暖かい陽気に包まれた教室でみっともなく鼻提灯を膨らませながら僕は惰眠を貪っていた。
そして、無機質なチャイムが鳴り響く。
「ほら、授業終わったよ」
僕は声が掛けられた方に頭を上げて目を向けると声の主は真秀ちゃんだった。
「また寝てたの?ダメだよちゃんと起きてないと」
呆れた様な顔で真秀ちゃんはため息を付いた。
「眠いから」
僕はグッと伸びをして、教室を見渡した。
帰り支度をする者、友達と雑談を交わす者、授業が終わってもなお勉学に励む者、多種多様な人がいた。
「早く彼女の所に行かないと怒るんじゃないの?」
「そうだね、それじゃまた明日」
僕は教科書を鞄に入れて教室を出た。
彼女、というか僕の恋人の清水絵空の待つ教室へ向かった。
絵空とは最近付き合ったばかりで、妖艶で、でもどんな事も楽しもうという強さのある女の子。
今日はどこにデートに行こうか。なんて考えながら歩いた。
「ねぇ?話したい事があるんだけどいいかしら?」
ドアを開けた途端、僕の背筋に寒気が走った。
僕の恋人、清水絵空が笑顔でドアの前に立っていたのはびっくりしたけどそれ以上に何処か含みのある、怒りを滲ませた笑みでうふふと微笑んでいる。
はて、僕は何かしただろうか。
「えっと、どういう事ってどういうこと?」
状況が掴めなくて僕は聞き返す。
すると彼女は携帯を取り出し、サッと操作してその画面を僕に見せた。
それには僕とむにちゃんが喫茶店で二人並んでいるものだった。
うーん、と僕は思案する。
「私はとっても悲しいわ。将来の旦那様がこんなことするなんて」
しくしくと言いながら泣いた振りをしている絵空。
「えっとね……それは……」
別に隠す程のことでもないけど、本人のプライバシーもあるから多少誤魔化さないと
「あ、私に誤魔化しは効かないわよ?交渉事が得意なのは貴方も知っているわよね?」
「ぐぬぬ……」
僕は絵空に口論で勝ったことがない。
清水家で鍛えられた交渉のスキルで嘘をついても誤魔化してもすぐ見抜かれる。
うふふ、と微笑み僕に圧を掛けている。
早く私に話せと。
蛇に睨まれた蛙とはこの事を言うのだろうか。僕は恐怖で動けなかった。
「そんなに恋人の私なのに信用出来ないかしら?」
ただじっと揺らぐこと無く僕の目を見つめている。でもその目は何だか悲しそうで。するりと僕は話した。やはり恋人の悲しむ顔は見たくはなかった。
「えっと……その……むにちゃんが絵を描く道具を一緒に買いに行こうって。1人じゃ寂しいからって言われて……」
流石に彼女のいる身で女の子と二人で買い物に行くのはマズかっただろうか。
「嘘は……付いてない見たいね。それならせめて連絡の一つも欲しかったわね」
絵空は腕を組んで、『はぁ。』を深い息を吐く。
「本当にごめん……」
「私、浮気してるんじゃないかって思ってたのよ?」
ぎゅっと彼女は僕の制服の袖を掴んだ。その手は小さく震えていた。
「いや、本当にそんなつもりはなくて」
「次こんな事したら閉じ込めちゃおうかしら♪」
「冗談……だよね?」
「もちろんよ、今のところはね♪」
これからは浮気や疑われるような事はしないでおこう。僕はそう固く胸に誓った。
絵空に叱られてぇよ……