チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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第三十三.五話 激戦の前に世界的なとあるルールの変化について

 さて世間がディープインパクトのクラシック皐月賞で一冠目、目指すは日英欧州三冠グランドスラムだと賑やかになっている一方で。

頭を抱え七転八倒のたうち回っている者達も居た。

そう、Uma-musume Racing AssociationことURAである。

このURAであるが世界的に展開する国際組織であり、日本は勿論の事レース場のある国は全てこの組織に加盟しているし、国ごとに部署がある。

そして今全世界のURAが、特に日本とアメリカとヨーロッパのURAがとあるルールの前に頭を抱えていた。

 

 そのルールは『タイムオーバールール』。

久しく適用されておらず、半ば化石となっていたルールである。

 

 そのルールにはこうある。

『当該平地競走の第一着ウマ娘の競走に要した時間より、特定の定める時間を超えて決勝線に到達したとき、当該競走の実施日の翌日から起算して一ヶ月間、平地競走に出走できないこと。

 ただし、裁決委員がやむを得ないと認めたときは適用されない』

特定の定める時間は1400m以下で4秒、1400m超2000m未満で5秒、2000m以上で6秒である。

障害物競走についてはタイム差以外にも芸術点がある為、このルールは適用されない。

また、裁決委員が『やむを得ない』と認めるのはレース中の怪我での走行不能や、事故に巻き込まれての転倒などの『競走能力』に関係が無い事例のみであり、単純に走り切ったがタイムが遅かった場合はこれを認めない。

ちなみにこのルールは全世界で適用される。

日本であろうがアメリカであろうがヨーロッパであろうが、この時間を過ぎればどんなウマ娘だろうと一ヶ月間出場停止である。

最初、2000m以上では5秒の遅れで適用されていたが、とある事情で6秒に延長された。

 

 さて、何故この世界では、タイムオーバールールにいろいろな制限が無いのか、それはこの世界独自の事情がある。

この世界においては世界大戦が発生していない事や技術発展の理由が異なる事は既に述べた。

そしてさらにもう一つ述べるべき事は、『レースとなるとヒトもウマ娘も種族が変わったかのようにどこまでも熱くなる』事である。

そう。この世界の人々にとってレースとは途轍もなく比重が重いのだ。

 

 レースとは熱狂するものであり、神聖なものであり、走るに相応しい者達が出るべき競走の場である。

レースに出るからには、その者達にはそれ相応の実力が求められていた。

つまり、タイムオーバールールとは。

『このレースという場所で、この秒数より時間かかってゴールするとかお前どんな未熟者だよ出直せ!鍛え直してこい!』という人類の総意が込められているのだ。

 

 6秒と言えばほんのわずかな時間と思うかもしれないが、ウマ娘のレースにおいて、6秒とはおおよそ90~100m弱の距離を離されているという事である。

誰が見ても圧倒的に『力が足りてない』と解る距離だ。

 

 無論、走る事には全身全霊のウマ娘の事である、そもそもタイムオーバールールが適用される事自体がほぼ存在しなかった。

だが今年に入って事情が変わった。

 

 最初は何やら日本で久しぶりにタイムオーバールールが適用された、という事だけだったのだ。

なんだまだこんなルールに引っかかるウマ娘が居たのか、トレーニングが足りてないぞ情けない!というのが、ただ話を聞いただけの関係者の反応だ。

だが詳しく調べてみれば、そのタイムがなんと芝2000m2分02秒5である。

関係者は2分20秒5の誤植かな?全く人騒がせな!と思ったか、う~ん眼が滑ったかな?と、目薬をさしてみたり、まずは書類の不備や自分の目の性能を疑った。

しかし何度確認してもタイムは2分02秒5である。このタイムはたしかに一着は難しいかもしれないが、断じてタイムオーバーになるようなものではない。

ここでやっと一着のタイムを確認する。そこに記されていたのはなんと1分55秒台という、またも目を疑うようなタイムだ。

 

 この時点ではまだ他人事だったのだ。

おいおい日本でとんでもないウマ娘が出たな、で終わる話の筈だった。

そのウマ娘が日本・英国・欧州三冠グランドスラム走ろうとしてるよ、という情報でまずヨーロッパに激震が走った。

しかも芝の違いとかまるで問題にならないというおまけつきである。

 

 そもそも、G1レースに出るウマ娘というのはエリート中のエリート、まずタイムオーバーになるというのは考慮されていない。

それがもしなってしまうとしたら、影響は計り知れない。

事実、日本では皐月賞の出走人数が12人しかいないという結果がある。

 

