チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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さてキリちゃんVSリアンちゃん決着編です。
どうぞお楽しみください。

*追記:この小説とは全く関係無いSSをファンティアの方であげてます。
 超外伝とは違って無料公開中。
 どんなお話かって言うと今でも新作が待たれてるあのロボゲーのSS。


第五十三話 トラヴァーズステークス編/『紅蓮と雷電』

 スタートが迫る中、ゲートの中でカネヒキリはひたすらに集中していた。

幼馴染、ヴァーミリアンは己の不利を悟っている。この約2000メートル、相手は自分の全能力を活用しきる走りをしてくる筈。

それならば――

 

『トラヴァーズステークス、アメリカレース四冠目、スタートしました!ポンと飛び出たのはヴァーミリアンとカネヒキリ!初の直接対決二人が選んだのは逃げでの勝負!』

 

 逃げも逃げ、ハイペースでの潰し合い!

枠番の関係から内側は取られたが、僅か数センチを争うこの勝負ではこれは明らかに不利だ。

自分が反対の立場に立ったとしても、相手に最内は絶対に譲らない。そして、ヴァーミリアンが最内を譲る隙を見せる筈が無い。

 

『3バ身4バ身5バ身!二人がどんどん後続を引き離していく!』

 

 苦しい戦いだ。負けるかもしれない勝負だ。あぁ、だとしても。そうなのだとしても。

自分より速いかもしれない奴と走るのは、互角の相手と競り合うのは、こんなにも。

 

「(楽しい…!)」

 

 カネヒキリから笑みが零れる。いつも斜に構えたような態度をとっても、一皮むけば出てくるのは闘争心に溢れた心だ。

ただ勝つ事が好きなのではない。戦う事が、競い合う事が好きなのだ。競い合って勝つというのなら、もうこの上ない。

レグルスのメンバーの中で、ディープインパクトと一番メンタリティが近いのは、間違いなくカネヒキリだ。

貪欲に強さを求められる事、純粋に勝負を楽しめる事、負ける可能性を見据えた上で強く勝ちたいと願う事。

『埒外』に対する姿勢を除外して、彼女達はとても良く似ていた。

 

「(もう、嬉しそうにしてるのよね…!)」

 

 一方、その相手のヴァーミリアンはといえば、カネヒキリほど楽しんではいなかった。

ヴァーミリアンとて、競い合う事に楽しみを感じないわけではない。

むしろ他の一流のウマ娘と比べても、その気持ちは段違いに強いものだろう。

ならば何故そうなのか。答えは実に単純だ。

ただそう、言うなれば、ヴァーミリアンはレグルスの中で一番修羅度が低いのだ。

 

 勿論それが悪いという事ではない。むしろ、競走に全てを捧げ尽くす方が問題がある。

競走に心身を、人生を捧げる中で、ふと周りを見渡し、その程度が、方向が本当に正しいのか判断できるくらいの落ち着きを持っている方が余程良い。

ヴァーミリアンはそういう落ち着きを持っているタイプである。本来ならば、超一流のウマ娘としても正しい資質だ。

 

 ただし、あきという例外が存在してしまった。

脇目も振らず、心身と人生の全てをレースに費やすのだとしても、その程度も方向も完全にコントロールできてしまえる、正真正銘の例外が。

あるいは、素質、才能という部分でヴァーミリアンがレグルスで最下位であるのは、その精神性の所以だろうか。

 

「(だからといって!私だって負けてもいいってわけじゃないのよね!)」

 

 だが、落ち着いて見れるからこそ、己の不足を知るからこそ、それをバネにする事がヴァーミリアンにはできる。

足りない事も、勝てない事も、負けるかもしれない事も、何より己が知っている。知っているからこそ、そのままになんてできはしない。

より前に。より先に。1センチでも。たとえ1ミリでも。悔しさを知るからこそ、心が、魂が叫ぶ。先へ行け、前へ進め。

負けたままでいられるか!

 

『今1000メートルを過ぎました先頭2人譲らない!互いに一歩も引きません!』

 

 紅蓮の闘志を渦巻きながら走るヴァーミリアンと、紫電の気迫を漲らせながら走るカネヒキリ。

1000mを過ぎても互いに未だ譲らず。

レースは後半に移る。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「凄い…凄い『音』です…!」

 

 桜の『耳』が捉えるのは何処までも重々しく響くダートの『音』。

こちらの身体が焦げてしまいそうな程熱い炎のような速弾きと、それに負けないくらい鋭く重い雷鳴みたいな速いドラムのビート。

互いに相手に負けてたまるものかと響き渡り、桜の心を振るわせる。

凄い。本当に凄い。レグルスのチームメンバーでのレースは、こんなにも凄い…!

