異世界転生的なオリジナル、手習い程度にやってみました

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異世界転生的な何か、クライマックス

 歴代の魔王の中でも、「偉大なる」と呼ばれる魔王は少ない。

 彼は、間違いなく偉大なる魔王であり、慈愛に満ちた優しさと、それを裏付ける強さを併せ持った魔王であった。

 むろん、ただ力を生まれ持っていただけではない。

 溢れんばかりの才能と、その才能を最大限に伸ばす事の出来る環境、そして本人の飽くなき不断の努力。

 更に勝って驕らず負けて腐らず、誰かが苦しんでいるならば身を削ってでも助け。

 誰もと楽しむ事を心から願い、己を顧みる事を忘れない。

 

 誰もが、彼に出会えばいうだろう。「偉大なる、魔王の中の魔王だ」と。

 

 魔王は、今、勇者と相対していた。

 魔族であるがゆえに避けられぬ、人族との戦い。

 

 魔族と人族がどちらかが滅びなければどちらも生き残る事は出来ない……という関係ではなく。

 生活圏も経済圏も噛み合うことなどあるはずがないほど離れた場所に生きていた二種類の知的生命体は、最早だれも理由など判らない戦いを、繰り返していた。

 

 勇者は、この世界の人間ではない。

 元居た世界から、神によって魂を拉致されてきた人間。

 親兄弟も、恋人も友人もあるだろう、ただの青年。

 

 転生し、こちらの世界の人間として生きてきたとしても、その状況が健全である訳がない。

 だから、魔王は勇者の振るう、神によって与えられた無敵の力、無双の能力を鍛え鍛えた己の技術と精神で迎え撃ち、語り掛ける。

 

「勇者よ、なぜお前は戦える。この世界はお前には本来なんの関わりもない世界だろう」

 

 返答は鋭い斬撃、単純に見えて変幻自在、鈍足に見えて神速。それをいなし、受け、弾き、魔王は続ける。

 

「護る物もなく、大義もなく戦う今のお前は、殺戮機械と何が違う?勇者よ、人とは機械であってはならぬのだ」

 

 返答は無慮多数の魔法、炎が、氷の槍が、雷が、風が、岩礫が、挙句の果てには隕石が、原子崩壊の高熱が魔王を襲う。

 しかし魔王はその全てを無効化し、防いで見せた。

 

 神に与えられた力を十全に使って戦う勇者と、己の才能を恵まれた環境と不断の努力によって鍛え上げた魔王。

 激しい戦いの中に、魔王の問いかけだけが静かに響く。

 

「お前の生きてきた世界にも、青い空があるだろう、美しい海があるだろう、深い緑に萌える自然があり、その世界で生きている人々は完全に善良でなくとも、誰もが出来る範囲で優しく在ろうとしていたはずだ」

 

 鈍い音を立てて、勇者の剣を魔王の剣が受け止める。わずかでも力が逸れれば、刃はその身を裂くだろう。

 

「勇者よ、私ならばお前を元の世界に還す事ができる、お前がもう会えぬと思っている親兄弟、友人、恋人にもう一度会う事ができるのだ」

 

 魔王が膂力を持って勇者の剣を押し返す。勇者は大きく蜻蛉を切って後ろに下がる。仕切り直しの積りなのだろう。

 今ならば、と魔王は言葉を続ける。

 

「勇者よ、頼む。この世界を狂わせないでくれ、そして……願わくば、私にお前を救わせてくれ」

 

 それは、慈愛に満ちた、心からの言葉だった。

 心の底から、勇者を「勇者という呪縛」から解き放ちたいと思っている言葉だった。

 心の底から、世界を救いたいと思っている言葉だった。

 

 だから、その言葉の全てが……

 

 

 

 勇者の逆鱗に触れた。

 

「ふざけるな」

「なに?」

「ふざけるな、と言った」

 

 魔王との戦いが始まって以来、初めて勇者が声を出し、その攻めは強さと速さを増した。

 

「あの世界になんの後悔もなければ、帰りたいなどとは間違っても思うことは無い」

「そんなことは無い!」

 

 魔王は、勇者の中に青白く、静かに燃える憤怒の炎を確かに見た。

 それ故に、より強く、声を上げる。

 勇者に我を取り戻させるために。

 