 さてこの時点でもまだアメリカは『ウチにはディープインパクト来ないから』と胸を撫でおろしていた。

だがそんな安心など欠片も残さず吹き飛ばすのがレグルスというチームである。

日本のシンボリルドルフ理事長より、『ダートも走れるディープインパクトに二割の確率で勝てるのと四割の確率で勝てるのがそっちに行ってる』と知らされたのである。

アメリカの関係者は卒倒しかけた。

何せ、タイムオーバールールを5秒から6秒に延長したのは、アメリカ出身のあるウマ娘が理由だったのだ。

 

 そのウマ娘が二着との間につけた着差が三十一バ身。

自分以外全てのウマ娘にタイムオーバールールを適用させ、主戦場のダートどころか芝でも強かった伝説のウマ娘。

そのウマ娘の名は、セクレタリアト。

五十年以上経過した今でもなお、ダート2400mの世界記録保持者というちょっと有り得ないレベルのウマ娘である。

あのセクレタリアトと同じ事をやらかせるかもしれないウマ娘が複数いるかもしれない、というのは、関係者にとってはある意味で悪夢である。

 

 当時の関係者も一着以外全てのウマ娘がタイムオーバーという驚愕の事実に紛糾した。

喧々囂々の末、5秒、つまり三十バ身だからダメだったんだ、なら6秒、三十六バ身ならどうだ!という事で決着を見た。

流石にセクレタリアトみたいな例外はもう現れないだろう、と。

 

 ところがどっこい、一気に五人ほど現れた。

 

 URA国際会議は大慌てだ。世間はレグルスが強い!で話が終わるかもしれないが、それだけではすまない部分もある。

権威あるG1レースで出走人数が10人下回りました、なんて事になったら目も当てられない。

ならばまたタイムオーバールールの延長か?いやいっそ廃止に?となるとまたそれも話が違う。

何せ元々は『レースに出るならしっかりした実力をつけてこい』という趣旨がこのルールだ。

さらに1秒延長して四十二バ身?100m以上離されてるじゃないか冗談じゃない!

だが実際問題として一着のウマ娘がべらぼうに速いだけでほかのウマ娘が遅いってわけじゃないんだぞ!

 

 そんな感じで会議は踊った。

実際100m以上離されてゴールなど実力不足の謗りを免れ得ないし。

G1レースでそんなことできるヤツ(具体例:セクレタリアト)の方がおかしいというのは至極尤もである。

やはり会議は大騒ぎ、1秒延長を認めるか認めないかで言い争っていた委員たちに、此処でシンボリルドルフが鶴の一声。

 

「コースレコード、レースレコードが出たら適用外という事にしては、どうだろう?」

 

 全員こぞってその意見に飛びついた。

という事でこれ以降、タイムオーバールールには一文が加えられる。

『当該平地競走の第一着ウマ娘の競走に要した時間より、特定の定める時間を超えて決勝線に到達したとき、当該競走の実施日の翌日から起算して一ヶ月間、平地競走に出走できないこと。

 ただし、裁決委員がやむを得ないと認めたとき、コースレコードもしくはレースレコードが更新された場合は適用されない』

改定された時期は、皐月賞から一週間後。

世界共通のルールとしては、異例の速さでの変更であった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「ふぅ…意外と早く間に合ったな」

 

 タイムオーバールールの改定が決定され、シンボリルドルフは理事長室で安堵の溜息を吐いた。

あの模擬レースで彼女達の走りを見て以来、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうにかこのルールを変更できないか、考えてはいた。

全力で走った結果として、そうなってしまったのだろうが、実際にタイムオーバーが適用されて、皐月賞の人数が例年と比べ激減したのも追い風となったと言えるだろう。

ディープインパクト達のクラシック期の記録と合わせて、シニアまでに変更をする予定であったが、その時期はかなり早まった。

だが、本人としてはただ一人を、たった一人だけを気兼ねなく走らせたいから、あの模擬レースの後に頼みに来たのだろう、と解っている。

津上あきトレーナーは出走登録をしていない。

おそらくする気も無いだろう。

ただ、それでも一つだけ、たった一つだけ、出走登録をしていなくても出れる世界規模での大規模レースが、ある。

URAファイナルズ。その出場規定は十五歳以上であるか、トゥインクルシリーズクラシックもしくはシニアのウマ娘である事。

ディープインパクトの目的は、シニアを走り終えたその年のURAファイナルズにて、あきを此処に出場させる事だ。

その時に全力で走って欲しいから。ただそれだけの為に、ルールの改定を求めていた。

 

 果たしてルールの変革は為された。これでいざ、彼女が走り出す時に、縛る鎖は無くなった。

シンボリルドルフは予感している。きっと世界は変わる。様々な意味で、彼女達を中心に世界は変わっていくだろう。

それが楽しみのような、恐ろしくもあるような。

ただ、彼女達に幸あらん事をと祈るだけは間違いではないだろうと、シンボリルドルフは目を瞑って手を組んだ。

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