チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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現実ももうすぐ日本ダービー、それまでにこっちのレースも終わらせられるかチキンレースだな!


第四十二話 日本ダービー・開始

 5月29日。東京レース場は、常ならぬ熱気に包まれていた。

今日、この場で始まるレースは、日本ダービー。

その世代の『最高』を決めるレース。

トゥインクルシリーズの登録者が数千人を超えるというウマ娘の中から、このレースに出られるのはたった18人。

その中での『一番』を決めるレース。栄光を掴めるのは、ただ一人。

それは、ダービーを夢見ながら、出る事さえできないウマ娘の方が、夢を果たせなかったウマ娘の方が、圧倒的に多いということ。

ダービー。それは、数多の夢と、数多の挫折の上に成り立つ。

 

 それでも、そのレースで走る少女達に夢を託さずにはいられないのだ。

 

 熱狂の舞台、日本ダービーにあがったウマ娘は18人。

その中でも、ただ一人が歩む無敗の道に人々の注目は集まっている。

出るレースは全て何らかのレコード。たった一つを除いて2着との差は大差。

そこまで圧倒的となれば、普通は全てが敵となる筈だ。

ウマ娘達には諦観を、観客には退屈を押し付け、トゥインクルシリーズ自体の人気を大いに下げる可能性すらあった。

 

 だが、そうはなっていない。彼女には華があった。彼女には熱があった。

彼女は誰よりも強いというのに、まるで見えない何かを追いかけるように必死だった。

彼女は誰よりも強い己に挑んでくる者がいるのを、とても嬉しそうに見ていた。

彼女の強さが証明されても、それでも諦めず彼女を追いかける者達を見て、とてもあどけなく微笑んだ。

 

 彼女が、他のウマ娘を見る眼はとても純粋だ。

『凄い』『もっと見せて』『走ろう』『負けない』『私が勝つ』。

雲一つ無い、晴天のように澄み切った青い瞳は、そのウマ娘達が己と競い合ってくれる事を、まるで疑っていない。

たまらない瞳だ。

誰よりも強いウマ娘が、己をそんな風に見てくるのだ。

彼女が、ディープインパクトが挑まれはしても嫌われはしないのは、そういう事なのだろう。

 

 今日もディープインパクトが一番人気だ。

老若男女問わず、多くの人々が彼女の走りに夢を見る。

思いも夢も希望も、全てを乗せて走れそうな彼女に魅せられるのだ。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「ふうぅぅぅぅ~~~~……」

 

 控室の中で、ナリタトップロードは余分な熱を逃すかのように息を吐いた。

正直に言えば、勝ち目はかなり薄いのだとは、彼女は自覚していた。

勿論、鍛錬は並のウマ娘より遥かに積んでいる。才能だって、他の人よりも沢山ある。

負ける気なんてものは絶対に無いけど、じゃあ勝てるのかと言われれば、正直厳しいだろう。

ディープインパクトを筆頭に、今年のクラシックは才能に溢れたウマ娘の大豊作だ。

一年に一人から三人いれば時代を作れるようなウマ娘が、十数人も居るという集中具合。

流石に路線の違いもあるので、多少はばらけてもいるが魔境もいい所である。

正直、とんでもない時代にデビューしてしまったものだとナリタトップロードは思っている。

もっと別の時に生まれて、もっと別の時にデビューしていたらまた違っていたのだろうか?

…いや、それはそれでまた似たように『とんでもない時代』になっていたような気がする。

 

「よしっ!」

 

 ぱんっ、と両頬をはって気合を入れる。生まれた時代、デビューする時期、それを考えても仕方がない事だ。

できる事を、精一杯やるしかない。そうしてきたし、そうしていくのだ。

めげず、へこたれず、常に真っ直ぐ前を見て。

ナリタトップロードは走るのだ。

 

 ちなみに、その真っ直ぐでからりとした性格と、抜群のスタイルとビジュアルで、レースに関係しない一般人気は、同期の中でナリタトップロードが頭一つ抜け出している。

日本に限った応援人数ならばなんとディープインパクトを抜いて、名前の通りトップの器だったりするのだ。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『さぁ皆さんお待ちかね、本日のメインレース、日本ダービーの番が回ってまいりました。やはり注目は今回も一番人気、ディープインパクトでしょうか?』

『そうですねぇ、国内に国外レースも全て無敗、勝ち方もね、非常に強いですからね、無敗の三冠あるんじゃないかなと。期待も大きいですねぇ』

 

 実況と解説の声が響く中、各ウマ娘の入場が始まる。

一番人気はかなりの差をつけてディープインパクトである。二番人気はカブラヤオー、僅差で三番人気シンボリクリスエス。

その後もキズナ、サクラスターオーと続いていくが、どこもかなりの僅差だ。

ある意味でこの圧倒的な差が、『絶対的なディープインパクトに他のウマ娘達が勝てるのか』と観客が思っている事を表している。

 

