身体は健康なんでそこはご心配なく。
(できれば)週に…1、か2ぐらいですね(更新)
さて五月である。
チームレグルスとしては、五月からは序盤に5/6にヴァーミリアンのケンタッキーオークス、翌日5/7にカネヒキリのケンタッキーダービー、さらにその翌日5/8に日本でのNHKマイルカップと、連日でのG1開催だ。
というよりも、5月から10月までは国内外でのG1レースが目白押しである。
今までよりもさらにあきがあっちこっちに飛び回る事となる。
あきがこの日程に全て出るのは、超音速旅客機による音速輸送があるからこそ可能なゴリ押しである。
頻繁な長距離移動に対し異様な頑健さを持っているという事も大きい。
アメリカ遠征組や日本でティアラ路線ルートを走る組はあきがつきっきりでいられない事もままある為、カネヒキリを除いてはレース日程については常識的である。
ディープインパクトの異次元ローテで目の錯覚が起きているが、カネヒキリも四月から八月までの四ヶ月間で、G1レースに七つ出るという中々に狂ったローテーションをしている。
これはカネヒキリ自身が希望したレースローテーションであるが、あきはこれを素通ししている。
『ダートならばディープインパクト相手に四割で勝てる』と認めさせたその強さは、決して身内贔屓でも弟子可愛さでも何でもない。
純然たる事実だ。
『カネヒキリが走る!後続と差を広げて走る!止まらない誰も止められない!(英語)』
踏み出したその跡に雷が落ちるかのように、まるで紫電を纏う雷神の如く。
カネヒキリは止まらない、競り合わない。
そもそもの想定相手が違うのだ。
あぁ、確かに偉大だろう、強いのだろう、速いのだろう、だがしかし。
『後続を遥か後方引き離して!日本から来たサムライが一着でゴォール!前日のオークスと合わせてケンタッキーは日本のウマ娘が両方制覇だ!(英語)』
過去のその記録を、五十年以上かけて破れないというのなら、そもそも勝負にならない。
ヴァーミリアンが、カネヒキリが相手をするウマ娘とはそういう次元だ。
少しでも強く、僅かでも速く、誰よりも、何よりも。
キングカメハメハが、あのダービーで見せたように。
過去の記録を、そんなものなど知るかと引き千切って走らなければ相手にならない。
速いから?強いから?規格外だから?だがそれは『今』ではない。踏み越えない理由にはならない。
『タイムは…1分59秒1ぃ!あの!セクレタリアトのレースレコードを0.3秒更新!ケンタッキーダービーのレースレコードが!50年以上の時を経て!更新されました!(英語)』
出ていたウマ娘は、決して弱いウマ娘は居ない。
アメリカ三冠だって十分狙える素質と才能、強さを持ったウマ娘だって居る。
しかし、勝とうという気持ちと気概は見えても、レコードを超えてやるとまでは見えなかった。
ゴールした後、荒い息を吐くそのウマ娘――アフリートアレックスを見る。
彼女にとって、否、全アメリカのウマ娘にとって、目標であり、憧れであっても。
「――アフリートアレックス。宣言する」
「ハッ、ハァッ、何を…」
「次も。その次も。私はレコードで勝つ」
「!!」
それを踏み越えて勝つくらいの気持ちで走らなければ、レグルスには勝てない。
絶対の憧れであろうとも。負けてなどやるものかと、勝つのは己だと吼えるくらいが丁度良い。
「覚悟して来るといい。私は『憧れ』に勝つ」
「上ッ、等!負けない…負けないわよ!『彼女』を、超えるのは!私達…いえ!私よ!!」
瞳の奥にさらなる闘志が燃え盛る。
此処まで言われて燃えないアメリカウマ娘など、居るわけが無い。
確かに彼女は偉大だった、彼女はこの国の憧れだった、五十年以上超える事のできない壁だった。
だけど、だからこそ、この国のウマ娘こそが彼女を超えなければならないのだ。
「楽しみにしている」
「見てなさい…!次は勝つ…!」
