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ちなみにですが本来なら2005年の該当レースは改修の為アスコットでは開催されてないのですが、年代を混ぜこぜした結果として変わらずアスコット開催となっております。
ご了承ください。
実の所、幾らあきとはいえ適性の再分配は簡単な事ではない。
例えばあきが今まで走る所を見た事が無い、トレーニングも指導した事が無い、全く知らないウマ娘の適性を弄ろうとするならば、どれだけ短く見積もっても1ヶ月半の時間がかかるだろう。
また、一度弄った適性をもう一度変化させる事も簡単ではない。回数を重ねる度に短くはなるだろうが、再度適性を弄るなら1ヶ月はかかる。
それでは何故、チーム・レグルスの面々だけは特別なのか?
それは、彼女達が完全に、あき自身によるカスタムハンドメイドされている事と、適性を弄るのが初めてでは無いからだ。
幼少期から、遅くとも小学生の頃からの、完全に把握された身体作り。
伸ばす方向とはいえ、適性外の距離を完全に適応させた事。
彼女達の身体、才能、走り、技術、全てをあきは網羅し、完璧に把握している。
だからこそどこをどうすれば崩せるのか、何をどうやれば戻せるのか、あきだけがそれを理解している。
他の誰にも、同じ事は不可能だ。たとえどんな個人、組織が同じ事をしようとしても、あきほどの精度と短期間で結果を出す事はできない。
桜ですらも適性を読み取るまでが精いっぱい、ラムタラのトレーナー代理ですら、適性を尖らせる事はできても、そこから戻す事はまず不可能。
適性の再分配とは、今現在、地球上で唯一あきだけが為せるオーパーツ的な技術である。
だが、それにも穴はある。
確かにあきは適性の再分配が可能である。可能であるが、限度が存在する。
あきならば、『時間があれば』、適性を100から0にし、それを他の場所に注ぎ込む事はできる。
例えば、ディープインパクトが相手ならば『二ヵ月もあれば』、出るレース以外の全ての適性を0にし、ただ一か所だけに特化させる事が可能だろう。
しかし、その時間は与えられていなかった。
そう、幾らあきとはいえ、適性の再分配を完全にするには時間が必要なのだ。
それでも『可能である』というだけで十分に狂っているのだが。
ディープインパクトにやっている調整も、他の部分の100から15程度を一か所に集めている、という事になる。
それがどういう事であるか、というと。
「完全に互角、か」
本当の意味で、他の全てを捨てた特化型が相手の場合、圧倒が出来ない事がある、という事だ。
これは勿論、そこまで研ぎ澄ませた相手を褒めるべき事である。
あきは人の可能性、ウマ娘の可能性というものを改めて思い知った気がする。
存分に使いこなしているとはいえ、自分にはチートがあるというのに、育成とはいえ互角に持っていく存在がいる。
その事に心が動かないかと言えば、そんな事は無いと本心から言える。
だが、津上あきはディープインパクトのトレーナーである。
「頑張れ。頑張れ、翔ちゃん」
いつだって勝利を願うのは、応援するのは、己の愛バ。
幼馴染として、親友として、トレーナーとして。今日もあきは、ディープインパクトの勝利を祈る。
――――――――――――――――
「とんでもない怪物達がいるもんだな。たった一年で環境変わりすぎだろう」
「あなたはまだ1年早かっただろう?私とか完全に同世代なんだぞ」
「そりゃあ良い。それだけチャンスがあるって事だろう?」
「違いない」
前年度のKG6&QEステークスの覇者、バゴと、ディープインパクト達には届かなかったものの、二人が居なければエプソムダービーのレコードを更新していた筈のガリレオが軽口を叩き合う。
二人とも、欧州を代表するような名ウマ娘であるのは間違いない。
だが、今日の主役はそんな二人ではない。
目線の先には、二人を差し置いて主役に躍り出た、別の二人がいる。
先のエプソムダービーで、同着1位を記録したラムタラとディープインパクト。
どちらも空気を固形化させるかのようなプレッシャーを放ち続けている。あれに飲まれないウマ娘は、もうそれだけで一流のウマ娘を名乗ってもいいだろう。
「で、ガリレオ。お前、自信の程は?」
「勝率1%でも十分だね」
「凄いなお前、あいつらに対して1%でも勝てるのか」
わはは、と笑いながらも絶望的な事を話している。話しているが、二人とも、その目に諦観の色は欠片も無い。
