チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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ふと確認してみるとお気に入りが一万件超えていてちょっと眼を疑った事でございますわよ。
特に宣伝もしてないSSがこんな事になるとかやっぱウマ娘人気とディープインパクト人気はすげぇなって事にしておこう!
記念に何かネタ書くわ…


第三十二話 立ちはだかる壁、踏む影が見せるのは何か―皐月賞、中盤戦―

『400mを通過して先頭は未だディープインパクト!すぐ後ろにはカブラヤオーがついて二バ身あけてサクラスターオー!後続との差は現在七バ身ほどでしょうか!』

 

 先頭は依然ディープインパクト。しかしそのすぐ後ろにカブラヤオーがつき、サクラスターオーは三番手。

後続は心は煮え滾っているが、此処で脚を使えば勝負もできないとギリギリを見極めようとペースを調整していた。

速すぎても遅すぎても駄目だ。

理想を言えば、第四コーナーを周った時に五バ身以内。最低限で十バ身より前。

その距離を脚を使い過ぎないよう、調節しなければならない。

 

 だがディープインパクトを追いかけるウマ娘の中で、そんな事などまるで考えていないウマ娘が二人だけ居た。

 

「(2000mを驀進!つまり!最終コーナーまで速めに走り!コーナーでちょっと息を入れ!直線を全力で走ればいいのです!)」

 

 余人はそれを溜め逃げというが、サクラスターオーはそういう細かい事は気にしていなかった。というか聞いてもいなかった。

それができるかどうかもまるで考えていなかった。

何せ『できる!!!』と思考を挟まず脳内が埋まったからだ。

サクラスターオーが耳を傾けるのはいつも、己の身体からの声だ。

身体に聞けば解る。脚に聞けば解る。

サクラスターオーは殊更に、己が何処まで驀進できるかどうか把握するのが上手かった。

最初の頃は満足に驀進できないと答えていた身体が、トレーニングを積んでからは『此処までなら驀進できる』『次はもうちょっと驀進できる』と教えてくれている。

その身体が『こうすればできる』と教えてくれた。

ならば後は驀進あるのみだ。

 

「(しかしディープインパクトもカブラヤオーさんも素晴らしい驀進です!!)」

 

 しかしサクラスターオーの前を走る二人はさらに速いペースで進む。

これはサクラスターオーが遅いわけでは決してない。

サクラスターオーから次のウマ娘まで七バ身、普通ならこれは立派に逃げのペースなのだ。

 

 大外に居た筈なのに最内に収まったディープインパクトと、その少し外をぴったりつけるカブラヤオー。

今まで見せた形とは全く別ながら、レースのペースを作るのはこの二人だった。

 

「(ラチ沿い…最内入れない…!)」

 

 カブラヤオーの前を走るディープインパクトは内ラチに沿った経済コース。

今まで外を走って途中からスパートをかけて内を走ったり、最大外を周って全員ブチ抜いたりしてきたが、最初から内を走るレースは初めて見せている。

カブラヤオーがいつも走っていた位置だ。

 

「(外に行くしかない…練習通りだ……!)」

 

 だが、チームスピカでの練習中。カブラヤオーはいつもオルフェーヴルの外を走らされていた。

スピカのトレーナーからも、オルフェーヴルからも、必ず外につけろと言われた。

何故なら、カブラヤオーの前に立ったディープインパクトは絶対に内を譲らないと断言されたからだ。

レースを見ていたトレーナーは気づいていた。

外ラチギリギリをああも綺麗に周れるのなら、内だって周れない筈が無いと。

オルフェーヴルは直感していた。

あの途轍もなくヤベーのがかなりヤベーのになまらヤベー技術を教えていない筈が無いと。

オルフェーヴルの言葉は語彙がヤベーでほぼ死んでいたが言いたい事だけは解った。

カブラヤオーの長所はその心肺能力だ。

なにせあきが『翔子ちゃんより心肺強いウマ娘初めて見た』とディープインパクトに零したくらいには、カブラヤオーの心肺能力は群を抜いている。

だからこそ、大逃げで走っても垂れない。だからこそ、最内を狙わなくても同じだけの速さで走れる。

 

 ただ。それだけで勝てる程、ディープインパクトは甘くない。

 

「(でも追い抜けない…!速いのもある…けど…!)」

 

 オルフェーヴルとハーツクライ(と、何故かオジュウチョウサン)との執拗なまでの併走で競り合えるようになった。

心肺能力ただ一点の勝負なら勝てるかもしれない。

だが、何より単純な技術が足りていない。

ブラフの出し方、プレッシャーのかけ方、たまに見せる一人分の空間が空きそうで、実は空いていない内側。

今まで欠片も見せていなかったそれを、前を走る彼女は見せている。

カブラヤオーはそれに惑わされる。

 

