チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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お待たせ!
どうぞ楽しんでいってくだせ。

ファンティアの方の全く関係無いSSですが『宇宙行けるなら水中も装備整えれば行けなきゃおかしいだろSF脳』と『でもフロムの水中には河童がいるやんけ脳』がコンフリクトを起こしている…
上下前後左右、全天戦闘が前提だから水中ステージも…


第五十六話 凱旋門賞編/『されど何処までも眩い』

 ハリケーンランにとってロンシャンレース場は初めてのコースではない。

むしろ、デビューから含め四戦をこのレース場で走った、走り慣れたコースと言っても間違いではない。

また、今まで走ってきた六回のレースの中で、ロンシャンでは負けた事が無かった。

世間一般的に当て嵌めるならば、十分に得意なコースと言えるだろう。

だが、このレースは、今年の凱旋門賞はその一般は当て嵌まらない。

否、凱旋門賞なのだ。たとえあの二人が居なかったとしても、集まってくるのは超一流のウマ娘ばかり。

『ロンシャンでは負けた事が無い』などと、何のアドバンテージにもならないような強者が集う。

 

 そうとも、誰も油断できない奴らばかりだ。どいつもこいつも、ギラギラとした眼で勝利を狙っている。

それでも、そいつら相手に勝つ自信があった。己こそが凱旋門を獲る気概があった。

例外は、たった二人。

どう足掻いても、勝てるビジョンが浮かばない。コンディションはこちらだって最高だっていうのに、脳味噌が『不可能』と叩きつけてくる。

 

 成程。成程、成程。理解していたつもりだが、つもりであっただけだった。

確かにこいつは絶望的だ。自分とて上澄みのそのまた上澄みである自負はあれど、それを容易く超越してくる二人。

これは、なんとも。

 

「(面白いじゃあないか……!)」

 

 ライバルと鎬を削るようなギリギリの勝負をするのもいい。

前年勝者のバゴ、愛仏両方のダービーで勝ち負けを分け合ったダラカニ、他の皆も。

自分が勝つという自信はあるが、それでもその能力は自分と同じラインであると感じている。

そんな同じラインで勝負するのだってきっと楽しい。

 

 だが、さらにその先のラインにいる二人に勝つ為に、必死で頭を回して勝ちの目を探るのがこんなにも面白い。

どうしたって勝てない筈の相手に勝つ為に、それでも勝とうと努力するのがこんなにも楽しい。

不可能に対し、それでもと挑戦するのがこんなにも心が熱くなる。

 

 何より、ウマ娘とは、鍛え抜きに鍛え抜けばあのラインまで至れるのだと、二人が証明している。

ならば己も其処に至れないなどと、ある筈が無い。

目指す壁は遠く、高い程目指す甲斐があるのだ。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 ディープインパクトの中で、あきの言う事を疑う、という事は無い。

あきが言うならばそうなるだろう、と素朴に信じている。今まで、彼女の分析が外れた事は無く。彼女の判断に間違いはない。

無論、それは自分で考えないという事ではない。むしろ、レース中の駆け引きであるとかは嫌という程あきに仕込まれているのだから。

毎回、自分の目で見て、考えて、判断した上で、あきの見込みの方が格段に信頼できると結論している。

彼女の目がどこまで見通しているのか、どこまで計算されているのか、とてもではないが計り切れるものではない。

だから、このレースも自分が勝つ結果が見えているのだろうと思っている。

 

 ただし、それは全力を出さなくていいという話ではない。むしろ、逆だ。

今まで鍛え上げてきた身体、技術、経験、それらを100%活用すれば勝てるという意味だ。

そういう風に育て上げ、そういう風に使いこなせると、あきはディープインパクトを1ナノグラムの疑念も無く信じている。

だからディープインパクトも、それに応える。

腕の振り。足の運び。全てを教えられた通りに。崩す時も、『どう崩せばいいのか』と教授された通りに。

目線のフェイク。重心の移動による惑わし。プレッシャーによるバ群の操作。高速で流れるコースの状態の見極め。全てできると信じられた通りに。

ほら、今もフェイクとプレッシャーに引っかかり、迷いを見せたウマ娘が居る。

そのほんの僅かな躊躇を見逃さない。反応を見せた、それが全ての布石となり、全てがつけいる隙となる。

 

『さぁ各ウマ娘下り坂を抜けフォルスストレートに入っ、っとここで!ディープインパクトとラムタラが動いた!』

 