何処までも純粋な闘志が溢れ出している。
今までのレースの常識で考えれば、それは有り得ない事だった。
今までならば、圧倒的なタレントが、隔絶する才能を持つウマ娘が居るならば、時たまの『例外』は居ても、そのウマ娘に対し何処までも闘志を燃やすウマ娘など、そう多くは無い。
ディープインパクトはそんな圧倒的な、隔絶的な本物だ。数多のウマ娘の心を圧し折って再起不能に追込んでもおかしくない暴虐だ。
だのに、彼女と走って心折られたウマ娘など居なかった。むしろ、逆に何処までも心を奮わせるウマ娘の方が多い。
そして、そんなディープインパクトに並んだラムタラ。彼女が、ディープインパクトが絶対ではないと証明してみせた。
勝利したわけではなかったが、しかし敗北しなかった。
同チームの、レグルスのウマ娘ですら証明できなかった事を、全く無関係のウマ娘がやってみせた。
どんな手段であれ、『不可能ではない』と知らしめたのだ。
あの主役の二人は、世界を変えた。
自覚的にせよ、無自覚的にせよ、ウマ娘やトレーナーが、『諦める』という選択肢を選ぶ可能性が減った。
それは、どんなレースで一着を獲るよりも、きっととても大切で、本当に偉大な事なのだろう。
レースが始まる。
諦めも絶望も、そんなものは知るかと蹴飛ばしたウマ娘達だけのレースが、今、始まる。
――――――――――――――――
『いよいよ始まりますキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス、注目はやはりこの二人』
『本当に僅かな差ですが一番人気はディープインパクト、二番人気はラムタラとなっております』
『やはりディープインパクトはその実績が、ラムタラはそのディープインパクトに対し初めて同着したという結果がこの人気を表しているのでしょう』
『三番人気、大きく離れてバゴですが、このウマ娘も侮れません、前年度覇者の貫録を後輩たちに見せつけたい所』
『各ウマ娘、全員ゲートに入りました』
『キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス、今!スタートしました!』
ゲートが開き、ガリレオが抜群のスタートを決めてハナをとる。
バゴが前めにつけ、日本から来たもう一人ハーツクライは中団後ろ。
注目ディープインパクトとラムタラはエプソムダービーと同じように最後方についた。
しかし、今回のこのレース、例年とは丸っきり違う展開で始まった。
アスコットではスタートから最初のコーナーまで下り坂が続く。
其処を、誰もスピードを抑えない。
「(アスコットのコースは日本と違う。自然の形状を利用した、鋭角的なコーナー…)」
コーナーまで続く下り坂、勿論スピードは出やすい。
しかし、スピードを出し過ぎれば勿論、日本の比ではない急角度のコーナーを曲がる時、大きく膨らみロスとなる。
そして、その後からもかなり厳しい。何せその後、最後の200メートルまで延々と上り坂が続くのだ。
尋常じゃないスタミナ、スピード、パワーが要求される。
ハーツクライはそれを知っている。その対策も勿論知っている。
「(だけど、それじゃ勝利に近づけない…!)」
対策通りに走るのならば、おそらく即座に最後方の二人に纏めて撫で切られる。
あの二人は、平然とそういう事をすると解る。
だから求められるのは、下り坂を、コーナーを曲がる事ができる、制御できる範囲内のスピードで走る事じゃない。
下り坂で得たスピードをそのままに、コーナーを曲がる事だ。
できるか、と言われれば正直に『キツイ』と答える。
だが、やらなかったら百に一つの可能性すら無い。では、選択肢は一つだけだ。
他の連中だってそれが解っているからこそ、このスピードなのだ。
曲がれるのか、曲がれたとしても膨らみ過ぎないか、それはその時考える。
分の悪い賭けだろう。とんでもない博打だろう。でも、それで勝ち目が残るなら上等だ。
「(――負けないよ)」
ディープインパクトに。ラムタラに。他のウマ娘に。何よりも、己の心に。
心の底から、不撓不屈の雄叫びを聞かせてやる。
君はきっと嬉しそうに笑うだろうけど。
君に、『必ず勝ってやる』と、『魂』がそう叫ぶのだ。
それがどれだけか細い糸であろうとも、ハーツクライは決して離さない。
レースが始まった。その決着は、未だ神すらも知らない。
ガンギマリがトレーナーだけだって誰が決めたっていうんだよ(震え声)