「エミリオ……パーティから出ていってくれないか?」
ある朝、B級冒険者パーティに所属していた冒険者エミリオに唐突に告げられるパーティ追放の宣言。
同じ村で生まれ育ち、A級冒険者パーティという共通した夢に憧れた男四人で村を出て一から苦楽を共にしてきた親友からの宣言を受けたエミリオは、三人の仲間と話し合いの時間を持つ事にするのだった。

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冒険者パーティを追放されそうになっている冒険者の朝

「エミリオ……パーティから出ていってくれないか?」

 

 拠点にしている家――Bランク冒険者パーティにもなった事で一人一部屋、プライバシー保護はバッチリなそれなりの家を借りている――の中、一階にあるリビングでそんな事を切り出された。

 

「今日の朝ご飯はゴハンにミソシル、ダシマキタマゴ、サンマのシオヤキにホーレンソウのオヒタシだよ。この前本屋で買った料理本の特集で、東方のヒノモトっていう国の郷土料理らしい。口に合えば嬉しいよ」

 

「あ、ああ……いただきます……」

 

 だけどまずは朝食の準備だ。今日はクエストを受けず、次の冒険に備えて消耗品の買い出しや武器の整備、体力回復や気分転換に努める予定になってるから朝食もやや控えめだ。クエストを受ける日だと朝から肉ばかりだし食べ過ぎるし、そうなると栄養が偏るからね。こういうところで栄養バランスを調整して身体を作っていかないと、短期的にはともかく長期的にはマイナスになってしまう。

 さっき寝言を言っていた、このパーティのリーダーである斧戦士――ローランドが気まずい様子で目を逸らしながら僕から朝食を乗せたお盆を受け取ってテーブルに向かうと、このパーティの魔法攻撃の要である黒魔導士――エディと、パーティ最速の切り込み隊長である格闘家――ハーヴェイもそれに倣い、どこか気まずい様子までも倣っているような目つきでお盆を受け取ってテーブルに向かう。

 最後に僕も自分の分の朝食を準備してエプロンを外してテーブルにつき、朝食の準備は完了だ。自分の席について、何故か僕から距離を取るように反対側に陣取っている三人組、その真ん中に座っているローランドに目を向ける。

 

「それで、ローランド。さっきの冗談はなんなのかな?」

 

「冗談じゃない……エミリオ、このパーティから抜けてくれないか?」

 

 どうやら寝ぼけて寝言を言ったわけでも冗談を言ったわけでもないようだ。彼の目はちゃんと開いているし、冗談を言っているにしては目つきもしっかりしている。どうにも唐突なことだ。

 

「エディ、ハーヴェイ。君達からも言ってやってくれないか? いくらなんでも性質が悪い」

 

「……ご、ごめんね、エミリオ、その……」

「俺達もローランドと同意見なんだわ。エミリオ、悪ぃけど抜けてくれねえか?」

 

 これは驚いた。まさか二人までも僕の追放に賛成ときたものだ。

 男四人、同じ村で生まれて同じ村で育ち、昔からの夢であるAランク冒険者パーティを目指して村を出て今まで苦楽を共にしてきた仲間に対してなんて言いようだろう。

 

「もちろん着の身着のまま出ていけなんて言わない。ここから村に戻るまでとそれから村でしばらく生活できるだけの資金は渡す。エミリオに分配した武器も金もアイテムも全部持って行っていい。パーティの共有品にしているアイテムの中から、俺達が持っていっていいと思うものもエミリオもやる」

 

「こ、これ、とりあえずお金、計算したけど……」

 

 ローランドに合わせてエディが用紙を渡してくるから目を通す。

 成程、この街から僕達の故郷である村までは、村が辺境というのもあってかなり離れている。何日も時間がかかるし、いくつも馬車を乗り継ぐ必要がある。だがこれだけの資金があれば村まで直通で行ってくれる馬車を特別注文で借りてもお釣りが来るし、そのお釣りだけでも村の物価なら一月は遊んで暮らせるくらいだ。さらに自分の愛用の武器や分配された金とアイテムも持って行っていいし、なんならパーティの共有品まで許可が必要とはいえ物によってはくれるという。

 世間では新入りのパーティメンバーをボロ雑巾になるまで使い潰しては「役に立たない」とか「このパーティには相応しくない」とかテキトーな理由で身一つで追放という名の強制追い出しや、悪質なものになればモンスターの巣窟であるダンジョンの奥深くに置いてきて見殺しにするような犯罪行為が横行していると聞くが、それと比べれば天国と言っていい待遇だろう。

 だけど……

 

「納得がいかないね」

 

