誰も名前も覚えてないウマ娘の、意味もないSS
※モブウマ娘の話です
Twitterにupしてたのを引っ越しました。
私はダメだった。才能がなかった。学園に入学して、迎えたメイクデビュー。勝ったのは白い尾を流星のように靡かせたあの子。ずっと1番後ろを走っていたかと思っていたのに、第4コーナー付近では遥か先へ行っていた。
今思えば、そこで私の心は折れたのだ。
諦めるのが早すぎると怒られてしまうかもしれないけれど、自分のことは自分が一番よく分かっている。でも、私を選んでくれたトレーナーを悲しませたくなくて、走ることは止めなかった。いや、走ることは好きだ。心から愛している。だから、例え心が折れていても、止まりたくなかった。
努力は、幾らしても足りない。
走って、走って、走って。
そして、負けて。
また走って、走って。
そして、負ける。
勝てない。
遠く遠くに見える皆の尾を、ただ後方から見ていた。
桜色のあの子は、負けても楽しそうだったけれど、敗北の味というのは、苦く、辛く、ひたすらに私の喉の奥を焼く。
それでも、走ることは止めなかった。
いつか、いつか勝てる。そんな甘っちょろいことは考えていない。考えられない。ただ、走り続けていたかった。
心は折れているのに、おかしな話でしょう?
でも、私には走ることしか脳が無かった。やめたくはなかった。勝つことは諦めていても。走ることだけは諦めたくなかった。
そんなぐちゃぐちゃな思考回路の私をトレーナーは見捨てないでいてくれた。私が勝てるように、走り続けられるように、練習方法をずっと考えてくれていた。
本当に有難い。優しい人だ。
だけど、見る目はない。私を選んだ時点で。
■■■
「本気で走ってないのでは?」
誰かにそう言われた。
がむしゃらに走ることと、本気を出すということは違うのだと、そこでようやく気が付いた。
だが、本気の出し方とは。心が折れていても、本気はだせるのだろうか。
それに、負けても泣いたことはない。それは、本気で走っていないという事なのだろうか。
練習方法をまた変えてみた。前よりも、しっくりくる気がする。目に見えてタイムも縮まった。トレーナーが、自分の事のように喜んでくれている。
タイムだけなら、あのメイクデビューで優勝した、あの子よりも早い。
……今度こそ、勝てるかも。
そんな淡い期待が、胸に湧いた。
それからは、いつにも増して調整に調整を重ねた。ビックリするぐらい調子が良い。タイムもどんどん縮まっている。これなら。
折れた心が、僅かに立ち直るのを感じた。風が気持ちいいと感じる位には余裕が出来た。
楽しい。走るのが、楽しい。
大会当日。コンディションは、今までにないくらい快調。仕上がりは上々。
ゲートに入って、開くのを今か今かと待ちわびていた。
一斉にスタートする。好スタートを決めて、そのまま好位置へ。そして、第4コーナーへ。
一斉に上がってきた他の子達を後目に、自分も一気に仕掛ける。
グングンと、後続を突き放して残り200。
(勝った………!!!!)
そう思った瞬間。後ろから、芦毛が追ってきた。
ハナ差だった。
ハナ差で、負けた。相手はレコードだった。
勝ったあの子は、自分のトレーナーにドロップキックをキメている。
荒れた息を整えながら、それを呆然と見ていた。
「…………もう、いいや」
もう、燃え尽きた。立ち直りかけた心は完膚なきまでに叩き折れた。
主人公は、私ではない。
その日のライブを2番手の位置で踊りきった後、私はトレーナーと一言も話すことなく帰路に付いた。
次の日、トレーナーが寮の前で待ち構えていた。
「走ろう」
「…………」
「走ろうよ」
「…………」
答えられない。走る気なんて、サラサラないはずなのに、その言葉に勝手に耳が揺れてしまう。
バカだな、私。
気が付くと、私はレーンをがむしゃらに走っていた。走って 、走って、走って。
嗚呼。ダメだ。もう楽しくはないけど、折れているけど、燃え尽きているけど。
走ることを、止められない。
「トレーナー。私の事、バカだと思う? 勝てないのに、走るのを止められないの」
「走るのは、楽しい?」
「いいえ」
「走るのは、辛い?」
「ええ」
「でも、走っていたい?」
「……うん」
「なら、僕は君が走っていられるようにサポートする。僕は、君のがむしゃらな走りが好きだから、君のトレーナーになったのさ」
■■■
1年後。私は、最後のレースに望んでいた。1度も勝てないまま、3年を終えようとしている。
相変わらず喉の奥はヒリついている。
惰性でここまで来たみたいなものだ。観客は、誰も私に期待していない。数合わせだとでも思ってるに違いない。
主人公は、私ではない。
だけど、それでも。
『16番人気 ××××××××』
私の名前が呼ばれる。
隣のレーンには、赤い勝負服のあの子。
1番人気の、あの子。
でも、私は真っ直ぐに先を見た。
そして、がむしゃらに、ただがむしゃらに駆け出した。
了