チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える   作:白河仁

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第六話のリジチョー見てもらえるとわかると思いますがこの世界はレース結果が大幅に変わっております。
独自設定タグを使い倒して行け(迫真)


第七話 この世界のレース結果は史実をアテにしてはならない

 トレセン学園近くの商店街にその店はある。

いつもは商店街のお年寄りや、店主のファンだった者たちがわいわいがやがやと騒がしい小さなバー。

今日は、二人のウマ娘によって貸切られていた。

 

「んん~もぉ~!!もぉ~いっぱぁああ~い!」

「テイオー、あんた飲み過ぎよ。仕事明日もあるんでしょ」

「どぅあぁ~ってさあぁ~!」

 

 すっと店主がこれでも飲めと差し出した水を脇に置き、そのままウザ絡みを始めたのは、トウカイテイオー。

『ダービーは獲り逃がした』ものの、『皐月賞、菊花賞を勝った』クラシック二冠、『G1レース六勝』の名ウマ娘。

『出場したレースは競走中止以外全て1着か2着』という誰もが認めた世代の最強であり、三度の骨折を乗り越えて走った不屈の帝王、『もう一人の不屈のウマ娘』として知られている。

特にジャパンカップ優勝後の有記念で『レース中骨折での競走中止』からの丸1年休養した後、ほぼぶっつけ本番で復帰した有記念で見事に勝利を遂げたレースは今でも伝説になっている。

レースを引退した後は、彼女が慕うシンボリルドルフを助けるんだと猛勉強、今ではトレセン学園で教鞭を執っている。

活発で気風のいい彼女は実績もあってトレセン学園生徒達からも人気であり、評判も高い。

 

「ステータス、酩酊を感知。これより冷却水の摂取を開始します」

「それは日本酒だってーの!水ははい、こっち!」

 

 淡々とアルコールを飲み続け、水と酒の区別がついてないポンコツっぷりを見せながら店主に世話を焼かれるのは、ミホノブルボン。

数多くの勝利ではなく、『たった三度の敗北』をこそ良く語られる、クラシック二冠、『G1レース八勝』の、これも押しも押されぬ名ウマ娘。

三度の敗北も全て2着に入っており、調整不足で走りレース後に怪我が判明したジャパンカップ以外では、負けた相手も菊花賞でのライスシャワー、宝塚二勝目をかけたメジロマックイーンと強豪相手。

本人は後の宝塚記念とジャパンカップで勝利してリベンジしており、天皇賞秋を二連覇している。

レース引退後はトレセン学園にて、坂路コースを中心とした体育教師として勤めている。

 

「ネイチャネイチャネイチャネイチャー!聞いてよ聞いてよ聞ーいーてーよー!」

「あーはいはいわかったわかった」

 

 そして今、トウカイテイオーがウザ絡みをしているこのバーの店主にして、世代の不屈のウマ娘、そして『ダービーウマ娘』、ナイスネイチャ。

彼女を評す言葉は様々あるが、一番有名であろうのは『トウカイテイオーが絡まないと全力出せないウマ娘』であろうか。

彼女はトゥインクルシリーズ最初の3年間、G1レースに十一回出走した。

そしてトウカイテイオーとオープン戦で一回、G1レースで七回、計八回を共に走っている。

一番最初に共に走ったオープン戦では大敗し、そこから彼女は奮起した。

次の対決のホープフルステークスでは2着まで上がるもののまだ差を付けられ意識されず。

次の皐月賞で2着につけたものの詰め寄って一バ身差。

そしてついにダービーで追い縋り、最後の最後競り合って執念のハナ差勝利を遂げたものの、無理が祟ったのか怪我をして菊花賞は見送り。

回復後、菊花賞後に骨折したトウカイテイオーが居なかった最初の有記念ではやる気が最後まで続かなかったかのように三着。

翌年、大阪杯から復帰したテイオーに、テイオーが走るなら私も走ると言わんばかりに出た大阪杯では負けて2着。

テイオー二度目の骨折からの復帰、天皇賞秋では二度目は許さんとばかりに勝利したら、今度は自分が怪我をする。

怪我から復帰後、テイオーと出た二度目の有記念では、たたき合いをしていたテイオーの異変に思わず大きく振り返り、彼女の『走れ!』の叫びに押されて、『あの振り返りさえなければ』と言われる三着。

また翌年、『トウカイテイオーのライバル同士の対決だ』と呼ばれた大阪杯では、『誰が本当のトウカイテイオーのライバルか理解らせてやる』とばかりにメジロマックイーン相手に勝利をもぎ取り、また怪我。

復帰した天皇賞秋ではトウカイテイオーがずっとお休みの為やる気出なかったのか三着で、三回目の有記念もまた三着なのかなぁとファン達の生暖かい視線の中、トウカイテイオーが復活したのでやる気出して二人でワンツーフィニッシュ。

トウカイテイオーが出ないG1レースでは勝ち切れず、トウカイテイオーが絡めば勝つか2着――テイオーが競走中止になった2回目の有は除く――。

勝っても怪我をし、それでも必ず立ち上がってまた走った彼女は世代最強とは言われずとも、おそらく世代で最も愛された名ウマ娘である。

ネタ的な意味でも大いに愛されているウマ娘でもあるが。

今では実家であった店から暖簾分けされ、彼女も親しんだトレセン学園付近の商店街でバーを営んでいる。

 

「それで?今年の新入生の話だっけ?」

「そぉうなんだよぉ~、もうね~ボクはね~」

 