 

「(無理をし過ぎ、かな。この後、二人が3ヶ月くらいは休養だからってペースが速過ぎる)」

 

 そして、あきは常にフル稼働する脳味噌の領域の10%のトレーナーとしての部分が警鐘を鳴らす。

二人とも、このトラヴァーズステークスを走ったら11月の日本でのチャンピオンズカップまでお休みの予定である。

二人のトレーナーたるあきなら、このレースで底の底まで振り絞っても絶対に回復させてくれるから、今回は全部使っていいやとばかりに限界を踏み越える気でいる。

勿論、そう簡単に踏み越えられないから限界と言うのだ。踏み越えたら身体に悪影響が出るに決まっている。

あきのようにそもそも限界が存在しないチートボディとは、二人は違うのだ。

ほぼつきっきりでチューンナップし続け、限界を更新し続けているディープインパクトとも、似ているようで違う。

ディープインパクトの場合、本人が限界を超えた先を飽く事無く目指し続けるからこそ、無茶、無理、無謀を纏めて括ったようなそれをあきのチートで無理矢理成立させている。

対して、カネヒキリとヴァーミリアンには本人達が明確な上限を決めてしまっている。その違いは大きい。

 

「(頼られるのは嬉しいけど!本当に嬉しいけど!そもそも無理はしてほしくない!)」

 

 だからこそ、カネヒキリ達があきが何とかできるからって全力の信頼で限界を踏み越えるのはハラハラしてしまう。

何かあってからでは本当に遅いのだ。

一応故障回避と同時並行で、もし故障してしまった場合の回復方法だってアグネスタキオン女史と研究しているが、人手や時間がどうしても足りない場合だってある。

 

「(怪我はしないで~!無事戻ってきて~!)」

 

 声を張り上げ二人に『がんばえ~!』と声援を送っている裏で、常にハラハラドキドキなあきであった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 レースは終盤に至り、距離にして残り400メートル。秒数にして20秒よりは多く。23秒よりは確実に少ない。

90秒以上続いてきた二人の先頭争いは、それだけ続く。

まだ、なのか。もう、なのか。

圧縮された2分足らずのこのレースが、まるで何時間も走っているかのような錯覚。

疲労が纏わりつく。流れた汗が風に飛び散っていく。蹴り上げた土が肌を汚す。

足りない酸素を少しでも身体に巡らせろと、肺も、心臓も、血管もうるさいくらいに稼働する。

もういいか?否だ。もう休ませろ?却下だ。さっさと止まれ?お断りだ。

だって、まだ、まだ、まだ。隣のヤツに勝っていない――!

 

「「おおぉあぁあああぁぁぁ!!!!」」

 

 領域なんてとっくに入ってる。地面を裂く紅蓮の炎が、レース場に降る雷が、互いにぶつかり合う。

あと200。いやもう過ぎた。10秒未満でもう決まる。

前に進め、先を走れ、少しでも、1センチでも、1ミリでも、走り続けろ!

 

 叫び、走り、そして。

 

『止まらない!止まらない!日本から来た二人が止まらない!勝つのはどっちだ!?三冠か!?トリプルティアラか!?』

『今二人が同時にゴォール!解りません、この実況席からではどちらが勝ったか解りません!ゴール板前に特設席を作ってくれ!』

『判定、写真判定となります!3着との間は大差!タイムは既に出ました、1分55秒2!文句無しに!世界レコードです!』

 

 カネヒキリとヴァーミリアンが土に汚れるのも構わずに、土の上でぜぇはぁと荒い息を吐く。

限界を踏み越えたからか、視界は狭く、脇目も振らずに走ったのでどちらにも勝利の確信は無かった。

なんとなく横に居たのは見えた気がするが、それだっておぼろげだ。

 

 審査時間はたっぷり10分。判定の結果は――

 

「――はぁあぁぁ。まずは、預けとくのよね」

「返す気は。全く無いから」

 

 その着差は、ハナ差4センチ。

このレースでの勝者は雷神、三冠、カネヒキリ。

ミッドサマーダービーを勝利し、アメリカレース史に残る無敗四冠という記録を刻み付けた。




カフェのそっくりさん『で、なんでブリーダーズカップに出ねぇんだよおめぇらはよぉ。え?子の方が来年出るから?そっちで勝負したいから自分らも来年?しょうがねぇなぁ!』
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