 ロンシャン最後の直線は533メートル。このフォルスストレートを含めてもおおよそ783メートル。

800メートルに届かないのならば。1000メートルすらスパートを決められる、レグルスのメンバーならば。この下り坂の運動エネルギーを使わない手はない。

追込みの位置からグンと加速する。慌てて負けぬよう加速するウマ娘も、本当の最後の直線の為に足を溜めるウマ娘も、一人を除き全員が間に合わない。

横を走るラムタラだけが、ディープインパクトの反応と加速についてくる。

 

 加速する。

風を裂き。芝を蹴り上げ。黒鹿毛に蒼の衣装のウマ娘と、栗毛に緑の衣装のウマ娘の二人が先頭に躍り出る。

他のウマ娘は全員抜き去り、あとは横に居る相手だけだ。

 

 足の回転を上げる。

遠くに在る星を追いかけるウマ娘と、遠くに在る星に手を伸ばすウマ娘。

互いに目指す夢がある。達成すべき目標がある。

其処に立つのは己なのだと、本能が、精神が吠え立てる。

 

 あの先を目指せと、魂が叫ぶ。

誰より速く、誰より遠く、行け、先に行けと己の中の何かが、途轍もない熱で謳い上げる。

汗が弾け飛び、呼気は激しく、それでも眼を炯炯と輝かせ。

 

 走る。叫ぶ。口から流れ出るのは言葉にならぬ絶叫だとしても。勝つのは、己だと大声で。

 

『先頭はディープインパクトとラムタラ!ディープ内!ラムタラ外!最後の直線に入っても譲らない!二人が全く譲らない!』

『後続を完全に振り切った!ハリケーンラン加速するもこれは間に合うかいやこれはもう無理!先頭争いは完全に二人のマッチレースだ!』

『三度目の正直になるのか!二度ある事は三度あるのか!欧州三冠を懸けたこのレースで!王者の意地がぶつかり合う!』

『ディープインパクトか!ラムタラか!ディープか!ラムタラか!どっちだ!どっちだ!?今ゴォール!!!』

『解りません、此処からでは僅かにディープインパクト体勢有利に見えましたが、どちらでしょうか!三着は大きく離れてハリケーンラン!』

『タイムは…2分23秒3!?え、稍重のロンシャンで!?は!?あ、いえ失礼しました、レコード、レコードタイムです!』

 

 三度目の衝突。しかし、以前の二度の激突とは違い、着順はすぐに出た。

ハナ差、18センチ。ほんの僅かな、それでも決定的な差で。

 

『順位確定しました、1着はディープ、ディープインパクト!ライバルとの死闘を越え!G1勝利12勝目!見事!イギリスクラシック三冠に続き!欧州三冠を戴きました!!』

 

 勝者、ディープインパクト。空を駆ける英雄が、凱旋門を潜り抜けた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「負けた…か…」

 

 不思議なほどにショックは無かった。あれほど望み、全てを賭して挑んだレースだというのに。

むしろ、表情を変えまいと唇を嚙みながらも、ボロボロと泣いている代理人の方が余程悔しそうに見える。

それとも、現実感が無いだけなのか。それも、多分、違う。

 

 きっと、おそらく、気付いてしまっただけなのだ。自分は今までただ一人の為だけに走ってきた。

その為に全てを切り捨てて、足も未来も命さえも使い果たしていいと思って『いた』。

あぁ、なのに、走る理由がいつしか増えてしまっていた。

人を一人背負って走るのでさえもこんなに難しい事なのに。

気難しくて頑固で、なのにウマ娘の事に何処までも真摯なあの『トレーナー』と。

何処までも真っ直ぐに純粋で、見果てぬ夢を追いかけ続けているあのライバルと。

全力を尽くして、何処までも走って、戦って。きっと、きっとあの『ラムタラ』は満足してしまったのだ。

 

「ラムタラさん」

「…ディープインパクト」

 

 さっきまで、肩で息をしていたライバルがこちらに顔を向ける。

いつも見ていた、とても真っ直ぐな瞳で。何処までも夢を追いかける光を灯した眼で。

こちらに、手を伸ばす。こちらも、その手を掴む。

 

「また、走りましょう」

「…今度は、私が勝つわ」

 

 私は弱くなったのだろうか。

走る理由が増えてしまった私は、背負うものが増えてしまった私は、前より遅くなってしまったのだろうか。

それはきっと、違うのだろう。

胸に抱いたものと、この背に背負ったものはきっと、力に変えていけるものだ。

これから、自分が自分として、強くなっていく為のものなのだ。

 

「次も、いえ。ずっと、負けません」

「…首洗って待ってなさい」

 

 とりあえずは。この生意気なライバルに勝つ為に。

ウマ娘として、ラムタラとして。この先も走るのだ。




ラムタラの『トレーナー』「四戦で引退はしない!しないんだよ!」

というわけで欧州芝2400は暫く地獄の環境が続くな!(白目)
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