チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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この世界はアニメでもアプリでも漫画でも史実ベースの世界でもない、わりと変わってる世界だということをご了承ください。


第四話 そろそろ『独自設定』タグが本格的に火を吹いてくる

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園、またの名を中央トレセン学園、もしくはただ中央と呼ばれる。

シンボリルドルフ、オグリキャップ、スペシャルウィーク、サイレンススズカ、トウカイテイオー、メジロマックイーン、ミホノブルボン、ライスシャワー…

その他、数々の名ウマ娘達がレースを走り抜け、人々が熱狂した時から、二十余年。

レースを彩るウマ娘達は移り変わり、それはトレセン学園も例外ではない。

 

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園、理事長室。

現理事長である『シンボリルドルフ』は、二つの書類の前で唸り声をあげていた。

それは新入生の事が書かれている書類であり、一つは二つの名前が書かれている。

早来翔子こと、今季の中等部入学者代表生徒のディープインパクトのものだ。

そして、もう片方の書類には、名前はたった一つしか書かれていない。

 

 書類の彼女の名前は津上あき。

小学生でありながら、日本最難関と呼ばれる中央のトレーナー資格を合格した、異例の天才児である。

無論、年齢はともあれ、書類に書かれている事に色眼鏡をかけてはいない。

彼女はとてもトレーナーとして優秀なのだと書類に書かれている。

彼女はこの春から、学生兼トレーナーとしてこのトレセン学園に入学する予定である。

年齢にさえ目を瞑れば、是非とも中央でその才能にて、ウマ娘を導いて欲しい。

ただ一点、彼女もウマ娘ということを除けば。

 

 否、別段、ウマ娘でもトレーナーをやりたいというのは問題は無いのだ。

ウマ娘でトレーナーになったというならアグネスデジタルという前例が居る。

ただ、それでさえ彼女はトゥインクルシリーズとドリームシリーズを走り抜き、トレーナーとなったのはレースを引退してからの話だ。

彼女でさえも、自らで走る事さえせずにトレーナーになるなどしなかった。

 

 そもそも、何故ウマ娘達が『トレーナー』という立場に着くことが、ほぼ皆無と言えるほど少ないのか?

走り方も、筋肉の付け方も、作戦の建て方も、ライブの練習も。

それらはヒトが教えるより、ウマ娘が教えた方が余程効率が良い筈だ。

何故ならば、実際に走ってきた当人たちなのだから。

名選手は必ずしも教導が上手いとは限らないが、どんな名ウマ娘であろうと、逆に全く勝ったことのないウマ娘であろうと、トレーナーになろうというウマ娘は本当に少ない。

 

 それは何故か。

それは、ウマ娘にとって走り競う事が本能だからだ。

レースの為に走るウマ娘を見て、己が同じように走る事が出来ないなどと、レースに出ることが出来ないなどと、我慢出来るウマ娘などほぼ居ない。

ウマ娘とは、何よりも走る事が大好きなのだから。

その本能を覆すにはそれを凌駕するような思いか理性、どちらかが必要なのだ。

 

 翻って、彼女はどうなのか。

最年少のトレーナー候補として、面接を行うと、実際に出会ってみて、彼女を見た時。

シンボリルドルフは、目の前に『奇跡』が居ると思ったのだ。

トレセン学園理事長として、URA常任理事として、一人のウマ娘として。

その嗅覚と眼力が、彼女はきっとウマ娘として歴史に大記録を打ち建てる、否、どんな記録を打ち建てるかすら『理解できない』途轍もない才能だと。

面接の最中、思わず君はレースに出ないのかと聞いてしまった程に。

 

 その時に彼女は、なんでそんな事を聞くのかまるで解ってない顔で、『レースに出る事に興味なんてありませんけど』と言った。

シンボリルドルフは、最初その言葉が理解が出来なかった。

 

 ウマ娘にとって走る事、レースに勝利する事は本能だ。

走り切って、満足したというのなら解る。

走って走って走って走って、レースを存分に闘い切ったというならば解る。

それでさえも、熾火のように目立たなくなっただけで、心の中で高熱で燃え続けるというのに。

だが、彼女は一度としてレースに出た事など無い。

レース場で、心を燃やした経験など有る筈がない。

 