赤熱する闘志を受けながら、雷神は微笑む。
ディープインパクト程の修羅ではないが、レグルスのメンバーは強い相手とレースする事を好む。
いずれ訪れるライバルとの激戦に、カネヒキリは胸を躍らせるのであった。
――――――――――――――――
5/8、日本、東京レース場。
先月の桜花賞と同じく、会場は異様な熱気に包まれていた。
此処まで無敗同士のチームメイトが此処でも対決するからだ。
同チーム対決ではまず一勝目をあげ、その対決したレースでワールドレコードを出した桜花賞ウマ娘、ラインクラフト。
日英欧州三冠を掲げ、皐月賞とイギリス2000ギニーで勝利し、走るレースではレコード更新をし続けるディープインパクト。
勿論二人以外にも注目ウマ娘は多数居る。
皐月賞では二着に入ったサクラスターオー。
ホープフルステークスから熱戦を繰り広げているサッカーボーイ。
カブラヤオーに続く、チームスピカのもう一人のウマ娘、ジャスタウェイ。
桜花賞に出走したウマ娘もかなり出走しており、桜花賞では熾烈な争いを見せた三着のテイタニヤ、続く四着デアリングハート。
粘りを見せギリギリの戦いで掲示板に入った五着エアメサイア、惜しくも着外に敗れるも差はクビにまで迫ったダンスパートナーとテイエムオーシャン。
弥生賞ではマイルならばかなり強いとあきに断言されたリボンロック、ギターリズム。
あきのトレーニング法が広まった事により、より短い期間でのG1レース出走も無謀とは言えない、現実的なものとして徐々に広まっている。
流石に距離適性や地形適性まで常識をブッ千切るものはそう簡単には現れないだろうが、未来ではいずれ、二週間毎にレースに出走しても普通となる時代が来るのかもしれない。
あきは今回、それぞれの控室に顔を出して事前のチェックをした後、速やかに観客席へと移動した。
桜花賞の時も同じである。
チームメンバー二人が出走する以上、どちらにも平等にする。
二人が過度な助言を望んでいないのもあるし、どちらにも勝って欲しいという思いもある。
しかし桜花賞でもそうであったように、勝つのはただ一人だけだ。
競技としてウマ娘達が走る以上、一着とそれ以外の間には、絶対的な断絶がある。
それでも、彼女達は走る事を止めはしないのだ。其処にこそ、己の魂があると、どうしようもない程に熱く。
己の全てを賭けて、正々堂々と心を燃焼させながら走るのだ。
あきはそんな彼女達の姿がとても尊いと思う。
彼女達が走り、踊るその姿にのめり込んだのは前世からのオタク気質もあるだろうが、其処に尊さと美しさを見出したからこそだ。
彼女達は、今日も夢に向かい走る。
あきはその姿を何よりも応援すべく、気合を入れてハチマキを巻いた。
なお、応援グッズにまた新バージョン(ディープインパクトとラインクラフト半々)が出てきたのを見た周囲は、もしチームで三人以上同じレースに出てきたらどうするのかという疑問を抱いていた。
――――――――――――――――
東京レース場、芝1600m、世代のマイル王者決定戦、NHKマイルカップ。
1枠1番サッカーボーイ。3番人気。
1枠2番ラインクラフト。2番人気。
2枠3番ダンスパートナー。7番人気。
2枠4番ギターリズム。12番人気。
3枠5番テイタニヤ。5番人気。
3枠6番ディープインパクト。1番人気。
4枠7番ジャスタウェイ。8番人気。
4枠8番リボンロック。11番人気。
5枠9番テイエムオーシャン。9番人気。
5枠10番デアリングハート。10番人気。
6枠11番サクラスターオー。4番人気。
6枠12番ペールギュント。14番人気。
7枠13番リボンメタル。15番人気。
7枠14番ポロポロ。13番人気。
8枠15番エアメサイア。6番人気。
8枠16番マンボステップ。16番人気。
出走人数は16人、しかし栄光を掴むのはただ一人。
誰しもが勝利を夢見て走る1600m、いざ開幕。