チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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お待たせ!
まぁいろいろと難産だったのもあるけど、うん、まぁ気候もね…
暑すぎるのも寒すぎるのもいやぁーキッツイ。
ずっと春か秋ならいいのになぁ!


第四十七話 ダービー終わってまたダービー/ゆずれないもの

チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える

 

第四十七話 ダービー終わってまたダービー/ゆずれないもの

 

『1000mを過ぎましてペースはこれは早めでしょうか、先頭は変わらずシンダー、離れずオラトリオが続きます』

『続いて3バ身程空いてガリレオ、モティヴェーター、ドバウィが中団を形成、さらに4バ身後ろに注目バディープインパクト、隣にラムタラが並んでいます』

 

 エプソムレース場は非常に苦しいコースをしている。

スタートから1000m地点まで続く上り坂、600mの長い最終直線、ゴール手前200mでは勾配の急な上り坂、とにかくパワーとタフさが求められる。

どれ程厳しいかと言われれば、エプソムダービーのゴールタイムで2分33秒を切ったウマ娘は未だ存在していない。

ほぼ同じ距離であるアイリッシュダービーや、同じ欧州三大レースとされるKG6&QEステークス、凱旋門賞では2分30秒を切るタイムが出ている事から、このコースの難しさが解るものだろう。

 

 しかし。その全ては過去にすべきなのだ。

 

「(2分30秒、切るのが『最低限』!)」

「(それより縮められればなお良い!)」

「「(いざ…勝負!)」」

 

 ガリレオとシンダーはディープインパクトならば絶対に2分30秒を切ると確信していた。

つまり、戦うならばエプソムダービーのレースレコードを3秒以上縮めなければ勝負にならない。

なんと理不尽なことか!だが、心は何処までも燃えていた。

 

 ガリレオもシンダーも才能に溢れたウマ娘である。

お互いやその他ライバルと呼べるウマ娘は居ようとも、『勝てない』と思うようなウマ娘など居もしなかった。

だが、世界は己達が思っていたよりもずっとずっと広かったのだ。

レースの本場と言われるような欧州で、その立場にあぐらをかいていたと、ガツンと頭を殴られたかのような衝撃が走った。

 

 自分が、自分達が、それこそ一生涯かけても、勝てるかどうか解らないような相手。

恐怖すべきか?否。絶望すべきか?否。

抱くべきは歓喜。するべきは感謝だ。

 

 『地域』も『国』も『大陸』も越えて、世界中に彼女達は宣言したのだ。『一緒に競走しよう』と。『誰からの挑戦も受ける』と。

世界中のウマ娘が、世界中のレースファンが『あのウマ娘が強い、いやこっちの方が』と論を交わす中に、『そういうのは私達を見てから言え』と飛び込んできたのだ。

痛快ではないか。爽快ではないか。そう、最早レグルスはただの日本の一チームではない。

此処からは、この世代からはレグルスこそが『世界』の強さの基準となる。

ガリレオとシンダーはそう予感していた。

だからこそ、この巡り合わせに感謝していた。

 

 ディープインパクトは間違いなく強い。素質も才能も、世界を見渡しても稀に見るレベルなのは間違いが無い。

だが素質や才能に限って言えば、『ディープインパクトを上回るウマ娘』は今後、必ず、何十人、何百人も現れる。

しかし、『幼少期からずっと津上あきに競技者として育てられたウマ娘』なんてものは、片手の指で数えられるくらいしかお目にかかれないだろう。

だからこそ、ディープインパクトは長い歴史の中で『最強』として刻まれる。数多のウマ娘の中で最強を選べと言われた時に、まず一人目に選ばれる。

その最強に挑めるのは、はっきり白黒つけられるのは、この世代だけなのだ。

彼女に勝てるならば、誰もが、歴史からすらも『あの最強に勝ったウマ娘』であると認められるのだ。

火がつかないわけがない。燃え上がらない筈がない。『自分は強い』と自負するウマ娘にとって、彼女達は具現化した目標なのだ。

 

 モティヴェーターやオラトリオ、ドバウィ達もそう思ったからこそ、『勝ちたい』と願ったからこそ今、このレースを走っている。

熱意、気迫、どれをとっても、皆G1ウマ娘に相応しい気概とそれに裏打ちされた実力を持っている。

しかし、いや、だからこそと言うべきなのか。

 

「(あいつは…あのラムタラは何だ…!)」

「(あの圧…普通じゃあない…!)」

「(ちょっと前はあんなんじゃあなかった筈でしょ…!)」

 

 三人の背筋に冷汗が流れる。明らかに、勝利に注ぐ情念が違う。

あんなにも苛烈でドロドロとしたものは見た事が無い。

特にドバウィは彼女のトレーナーがラムタラの元トレーナーとは関係者、現トレーナーと親族である為、幾らか面識があったのだが、それでもああして走る姿は別人としか思えない。

だが、飲まれるわけにはいかない。負けていい理由が無い。

自分がそうならば、相手だって同じであろう事は当然であると思う一方で。

一体、何をどうすればあんな執念の塊にまでなれるのか。

三人は、いや、レース場に居る観客達ですら、戦慄を覚えずにはいられなかった。

 

例外は、ただ二人。

当人たるラムタラと、その横を走るディープインパクト。

ただ、その二人だけだった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 レースの最中、ディープインパクトが感じる世界は、やけに静かだった。

 

『―――――』

『―――――』

 