 走る事が、嫌いなのかとも聞いた。

彼女はまたもきょとんとした顔で、『いえ、走る事は好きですよ?』と答えた。

その時に、やっと少しだけ理解できた。

 

 彼女にとっても走る事は本能だ、それは間違っていない。

ただ、『レースで勝利する事』は何も変わらない、とてもつまらない、ただの『当然の結果』なのだ。

走れば勝つ。

当然のように、動物が呼吸するように、言い訳の仕様も無く、苦戦など有る筈も無く、圧倒的に、周囲との差を歴然と、過去も現在も未来も全て引き千切って。

彼女はきっとそうなるのだと『走らなくても解って』いる。

己に並び立つ者など居る筈が無いと思っているし、競い合えるものなど居ないと思っている。

 

 そして、それは事実なのだろう。

 

 目の前の、どれだけ速く走るのかさえ理解できないウマ娘は、競い合う喜びを、レースで走る熱狂を、知らない。

 

 知りようがない。

 

 続く面接で表情を取り繕えたか、シンボリルドルフにはあまり自信が無かった。

 

 そして、もう一人。

津上あきと共に育ち、津上あきが幼少から徹底的に鍛え上げた、正真正銘の天才。

レースの歴史全てを塗り替えてしまえる逸材。

思わず『彼女と自身が同期であったなら』と思ってしまった程の才能の塊。

津上あきが『翔子ちゃんはG1全部獲れます』と言って自慢していたのが過言ではないと思える。

早来翔子こと、ディープインパクト。

 

 毎年、代表生徒と顔を合わせる事にしている(本当は全ての生徒と顔を合わせたいが)シンボリルドルフは、彼女に質問をした。

君の夢は何なのか、と。

 

 『私の夢は、ただ一人に勝つ事です』と、綺麗な笑顔で答えられた。

 

 誰の事かは聞かなかったが、あまりにも無謀だと思ってしまったのは事実だ。

何故ならば、ディープインパクトは確かに天才だが、シンボリルドルフが『まだ理解できる』天才だ。

『理解すら放棄して奇跡と呼ぶしかない』ような、そもそもとしてカテゴリが違うようなウマ娘ではない。

 

 『勝つつもりなのか』と、シンボリルドルフは知らず声に出していた。

『全てのウマ娘に幸福を』というシンボリルドルフの夢に、ただ存在するだけで罅を入らせたような『奇跡』と。

見ただけで挑む事を諦めさせるような『奇跡』と、誰よりも近くに居た者が。

競い合う喜びを、闘いの熱を、夢に挑戦する希望を、負ける悔しさも、負けるものかという意地も、何一つとして持てる筈も無い『奇跡』に。

勝とうとする意志を、勝ちたいという意地を、勝つ事を、諦めないでいられるのかと。

 

 ディープインパクトは、『はい、私の大事な夢ですから』と、嬉しそうに答えたのだ。

 

 

 今のシンボリルドルフの前に、書類が二つある。

どちらか一方だけでも、トレセン学園に、トゥインクルシリーズに、激震を走らせるであろう存在。

おそらくこの時代は『ディープインパクト一強』と呼ばれるだろう。

おそらく多くの者が、多くの夢が彼女の輝きに灼かれるのであろう。

それが、たった一人を追い抜こうとするものだとしても。

それが、たった一人に届かないものだとしても。

 

 ただ、それでもシンボリルドルフは信じたかった。

ディープインパクトの眼を、ディープインパクトの夢を、ディープインパクトの意志を、ディープインパクトの決意を。

彼女ならば、あるいは『奇跡』に火を灯せるのではないかと。

シンボリルドルフは、彼女にそっと、夢を賭けた。

 




リジチョーは輝きに眼をヤられた被害者第n号。
最初にデカすぎる光を見せられて強制的に目を曇らされた挙句、輪郭は見えるけどそれでも充分すぎる輝きを後にお出しされて『あっ、まだ解る』と判断してしまった。
後者だけでもトゥインクルシリーズは大概焼け野原である、目を覚ませ!
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