チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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お待たせしました!ほな、ダービー(2回目)や…


第四十五話 ダービーが終わってまたダービー/だれもしらない

 見事日本ダービーを制覇したディープインパクトであるが、次に出るのもまたダービー、一週間後の英国エプソムダービーである。

普通なら中一週間*1で外国遠征など正気の沙汰ではないが、それを通せてしまうのがレグルス、というよりあきの力だ。

なんならグリーナムステークスから皐月賞の中一週、英国2000ギニーステークスからNHKマイルカップの中一週で逆なら既に行っており、しかも勝っている。

その上で疲労も不調も一切無く、調子は絶好調に固定というのだから、レース関係者として凡そ理解できない芸当である。

無論、長年にわたる肉体改造と的確に調子を整えるあきの人外技量があってこその話であるが、他の者にとっては最早悪夢と言っても過言ではない。

 

「二日は日本で調整、移動して三日でイギリスに合わせるからねー」

「ぁ~ぃ」

 

 ベッドの上で横たわるディープインパクトに整体を施しながら、あきが言う。

レグルスのメンバー、もしくは夏合宿で味わったスピカ、リギルのメンバーが言うには、あきのマッサージの腕は魔性である。

的確にコリをほぐし、血流の改善、筋肉と骨の歪みを修正、これらを一切の痛み無くこなすのだ。

選手たるウマ娘達も勿論であるが、実はもっとヤバかったのはトレーナーや研究者の方である。

長時間の資料の読み込み、データ作成などで肩こり、腰痛、眼精疲労はトレーナーの職業病である。

それが嘘のように消えて無くなっていくのだから、もうたまらない。

アグネスタキオンと合わせかなりガチめな眼であきを見つめていたのもしょうがない事だと言えよう。

結局は三ヶ月に一回の整体を報酬に、あき達トレーナーが居ない時、レグルス面々の手続き代行などの面倒を見る事に落ち着いた。

ネットワークを使ってリアルタイムでトレーニングの指示ができても、トレーナーの監督がなければ使えない施設は勿論あるのだ。

 

「評判だけ見ればエプソムダービーで注意すべきなのは、ガリレオさん、シンダーさん、モティヴェーターさんかなぁ。

 2000ギニーの方では勝ったけどドバウィさん、オラトリオさんもちょっと見逃せないね。」

 

 それでもあきはディープインパクトの勝利をまるで疑っていなかった。

肉体においても、技術においても、適性においても、全てディープインパクトが勝っていると確信していた。

イギリス本国でも大多数の見方は、それと同じだった。

あの無敵の無敗ウマ娘に一体どれだけ差を詰められるのか?

レースの本場、イギリスのレース関係者としては業腹ではあるが、今のディープインパクトに勝ち目を見出せるウマ娘が果たして存在しているのか。

無論、レースに出るウマ娘達は勝つ為に走るし、トレーナー達は勝たせる為に必死で考えるだろう。

だが、それ以外の、外からレースを眺める面々の眼には、最早『勝利』を見出す事はできなかった。

それはエプソムダービーの出走人数からも見て取られている。

元々、欧米のレースは少数精鋭主義。G1レースでも、十人未満で開催されるという事はそれほど珍しくも無い。

『勝ち目が無い』と見られたレースにはそもそも出ない、という選択肢が取られる事は多い。ウマ娘の実力というものに対し、常にシビアな目線で見られているのだ。

しかし、今回のエプソムダービーの出走人数は、なんと7人しかいない。

イギリスでも特に権威あるレースであるダービーで、である。

『ダービーウマ娘になる事は、一国の宰相になる事よりも難しい』と言われた国で、欧州に産まれたウマ娘の大多数が目指すレースで、である。

これは、長いエプソムダービーの歴史の中でも最少の出走人数だ。

多くの陣営が『出ても負けるだけだ』と諦めたと見るべきなのか。

それとも、『ディープインパクトに勝つ算段がある』と勝負に出た者が6人も居ると見るべきなのか。

アイルランドより、ガリレオ、シンダー、ドバウィ、オラトリオの4名。

イギリスからは、モティヴェーターが1名のみ。

欧州からはこの5名であるが、今年は以前あきが言ったようにアイルランド勢が強い年のようである。

そして、誰も彼もが忘れている一人。戦績は一戦一勝。所属はアメリカ。

誰もが、出走人数が少なすぎるから選ばれているのだと見ていた。

あるいは、あきですらも、意識から外していた。

データが少なすぎる為か、一回しかレースに出た事のないウマ娘故に、警戒するにしても最低限で良い、と。

 

 世界は、まだ誰も彼女を知らない。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 イギリストレセン学園。とある一室にて、一人のトレーナーとウマ娘が向き合っていた。

トレーナーがウマ娘に対し、万感の思いを込めて告げる。

 

「間に合ったな」

「ええ」

 

 友人であった彼女のトレーナーが亡くなり。打ちひしがれていた彼女を叱咤し。ディープインパクトという壁を知り。それを打ち破る為に重ねてきた月日。

過ぎ去れば閃光のような、一瞬とも思える日々。

このトレーナーと彼女は、その日々をただ、ただ、おおよそ7分と少しの、極々短い時間だけにこそ費やす為に。

 

「解っているな?」

「勿論」

 

 互いに対し、ただ短く問い、短く答える。

トレーナーは全力を尽くし、ウマ娘はそれに応えた。

狙うレースは、たった三つ。

イギリスエプソムダービー。

キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス。

凱旋門賞。

この、三つのみ。

その三つだけを目指した。その三つだけでいい。

 

「さぁ、いこう」

「――えぇ」

 

 世界中の誰もが知る彼女に勝つ為に。

世界中がまだ知らないものを見せる為に。

 

 世界がまだ知らない彼女の名前は、ラムタラ。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 6月4日。イギリス、エプソムレース場。

今日のエプソムは、静かな熱気に包まれていた。

老若男女、貴賤を問わず多くの観客が集まっている。

史上最少のダービーに対し、それでもどんなレースが見れるというのか、期待は否が応でも高まっている。

全員解っているのだ。このダービーは類を見ないものになる。

 

「んー、やっぱ日本とはちょっと違うなー」

 

 しかし、そんな会場の熱気もどこ吹く風と、あきはのんびりと見ていた。見ていた筈だった。

ただ、一人のウマ娘を眼に入れるまでは。

 

「―――!?」

 

 そのチートで人類の限界を突破した眼が彼女を捉える。捉えただけで理解する。

なんだ、それは、そこまで、どうやって、ただそれだけを?

普通では有り得ない、通常なら考えださない、思っても実行に移さない。

 

 みしり、と掴んだ柵が音を立てた。あきは今、信じられないものを見た。

まさか、まさか、まさか。

 

「勝率、4割――」

 

 誰よりも強く育てた筈の教え子に対して、『有利』が初めてついたウマ娘。

 

「ラムタラ ―― 翔ちゃん、このレース、一筋縄じゃあいかない……!」

 

 全くのノーマークだった筈の、世界が未だ知らない彼女が、牙を剥く。

*1
レース用語ではなく、純粋な期間として




柵「ヒギィ!」
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