しかもなんか日間ランキング1位になってる…どうしてなの…(震え声)
そして今回で明かされるチートオリ主の教え子達。
この年代は…地獄だな……
春、トレセン学園中等部一年第一回模擬レース、芝2000m。
入学したばかりの初々しいウマ娘達を時に熱く、時に微笑ましく見守るそのレースは、常ならぬ熱気を孕んでいた。
その理由は、ただ一人に集約されている。
新入学生代表、ディープインパクト。
競走ウマ娘のエリートが集うこのトレセン学園で、入学したばかりにも関わらず『モノが違う』と評されているウマ娘。
入学試験官が興奮気味にそう語り、眉唾であるが試験レースを共に走ったウマ娘達、全員が心を折られ、入学を辞退したとまで噂されるウマ娘。
本人も名家の出身であり、血筋も確かな、将来のアイドルウマ娘候補の大本命。
そのディープインパクトが、とうとうこのトレセン学園で走るという。
それを聞いた者たちはこぞって彼女のレースを見に来たのだ。
ある者は偵察の為、ある者は評判を確かめに、ある者は今後のレースを見極めに。
そんな熱気がレース場を包む中、津上あきはゴール板周辺観客席で、訳知り顔で腕組みしていた。
なんならディープインパクトの話題になる度に、耳がピクピクと動いてドヤ顔している。
トレセン学園の制服に何故かトレーナーバッジが付いている事を不思議に思う周囲の目線を集めながら、満足そうにむふーと息を吐いていた。
「先生、顔、顔」
「相変わらずお嬢の事になるとすんごい顔緩むよね、先生」
「おや、キリちゃんにミリアちゃん。翔ちゃん達の応援に来たの?」
そんな不審ウマ娘に声をかけたのは、ディープインパクトと同じく今年のトレセン学園新入生。
早くもダート路線ではこの双璧と呼ばれるカネヒキリとヴァーミリアンである。
この二人は実はディープインパクトと同門の出自であり、ディープインパクトが親戚の子供同士の集まりに津上あきを連れてきた事から付き合いが始まった。
最初は二人も芝を走っていたのだが、『ちょっと比べるの可哀そうなくらいダートの方が才能あるよ』とあきに教えられ、さらに鍛えられ。
実際に走ってみれば、あきにダートも走れるように鍛えられ始めたばかりのディープインパクトに圧勝。
本来ならターフ走るんだからしょうがないよね、ですまされる所をディープインパクトが負けず嫌いを発症、それにあきが応え。
勿論ダート路線に才能があるならそれで走ろう、と決めた二人も『専門でもないのに走るヤツに負けるか』と燃え上がり。
今では三人なら誰が勝つか解らない、本当に本当に僅かだけ、ディープインパクトが有利か、くらい走るウマ娘である。
あきの指導力もおかしいが、芝もダートも両方走って専門と勝負できるディープインパクトも殊更に異常である。
しかしあきの教え子達は全員が脚質自在な為、最早全員異常である。
あきが指導したウマ娘はもう二人居て、その二人、ラインクラフトとシーザリオはティアラ路線を進む予定のウマ娘であり。
そちらは芝専門なので模擬レースの方に出ており、この場には居ない。
「いやいや、むしろ応援するなら他のウマ娘よね。お嬢達の相手するの可哀そうよね」
「ラフィとリオが同じレース。お嬢様は最終レース。正直蹂躙しか見えない」
頬に手を当てて他のウマ娘の心配をするヴァーミリアンと、断定的に三人が蹂躙すると言うカネヒキリだが、ダート路線では二人も人の事を言えない立場である。
路線的に三冠路線はディープインパクトが踏み荒らし、ティアラ路線はラインクラフトとシーザリオが分け合い、ダート路線ではカネヒキリとヴァーミリアンが君臨するであろう、というのが二人の予想である。
下手するとディープインパクトがダートの方まで出てくるかもしれないが、日程的にそんなに余裕が有る訳でも無いので、ウマ娘の脚を大事にするあきならばやらない…やらないんじゃないかなぁと思っている。
本来ならターフ専門で走る筈だったのにいつの間にか地形不問、距離不問で走ってこっちを追い抜いてくるお嬢様に、二人はいい加減にしろよと思う。
負ける気は無いが。
「いやぁ、そんな蹂躙なんて言いすぎだよぉ」
「其処で謙遜した台詞言いながら思いっきりドヤ顔で胸を張るんだから先生も相当よね」
「処置無し」
教え子を褒められるのなら相手が誰でもドヤるあきを呆れながら見る内に、レースは進み、ラインクラフトとシーザリオのレースである。
すると、あきは途端に持ってきていた鞄の中から何かを残像が見えるほど素早く取り出した。
