チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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ちなみに投稿時間がこの時間なのはわざとです。舞台はイギリスだからね!
でも今後また同じ事やるかどうかは未定(適当過ぎる)


第三十四話 何処でデビューしてどんな記録を出したのか今一度思い返すと解るという話

 さて日本のウマ娘が何故海外では中々活躍できないのか、また海外からのウマ娘が何故日本のレースでは中々勝てないのか。勿論理由がある。

その大きな理由が走る環境の違い、つまりバ場だ。

日本の芝と海外の芝ではその性質が大違いなのである。良く言われる事であるが、海外の芝は『重い』。

走るのによりパワーを必要とされるのが海外芝の特徴である。

これはどちらが悪い、良いという話ではなく、単に生育環境の違いや産地の違いであり、やはりその土地その土地のウマ娘が活躍しやすいのは、慣れ親しんだバ場により適応できているからであろう。

ちなみにこのバ場の違いがどれほどの差を生むか、タイムを見れば一目瞭然である。

欧州でも特に権威と格式のあるレース、凱旋門賞のタイムと、日本ダービーのタイムを比べると、凱旋門賞は世代混合レースにも関わらず、おおよその場合日本ダービーのタイムの方が圧倒的に速い。

だというのに、凱旋門賞を勝った日本のウマ娘は一人も居ない。

それ程までに芝の違いというのは大きいのである。

 

 さて、そんな芝の違いであるが日本にも海外のものと近い質を持つ芝でコースが作られたレース場が幾つかある。

そう、ディープインパクトが芝1200m世界レコードを出した函館レース場である。

勿論、あくまで近い質を持つ芝であって、全く同じわけではない。わけではないが。

 

Oh,My God!(嘘だろなんてこった!) Nothing's coming from behind!(後ろからは何にも来ない!) Nothing's coming from behind!(後ろからは何にも来ない!) Nothing's coming from behind!(後ろからはなぁ~んにも来ない!)

 

 4/30、ニューマーケットレース場、イギリス2000ギニーステークス、芝1マイル(約1609m)。タイムは1分31秒1。二着との差、およそ三十バ身。

およそ約4秒のレースレコード更新、衝撃の第二勝。

二週間前と同じように彼女は右手を空に突き出した。違うのは、最初から人差し指が伸びていた事。

 

Deep Impact!(ディープインパクト!) The Hero Deep Impact!(スゲェやつディープインパクト!) A hell of a fast Runner from Japan!(日本から来たとんでもなく速いウマ娘だ!)

 

 ぴんと伸ばした腕と人差し指を見せた後、すぐ傍にもう一つ、指を増やした。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「まぁ正直、有力なウマ娘があまり出てこなかったってのもあるね。焦点を合わせてるのはダービーかなぁ」

 

 ライブ後、控室にてディープインパクトをマッサージしながら、今日のレースを語るあき。

 

「2000ギニーステークスは英国三冠になるけど、ヨーロッパ的に重要なのは欧州三冠、こっちの言い方で言えば三大レースかな。そっちの方を狙う人が多い。本当の勝負はイギリスエプソムダービーからかな」

「どんな人が出て来そう?」

「そうだなぁ…」

 

 ディープインパクトの質問にちょっと考え込むあきだが、即座に候補を絞り込む。

 

「エプソムダービーには、モティヴェーターさん、シンダーさん、ガリレオさん、この三人がきっと出てくるんじゃないかな」

 

 この三人の内、モティヴェーターはイギリス、シンダーとガリレオはお隣のアイルランドのウマ娘だ。

イギリスとアイルランドは国としては別なのだが距離はかなり近く、互いの国のレースに互いの国のウマ娘が出走してくる事は割とよくある事だ。

レースではわりとバチバチにやり合っており、『ウチの国のウマ娘の方が強い!』と良く論争を起こしている。

世代毎にイギリスが勝ったりアイルランドが勝ったりたまにフランスウマ娘に無双されたりしてるが、総合して見ると大体互角である。

ヨーロッパで特に強いとされているのはイギリス、アイルランド、フランスの三ヶ国であり、そこにドイツなどが続いている。

その国で開催されるレースに勝つのはやはりその国のウマ娘達が多いのだが、他所の国に乗り込んで勝てるのが強豪三ヶ国に多いのが事実だ。

 

「今年のイギリスクラシックはアイルランドの年かな。多分シンダーさんとガリレオさんは三大レース狙ってるから、翔ちゃんとは結構被る事になるだろうね!」

「わかった。イギリスのダービーも楽しみだね」

 

 強い相手と走れればだいたい満足の修羅的思考回路もご満悦の相手である。

エプソムダービーも勿論であるが、世代混合となるキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス、パリ大賞典、凱旋門賞など楽しみなG1レースはまだまだある。

どんなウマ娘と走れるのだろうか。日本のウマ娘と同じように楽しく走れるだろうか。

ディープインパクトの胸はワクワクで一杯であった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 イギリストレセン学園のとある一室。そこで繰り返し繰り返し、何度も何度も映像を見ているウマ娘が居た。