 実況も、歓声も、どこか遠い。よく聞こえる筈なのに、まるで耳に入らない。

理由は解っている。自分のすぐ横を走るウマ娘の為だと、ディープインパクトは何よりも解っていた。

眼は向けてない。相手の顔を見たり、振り返りもしない。己も、そして相手も、ただ、前を、ゴールを見ている。

だが、何よりも解っていた。

その耳で。その肌で。その鼻で。微かに見えるその横顔で。

ディープインパクトはラムタラの。

ラムタラはディープインパクトの。

その走りで以って、お互いを理解する。

 

 なんて事はない。二人は、とても似た者同士なのだ。

 

 お互いに、天稟を持って生まれた。

 

 お互いに、全てをかけてもいいと思えるトレーナーと出会った。

 

 お互いに、決して届かない星の光に手を伸ばしていた。

 

 ディープインパクトはとても嬉しく、とても悲しかった。

だって、ラムタラはただ、自分と走る為に、そして自分に勝つ為に掛け値なしに全てを費やした。

才覚も未来も努力も何もかも、ただ『ディープインパクトに勝つ為に』、『私の全てを使って、お前の全てを凌駕して勝ってやる』と、本当に全部を使って。

擦り切れる程に自分の走りを見たのだろう。呆れる程に想定したのだろう。

ただ、ただ一人、自分に勝つ為に。

執念、執着、渇望、それが全て自分に向けられた事に、競技者として、ウマ娘として、どこまでも嬉しかった。

そこまで走れる人が居たのだと。そこまで勝負できる人が、幼馴染達以外にも確かに存在するのだと。

ともすれば、幼馴染達より、己よりも速いかもしれないウマ娘がまだ居るのだと。

とても、とても嬉しかった。

 

 でも。それでも、彼女の手は、決して星の光には届かない。

自分とは全く違う理由で。彼女の隣にあった筈の光は、手の届かない空の上に昇ってしまった。

けれども。どれだけ積み上げても、どんなものを築き上げても、決して届かない所と知っていて尚。

手を、伸ばさずにはいられないのだ。

ほんの少しでもいい。ほんの僅かでもいい。その光に、手を伸ばさずにはいられない。

その光が、決して応えてくれないものだと解っていても。

それが、とても悲しかった。

 

 同じように、ラムタラもディープインパクトを理解した。

とても辛く、とても羨ましかった。

だって、彼女はどうやったって追いつけない背中を追い抜こうとしているのだ。

才能も時間も鍛錬も何もかも、ただ『彼女にレースを楽しんで欲しい』、『私の全てを使って、彼女に勝ちたい』と、本当に全てを費やして。

諦めたっていいはずだ。そもそもの性能からして論外だと放り投げても誰も責めはしない。

ただ。ただ一人。彼女を振り向かせる為に。

夢、希望、願い、それらを全て追いつける筈が無い者に向けられている事に、競技者として、辛くない筈がなかった。

そこまで純粋に願えるのかと、嫉妬も諦観も絶望も何もなく、ただ、どこまでも澄み渡っている願いのかたち。

どこまでも過酷な道のりの筈なのに、純粋無垢なその願いを、己よりも速いかもしれないウマ娘が抱いているのだと。

とても、とても見ていられなかった。

 

 でも。それでも、彼女の手は彼女に触れられる。

彼女の背中は決して届かない、見る事すらできない先にあるのに。

レースでないのなら、彼女の手はあの星の光に、本当の意味ではないとはいえ、触る事ができる。

手を、伸ばす事ができるのだ。

それが彼女の願いのかたちでも、夢でも、希望でもないと知っていても。

彼女達は、お互いに触れ合える事ができるのだ。

それが、とても羨ましかった。

 

 お互いに理解し合って。お互いに抱いた思いは違って。

でも、二人は似た者同士だった。

 

 ディープインパクトと、ラムタラの二人が『領域』に入る。

決して届かない場所にある星を見た。

一人は遥か先に輝く星を。一人は遥か空の上にある星を。

それを、二人は必死に追いかける。

一人は楽しそうに。一人は悲しそうに。

二人は、必死に手を伸ばす。

少しでも先に届くように。少しでも空に届くように。

二人とも、決して届かない星を見たのだ。

 

 

――――――――――――――――

 

 

加速する。

 

『残り600mここで!ここで後方二人ディープインパクトとラムタラが加速した!』

 

加速する。

 

『速い!速い!?中団先頭を撫で切って一気に先頭に躍り出るスピードは落ちない!』

 

星に、手を伸ばす為に。

 

『ガリレオとシンダー加速するも差は縮まらない!先頭は変わらず二人だ!』

 

少しでも、星に近づくために。

 

『いや差は広がる!広がる!?どういう事だ此処はエプソムだぞ!?』

 

いつか、きっと届くと信じて。

 

『後続を一気に引き離して!どっちだ!?どっちだ!?今二人がゴォール!!』

 

ただ、それだけを信じている。

 

『三着にはガリレオ、四着にはシンダー!五着は微妙です、モティヴェーター体勢有利か?一着争いは審議となっております!』

『まさか、まさかの結果となりました!日本から来た大本命に、全くの無名のウマ娘が並んでゴール!一体誰が!この結果を予想したでしょう!』

 

 審議は15分、たっぷりと続いた。そして掲示板に表示された結果は。

 

一着 3枠3番 ディープインパクト 2分25秒9

同着 4枠4番 ラムタラ 同タイム

三着 2枠2番 ガリレオ 2分29秒9

四着 6枠6番 シンダー 2分30秒0

五着 5枠5番 モティヴェーター 2分31秒0

 

 ディープインパクト、ラムタラ、両名とも無敗は続くも、同着。

無論、長いエプソムダービーの歴史の中でも、初の事例であった。

二人の完全決着は、キングジョージ&クイーンエリザベスステークス、そして凱旋門賞へと持ち越された。

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