チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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実際日本の馬が勝ったらそりゃあ大騒ぎになるだろうなぁ。
今日開催される予定ですがどうなる事やら。日本馬の活躍を祈ります!


第五十七話 菊花賞に向けていろいろ動いているが、凱旋門賞勝てばそりゃそうなる

 ディープインパクトが凱旋門賞を優勝した。当たり前であるが日本では蜂の巣をつついたどころではない大騒ぎである。

日本に所属する幾人もの超一流のウマ娘が挑み、それでも勝つ事ができなかったレース。

今まで欧州のウマ娘以外の優勝者が出ていなかったそのレースで、初めて勝ったのである。

しかもそれまで同着を繰り返していたライバルに先着する形で、欧州三冠まで果たした。

そして無敗でG1を11勝目。かの皇帝、シンボリルドルフの記録さえ塗り替えた大偉業である。

もう騒がない方がどうかしている。

 

 勿論トレセン学園には超大量の取材の申し込みが殺到し、とんでもない規模の処理待ち書類に事務の目が死んだ。

言うまでもないがシンボリルドルフ理事長もこの事務処理やら手続きに追われ、あまりの仕事量の多さに耳と尻尾がへなっていた。

日本のウマ娘の悲願とも言える凱旋門賞を勝ってくれたのは確かに嬉しい。

嬉しい事なのだが、単純に喜んでばかりもいられない地位と責任と仕事量にほんのちょっぴり後悔の念を覚えもしたのである。

 

 なお、取材そのものについてはディープインパクトはそつなくこなしている。

そして基本的にあきはトレーニング以外にもレグルスのメンバーの学業についても面倒を見ており、レグルスのメンバーは成績も良い。

学業成績良し、競走成績良し、マスコミ受けも良しという、ディープインパクトはまさにパーフェクトと言っていい。

が、一部どこぞの掲示板などからは『トレーナーを見る眼がなんかこうヤバイ』とか『レースに対する意気込みが修羅過ぎない?』と滲み出ているものを嗅ぎつけられているようである。

 

 そしてディープインパクトの次走は日本三冠最後の一冠、菊花賞。

今までに英国三冠、欧州三冠を達成し、ついに日本での三冠、しかも無敗での達成が見えている。

これまでの実績やレース内容から既に菊花賞を勝つ事を確実視されているディープインパクトであるが、彼女は一切油断も慢心もしていなかった。

 

 世間はラムタラこそが例外なのだという。レグルスのメンバーでも無いのに、ディープインパクトに迫った彼女だけが例外だと。

しかし、ディープインパクトはそうは思っていない。たしかに、今までのレースでは他のウマ娘達は何バ身も離されている。

だが、それを縮まらないものとはディープインパクトは考えていない。ラムタラは、『最初の一人』だっただけだ。

あきに鍛えられて確かにレグルスのメンバーは強い。だが、あきの研究が世に出て他のウマ娘だって強くなった。

その影響がいつまでも出ていないと考える程、ディープインパクトは甘い考えをしていない。

 

 最後の三冠、菊花賞。日本ダービーで競った他のウマ娘達も、全力で狙ってくる筈だ。

ナリタトップロード、ダンスインザダーク、サクラスターオーはあきからは特に注意するように言われている。

他のウマ娘達だって油断なんてできよう筈がない。

無敗三冠がかかっていようが、そんなものは知るかと挑みかかってくるのは間違いが無い。

 

 それを想像するだけで、思わずディープインパクトは笑みが零れてしまうのだ。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 トレセン学園のとあるトレーニングコース、ダンスインザダークは走りの中、己の中に深く埋没していた。

得意の長距離とはいえ、明確に有利がついているわけではない。ライバルとなるステイヤーは、それこそ多い。

何もディープインパクトだけが強いわけではない。ダービーを見ると良い、明確に、明らかに壁を越えた者達は何人もいる。

確実に。着実に。ウマ娘達全体のレベルが上がっている。

それは、何もG1に出るような才能に溢れるウマ娘達に限らない。

 

 レースとは過酷な世界だ。一度も勝てず、トゥインクルシリーズを去るウマ娘もそう珍しい事ではない。

彼女達は諦めながらも現実を受け入れて、涙と共にトレセン学園を去っていく。

一度はライブのセンターに立ちたいと思いながらも、夢破れていなくなるウマ娘のなんと多い事か。

華々しいレースも、勝負の世界である事は間違いが無い。勝つ者がいれば、負ける者がいる。

 

 だけど、それでも。

一度も勝っていなくても、ライブに出た事すらなくても、歯を喰いしばり、這い上がろうとするウマ娘が増えた。

レースの最中、追い抜かれても、『無理』と泣き言を漏らすウマ娘が居なくなった。

ディープインパクトがレースに出て来てからの、確かな変化としてそれは起こった。

 

