族ご令嬢達のお披露目パーティーがあった。

この時のパーティーは特別で、お披露目と言っても社交界などではなく、彼女達のバ名のお披露目パーティーだ。

ウマ娘には名前が二つある。

産まれた時につけられた『人間』としての名前と、彼女達の奥底から湧き出る魂のかたち、『ウマ娘』としての名前の二つだ。

花も恥じらう美しい彼女達に、場合によっては『ボーイ』や『ミスター』なんて名前が湧き出るのは、桜もちょっと不思議に思ったが、彼女達はその名前を誇っているし、とても似合っているので、そういうものなのだろう。

桜も名門トレーナーの一族として、そのお披露目パーティーに参加したのだ。

名門一族ともなればきっと音もとても楽しいものだろうと期待して。

 

 そしてその日、彼女はきっと『運命』に出会ったのだと、年月を経た今でもそう思っている。

 

 最初に聞いた四人の『音』はとても素晴らしかった。

ダートの重々しさと芝の清々しさの違いはあれど、凄く強いのにとても良く整えられて調和を響かせる『音』。

とても心地良くていつまでも聞いていたくなるような『音』だ。

やっぱり名門の人は凄いな、トレーナーになれないかな、と思っていたのも束の間。

最後に紹介されたウマ娘と、その横に居たウマ娘の『音』を聞いて、全てが吹き飛んだ。

 

 途轍もなく重々しくて、何よりも清々しくて、どんなものより忙しない金属パーカッションと長く響くティンパニが、何故か不思議な調和を生み出している。

燃え上がるような、全てを凍てつかせるような、まるで矛盾しながらも、完璧に整えられて全てが自然と、オーケストラのように様々な音が奏でられる。

こんな強い『音』は聞いたことが無い。こんな素晴らしい『音』は聞いたことが無い。こんな美しい『音』は聞いたことが無い。

こんな、こんなただ一人で紡がれた『演奏』なんて、見た事が、無い。

トレーナーなんていらない。ライバルも必要ない。彼女はもうたった一人でどこまでも完成されていた。

名前も知らない、ご令嬢の友人らしきウマ娘は極限だった。

彼女の『音』が聞きたくて、彼女の『音』に少しでも関わりたくて、しかし、その必要も能力も資格も無い事に、桜は何処までも絶望するしかなかった。

 

 あぁ、なのに。桜は絶望するしかなかったのに。比べる事なんておこがましい程に差があるのに。

何故、何故、何故、何故、そんなにひたむきに、精一杯、胸が掻き毟りたくなる程に切なく、何処までも情熱的に。

目の前の差を認識していない筈などあるわけが無いのに、なんでそんなに澱みが欠片も無い、とても透き通った『音』を響かせるのか。

『音』の強さも、素晴らしさも、美しさも、段違いに彼女の方が上なのに。

なんで、こんなに、『綺麗』な『音』と感じてしまうのか。

 

 桜の眼から涙が溢れ出した。

自分の手で作り出したかった美しい『音』よりも何よりも美しい『音』を知ってしまった。

その美しさを超えるものを絶対に作り出せず、手を加える事もできる筈が無いそれに絶望を知った。

何処までも澄んだ『音』を聞いた。

どうしようもない壁を理解していながらも、それでも真っ直ぐに、何処までも響け、果てのその先にまでも届けと心の奥底から流れる透明なそれを聞いた。

周りの人が心配して声をかけても、桜の涙は止まらずにぽろぽろと流れ続けた。

何よりも美しいものに出会った。何よりも綺麗なものを見た。何よりも尊いものがあった。

桐生院桜は、全てを賭すに相応しいものを見つけたのだ。

 

 それからはもう、とにかく時間が足りなかった。

年齢的に自分が一つだけ年上とはいえ、彼女達が素直にトレセン学園で数年鍛えてからデビューするだなんて、欠片も思えない。

初年度からデビューして伝説を作り上げるくらいやってのけるだろう。

そこに観客として以外で関わるには、一分一秒でも無駄にはできない。

元から力を入れていたトレーナーの勉強に生活の全てを費やした。

指導方法、作戦構築、レース場の地形把握、脚のケア、ライブのレッスン、どれ一つとして怠る事などできない。

あの誰よりも美しい音を奏でた彼女、津上あきが最年少でトレーナー資格を取っていた事も、ディープインパクト達が彼女の指導を受けている事も、後ほど知った。

やはり常識外だ、急がねば間に合わない。

もし、トレーナー資格の取得が間に合ったとしても、彼女達に関われるかどうかは解らなかったが、予感はあった。

彼女達はきっとこの国だけでは収まらない、きっと世界に飛び出すはずだ、と。

そして、予感通り、クラシックが始まる直前、ディープインパクトがホープフルステークスでワールドレコードを出す直前。

桐生院桜のトレーナー資格取得は、確かに間に合った。

資格取得時年齢、十四歳。歴代最年少資格取得記録、二位とタイ記録である。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「皆さん初めまして!私は桐生院桜と申します!以後よろしくお願いしますね!」

 