「ラフィーちゃーん!リーオちゃーん!頑張れー!!」
無駄に精度の高い二人のイラストが描かれたうちわ(自作)である。
それを右手左手共に三本、無駄に絶妙な握力操作でイラストが被さらないよう指に挟み、ばっさばっさと振り回して応援の声をあげる。
周囲がこいつマジか、と見やり、カネヒキリとヴァーミリアンはすっと距離を取り、ラインクラフトとシーザリオは赤面して俯いた。
瞬間、スタート。
メンタルコンディションに関わらず二人は好スタートを切り、そのまま逃げの態勢。
二人とも他のウマ娘を寄せ付けず、スタートから第四コーナーまで二人でトップを走り抜ける。
後続のウマ娘も懸命に追いすがるが、まるで届かず一対一のタイマン勝負。
たたき合いとなったその結果は、1番内枠ラインクラフトが10番外枠シーザリオをアタマ半分抜いての決着となった。
タイムは1分58秒6、2000m皐月賞の優勝タイムの多くを突き放し、レコードまであと0.1秒という結果に会場がどよめいた。
なお、二人ともゴールしたその脚で、ゴール板前ではしゃいでいた一人のウマ娘を仲良く蹴りに行った。
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さらにレースは進み、この模擬レース最後のコース。
5枠9番、最外、ディープインパクト。
ラインクラフトとシーザリオに応援グッズを全て没収されてしまったあきはちょっと耳を垂らしながら、ゲートに入る前のディープインパクトを見ていた。
今日も良い仕上がりである。
他のウマ娘をさらっと見たが、ディープインパクトに勝るようなウマ娘は居ない。
「翔ちゃん、がんばれー!」
負ける心配など欠片もしていないが、それと応援するかどうかは別と、両手を振り回してディープインパクトを応援するあき。
カネヒキリとヴァーミリアンはこれからの学園生活で他人の振りをするべきか悩みつつ、またすっと距離を取っている。
今まで傍目にはぽやっとレースを眺めていたディープインパクトが、微笑を浮かべてその手を小さく振り返し。
ゲートインした、その瞬間。
空気が、切り替わる。
重い、重い、ひたすらに重い。
ゲートインした他のウマ娘達は、今居る場所が猛獣と一緒に入れられた檻の中であるかのように幻視する。
腹を空かせた狼が、涎を垂らした虎が、舌なめずりする獅子が、隣に居る!
逃げたい、こんな所に居られない、早く出せ!
瞬間、ゲートが開き。
他のウマ娘達は、一斉に全力で駆けだした。
まるで後先を完全に考えていない全力疾走、必死な形相で走り出す。
隊列など考える余裕も無い、全員少しでも早く速く逃げたいという破滅逃げ。
途轍もないハイペースで走り、1000mを57秒後半で駆け抜けようとした、その時。
スタートからその時までずっと大外に居た影がするっと抜け出した。
内に入るなど考えもせず、そのまま大外を回り、直線でスパートをかけ。
無理に逃げ出して、恐怖の元凶が前に行ってしまった為に、スタミナが尽きて気も抜けてしまって垂れてしまったウマ娘達を気にも留めず。
2000mを1分56秒で走り切って、なお余裕。
その名の通り、余りにも深すぎる衝撃を、そのウマ娘は刻み付けた。
――――――――――――――――
あまりにも衝撃的な勝利を見せつけたディープインパクトがトレーナー達に囲まれている。
まぁ、それはそうだろう、彼女はあまりにもモノが違いすぎる。
津上あき、渾身の指導を授けたスーパーウマ娘である。
これだけ速くてしかも踊って歌えてしかも可愛いのだ!もう翔ちゃんしか勝たん!と後方腕組トレーナー面のあきである。
とはいえ、レース以外でのディープインパクトはやや天然入ってるおっとり系お嬢様である。
海千山千のトレーナーの口八丁に惑わされてトレーナー契約用紙にうっかりサインしかねない。
「はいはいちょっとごめんねーすまないねーどいてねー」
これはボクが守護らねば!と、トレーナーの波を掻き分けてディープインパクトの前に立ち、『翔ちゃんはボクの生徒だぞ!』と高らかに威嚇しようとした、その時。
はっしと服の袖を掴まれた。
「?」
何の用か、とあきがディープインパクトに問いかける、その前に。
ディープインパクトがにっこりと微笑んで。
「私のトレーナーの条件は、あきちゃんを全力で走らせてくれる人です」
トレセン学園中等部一年第一回模擬レース。
そのエクストララウンドを決定付ける一言が飛び出した。
チートオリ主『????』
翔子ちゃん『ねぇ、あきちゃん。かけっこしよっか』(にっこり)