 普通。あそこまで圧倒的な強さを見せられれば逆に諦めるものだ。

あれに勝てなくてもしょうがないと、負けてしまっても仕方ないと、心を折られてしまう。

そんな言い訳を慰めとして、レース自体を辞めてしまってもおかしくはない。

 

 だけど、ディープインパクトに挑戦し、追いかけ続けるウマ娘達を見たからか。

それとも、ディープインパクトの何処までも挑み続ける瞳を見たからか。

彼女の眼が語るのだ。まだ走れる、ウマ娘の限界はこんなものじゃないだろう、と。

彼女はどんなウマ娘だろうと、純粋な、真っ直ぐな眼で相手を見る。未勝利であろうと、G1で競う相手であろうと、変わらない眼で。

その眼が、その光が、夢が、他のウマ娘を走らせる。『諦めたくないのはお前だけじゃない』と叫びたくなるのだ。

 

 だからこそ。だからこそ、『もう一段階上』が必要だ。レースにおける絶対の集中の先。

自分だけの領域。それを見出す。勝負はそれからだ。

 

 ダンスインザダークは走る。出口の見えない暗闇の中を、それでも踊るように。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「無敗三冠、か」

 

 トレセン学園理事長室。シンボリルドルフは書類を捲りながら、かつて己も成し遂げたその業績を呟いた。

今まで、日本のレースにおいて三冠の栄誉を戴いた者は複数存在する。

だが、無敗のままで三冠を成し遂げたのは今まで皇帝、シンボリルドルフただ一人である。

 

「何か思う所がございますか、理事長」

「いや、何。私などとは比べるべきも無い成績だよ、彼女は」

 

 エアグルーヴ秘書に問われ、シンボリルドルフは平静な口調で返す。そこに嘘は全く無い。

確かにディープインパクトは無敗三冠へリーチがかかっている。事前予想でも、三冠は確実視されている。

しかし、その実績は既に自分とは比べるべくもないものだとシンボリルドルフは思っていた。

既に獲った英国三冠と欧州三冠。己が成し得なかった海外挑戦。勝利したG1の数も、この間の凱旋門賞で抜かされた。

トレセン学園理事長として、URA常任理事(最近任命された)として、彼女達の活躍は喜ばしいものだ。

日本のウマ娘が世界でも広く活躍してくれる事、それはシンボリルドルフが望んだ事でもある。

そう、理事長として、この学園の運営に携わる者として、彼女達に不満など何もない。

 

「――ただ、私が居れば最後の冠は貰っていっただろうな、と考えただけさ」

 

 だが。ただの個人としての、ただのウマ娘としてのシンボリルドルフがどうしても考えてしまう。

皐月は無理だ。ダービーも同じく。しかし、菊花賞のみに焦点を合わせられたなら、もしあの場に、同じ世代で走れたのなら。

皇帝と呼ばれた己の自負にかけて、ディープインパクト相手に一勝はもぎ取ってみせる自負はあった。

現役を退き、二十年以上経っているというのに、オルフェーヴルの時でさえ熱を覚えなかったというのに。

それ程までにディープインパクトの走りに魅せられたというのだろうか。

あるいは――

 

「URAファイナルズに登録しますか?また走れますよ」

「はっはっは、確かに魅力的だが、私はもうロートルもいい所だよ。年寄りの冷や水などと呼ばれぬように大人しくしているとも」

 

 声に少しばかりの茶目っ気を含ませたエアグルーヴが言えば、シンボリルドルフも笑って返す。

現役時代も含めれば、互いに実に長い付き合いだ。

生徒会長と生徒会副会長だった自分達が、今では学園理事長とその秘書だ。

人生の半分以上を共に歩んできたお互いだからこそ、理解できる事がある。

 

「……それに来年度のURAファイナルズは、いろいろと準備が必要だからな」

「……そうですね」

 

 だからこそ、眼をキラキラと輝かせたディープインパクトが持ち込んできた案件をどうしよう、という悩みを共有する事もできる。

来年、ディープインパクト達が3年目を走った後のURAファイナルズ。

そこに、彼女達のトレーナーである津上あきを出場させる。

URAファイナルズは本人の希望とファンの投票と予選を勝ち抜く実力さえあれば誰でも出場可能とはいえ、あの規格外すぎる津上あきをはたしてどう扱えばいいのか。

今から考えても胃が痛くなるような内容を共有できるのは、確かにお互いしか居なかった。




リジチョー「普通に出すだけだと蹂躙して終わるじゃん…どうすればいいの…」
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