 これは間違いなく、常に先頭を走り、駆け引きをしてこなかった弊害だ。

カブラヤオーは今まで駆け引きをしてこなかったし、そんな余裕もなく、またその必要も無かった。

トレーナーとしても競り合いができるだけの勝負根性をつけるのが第一で、技術を仕込むまでの時間が無かった。

 

 そんな事など関係無いと、ディープインパクトは惜しげも無く使ってみせる。

大きく外は使えない、大きく外を追い抜こうと踏み出した途端、待ってましたとばかりに内に寄って突き放す気だ。

抜くのなら今よりほんの少しだけ外、ギリギリで抜かなければならない。

カブラヤオーの視界と思考が誘導される。

 

 今か、まだか、今か、まだか。

前ばかり、ディープインパクトの動きばかりを見ていたカブラヤオーは気づいていなかった。

少しずつ、ほんの少しずつ、ペースが落ちている事。

後ろを走るウマ娘達が、少しずつ、少しずつ差を詰めている事。

サクラスターオーとの二バ身の差が、一バ身に詰まっている事。

 

『今1000mを周ってタイムは58秒後半!徐々に後続との差が詰まっている此処からどうなるか!?此処でサクラスターオーがカブラヤオーと並びました!』

 

 1000mを周り、サクラスターオーがカブラヤオーの外側についた時、初めて気づいたのだ。

ほんの少しだけ、1000mの間のコンマ何秒という差でペースが落ちた。

そうでなければ幾らペースを速めているとはいえ、サクラスターオーが横につけれていない。

このペースは、いつもの大逃げよりも遅い!

 

「(外につかれた!ダメ、此処からディープインパクトさんを抜くには間が狭すぎる!)」

 

 何より位置が不味い、サクラスターオーのついた場所はカブラヤオーの外側、此処からディープインパクトを抜こうとすれば、二人の間の一人分あるかないかの隙間を抜かなければならない。

だがカブラヤオーにその隙間を綺麗に抜ける技術は、今は無い。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「くっ、エグい事しやがる!これもそっちの作戦通りかい?」

「ボクは逃げ戦法で走るように言ったのと小技使ってこうかって言っただけですね。あとは翔ちゃんにお任せです」

 

 観客席、たまたま近くの場所を取っていたスピカのトレーナーとあきがレースを共に見ている。

今はちょうど、カブラヤオーが蓋をされた所だった。

 

「でもまぁ、カブちゃんとは三回走って三回勝ってます。そろそろ明確な成長見せてくる頃合いだってのは予想してました。翔ちゃんとレース走ってて、影響受けないってのは無いなって」

「そこまで読むのか…」

 

 あきの眼力は最早人類の限界を引き千切っているのは証明されていたが、あくまでそれは肉体面を見る場合のみだと思っていた。

だが精神的な成長まで見抜くとは…と思考して、ふとそうではない事に気づく。

 

「…あのやり方、教えたの最近かい?」

「まさか。デビューするよりもっと前から超一流です」

 

 そう、他のウマ娘の精神的な成長を見越して教えたものではない。

もっと前から、どんな状況でも、どんな相手でも、自分は全力を出し、相手には全力を出させない走り方をディープインパクトはできたのだ。

それができる事は、それをされても自在に対応できるという事だから。

それに思い当たったスピカのトレーナーは、冷汗が背中に伝う事を自覚しながら、眼鏡の位置を直した。

 

「…恐ろしい話だよ、本当に」

「でも翔ちゃんですから、きっとそれだけじゃ終わりませんよ」

 

 ディープインパクトには相手に全力を出させない走り方ができる。それは事実だ。

だが彼女にはもう一つ ――彼女の魂に宿る、異世界のソレがついぞ持ち得なかった―― 特別なものがある。

全力を出させない方法は見せた。全力を出している姿も見せた。

その上で、彼女の走りは語り掛ける。

『まだやれるだろう』と、『かかってこい』と、『お前の走りを見せてみろ』と。

それはウマ娘にとって、『鍵』となる。

 

「翔ちゃんとレースを走るウマ娘で、諦める娘だけは絶対に居ません」

「…そうか」

 

 誇らしげに、目を輝かせてディープインパクト達を見るあきに、スピカのトレーナーは言葉を飲み込んだ。

飲み込む事しか、できなかった。

 

 皐月賞、レースは未だ、中盤戦。




なおチートオリ主は『翔ちゃんすげー!流石最推し!!!』が100%であり、特にスピカトレーナーとかハスミんとかタキオン女史が考えたような気持ちは一切抱いていない事を此処に明言しておきます(断言)
自分が走ると他のウマ娘が云々かんぬんなんて推しのライブより重要な事なのそれ?でもう思考の片隅にもないよ…
ただ秘密結社とかそういうのの警戒だけはまだ残っている(でも最近確認できてないので大分緩んでる)のでレースにだけは出てこないね!それがどう見えるのかは、ね!

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