 用紙をぽいと投げ捨てる。そう、納得がいかない。

 たしかに物価が安い(というかなんならちょっとした物なら未だに物々交換が通じる)村とはいえ一月遊んで暮らせるだけの資金+自分用の武器や金にアイテムを渡してくれるというのだし、Bランク冒険者パーティになれた実力なら村の衛兵として歓迎されるだろうからその後の生活の心配もいらないだろう。

 だがそれは昔からの夢と天秤にかけてそっちに傾く程ではない。一方的に「パーティを出て行って村に帰れ」などと言われて納得できるはずがない。

 

「追放するという理由を聞かせてくれないかな? これでも僕はこのパーティに貢献してきたつもりなんだけどね? 戦闘面でも生活面でも」

 

「い、いや、それは、だな……」

 

 腕を胸の下で組んでそう言った途端、ローランドはどもり、エディとハーヴェイも気まずそうに顔を逸らす。さらにハーヴェイは獣人特有である獣耳、猫獣人である彼の場合はネコミミがピコピコと揺れていた。

 全会一致で僕の追放を決めたっていうんならそれなりの理由の一つでもあるだろうに、どうにも要領を得ない。だけどこっちとしては好都合だ。あっちが忘れているというのなら僕がどれだけこのパーティに貢献してきたのかを思い出させて追放案を撤回させるだけのこと。

 

「三人とも。まずは自分の職業を思い返してほしい」

 

 ローランドは鍛え上げた身体から生まれる怪力で斧を振るい敵と勇敢に戦う斧戦士。ハーヴェイは獣人という身体能力に優れた種族なのもあって己の肉体を武器に、しなやかな体躯とそれによる俊敏な動きで戦う格闘家。エディは肉体を武器に出来るほどの強靭な身体こそ持たないが、それを補う頭脳による知略と数々の攻撃魔法を武器にして戦う黒魔導士だ。

 

「対して、僕はいわば白魔斥候とでもいえばいいだろうか?」

 

 それに比べれば、確かに僕は中途半端と言わざるを得ない。弓士のように弓矢を使っての援護が主体とはいえそれの本職には及ばず、白魔導師のような回復術も教会で教わったがこれもやはり本職には敵わない。役に立つ技術が手に入ればと思って短剣術やトラップ解除や開錠術なども学んだがやはり本職程にはならなかった器用貧乏だ。

 

「だけどそれでも君達の足手まといにはならなかったとは胸を張って言えるよ? 僕だってそこまで恥知らずじゃない」

 

 言葉通り胸を張って宣言すると、三人ともまた困ったように目を逸らす。ん、なんかエディは顔が赤くなっているような?まあいいか。

 

「まあ、今はちょっと弓矢が使いづらくなっているけど……そこに関してはもう一度鍛え直してみるっていう事で合意は取れていると記憶しているけど。間違いないよね?」

 

「あ、ああ。それについては俺達も文句はない……んだが……」

 

 ローランドがごにょごにょと言葉を濁す。やはり言葉に要領を得ない。

 

「総じて、今は主力の武器である弓の腕が落ちた上に、元より中途半端な器用貧乏。これが君達が僕を追放したい理由だと仮定するけど。それでも弓は使いづらくなっただけで撃てなくなったわけじゃない。白魔法での援護や万一ローランドとハーヴェイの手が足りなくて敵に抜かれた時のエディの護衛くらいならちゃんとこなしてる。パーティとしての仕事はやってるつもりだよ?」

 

「お、おう。そいつぁ分かってる……」

「うん、分かってるんだけどね……」

 

 ハーヴェイとエディまでごにょごにょと言葉を濁している。本当に言葉に要領を得ない。戦闘面で文句はあるわけではないようだけど、一体どうしたっていうんだろう?

 

「もしかして家事方面で不満でもあるのかい? たしかにこっちは冒険の合間に半ば僕の趣味でやらせてもらってるようなものだし、最近の稼ぎなら家政婦の一人くらいなら雇う余裕は出来そうだけど……」

 

 言っていて不思議に思う。これは僕を追放する理由にはならないな、家事は家政婦を雇うからクエストに集中してくれとか戦力として力不足ならクエストに出ずに家事に専念してくれとか言われるのならまだ分かるけれど……戦力としても家事としても不満がある、という事だろうか?

