感想欄に書けないあれそれを好きに書いてよい場所でもあるので。
『実はこんな開発経緯あったんじゃないか』『あのウマ娘はこうなってるんじゃないか』
『後々こんなウマ娘が出てくるんじゃないか』『退け!俺はあの娘のトレーナーだぞ!』などなどは感想の方じゃなく全部そちらにどうぞ!
質問とかもそっちで答えたり答えなかったりします。
『いざ桜の栄冠を手に十八人の乙女が挑みますティアラ一冠目桜花賞』
『春の姫に輝くのは誰か、答えは阪神芝1600mの先今スタートです!』
ガタン!
『抜群のスタートを切ったのは7番シーザリオ大外17番ラインクラフトしかしエアメサイアも飛び出す続いてテイタニヤ内にダンスパートナー!』
『モンローブロンドとデアリングハート追いかけます続いてダンツクインビー内にジョウノビクトリア中団後ろにテイエムオーシャン続きます!』
ハナを狙って飛び出したのはチームレグルスの二人、しかし他の有力ウマ娘も一斉に飛び出した。
「(ラインクラフトはともかくシーザリオまで逃げ?脚質差しじゃなかったの!?)」
「(前に走った時よりずっとペースが速い、もしかしてかかってるっていうの?)」
チューリップ賞でシーザリオと戦い、後方から差されたダンスパートナーと、フィリーズレビューでラインクラフトと戦い逃げ切られたエアメサイアが疑問を抱く。
ダンスパートナーは中団もしくは後方からのレースをしていた筈のシーザリオが逃げを選択した事に対して。
エアメサイアはフィリーズレビューで見た逃げ足よりペースを上げた事に対して。
「(走り方はブレておらん、互いに横にフェイントをかけようとしよっても後ろはまるで気にしとらん…よもやあやつら、今まで三味線弾いておったか?)」
先頭集団の中で二人を冷静に観察しているのはテイタニヤだ。
彼女は他のレグルスのメンバーが華々しい勝利をあげる中、言ってはなんだが『普通の勝ち方』をする二人に疑問を持っていた。
シーザリオは差して三バ身差、ラインクラフトは逃げて三バ身差、確かに強いがこれは普通に解る範囲の強さだ。
アメリカで走ってる二人のように五バ身六バ身引き離しているわけでもなく、ディープインパクトのように大差で圧勝するわけでもない。
まだ二人は『もしかしたら追いつけるかも』という範疇で走っていた筈だ。
いや、思えば其処が既におかしいのか。
二人とてあのチームレグルス所属の筈、むしろもっと並外れて強くてもおかしくないのだ。
ならば抑えて走っていたのは手の内を見せない為か、それとも消耗を抑える為か、あるいは両方かもしれない。
どれにせよ、同チーム対決となっている今はその制限が取り払われていると見るべきだろう。
これは後ろに居たら影さえ踏めず置いて行かれると判断したテイタニヤは二人についていくべく僅かにペースを上げた。
『残り1000mを通過して依然先頭はラインクラフトとシーザリオが逃げで競り合うここでテイタニヤ上がり始めたかダンスパートナーとエアメサイアに並びます』
『三バ身ほど離れてテイエムオーシャンデアリングハート五番手モンローブロンド今日は先行で進めます』
先頭は変わらずラインクラフトとシーザリオの二人が引っ張る。
前を走る二人もやはりレグルスの一員だったのか、いやまだ解らんぞと会場が騒めくが。
観客も、今レースを走るウマ娘達でさえ、『レグルス所属のウマ娘』がどういうものか、本質を掴み切れていない。
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レグルスに所属するウマ娘において何よりもまず最初に作られるのは、絶対に故障しない身体である。
あきによる有り得ない精度での骨の状態測定、常人には鍛えられる筈も無い内臓ですら鍛え上げ、回復の早い身体の下地を作り、徹底的に鍛えられた体幹によってどんな時もブレず、よれない軸を作り出す。
だがどれだけ注目されようが、どれだけもてはやされようが、そんなものは文字通りの『基礎』なのだ。
本当に常軌を逸するのは此処からだ。
作り上げられた基礎に、綿密なまでに調整された筋肉が載せられていく。
瞬発力か、持久力か、どちらかに優れた筋肉を、どういう配分で、という話ではなく。
瞬発力も、持久力も、どちらにも優れた筋肉を、絶対に骨が折れない範囲を見極めて、全てに搭載して、という次元で。
無論、基礎を作るのにも筋肉を作るのにも、地獄というのも生温いようなトレーニングが待っている。
津上あきのトレーナー理論骨子は実の所、とても単純だ。
絶対に壊れない身体に、他のウマ娘より質の良い筋肉を搭載して、其処に技術を仕込む。
実力を発揮できれば勝てる状態にし、実力を発揮できない状態にさせず、実力を発揮させまいと仕掛けてくる者は、磨いた技術と鍛え上げられた肉体で逆に潰す。
逃げ、先行、差し、追込み、全てを教えるのも『どんな脚質のウマ娘が相手でも実力と技術を存分に発揮させる為』だ。
そして、其処まで鍛え上げたウマ娘は『段階』を越える。
『追込み』の走りが他のウマ娘にとっての『差し』に。
『差し』の走りが他のウマ娘にとっての『先行』に。
『先行』の走りが他のウマ娘にとっての『逃げ』に。
『逃げ』の走りが他のウマ娘にとっての『大逃げ』に。
そう。このレースでのラインクラフトとシーザリオは、『
