チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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皆お待たせ!
デアリングタクトちゃん実装決まってからというものいつこのSSで登場してるウマ娘達が実装されちまうのかハラハラドキドキがままあるぜ!
いや是非とも実装はされて欲しいんだけども!

超外伝もボチボチ書いてファンティアの方で載せてます。
ただもう一つの全く関係のないヤツを書くのは許してくれ…きっと禁断症状なんだ…
同志たちはきっと何人も居る筈さ…ほら、耳をすませば、あの烏の羽ばたきの音が…


第五十五話 凱旋門賞編/『それは時に残酷なまでの』

 10月2日。世界中の人間がただ一つのレースを、固唾を飲んで待っていた。

そのレース、凱旋門賞は元々権威あるG1レースである。

世界に数多あるG1レースの中でも最高峰のレースと認められており、このレースに出る事、勝つ事だけに全てをかけるウマ娘も珍しくはない。

それは開催国のフランスのウマ娘のみならず、世界中のウマ娘の中での話だ。

だがそれでも、凱旋門賞を勝利したことがあるウマ娘は本場欧州のウマ娘だけである。

日本での登録ウマ娘による、凱旋門賞の最高着順は2着。

エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴル。

言わずと知れた名ウマ娘であり、いずれもあと僅かまで迫った事はあれど、未だ日本に凱旋門を一着で抜け出したウマ娘は居ない。

 

 だが、今日は、今年は違う。凱旋門で一着を獲り得るウマ娘が居る。

 

 ディープインパクト。デビューから今まで、全てのレースでレコードを叩き出す、無敗のウマ娘。

その実績は凄まじい。既にG1を十一勝。日本では既に、クラシック二冠、英国では無敗三冠。

バ場も、距離も、全てを選ばずに駆け抜けるその姿に、世界が熱狂した。

日本のファンもディープインパクトが獲れなければ、一体誰が凱旋門を獲れるのか、という風に思っていたのだ。

 

 だが、彼女で無ければ誰が、と期待される一方で、獲れないかもしれない、と一番危ぶまれてもいる。

たしかに、ライバルは多い。前年度の凱旋門賞の勝者、バゴを筆頭に、シンダー、ダラカニ、モティヴェーター、そしてハリケーンラン。

常であれば誰が凱旋門を獲ってもおかしくないような面子が揃っているが、しかし。

世間の目は、ディープインパクトと、もう一人のウマ娘、たった二人、どちらが、もしくは両方が獲る事になるのかを注目している。

 

 ラムタラ。三戦無敗。G1二勝。戦績だけを見れば、見事ではあっても到底ディープインパクトと並ぶべくもない。

しかし、公式レースで、世界で、彼女だけがディープインパクトと並んだ。

走ったレースの数は少なくとも、その二回で彼女は伝説を作り出した。

ディープインパクトとの同着を二回。場所、距離はいずれも欧州芝2400メートル。

そして、勿論この凱旋門賞も芝2400メートルだ。

ならば、今回も並ぶのか。いや、今回こそ追い抜くのか。それとも。

 

 フランス、パリ、ロンシャンレース場では既に数十万人の人々が集まっていた。

レース場のキャパシティはオーバーし、何台もの大型モニターが周辺に置かれ、通信衛星を使って全世界に対し同時中継の準備が為されている。

老若男女を問わず、世界中がただ一つのレースを、固唾を飲んで待っていた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「ラムタラさんは強い。彼女の陣営も油断できない。でも、彼女達にはどうしようもない事が一つある」

 

 ロンシャンレース場の控室にて、あきがディープインパクトに対し話す。

それは彼女達に対する絶対の有利の一つ。

 

「走ったレースが少ない。走ったバ場が少ない。2400メートル特化も、それは正確じゃあない」

 

 何故正確ではないのか。それは、彼女が走ったレースの距離だ。

エプソムダービーは1マイル4ハロン6ヤード。メートルに換算に、約2420メートル。

キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスは11ハロン211ヤード。約2406メートル。

そう、イギリスのレースは正確に2400メートルではない。だからこそ、微細な調整を長期間かけてする必要があった。

2400という数字からしたら、たった数メートルから十数メートル、と思うかもしれない。

しかし、その数メートルから十数メートルは秒にしておおよそ0.3から0.8秒の差をつけるのだ。

完全に2400メートルだけに合わせているのなら、ディープインパクトは同着など許していない。

むしろ、調整してのけたトレーナーと、それに応えてみせたラムタラの才能にこそ賞賛を送るべきなのだ。

 

 だがしかし、その繊細過ぎる調整の犠牲として、ラムタラ達は経験を犠牲とした。

走ったレースの数の少なさは、それだけ対応の幅を狭める。

そして何より。

 

