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*トプロさん実装&アンケートの結果に伴い、トプロさんの台詞を改訂しました。
「(――やられた!)」
キズナは蓋をされるカブラヤオーを見ていた。
彼女達から自分まで距離はおよそ七バ身、1000m時点ではまだ巻き返せない差ではない。
だが差の問題ではなかった。
ディープインパクトは最内、その少し外にカブラヤオー、サクラスターオーはその隣。
ディープインパクトがコーナーを周る時、膨らむとは思えない。変わらず最内をキープするだろう。
問題は、後ろの二人。彼女達が壁になる。
あの二人だって多少なりとも膨らむだろうが、内をつける程そうするとは思えない。
となると、コーナーで大外に出なければ、二人が壁となって前に出れない。
それはつまり。
「(弥生賞で自分がやられた事の意趣返しのつもりかよ!?『やれるもんならやってみろ』ってそういう事だってか!)」
奇しくも、サッカーボーイは弥生賞と逆の立場にされたと気づく。
あの時はディープインパクトの前に壁が出来て、それを彼女はコーナー外ラチギリギリを周るという、過去の三冠ウマ娘でも最終コーナーでしかやってない事を第三コーナーから始めて追い抜いて行った。
だがそういう事をできるのは例外だからこそであって、普通はしないのだ。
「(だけど何処かで外に出なきゃならない!でもそれは皆解ってるから…あの人こんな性格悪いレースもできたんですか!?)」
ナリタトップロードがまだ見誤っていたと戦慄する。
先頭で逃げながらこんな仕掛けまで作れるのかと。
ただ速いだけでも、頭を使うだけでもこの状況は作れない。
カブラヤオーとサクラスターオー相手の絶妙なペース調整と、最内をキープして走り続けるだけの技術。
全て利用してこんな悪辣な状況を作り出している。
相手が自分より速いのに、『追い抜きたいなら有利な内側を捨てて外側に出ろ』と全員が強制されている。
ポジショニングが下手なウマ娘なら、他のウマ娘に弾き出されて勝負すらできない。
「(残り800が見えた、早いけど此処で動くしかない!)」
各自の思惑が交錯する中、キズナが動く。
四番手につけた自分が大外に出ればあっという間に内側に潜り込まれるかもしれないが、その先は壁だ。
第三コーナーを周る少し前に外に出て、そのまま先頭を狙う。それしかないと判断した。
ただし、それを予感していたのは一人だけではない。
『残り800m通過しました此処でキズナとサッカーボーイ動く!コーナーを大きく膨らみました内側をナリタトップロードにシックスセンス上がってきます!』
『後続も仕掛けが多少早いか詰まってきました先頭ディープインパクトまでおよそ六バ身今残り600の標識を通過!』
そして再度、レースは動き出す。
――――――――――――――――
あきが提示した作戦は逃げで、あとの詳細はディープインパクトにお任せ、というものだ。
ある程度小技を使ってこうね、という指示はあったが、それすらもどういうものを使うかすら当人にお任せ。
それは、できる引き出しを存分に作ったという自負と、ディープインパクトなら使い所を間違えないという信頼だ。
そして、それはたしかな現実となって此処にある。
このレースで走るウマ娘はまだ気づいていないだろう。
ただ普通に見てる観客もそうだ。
しかし、ストップウォッチまで持ち込んで熱心に見てるファンや、トレーナーなら気づくかもしれない。
カブラヤオーの前を走っていることや、スタートで加速したことで意識されていないかもしれないが。
勿論、普通に当て嵌めれば大逃げなのは変わりが無い。
これより速めに1000mを駆け抜けて、そのまま走り切るカブラヤオーのペースがおかしいだけだ。
だがそれも、前に出れば技術のみで抑えれる事は既に示した。
おそらくそろそろ違和感に気づく頃だろう。だが、手加減はしない。
身体を倒す。前傾姿勢で、だけど顔は下げず前を見る。
もう小細工は必要ない。残り600m、スパートで駆け抜ける。
ついてこれる者はどれだけいるかなどは思考の外だ。むしろ抜いてみせろとすら思う。
どうか強さを見せてくれ、走る中で限界を突破しろ、負けるものかと奮起しろ、己が勝つと叫んでくれ。
その全てに受けてたとう。全力で応えよう。どれだけ差があろうとも。油断も慢心も手抜かりも一切しない。
だって、それを見たかったと思うのだ。
それをしたかったと、思うのだ。
未だ、影も踏めないあの人は。
捉える事すらできなかった、あの背中は。
思い違いかもしれない。それでもいい。
ただ、あの人に届けたい。
「(諦める人なんて、居ないってことを――!)」
残り600m。世界が塗り替えられる。
――――――――――――――――
「(見えました!残り600mです!400mまで普通に走ってそこから驀進です!)」
サクラスターオーは当初の予定通り、ほんのちょっぴり足を緩めようとした。
最後の直線で思う存分驀進する為にはそれが必要だからだ。
「(……?)」
緩めようとして、それをしたくない自分に気づいた。
しかし驀進するのには息を入れる事が必要で、
問題は無い筈だ。…
「(…なんと!?それでは負けてしまいます!これはいけません!)」
そう、いつも通りではダメなのだ。ホープフルステークスや弥生賞と同じではダメなのだ。
それでは驀進できていたとしても勝てていない。それではいけない。
驀進する為にレースに出るのではない。勝つ為に驀進するのだ。
驀進するだけで満足するのならレースに出る必要は無い。
勝つ為に驀進し、驀進したいから勝つのだ!