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『さぁ1000mを越えるタイムは57秒台これは速い!先頭は変わらずシーザリオとラインクラフトこれを先頭集団が追いますそろそろ最終コーナーが見えてきた各ウマ娘仕掛けのタイミングは充分か!』
『さぁ最後の直線各ウマ娘一斉に仕掛けrはぁ!?』
実況が絶句する。観客が息を呑む。後続のウマ娘達が目を見張る。
先頭を走り、逃げに逃げて脚をそんなには残していないと思われていた二人が、スパート体勢に入った。
まるで此処からが本番だというように、此処から差し切るぞと言うように、身体をより前に倒し、脚の回転数を上げた。
予想していたのは一人、違和感を感じペースを若干速めていたテイタニヤただ一人。
だからこそ、その結末が見えてしまった。
「(いかん。これは追いつけん)」
それは単純な速度の差。
最終コーナーを周る前に二人より先に出られなかった時点で、負けが確定している。
あのコーナーを周るまでに、二人は十分に脚を溜めていたのだ。
それに比して、自分はペースを速めた分二人より脚の溜めが少ない。
坂での減速も期待はできない、この展開を作り上げ、前を走る二人がそれを考えていない訳が無い。
速度で負けており、コーナーに入るまでの展開で負けており、脚の溜めの量で負けており、勝機は無い。
「(じゃがのう――こっちだって意地があるんじゃあ!)」
だがそれで勝負を投げ出すかは別だ。
「(あのペースで脚を溜めてたっていうの!?でも負けるもんですか!)」
「(二人だけでレースしてんじゃないのよ!こっちだって!)」
テイタニヤが、ダンスパートナーが、エアメサイアが同じくスパートをかける。
「(くっ、見誤って差し切れないとしても投げ出すものか!)」
「(速い、けど諦めたりするもんか!)」
テイエムオーシャンが、デアリングハートがそれでも差し切ろうと脚に力を入れる。
背後からの熱気を感じながら、やってみろ突き放してやるとばかりに二人は直線を駆ける。
互いの息遣いや流れる汗すらも捉えて、お前には負けない、負けたくないと歯を食い縛りながら、笑みを零す。
物心ついた時から一緒に居た。
一族の最高傑作と呼ばれたお嬢様の御付として選ばれて、その強さに憧れ、超えたいと思った。
同じ師匠に鍛え上げられた。
お互いに、縁が腐ってしまうくらいに一緒に居た。追い越したい目標すらも一緒だ。
だからこそ――
「「((隣のヤツに、勝つ!!!))」」
そうでなければ、胸を張って挑めない!!
シーザリオが流れる星の様に走る。流れる汗と衣装の装飾が光を反射しながら纏い、空を裂く白い流星の様に。
ラインクラフトが流れ出ていたプレッシャーを薄皮一枚までに凝縮する。鉄砲水が流れる前には、河の水が極端に減るかの如く。
『先頭シーザリオラインクラフトのまま最後の直線に入るテイタニヤ追い上げるがこれは届くか後ろからダンスパートナーエアメサイア迫るテイエムオーシャンデアリングハート上がってきたっ!』
『シーザリオ僅かに前に出たかテイタニヤ追い縋るが差は詰めれない後ろにダンスパートナー!』
「(圧が凝縮された!だが負けん!このまま逃げ切るっ!)」
シーザリオはラインクラフトの身体の内に集まり纏まった力を敏感に感じ取る。
こうなった幼馴染の強さと怖さは誰より知っている。
いつも間延びした喋り方も、けだるげで省エネな態度も、全て全て内に溜め込んでおく為だ。
あいつは此処から差してくる。だから脚の回転を上げろ、0.01秒でも前に進め――!
「――シィィィィィィイイイイイイイ!!」
ラインクラフトの、いつも怠そうに細められていた眼が、呼気と共に見開く。
凝縮された力は解き放たれた。全てを飲み込む濁流の様に、ただ前を目指し走る!
『だぁが此処でラインクラフト!ラインクラフト差し返すいやシーザリオ並んだラインクラフトッ!シーザリオッ!ラインクラフトッ!並んだゴォールインッッ!』
『三着はテイタニヤ!デアリングハート追い上げましたが僅かに届きませんでした!』
『一着二着は写真判定です!大接戦です!同チーム二人による大接戦のゴール!』
『結果は――出ました!ハナ差8センチ!ティアラ一冠目桜花賞桜の栄冠を戴いたのは!』
『8枠17番!ラインクラフトです!!!』
ターフの上にて、荒い息を吐きながら二人は掲示板を見上げる。
一番上に表示された番号は17番。桜花賞を勝ち獲り、一つ目のティアラを受け取ったのは、ラインクラフト。
タイムは1分30秒3。芝1600mの世界記録となった。
「…えへー。マイルじゃまだリオに負けないもんねー」
「…言ってろ。オークスでは私が勝つ」
「ふふーん。わたしだってせいちょーするもーん。中距離での全力のリオにだって勝つもーん」
「調子に乗って…吠え面かかせてやるから見てるんだな」
人差し指で元のけだるげ省エネ状態に戻った幼馴染の頬をぐにぐにしながら、リベンジを誓う。
二人での次の舞台は、東京レース場芝2400m、オークス。
だがしかし、その前にもう一つ。
「…一足先に挑むのだ。情けない走りを見せるんじゃないぞ」
「んにー。そうだねー。とうとうだもんねー」
二人はこのレースの前に一つ、約束をしていた。
桜花賞でシーザリオが勝ったら、ティアラ路線に専念し、とあるレースに出るのを諦める事。
桜花賞でラインクラフトが勝ったら、とあるレースに出る事を素直に認める事。
そのレースの名前はNHKマイルカップ。
チームメイトにして最強のエース、ディープインパクトが出走するレースである。