「そろそろ他のウマ娘だってラムタラさんに『慣れる』。だって、翔ちゃんはレースに出まくったしね」

 

 何より、『規格外のウマ娘』と走った経験があるかないか、というのはとても大きい。数を重ねれば重ねる程、それは大きくなる。

その意味ではディープインパクトが散々に欧州を荒らしまわった故に、他のウマ娘達の度胸と根性が加速度的に育っているのも大きいだろう。

今まではその異様な迫力と圧で他のウマ娘達の影響を跳ね除け、ただディープインパクトだけを相手にしていたラムタラであるが、このレースではそうはいかない。

他のウマ娘達だって己の勝利を狙う為に、ディープインパクトは勿論、ラムタラ相手にも仕掛けてくるだろう。

それが、ディープインパクトがはっきりとラムタラに勝る点。

己と同格の相手と走る事、己を上回る相手と走る事、その経験の多さだ。

 

 そして何より、調整期間の長さが違う。

日本ダービーからエプソムダービーまでの6日間。

パリ大賞典からキングジョージ6世&クイーンエリザベスSまでの9日間。

そんな短い間隔で国まで跨いでのG1レースに出走など、普通ならば不可能だ。

これも、世界では未だあきだけが可能な理不尽であるが、出れるとしても調整期間は長ければ長い程良いのが自明の理。

逆に言えば、ディープインパクトは十日足らずの調整しか受けていない状態で、ラムタラと並んでいた。

では、この凱旋門賞ではどうか。前走、セントレジャーステークスからの期間は実に22日。それだけの期間があれば、あきにとっては十分過ぎる。

勿論、ディープインパクトはこの後も複数の、しかも距離が様々なレースに出走する予定である為、それは考えなければならないが。

それでも、次走の菊花賞は10月23日。またその次の出走予定である秋の天皇賞を考えれば厳しいが、それでも凱旋門賞から20日以上の猶予があるならば、あきはどうとでもしてみせる自負があった。

 

「(それでも確定でクビ差までは詰められるだろうってのは流石かな)」

 

 だが、ラムタラの先着は無い。たとえどれ程死力を尽くそうが、これからの未来を賭けようが、負けだけは無い。

頭の中の常に冷静で、何処までも見通す目を持つ一割のあきがそう断ずる。

 

「本気で、全力で走ってくればいい。翔ちゃん。君が最強だよ」

「うん。いってくるね」

 

 己の愛バを絶対の自信で、欠片の不安も無く送り出す。それをできる幸せなトレーナーが、一体どれだけ居るだろうか。

トレーナーのそれに応えられるウマ娘も、果たしてどれだけの数が居るだろう。

誰がどう思っていようと、津上あきは幸せな『トレーナー』である。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『全世界のウマ娘が夢見る凱旋門賞、今回も豪華なメンバーが揃っております』

『前年勝者バゴ、今年のジョッケクルブ賞とアイリッシュダービーをそれぞれ1着と2着で分けたダラカニとハリケーンラン、その他スターが揃っています』

『ですが注目はやはりこの二人でしょう、既に積み上げたG1の勝利は10勝、日本から来たスーパースター、ディープインパクト』

『そのスーパースターに対して全くの互角、三戦三勝ながらそのディープインパクトとの同着二回、欧州ウマ娘の意地を見せるかラムタラ』

 

 アナウンスの声が響く中、そのトレーナーは黙ってコースを眺めていた。

やれる事は全てやった。紙がボロボロになる程にデータを調べ、目を皿のようにして映像を検証し。

ラムタラのコンディションを最高にまで仕上げて、今日という日に持ってきた。

だというのに。

 

 あぁ、いっそ憎悪できたなら、どれだけ良かっただろうか。

想定した最大の敵手を、憎めればどれだけ楽だったのだろうか。

周りの、とんでもないプレッシャーを放つ二人に向けて、それでも不敵に笑うウマ娘達を嫌えればどれだけ楽だったのだろうか。

だが、できるわけないのだ。彼の鍛え上げられたトレーナーとしての眼が、彼女達が素晴らしいウマ娘だと教えている。

その才能を、その努力を、その精神を、その輝きを、彼はトレーナーとして愛さずにはいられない。

 

 だからこそ、彼はこう思わずにはいられない。

女神よ。ウマ娘の始祖とも、導きとも言われる三人の女神よ。

何故、彼女達を同じ時、同じ世代に走らせたのか。

私は、貴女達を恨まずにはいられない。

 

『いよいよ始まります、この門を一着で凱旋するウマ娘は一体誰なのか』

『華の凱旋門賞、いよいよスタートです!』

 

 レースが始まる。時間は過ぎ去るばかりで、戻ってはくれない。

だが、それでもと手を伸ばす先にしか掴めないものがある。

世界中の夢と希望を乗せて、今、レースが始まる。

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