「まず魔王、俺はお前に救われるほど落ちぶれてはいない」

 

 体ごと沈み込んでの切り上げを、魔王は上体をわずかに逸らして避ける、更に下から、蹴り上げた足は勇者が横にステップする事で避けられる。

 

「次にこの世界にも興味はない、狂うならば狂えばいい、人が滅ぼうが魔が滅ぼうが知った事か」

「な……なに!?」

 

 動揺と共に繰り出した薙ぎ払いを、勇者は軽く跳躍して回避、取った距離を利用して、炎を纏った大岩をこれでもかと降り注がせる

 いくつかを弾き、捌ききれない分を回避する魔王の直前に、勇者が不意に現れた。

 

「俺の知っているのは、澱み汚染された空と、穢れ切り核廃棄物の捨て場所となった海、はげ山の群れと、互いに監視し合い、隙あらば相手を貶めようと目をぎらつかせる人の群れだけだ」

 

 突き出された拳を、両腕をクロスしてガードするも、勢いに押され、魔王は大きく後方へ弾かれる。

 

「そして、俺に友人も恋人もない、親兄弟など、いの一番に俺を切り捨てた連中、殺せるならば俺が殺してやりたいほどだ」

 

 驚愕、それに一瞬身を押さえつけられた魔王は動きが止まり、追いかけてきた勇者の放った刺突を肩口にもろに受けた。

 致命傷を避ける事が出来たのは、ただ繰り返し鍛錬した戦闘術のおかげだろう。

 

「なにが……勇者よ、神によって拉致されるまでに、お前に何があったというのだ」

「言ってどうなる」

 

 勇者の剣の鋭さがあがる、つけられたばかりの左肩口の傷を狙い、強く鋭く攻め立ててくる。

 

「お前の言葉を聞いて強く思った、お前を救いたいのだ、お前を苛む、その何かから……」

「大言壮語が好きだな、魔王。自分が何もできない愚者だと認めたほうが諦めがついていいぞ」

 

 魔王が剣を振るう、向かって右に生まれる大きな隙に入り込み、勇者のカウンターが魔王の左肩口にえぐり込まれた。

 

「ぐぅぅぅっ!?」

 

 下がり、傷口に手を添えて回復魔法を詠唱する。

 

「させるかよ」

 

 むろん、それを許すほど勇者は優しくはない。

 詠唱を妨害し、さらに追い込みをかける。

 

「さっきから世界は美しいだの人は優しいだのと、反吐が出る」

 

 速さ、重さ、鋭さ、全てが調和した一撃が、魔王の腕を切り落とす。

 

「魔王、お前は脳が壊れ、自分が無くなっていく恐怖を知っているとでもいうのか」

 

 剣のひらで魔王の頬を殴り、返す刀で頬ごと、口を動かす筋肉を切る。

 

「両腕両足を奪われ、己一人では何もできない状況で、金目当ての為に生きながらえさせられ、ただ生き恥を晒し続けた事があるとでもいうのか」

 

 足の健を切り、大腿の内側……太い血管が皮膚の近くを走るそこに、刃を突き立てる。

 

「全身の褥瘡を汚らわしいと避けられ、誰も来ないような部屋に閉じ込められ、そこで死ねと言われた事があるとでもいうのか」

 

 どう、と倒れる魔王、その体を踏みつけ、只管に刃を突き刺し続ける。

 

「挙句そこでも、お前に等関わり合いになりたくない、ここに居なければどこに居てもいいが、ここには居るなと言われ続けた事があるとでもいうのか……!」

 

 魔王は、ついにそれに答える事は無かった。

 

 歴史に名を遺す、偉大なる魔王はこうして勇者により打ち倒され、世界に平和が戻った。

 

「……あんな世界なんぞに、未練や後悔なんぞ‥‥…あるわけがねぇだろ!!」

 

 勇者の剣の最後の一撃が、魔王の首を胴体から切り落とした。

 

 

 その後、魔族は老若男女の区別なく、勇者によって皆殺しにされ、世界は人族の支配する所となり。

 人族もまた、勇者によって皆殺しにされ、世界は真に平和になった。


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