「つまり今こそ驀進の時!」
脚からは『ちょっと厳しい』と聞こえるが、ちょっとなら気合と根性を今こそ使う時だ!
心で肉体に活を入れる。精神が溢れ出す。
桜色の光を引きながら、サクラスターオーは星の様に走る。
「(スパートをかけた!私は追いつけるか…いや…追い抜かなきゃならないんだ!)」
キズナは知っている、彼女がどれだけ速いのか。壁がどれだけ分厚く高いのか。
キズナは解っている、彼女がどれだけ彼女のトレーナーと結びつきが強いのか。お互いへの深い信頼と、故にこその一番だというその言葉を。
だがキズナだって負けていない。己の名が示す通り、自分とトレーナーのそれこそが一番と証明する。
そして何より。
「(私の『魂』が吼えている!『貴女』にだって負けたくない!『貴女』にだからこそ勝ちたい!)」
胸の奥底から迸る思い。彼女を見た時から感じた不思議な親近感と、その何倍もの闘争心。
繋がりを確かに感じるからこそ、彼女を超えたい。
己に繋がる絆を確かに握り締めて、それを力に変えて駆け出す。
サクラスターオーやキズナだけではない。
サッカーボーイは蹴り出された弾丸のように加速する。
勝利の為のコースを光の道として捉え、ナリタトップロードはそれを駆け抜ける。
他のウマ娘だってそうだ。全力で、全身全霊で、ディープインパクトを追い抜こうと駆け出した。
それはきっと、カブラヤオーも。
「(怖い…)」
彼女はいつも怖かった。
他のウマ娘の事。話しかける事。一緒にいる事。どれもこれもが怖かった。それは今も変わっていない。
「(怖い……)」
だけど。だけれども。あの日、あの時、負けた事で。
怖いものが一つ、増えた。それは当たり前の事かもしれないけど。
もしかしたら、知らない方が良かった事かもしれないけど。
「(このまま、全力を出せないで負けるのは、怖い……!)」
負ける事の何が怖いのか。何故、怖いのか。それはまだ、カブラヤオーには解らないけれど。
恐怖に背中を押されて。恐怖を追い風にして。
風を切る矢の様に、カブラヤオーは加速する。
ディープインパクトのスパートに触発されたように、各々が全力で走りだす。
まるで彼女から全力で走ってくれと言われたかのように。
しかし応えた彼女もまた、全力。
影さえ踏ませるものかと、飛翔するかのように駆ける。
力の差は歴然だ。
ただそれでも、この場で勝ちを諦める者も、全力を出さない者も、一人としていなかった。
――――――――――――――――
『各ウマ娘スパートをかけたが最終直線先頭はディープインパクト!サクラスターオーとカブラヤオーは必死に追いかけます後続も迫ってきたぁ!』
『キズナが外につけた大外膨らんでサッカーボーイしかし間を縫ってナリタトップロードそのすぐ後ろシックスセンス!しかし粘る!カブラヤオーとサクラスターオー粘ります!』
『しかしディープインパクトとの差は詰めれない!強い!圧倒的だ!最初から最後まで先頭を保って今ディープインパクトがゴォールッ!』
『二着争いは微妙です!サクラスターオーとカブラヤオー、キズナがほぼ並んでゴール!僅かにサクラスターオー体勢有利か!』
勝利したのは大本命、ディープインパクト。
徐々に減速した後、観客達の前で止まると、彼女は右の手を突き上げた。
伸ばした指は、人差し指一本。
日英欧州三冠に向けて、まず一つ。
レース結果
一着 8枠12番 ディープインパクト 1分55秒3
二着 5枠6番 サクラスターオー 大差 1分57秒6
三着 2枠2番 カブラヤオー ハナ 1分57秒6
四着 5枠5番 キズナ ハナ 1分57秒6
五着 6枠7番 シックスセンス 1バ身 1分57秒8
六着 4枠4番 サッカーボーイ アタマ 1分57秒8
七着 3枠3番 ナリタトップロード 1バ身 1分58秒0
八着 7枠10番 マイネルレコルト 3バ身 1分58秒5
九着 7枠9番 アドマイヤジャパン 2バ身 1分58秒8
十着 1枠1番 ローゼンクロイツ 1バ身 1分59秒0
十一着 8枠11番 ジュエルジェダイト 2バ身 1分59秒3
十二着 6枠8番 アドマイヤフジ クビ 1分59秒4
例年より遥かに高速化し、全員2分を切ってのゴール。
確実にこの世代は強いのだと、結果を見せつけた。
皐月賞ウマ娘に輝いたのは、一番人気ディープインパクト。
次に待ち受けるのは英国三冠最初の一つ、2000ギニーステークス。
決戦は、二週間後である。
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