チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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レグルスのチームですが翔子ちゃんは勿論パッパが、他のメンバーはジッジがサンデーのサイレンスなお馬さんなんですよね。
なのでアメリカのダートをレグルスのウマ娘達が走ろうとしてるのもおかしくないんだ!きっと!


第五十二話 トラヴァーズステークス編/『その身体に流れる血が望んだもの』

 さて世間的には異例とも言える、G1レースでの二度目の同着に大騒ぎであった。

ラムタラ陣営は早々に次走は凱旋門賞を予定していると発表。

現状唯一、公式のレースでディープインパクトに黒星のついていないラムタラは一躍時の人である。

ではその相手、目下最大のライバルであると見做され、同じく世界的に注目されているディープインパクトがどうしているかといえば。

フランスのマイルG1、ジャック・ル・マロワを快勝していた。

ラムタラは2400の王道距離にしか出ないが、ディープインパクトは何処にでも顔を出す。

二度の同着に興奮していた関係者達の頭に冷や水を浴びせ、頭を抱えさせるのに十分な勝利である。

 

 チームとしての快進撃も止まらず、アメリカではヴァーミリアンがアラバマステークスを勝利。

この時点でレグルスは二年目の新設チームにもかかわらず、チームとしての勝利は日英二冠、日本ダブルティアラ、米国三冠、米国トリプルティアラ、その他G1無数と異次元の領域である。

しかもまだ開催されていないだけで、既に日英三冠、日本トリプルティアラは確実視されているまである。

ラムタラが居る為に欧州三冠までは確実視されていないが、最有力候補であることも間違いない。

余程の事が無ければ、既に日本での最優秀年度ウマ娘、そして欧州でのカルティエ賞が決定してしまっているとも言えた。

 

 そんなチームとして順風満帆なレグルスであるが、一つ特徴がある。

それはチームメイト同士であろうと、出るレースを回避したりなどせずバチバチにぶつかり合う事だ。

日本でシーザリオとラインクラフトが、ラインクラフトとディープインパクトが戦ったように。

アメリカではカネヒキリとヴァーミリアンがついにぶつかる。

 

 8月27日、ニューヨーク、サラトガレース場。ダート約2000メートル。

ミッドサマーダービーとも呼ばれるそのレースの名前は、トラヴァーズステークス。

クラシックを戦い抜いたウマ娘や、その裏路線を進んだ実力のあるウマ娘が出場する事が多く、レベルも格式も高いレースである。

しかし、このレースにティアラを獲ったウマ娘が出る事はほぼ無い。

何故ならばトリプルティアラの三つ目、アラバマステークスがほぼ同時期(今年は10日前)に開催される為である。

 

 しかし、今年は違った。

あきがその手腕を存分に使い倒し、二人を全く憂いなく走れるように仕上げたのだ。

同じチーム、三冠とトリプルティアラの対決。

果たしてどちらがより強いのか、注目しない者などそうはいない。

真夏のサラトガレース場は、例年以上の熱気に包まれていた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「互角、と思っている人は多分結構多いのよね」

 

 レース前の控室、ヴァーミリアンが独り言を零した。

同じチーム、同じトレーナー、同じ三冠とトリプルティアラ。

世間の目ではヴァーミリアンとカネヒキリが全くの互角だろう、と見られている事を知っている。

 

 だが、違う。二人の間には、ほんの僅かであろうとも、明確な差があることをヴァーミリアンは知っている。

ダートという戦場において、もしヴァーミリアンがカネヒキリと戦った場合、10回やれば7回負ける。

これは、日本とはまた違うアメリカのダートでも同じだろう。

それをヴァーミリアンは自覚している。

 

 戦績を稼ぐだけなら簡単だ。何せ、ヴァーミリアンは強い。過去と現在を含め、ダートなら世界全体でも上から五つ以内に入るくらいに。

無敗を貫くなら、カネヒキリとディープインパクトが出るレースに出場しなければ良い。それが賢い選択だろう。

だけど。それでも。そんな、ただ『負けていない』だけの栄光など。

 

「真っ平御免なのよね」

 

 ヴァーミリアンの心が紅蓮に燃える。

相手がウマ娘の範疇であるならば、たとえ誰が相手だって負けたくない。

誰より近い幼馴染が相手でも、手の内を互いに知り尽くしている相手でも、自分より強い相手でも。

なんのことは無い。レグルスのチームメンバー全員が言える事だが。

どいつもこいつも、負けず嫌いなのだ。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『今年もやってきましたミッドサマーダービー、トラヴァーズステークスです』

『やはり注目は日本から来た三冠ウマ娘カネヒキリ、そして同じく日本から来たトリプルティアラウマ娘ヴァーミリアンの二人』

『特にこのトラヴァースステークスにトリプルティアラウマ娘が出場する事は異例中の異例でしょう』

『二人は同じチームレグルスに所属しており――』

 

 実況と解説の声が響く中、カネヒキリはヴァーミリアンだけを見ていた。

己と三冠を走ったアメリカのウマ娘、アフリートアレックスはブリーダーズカップまで休養。

そうなると必然、己と同格となる相手は幼馴染にしてライバル、ヴァーミリアンだけとなる。

いつか対決する事は決まっていた。

 