再生される映像に映っているのは、とある鹿毛のウマ娘が出走したレースばかり。

少しでもそのウマ娘の走りを見逃すまいと、目を皿のようにして追っている。

走っている他のウマ娘と基礎能力が違う、技術の蓄積が違う、それでも勝機を見出す為に。

 

「あまり、根を詰めすぎるものじゃない」

「…代理人さん」

 

 部屋に入ってきたのはトレーナーだ。

彼はイギリストレセン学園に勤めていたとあるトレーナーとは友人であり、このイギリストレセン学園に赴任したばかりの新人だった。

その友人は、もう居ない。

 

「…彼女。とても強いわね」

「あぁ。日本から来たディープインパクト。とても強いウマ娘だ」

 

 本来、彼女は居なくなったその友人と、二人三脚で歩んで行く筈だった。

彼が『とんでもないウマ娘を見つけたんだ!彼女は凄い!きっと伝説になる!』とはしゃいでいた様子を、とても良く覚えている。

二人はとても仲が良く、去年の八月にデビューした彼女が見事一着を獲った時、『やったぞ!やっぱり彼女は最高だ!英国三冠、いや欧州三冠だって夢じゃない!』と大喜びしていた。

レースの後の練習中に怪我をして、その当時発表された斬新な論文を試す為にも、療養の為にも、温暖な地方で一時移ろうという時も。

まだイギリスでやるべき仕事が残っていたから、彼女をくれぐれもよろしく頼むと未練たらたらでその友人が頼んでいた時も。

彼女がそんな友人に、心配しないでも、少しすればまた戻ってくると笑って言った時も。

彼と彼女はこれからもそうして歩んで行くのだろうと、ただ純粋に思っていた。

 

 だが、その機会は永遠に失われてしまった。

たとえ戦争が無かろうと、世界が平和であろうと、その『終わり』は全てのものに平等に降り注ぐ。

ほぼ、誰の過失も無い事故であった。

偶然、空を飛んでいた鳥が何らかの事情で死んでしまった事。

その鳥の死骸が、主人と散歩中であった犬の頭に当たってしまい、犬がパニックを起こして車道に飛び出してしまった事。

主人は未だ子供のヒトであり、体重が軽く、リードに引っ張られ車道に引きずられてしまった事。

急ブレーキが間に合う筈が無い距離に、車が通っていた事。

彼が、間に合う場所にいてしまった事。

子供は助かった。彼の命を犠牲にして。

彼女が帰国する、二日前の事だった。

 

 彼女は子供とドライバーの事を許した。運が悪かったのだと、貴方達は無事で良かったのだと。

それでも、涙で腫れぼったくなった目元は隠さずに。

 

 日に日に憔悴していく彼女の事は、正直見ていられなかった。

彼の友人だった者として、力にはなろうとしたが、彼女自身が首を横に振ったのだ。自分のトレーナーは一人だけなのだと。

納得する気持ちも、もどかしい気持ちもあった。

彼女を見出したのは彼だ。彼女を育てたのも彼だ。彼女と夢を目指したのも彼だ。

彼女は本当に素晴らしいウマ娘なのは間違いない。なのに、此処で終わってしまうのかと。

彼と目指した彼女の夢は、此処で途切れてしまうのかと。

 

 年が明け。三月に入り。彼女は病に倒れた。まるで友人を追いかけるように。

病院に駆けつけて、生気の無くなった彼女を見て。とうとう、感情が爆発した。

そうじゃないだろうと。君は凄いウマ娘なのだろうと。彼が夢を賭けた強いウマ娘なんだろうと。

君は走るべきだ。彼が信じたウマ娘は、此処で終わってしまうようなそんなウマ娘だったのかと。

勝手な押し付けだった。誰より一番、辛かったのは彼女の筈だ。それでも我慢ができなかった。

目の前の彼女はきっと、ダービーだって、キングジョージ6世&クイーンエリザベスだって、凱旋門だって勝てるウマ娘なのだ。

友人としての贔屓目だけじゃない、自分だってそう信じる事ができる程の。

 

 果たして、彼女は峠を乗り越えた。彼女のトレーナーは今でも彼のままだ。きっとそれは終生変わらない。

ただ、自分はその代理人としてでもいい、彼女の走りを見たかった。

 

 そして今、彼と彼女の夢であった事を叶える為に、自分と彼女は此処に居る。

険しい道だとは思っていた。だが、壁は予想以上に高く、分厚い。

 

「…困ったものね。何回見ても勝ち目が見えない」

「だが、諦めるつもりも欠片もないだろう?」

 

 ちらりと部屋に置かれた写真立てに目を向ける。そこには彼と、彼女と、自分が写っていた。

もう見る事ができなくなった彼の笑顔と、浮かぶ事の無くなった彼女の笑顔がそこにある。

モティヴェーターよりも、シンダーよりも、ガリレオよりも、きっとディープインパクトよりも。

彼女の勝利への執念は、誰よりも強い。

 

「私は代理人だ。だが、そうだとしても全力を尽くす。君と、彼の勝利の為に」

「…ありがとう。トレーナーさんの次に、感謝してるわ」

 

 彼女の名前は、ラムタラ。

『目で追えぬもの』という名を持つ、未だ一戦一勝のウマ娘。

彼女の二戦目はイギリス、エプソムダービー。

思いを胸に、彼女は走る。

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