 

「いやいやいや! お前の家事に不満があるわけじゃねえよ!」

「そうそう! 毎日美味い飯を作ってくれるしさ!」

「僕が読書に夢中になって散らかしちゃった部屋を片付けてくれるのもありがたいし……」

 

 そんな事を思ってると、三人が凄まじい剣幕で家事への不満はないと答えてくる。本当に訳が分からない。家事で不満があるわけじゃなさそうだし、戦闘面では不満が出るのは仕方ないだろうけどそこについてはちゃんと合意を取っていると確認も取れた。

 いや、でもその合意の件はあくまで身体にその不調が起きて、少し身体を動かしてみて今までのようにやれないと感じたから話し合いの元に取った合意というだけだ。実際に命懸けの現場で一緒に戦ってみて、弓が使えなくなった自分には背中を預けられないとローランドとハーヴェイが感じたり、遠距離攻撃の負担が増えたエディが不満を持ったという可能性は捨てきれない。

 

「……ふむ、分かった」

 

「「「え?」」」

 

「皆が実は不満を抱えているという事は分かったよ。だけど、追放を受け入れるわけにもいかない」

 

 少し待っていてくれ、と言い残してポカンとしている三人を置いて自室に戻る。冒険の合間の情報収集も冒険者の嗜み、ここ最近は男の冒険者から言い寄られる事も多く、それだけ数多くの情報を得ることも出来る。

 そんな中、以前のように弓を使えなくなった僕にとっては朗報ともいえる情報があった。これが欲しいというのは僕の我儘だから皆に相談はしづらかったが、パーティ追放がかかっているとなればそうも言ってはいられない。冒険者から手に入れた情報源――どこかの街から流れてきた一枚のチラシを手に、僕はリビングに戻る。そしてそのチラシをテーブルの上に置いて皆に差し出した。

 

「これは?」

 

「ドワーフが最近発明した(いしゆみ)っていう武器らしい。連射が利かないけど威力は弓より数段高いらしいし、これなら今までの弓の使いづらさという点は解決できるかもしれない。最近発明されただけにまだほとんど流通していなくて、手に入れるならドワーフの国でも王都とかそこ近郊の街に直接出向かなきゃいけないし、弩自体の値も張ってしまう」

 

「あ、ああ……」

 

 ローランドがポカンとしながらこくこくと空頷き、ハーヴェイも「へ?」と間の抜けた声を出してるしエディも目をぱちくりさせている。

 

「これから僕を追放させるだけ資金に余裕があるのなら、それを僕に貸してもらえないだろうか? 足りなければ僕の私物を売ってでも、そこまで行くための旅費と弩を買うための資金を調達してみる。出来ることなら、皆で一緒に行ければそこで皆の新しい武器を見繕うというのもいいかもしれないんだが……」

 

 何せドワーフの国といえば武器を始め鉄製品の生産が盛んだし、王都やその近郊の街ともなれば聖地ともいえる。ローランドの斧や重鎧もハーヴェイの手甲やレガースも今使っているものより優れたものが手に入る可能性がある。魔術が本領であるエディは退屈になるかもしれないからそこは申し訳ないのだが。

 これは先行投資だ。弩を手に入れて訓練して、今まで以上に戦えるようになればそれが結果的にパーティのためになるはずだ。そう考えている僕の目の前で三人はポカンと口を開いている。

 どうしたことだろう?戦闘面に不満があるのなら解決策は提案したつもりだ。ドワーフの国への旅費や無事辿り着けたとして弩の購入資金に足りるかどうかはこれから計算しないといけないから、たしかに今のところは捕らぬ狸の皮算用というやつだが……。

 

「もしも他に僕に不満があるなら、出来る事ならなんでもするから言ってくれ」

 

 だがこれ以上は考えても分からない。もう僕に出来るのは誠意を込めて訴えるだけだ。その言葉を聞いた皆がびくりと肩を震わせてうつむく。

 皆が不安に思うのも仕方ない。だから僕は出来る限りの微笑みを浮かべ、少し前にあるクエストで古の時代の遺物であるダンジョンの調査に行った時に変なトラップに引っかかって以来膨らんでしまった胸に手を当てる。

 

「僕が古の呪いで女性になってしまって解呪の目途も立ってないからって遠慮はいらない。皆と離れ離れになってしまうことに比べれば大したことはないよ」

 

「「「そういうとこだよ気づけええええぇぇぇぇぇっ!!!」」」

 

 瞬間、ローランド、エディ、ハーヴェイの血を吐くような悲鳴にも似た叫び声が響き渡る。

 本当に言葉に要領を得ない。一体どうしたんだろう?




