チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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主人公は『実はこの世界はクロスオーバー世界で戦うことになるんじゃないか』という心配が大きすぎて、他の心配事はチート肉体性能あればなんとかなるなる、ガハハ勝ったな!気分。
おおよそ正しい。


第二話 主人公、初手SSR人権キャラ引く豪運

 図書館にてトレーナーとして歩むと決め、その人生設計を始めてさて翌日。

月曜日なので幼稚園に向かう日となる。

前世がある影響かまた幼稚園からとかキツイとか内心思っていたとしてもそれはそれ、園児たちにほどほどに構い、お遊戯だのなんだのをほどほど真面目にやる気見せればよいだけである。

さらに子供たちの間では歌や絵が上手かったり運動が得意であればそれだけでヒーローだ。

肉体性能が桁違いな彼女なら言わずもがな、何やっても勝てるのだからすっかり園児たちの中心人物である。

さてそんな幼稚園であるが、トレーナーとして生きると決めたなら逃す手は無いと思っている園児が一人いた。

 

「――アキちゃん、かけっこ」

 

 幼稚園に来てから朝一番、この服の裾をギュッと掴んで、うんと言うまで離さないと目線で訴えている幼女である。

右耳に飾りをつけた、この世界でいえばわりと黒が強い鹿毛の子である。

普段は物静かで日向ぼっこしてたり絵本を読んでいたりとお嬢様のように品が良いのだが、こと走ることに関してはとても負けず嫌いである。

かけっこ勝負で『おー、わりと速いなぁ』と思いながら千切ったらその日の内から毎日のように張りつけられているのである。

なにせ他の子と別の遊びもやろうと言っても幼児ながら圧の強い瞳でかけっこがいい、とひたすら見つめてくるくらいである。

この世界では子供もレースが好きなので、なんだかんだ言って他のウマ娘の園児たちも集まってレースをするのだが1着でぶっちぎるチート転生者にいつも2着につけていた。

 

 そんな彼女の名前は『早来翔子』という。

ウマ娘達は競走ウマ娘としての名前を持つが、その名前が降りてくるタイミングはまちまちである。

早ければ物心ついてすぐ口からついて出る場合もあれば、中学生になるまで降りてこなかった事例もあり、それまではその国に合わせた通常の名前を呼ばれるようになっている。

レースでは絶対に『降りてきた』名前を使うが、それ以外の場ではどちらを使ってもいい扱いだ。

翔子にはまだ名前は降りてきていないので、さて彼女がどんなバ名を持つかは、転生者こと、今世の名前を『津上あき』とする少女も未だ知らない。

 

「翔ちゃん、かけっこはお昼休みの時にねー」

 

 いつも朝から纏わりつかれて一緒に走れとせがまれるが、流石に翔子一人に構っているだけでは他の園児も不満が溜まる。

いくら自分を除けばウマ娘として素質が段違いの将来のスカウト第一候補といえど、それだけにかまけていて良いわけでもない。

さらに、ウマ娘といえばウイニングライブ、つまりファンに対して歌って踊ってアピールする必要もある。

それを考えれば自分にべったりというのも少しずつでも修正していくべきだろうか、とあきは思考する。

 

「――やくそく。レース10ぽん」

「足に負担かかるから3本までねー」

 

 翔子が不満そうに頬を膨らませるが、あきは走る本数だけは頑として譲る気はなかった。

なにせ翔子に初めて勝った日はもう一回、もう一回と結局翔子が疲労で倒れるまで走ったのだ。

途中で終わらせたくなってわざと手を抜いて負けたら逆に怒ってさらにムキになった為、しょうがないので最後まで付き合った。

しかも倒れた後も譫言でまだ走ると言っていたので、本数に制限をかけねば幼稚園児だというのに壊れるまで走りかねない。

あきは自分以外のウマ娘の脚は消耗品であると正しく認識していたので、勝者の特権として倒れるまで走るのを禁止したのだ。

 

「もっとはしりたい」

「だーめ。また走り方見てあげるからガマンガマン」

 

 ぱしん、ぱしんと翔子の尻尾があきの身体を叩くが、気にも留めずにばっさり答える。

あきは今現在、翔子に一番力を入れてはいるが、他のウマ娘達にも走り方を教えてあげている。

どのように力を入れ、どのような歩幅で、どのように走ればいいかを教えているのだ。

おかげで園児たちは皆一様にタイムが縮み、レースが白熱する一因ともなっている。

ちなみに翔子は教えれば教えただけタイムが縮んでいる才能の塊のような走りを見せているが、まだ出来上がってない身体を守る為にレース本数制限が一番厳しい。

 

「みんな、ずるい」

「その皆より翔ちゃん大分速いでしょ。走り方教えるのはともかく、走りすぎると逆に駄目だよって前から言ってるじゃん」

 

 翔子のむくれる頬を人差し指でつっついたり、髪をわしゃわしゃ撫でながらあきは今後の計画を建てる。

とりあえず小学校の間にトレーナーの勉強をしつつ翔子を鍛え、トレセン学園なるレースの本場に通いながら、中学生の内にトレーナー資格を取る辺りが良さそうだ、と。

トレーナー資格は取れるようならもっと早くに取ってもいいかもしれないが、基本はこの路線でいいだろう。

翔子は間違いなくスターウマ娘の素質があり、これをウマ娘トレーナーとしてデビューから担当すれば恐らく話題性抜群。

流石に翔子並の素質を持つウマ娘が他にも居るかはちょっとわからないが、そこは才能が集まるトレセン学園である、大いに期待できる。

居なかったとしても自分が見立てた翔子の才能ならばクラシックレースのレコードを全部塗り替えて勝てる、初っ端からガチャでSSR人権キャラ当てたんだから文句は言うまい、と。

 

「翔ちゃんならクラシックレース全部勝てるからねー。脚は何より大事にしなきゃ」

「………」

 

 脳内でスーパーウマ娘のトレーナーとしてちやほやされる未来予想図を描いているあきは知らない。

まるで『目の前の相手に一度も勝てていない事』を無視して語られるクラシックレースの勝利を約束された事に何を思うかなどと。

翔子のどこかじっとりした視線を受けながら、そんなことなど思いも寄らないあきはどこまでも気楽に考えていた。


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