 もうその話三度目だけど、と思いながら、ナイスネイチャは慣れた様子で酔っ払いの相手をする。

とんでもない新入生が入ってきて、その走りが凄いらしい。

でもそのトレーナーの方がもっととんでもなかったらしい。

でも新入生が諦めずに走ってやっぱり凄くて。

よく考えると新入生の出したタイムもやっぱりおかしいし。

あんな走り見せられてファンにならない人なんていないよ反則だよアレ。

 

 そんな賞賛と嫉妬とその他諸々が混ぜこぜになった愚痴が先ほどからループしている。

ミホノブルボンに少し水を向けてみても『ステータス、羨望を検出したのは事実です』などと、新入生がとんでもない事をしでかしたのは事実らしい。

 

 ナイスネイチャは思う、やっぱり引退した後までレースに関わる仕事に就くものじゃないなぁ、と。

聞いてるだけでちょっとうずうずしてくるのだ、実際眼にした二人はどんな心境だろう。

ウマ娘はレースを走るのが本能だ。

他の強いウマ娘達が、自分を置いて走っているのを近くで見ているだけなのは、闘う機会が無いというのは結構辛い。

こいつもいろいろガマンしてるんだろうな、と当時と比べて色々と大人になった親友を思い、ナイスネイチャはやれやれ仕方ないなぁとまた愚痴を聞いてやるのだった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 春のトレセン学園はやにわに活気づいていた。

中等部一年生から話が広がり、ディープインパクトは凄い、ディープインパクトは強い、今からクラシックを走っても圧勝できる、などと。

そんな噂が上の学年にまで広がっている。

 

 そんな噂が流れる中、かつて、最強チームと謳われ、スピカが台頭してきた後も双璧と呼ばれ、時を経て今なお最強と名高いリギルのチーム室にて。

一人の褐色の肌色をしたウマ娘が、机の上に広げられた資料を見ている。

それは先日行われた一年生模擬レースのデータであり、その中には噂の人物達、ディープインパクト他、その幼馴染達の名前――とある一人は載っていないが――が載っていた。

彼女が見つめる先は一人のウマ娘のタイム。

芝2400m、2分19秒0。

彼女が強い事は知っていた。

なにせ、『本家の秘蔵っ子』、『最高傑作』とまで言われていたし、面識もある。

一目見てこれは強い、と思っていたし、あの子『達』なら大幅なレコード更新くらいやらかすかもしれない、とも思っていた。

しかし、今のこの現状は。

今、クラシックレースを走っている自分達を無視してあっちが最強、向こうが強いなどと騒ぎ立てるなど。

思わずピリリとした圧を漏らしかけた時――

 

「カメ、落ち着きなさい」

「あらーん、ちょ~っとピリピリってしちゃってたかなー?」

 

 ぽん、と彼女のトレーナーに肩を叩かれ、はーやれやれと――豊かなおかげでコリも酷そうな――肩を回す。

トレーナーの名は東条ハスミ。

初代リギルトレーナー、東条ハナの実子であり、ちょっと前まで最年少中央トレーナー資格取得記録を持っていた弱冠20歳の新鋭トレーナーである。

 

「ほら。これでも舐めて落ち着きなさい」

「わ~い、私、はすみんの飴好きよ。甘いしカラフルで楽しいしね!」

 

 東条ハスミは常に常備しているウマ娘用キャンディポーチから――彼女自身のものはシュガーレスなので入れる場所を変えている――飴を一本取り出し、担当するウマ娘に渡す。

蜂蜜が多めに練り込んであるその飴はウマ娘達に好評だ。

ハスミは既に口にしている飴の棒を軽くつまみながら、彼女の担当しているウマ娘の中でも最強の『大王』に問う。

 

「ディープインパクト。彼女、知り合いなの?」

「えぇ、あっちは『本家』のお嬢様だしね。親戚の集まりでも顔を合わせた事があるし、ちっちゃくて可愛い子よー?」

 

 くすくすと思い出し笑いを溢す彼女であるが、それにしては先程の空気は攻撃的に過ぎた。

やはり、原因はあの噂であろうか。

 

「やはり噂の事が?」

「えぇ、まぁ正直に言うわ。気に入らないわね」

 

 強い、速いと言われるのは良いだろう、実際そうだ。

だがまだメイクデビューすらしていないウマ娘に対し最強と騒ぎ立てるなど片腹痛い。

成程レコード、良いだろう。

お前達がレコードを見せたいというなら見せてやる。

 

「ねぇはすみん。私、出るレース変えるわ」

「ふぅん?まぁ、まだ修正は効く範囲だけど、希望は?」

 

 それはいつからかは知らないが呼び名があった。

それが何なのか、物の名前なのか、人の名前なのかそれすら不明。

ただ、その過酷さから別名を『ウマ娘を壊す為だけにあるもの』、『死のローテーション』。

 

「皐月賞、NHKマイルカップ、日本ダービー」

「 !! あなた、それ…」

 

 誰が呼んだか、それの名は『マツクニローテ(真)』。

未だ誰も達成した事のない異例の冠。

 

「…やらせると思ってるの?」

「ん~?やらせる、やらせないって話じゃあないのよ」

 

 これまでのレース史において、最も過酷と言われるだろう道の第一歩を踏み出す。

己こそが最強なのだと高らかに叫ぶ為。

 

「やるのよ」

 

 『大王』、キングカメハメハ。

『最強』は、この私だ。

 




前半三人の内なんか一人やたら多いって?しょうがないね、ネイチャはかわいいからね。

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