《キャラクター設定》
名前:エミリオ
設定:あるファンタジー世界のある街でBランク冒険者パーティとして活動している青年女性。
 パーティ内では弓を主体とした後衛での援護、及び白魔法によるサポートや前衛が対処しきれずに後衛にやってきたモンスターと短剣二刀流で戦う後衛の護衛が役目。
 元は男だったのだがあるクエストで古の時代のダンジョンの調査を依頼されて調査をしていた時に誤ってまだ生きていたトラップ式の呪いに引っかかってしまい、女性の身体になってしまった。女性としての姿は金髪ロングで巨乳の美少女。今の時代には残っていないタイプの呪いであり、解呪の目途は立っていない。最悪一生このままだが本人は仕方がない事と受け入れ、それでも冒険者として戦う道を模索している。
 パーティメンバーとは村にいた頃からの幼馴染で、A級冒険者パーティを目指して村を出て以来苦楽を共にした親友。
 真面目だが天然かつ鈍感なところがあり、同じ村で生まれ育った仲間の事は心の底から信頼しているがそれ故に男性だった時代と特に変わらない距離感を持ったまま、冒険の合間の趣味としてパーティの家事を担当している。
 客観的に見れば「男と同じ距離感のまま家事全般をこなして戦いでも後方支援として弓矢を撃ち、白魔法で治療を施し、二本の短剣を手に戦う美少女」という形になり、年頃の男であるパーティメンバーの理性を本人無自覚の内にガリガリ削りまくっている。

名前:ローランド
設定:あるファンタジー世界のある街でBランク冒険者パーティとして活動している青年男性。
 パーティ内ではリーダーを務め、鎧と斧を手に果敢に接近戦を挑む戦士職で、パーティのメインアタッカーとして日々身体を鍛えており筋骨隆々な身体が自慢。
 エミリオや他のパーティメンバーとは村にいた頃からの幼馴染で、A級冒険者パーティを目指して村を出て以来苦楽を共にした親友。だがエミリオが女性になってからは理性をガリガリ削られる苦労人の一人となった。エプロンつけて甲斐甲斐しく家事をやってくれるエミリオを見ては必死で己を抑えている。
 ちなみに彼が性転換トラップに引っかかった場合は「女体化エミリオを超える爆乳を持ち、男性時代に使っていた重鎧が着れないからと急所を守るタイプの軽鎧に切り替えて豪快に斧を振り回す女戦士」になっていたと思う。

名前:エディ
設定:あるファンタジー世界のある街でBランク冒険者パーティとして活動している青年男性。
 パーティ内では後衛で様々な攻撃魔法を自在に操る黒魔導師。パーティ内では飛び道具によるメインアタッカーとして期待され、エミリオも敵が彼に襲い掛かってきたら自分の射撃攻撃はいったん中止して彼の護衛に周り、彼が攻撃に集中できるように立ち回っていた。
 エミリオや他のパーティメンバーとは村にいた頃からの幼馴染で、A級冒険者パーティを目指して村を出て以来苦楽を共にした親友。だがエミリオが女性になってからは理性をガリガリ削られる苦労人の一人となった。戦いの場で自分を守るために短剣を振るうエミリオの巨乳が揺れているのを目の当たりにしては必死で己を抑えている。
 ちなみに彼が性転換トラップに引っかかった場合は「魔導師服をしっかり着込んで肌を見せないようにがっちりガードしている、小柄で庇護欲をかきたてる女黒魔導師」になっていたと思う。

名前:ハーヴェイ
設定:あるファンタジー世界のある街でBランク冒険者パーティとして活動している青年男性。
 パーティ内では前衛でローランドがパワー系ならこっちはスピードをメインとした格闘家。猫獣人族なのも相まって身軽でしなやかな動きによる素早い体術を得意とする。
 エミリオや他のパーティメンバーとは村にいた頃からの幼馴染で、A級冒険者パーティを目指して村を出て以来苦楽を共にした親友。だがエミリオが女性になってからは理性をガリガリ削られる苦労人の一人となった。動きを阻害するからと鎧を着ないまま前衛を戦ってるため生傷が絶えない自分を心配して治癒術をかけてくれるエミリオを見ては必死に己を抑えている。
 ちなみに彼が性転換トラップに引っかかった場合は「女性になった事で柔らかくなった身体を活かし、よりしなやかかつダイナミックな動きで相手を翻弄するスレンダーなネコミミ女格闘家」になっていたと思う。

《後書き》
 最近こういうのが流行りらしいという事で追放ものを書いてみました。こんなんじゃない?せやな。
 まあ追放ものというよりは「女体化したけど距離感とか諸々が全く変わらない主人公に振り回される男所帯パーティの一幕」みたいな感じで書いてみました。
 インフィニット・ストラトス二次創作の「織斑一夏からヒロインを奪おうとする転生オリ主の話」と言い、TSを使った叙述トリックものが変に好きなのはなんでだろう?
 もしエミリオが女だとか女体化した元男だとか最後まで読者が気づけていなければ幸いです。

 あとの事は一切考えていない短編ですが、ご指摘ご意見ご感想などあればお気軽にどうぞ。それでは。

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