 年が明けて新年、三が日も終わりの頃、チームレグルス部室にて。

早速とばかりにやってきたサブトレーナーがチームの面々に自己紹介をしていた。

ショートヘアーの黒髪に黒い瞳、手にはノートのようなものを持っている。

 

「うん、よろしくね、桐生院さん」

「さん付けなどと!どうぞ桜と呼んでください津上トレーナー!」

「お、おう…?ならボクもあきでいいよ、桜さんの方が年上だしね」

 

 初対面の筈なのに何故かやたら好感度が高くて圧が強い事にとまどうあきであるが、彼女は貴重な即戦力である。

友好的なのは逆よりも余程良いとあまり気に留めない事にした。なにせこれから地獄が待っているからして。

 

「桐生院って有名なトレーナー一族よね。こんな新設チームに来てよかったの?」

「とんでもありませんヴァーミリアンさん!私はこのチームが世界に旋風を巻き起こすものと信じてますから!」

「圧が強い。へこたれない意志はありそう」

 

 おそらく彼女にはダート組と伴って渡米してもらう事になるだろう。

勿論あきも都度渡米するつもりであるが、日程的に厳しい時は桜に任せる予定である。

 

「来て早々、日本ではなくアメリカのダートを中心として活動してもらう事になるだろうが、大丈夫か?」

「お任せくださいシーザリオさん!レース場の特性から土の違いまでばっちりデータは集めてあります!現地の状況などによって修正は必要ですが、抜かりは有りません!」

「おー、やるきまんまんなのー」

 

 それにしても是非にと志願して来ただけあって、やる気も高ければ情報収集能力も高い。

日本に留まらず海外のレース場も調べるのは流石名門トレーナー一族といったところだなぁ、とあきは評価をプラスした。

 

「あきちゃんの脚を見るの、ちょっとだけ真似できるって本当?」

「論文を見て、共感覚を一点に集中できればある程度の再現はできるんじゃないかと思いました!なのでできるようにしました!」

「割と凄いねそれ。ボクくらいの精度は流石に無理でも、ケア能力として凄い有用じゃん」

 

特にアグネスタキオンが発表した論文を自分なりに嚙み砕いて、あきから見ても結構な水準でこなせる辺り、才能もある。

共感覚を使った脚の状態確認も結構な精度で出せるなら、ケア能力でも十分期待できる。

あれ?この人普通にもうトレーナーとして一人立ちできるんじゃね?なんでサブトレしに来たんだろう?と積みあがったプラス評価に逆に首を傾げるあきである。

しかし優秀ならばそれでいいのだ。むしろこの一年は絶対に逃す気は無い。

自ら望んでこの地獄ローテに飛び込んできたのだから、自分並とは言わずとも酷使させてもらう。

だってあき自身スーパーウルトラハイパーに酷使無双で常人なら過労死不可避なデスマーチなのだ。

日米三冠トリプルティアラ、英三冠に欧州三冠を一つのチームで独占するなんてトレーナー一人で面倒見切れるものではない。

というか二人でもまだ足りない。

あと一人増やして日本とアメリカとディープインパクトで担当すれば負担も大分減っただろうが、居ないものは居ないのだ。

無論あきと桜がメインで面倒を見るが、二人が外国行っていない時はリギルとスピカに泣きついて、日本に残るティアラ路線の二人の、ある程度の面倒を見てもらうしかない。

二チームに今現在トゥインクルシリーズのティアラ路線を走るウマ娘が居ない事と、キングカメハメハのケアや合宿などで繋ぎを作っておいたからこそできる荒業である。

 

「とりあえず、一月は書類手続きやうちのチームでの指導方法に慣れてもらう事からだね。移動手段とかについてはシンボリ家や桐生院家、あと翔ちゃん達の実家からも協力してもらえる事になったし、大分楽になったよ」

「はい!到着が遅れてレースに出れないなんて、とても悲しい事ですからね!ばっちりサポートします!」

「いやホントありがたい…桜さんも含めてうちの皆、運転とかできないからさ…」

 

 トレーナーや選手といっても、レグルスのメンバーは全員十三や十四の小娘である。

普通自動車免許という、最も一般的な移動手段を乗り回す為に必要な資格さえ、まだ取得できない年齢なのだ。

レース場まで走って移動などあきだけならできるが、あきだけができても意味が無い。

 

「二月には渡米しなきゃいけない。桜さん、かなりスパルタになるだろうけど、覚悟は大丈夫?」

「はい!どうかご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

 

 桜は笑顔で応えた。桜に否など有る筈が無い。

だって、此処にはこんなにも楽しい『音』が満ち溢れているのだから。

 




トレーナーのヤベーヤツは脳破壊された後に眼を灼かれてしまってな……
『彼女が全力でやってるなら私だって全力を賭さねば』とガンギマリしちまったんじゃよ…
なおレースやトレーニングの事ならとても詳しいが年頃の女の子のアレとかソレは真っ先に切り捨てているのでオシャレとか恋バナとかには『他の人はともかく私にそれ必要?』ときょとん顔しか返しません。
せっかくの可愛い子なのに罪深い事しちまったなチートオリ主!
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