 名門一族として生を受け、最高傑作とも謳われたお嬢様の御付として選ばれた4人。

思えばとんでもなく遠い所まで来たものだと思う。

まだ、本当に子供の頃、あきとすら出会う前。

無邪気に将来は三冠だ、トリプルティアラだと、幼子が語った夢。

その時の夢とは違うが、自分達は三冠を、トリプルティアラの夢を叶えた。

その事に後悔は無いし、むしろこれでこそ、とも感じるのだ。

思えば、日本の芝ではなく、米国ダートでの三冠を求めたのは『血』か、『魂』が求めたのか。

 

 だけど、これは始まりに過ぎないのだ。

三冠で。トリプルティアラで。やっと『ディープインパクト』に並べる。

シーザリオやラインクラフトにあまりそういう拘りは無いが、カネヒキリとヴァーミリアンは違う。

あの届かないのが解り切っているのに、それでも夢に手を伸ばさずにいられない、おバカなお嬢様を相手にするというのなら。

星に向かって走り続けるその姿が、誰かの夢になっている自覚も無いような、鈍感のお嬢様を追い抜くというのなら。

こちらも勝利を積み上げて、研ぎ澄まさなければならないのだ。

 

 そして、己をより研磨するには、同格かそれ以上の相手と勝負するのが丁度良い。

勿論、互いに負ける気は無い。勝つ気しか無い。ぶつかり合えば、カネヒキリは10回中7回は勝てるだろうが。

ヴァーミリアンはその内の3回を、本番のレースに持ってこれるような相手だ。

 

「負けない。誰であろうと。私が、勝つ」

 

 雷神の目に紫電が走る。闘志が何処までも純化され、気迫に変わっていく。

レース場の熱気すら上回るように、熱く、高く、何処までも。

バチバチ、ごうごうと雷電と火焔がぶつかり合う。

真夏の太陽よりも熱く、降り注ぐ光よりも鮮烈なレースが今、始まろうとしている。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「キリちゃんとミリアちゃんの適性と脚質、得意距離は似通っている。では何故ミリアちゃんが不利と断じる事ができるのか」

「どうしました急に。いえ拝聴しますが!」

 

 レグルスのトレーナー、あきとそのサブトレ、桜が並んで観客席に立っている所、あきが桜に話し始める。

それはカネヒキリとヴァーミリアンが競走した際、何故有利不利がつくのかという話。

 

「今まではミリアちゃんに若干の芝の適性が残っている事だった。けどこれは適性の割り振りを会得したから既に問題じゃない」

「相変わらずちょっと意味の解らない手腕ですよね」

 

 ヴァーミリアンの適性はダートに寄っているが、芝も走れない事は無い程度に適性があった。

だが、あきが適性の割り振りを会得した為にこの点は問題が無い。そう、『問題は無い』のだ。

 

「単純に。キリちゃんがダートで強すぎる。翔ちゃんに対し4割の勝率が今でも変わってない」

「適性を割り振っても、ですか」

 

 だから、問題は能力の絶対値の方だ。スピード、パワー、スタミナ、バ場適性、その他を数値化した場合、レグルスで2位になるのはカネヒキリである。

そして、ヴァーミリアンはその絶対値でレグルスでは最下位となってしまう。

無論、その差はほんの僅かであるが、その僅かで勝負が決まる事は多い。

あきの『眼』から見て、二人がゴールした時、転倒などの事故が起こらなければ、アタマ差以上は絶対に離れないと断言できる。

それ程に二人の力は拮抗している。ハナ差までも、余裕で詰めれる。だが、このハナ差が遠いのだ。

約20センチメートルほどの、ほんの僅かな距離。勝負の明暗を分ける数センチを振り絞れるか。

 

「手の内はどっちも知りすぎる程知ってる。相手の能力も解ってる。どっちも絶対に諦めないから心は互角。だから、スペックだけで見ればキリちゃんに有利がつく」

「勝率3割。運を掴めれば勝てる確率、ですか」

 

 絶望的とまでは言えない。勝ちの目は十分にある。だが、厳しい戦いには間違いない。

 

「やるべき事、やってあげられる事、全部やり尽くした。あとボク達ができる事は、二人の応援だけだ」

「はい!二人とも!頑張ってくださーい!」

 

 だが、トレーナーにとって人事を尽くした後、やるべき事は己の愛バの勝利を信じて待つ事だけである。

たとえその愛バ同士の戦いだとしても、二人の勝利を同じくらい信じて声援を送るしかないのだ。

故にあきと桜はハーフ&ハーフのハッピとハチマキ(左はカネヒキリ、右がヴァーミリアン)、それぞれの応援団扇を両手に持ち、万端の準備で応援する。

 

 なお、案の定ネットの掲示板では『増えた』とネタにされたのは言うまでもない。




マンハッタンカフェのそっくりさん『俺の血統ならアメリカのダート走らせるべきだよなぁ、走らせんだよ!おら!』
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