 それでも、入場するウマ娘達の顔に諦めは無い。

気合十分といった表情のキズナ、いつも以上のストイックな姿を見せるカブラヤオー、相変わらずファンに対してもメンチを切っているサッカーボーイ。

ただし、いつもと同じというわけでもない。

いつもの朗らかな笑顔ではなく、真剣な真顔のサクラスターオー。威風堂々としたのではなく、まるで自然体のシンボリクリスエス。

常とは違う彼女達の姿に、観客達もこれがダービー、最高の栄誉を誇るレースなのだとごくりと唾を飲み込む。

 

 注目の一番人気、ディープインパクトは楚々とした振る舞いを見せながら、童女の様に微笑みを携えている。

だが見る者が見れば解るだろう。その瞳に湛えた高熱の闘志の炎。ウマ娘達に伝播する熱がある。

誰も彼もが『負けるものか』と熱を返す中、例外は二人。

熱を遮断するかのように凍てついた顔のカブラヤオーと、伝わっても受け流すかのようにただ在る様を見せるシンボリクリスエス。

 

 いいな、とディープインパクトは素直に思った。

今日のレースは、とても良いものになる。そんな予感がした。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『さぁ今回も始まります、世代『最高』のウマ娘を決める日本ダービー。果たして栄誉を掴むのは一体誰なのか』

『三番人気、青葉賞一着で手応えは十分か、進化して帰ってきたぞシンボリクリスエス』

『二番人気、今日も大逃げでレースを引っ張る、驚異の逃げ足カブラヤオー』

『そして一番人気、日本が、世界が誇るレコードブレイカー、今日も伝説を打ち建てるのかディープインパクト』

 

『各ウマ娘ゲートイン完了しました』

『目指すは彼方栄光へ、芝2400m日本ダービー今スタートしました18人綺麗にスタートを切りました!』

『ハナを切るのはやはりこのウマ娘12番カブラヤオーがポンポンポーンと飛び出ました、続く17番ポコポコ』

『9番リボンファンク前目につけます18番大外サッカーボーイ3番人気シンボリクリスエス今回は先行か』

『11番ナリタトップロードが中団先頭につきまして続くのはダンスインザダーク、おっと珍しいサクラスターオーもこの位置』

『2バ身離れまして後方1枠1番キズナがいます、一番人気ディープインパクトはこの位置!シンガリはドラムリズム!各ウマ娘第1コーナーに入ります!』

 

 レース序盤、大勢の予想通りカブラヤオーが大逃げの態勢、同じく逃げウマ娘ポコポコが続くが間には3バ身程の差がある。

5バ身程離れて先行集団にはサッカーボーイ、シンボリクリスエス、ナリタトップロード、アドマイヤジャパンなど。

3バ身離れて中団にダンスインザダーク、サクラスターオー、ジャスタウェイ、マイネルレコルト他。

2バ身離れた後方集団にディープインパクト、キズナ、シックスセンス、ドラムリズムの4人となる。

 

 カブラヤオーの破滅逃げに対し、先頭から最後尾までまだ20バ身も離れていないのは、彼女の逃げがそれだけ警戒されているからでもある。

しかし今回の本命、ディープインパクトは後方から追込みの構え。

勿論彼女の足が変幻自在なのは重々承知であったが、他のウマ娘達の多くは不気味さを感じている。

 

「(ヤツは後方スタートかよ、ってことは狙うのはロングスパートか、データにありやがる3F30秒のバカげた末脚…どっちだ、どっちが来やがる)」

「(衝撃の同胞よ、汝の天翔ける疾走は道半ばよりか、我はそれに命運を賭けようぞ(ディープインパクトさんがやるなら…ロングスパートの方、かな、そっちに賭ける)」

 

 サッカーボーイは今までも見せられた1000mずっとのロングスパートと溜めに溜めた末脚、どちらが来るかを冷静に見極めようとしていた。

ダンスインザダークはロングスパート一本に絞り、それに対応しようと腹を決める。

その他のウマ娘も、先頭を逃げるカブラヤオーに注意を払いつつ、後方にいるディープインパクトに対し気を向けざるをえない。

いつ来るのか、どう来るのか、勝ちを狙う以上、最も手強い相手を気にせずにはいられない。

 

 そんな注目の中、ディープインパクトはプレッシャーを放ちながら未だ静かに追走を続ける。

彼女ほどのウマ娘が放つプレッシャーはそれ自体が立派な武器、戦術となる。

ジリジリとスタミナが削られるが、しかし、あきの公開した情報によって、ウマ娘達のスタミナは全体的に増加傾向だ。

効果が出るには今しばらくの時間が必要だろう。

 

 日本ダービー、レースはまだ始まったばかりである。

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