1LDKの女王モルガン   作:粗茶Returnees

11 / 18
11話目 モルガンとクリスマス②

 

 まずはアルトリアの弁明を聞こう。いくら彼女が腹ペコ王の名を持っているとしても、他人に渡す物を食べるなどそんな非常識なことはしない。ポンコツな部分が出始めているアルトリアでも、そこはさすがに一線を守っている。衛宮だって彼女を信じていた。

 そんな彼女が、どうして渡しに行くケーキの生地を食べるに至ったのか。それはとても彼女らしい行動だ。優しさを見せただけだ。

 

──兄弟らしき子ども2人が買い物をしていた

──その2人はクリスマスケーキのおつかいの帰りだった

──2人でケーキの袋を持っていたら片方がコケてしまい、それにつられてもう1人も転倒

──その際にケーキもグッチャグチャ

 

「そこで私は、生地を渡すことにしました。帰ってから家族で飾り付けるのも楽しいと説いたのです」

 

「その流れからどうして生地を食べるにいたったのさ……」

 

 今の流れでは、食べる要素がどこにもなかった。「本当は渡しただけで食べていない」という展開はない。もしそうなら、モルガンの妖精眼がそれを見抜いているから。けれど彼女の眼によると、食べたことは事実なのだ。

 

「彼らは家族でもケーキを作るつもりだったようです」

 

「渡した意味がなかったパターンだな」

 

「ですが1度渡してしまった手前、返してもらうのも気が引けます。相手は子供ですし」

 

「まぁ……。それで?」

 

「3人でいただきました」

 

「今過程が飛んでなかったか!?」

 

 イリヤと藤村がこたつの中でぬくぬくと温まっている目の前で、「私はつまみ食いをしました」と書かれたプレートをセイバーが首から下げている。彼女は正座していて、目の前にはマスターである衛宮が、視線を合わせて話を聞いていた。

 

「生地だけを食べても美味しいのでは? という話が子どもたちの間で起こり、その真相を確かめるために食べる運びとなったのです」

 

「セイバーはその時に一緒に食べたと」

 

「分けてくれたので」

 

 食べる子どもたちを見て、お腹を鳴らしたからである。

 

「こういう事情ですので、何卒……何卒ごはんを食べさせてください」

 

「せっかくのイブなんだし、セイバーちゃんを許してあげたら?」

 

「俺はともかく、被害を受けたのは京坂たちだからな……」

 

 衛宮から話を振られ、大和は手を止めて振り返った。モルガンもそれに合わせている。

 

「おれはいいですよ。こうして作らせてもらえてますし。トネリコは?」

 

「私は……」

 

「ご飯食べたいぞトネリコ~」

 

「……この小娘……!」

 

 クリームを塗るのに使っていたパレットナイフをモルガンが射出。精確に額へと向かって飛ばされたそれを、アルトリアは真剣白刃取りで受け止める。クリームは両手にべったりついた。

 

「危ないじゃないですか!」

 

「ヤマトあの者を排除する許可を! 反省の色が見えません!」

 

「反省はしています! 後悔はしていません! 美味しかったです!」

 

「この……!」

 

 今にも飛びかかりそうなモルガンを、大和がその手を掴んで引き止めた。彼女たちの小競り合いがエスカレートすると、間違いなくこの屋敷が吹き飛んでしまう。迷惑をかけるし事件性があるとして警察が捜査を始めてしまう。「面倒事」への発展は避けたい。

 とはいえ、アルトリアには相応の罰を与えなくてはならない。でないと、モルガンの気が済まない。

 

「セイバーさんはデザート抜きってとこで手を打とう。な?」

 

「……ヤマトがそう言うのでしたら」

 

「京坂。デザートが抜きということは、私はデザートが食べられないということですね?」

 

「え、うん。ご飯抜きよりマシでは?」

 

「むぅ、悩ましいですね」

 

「あ、ご飯かデザートかって2択じゃないですよ。何も食べられないか、デザート抜きかの2択です」

 

「デザート抜きで!」

 

「決まりましたよ衛宮先輩」

 

「お、おう」

 

 アルトリアはすでにデザートを食べているような状態だ。そのことを加味すれば、デザート抜きで許されたことは温情のある措置である。

 アルトリアからパレットナイフを回収し、ケーキ作りへと戻る。モルガンはもちろんだが、大和も初挑戦の作業だ。サポートとして、間桐が見守っている。

 

「間桐ってお菓子作りとかするのか?」

 

「時々するかな。試合の日に持っていくこともあるし、甘いもの食べたくなっちゃう時もあるし」

 

「へ~。でもケーキってそんな頻繁には作らないだろ?」

 

「練習してた時期があるから、そのおかげ」

 

「練習してた時期……あー。先輩のたん──」

「余計なことは言わなくていいんだよ? 京坂くん」

 

 にっこりと笑いながら間桐が強い圧をかけてくる。ジャブ程度で遊ぼうとしたらこの返しだ。大和は顔を引きつらせてその話題をやめた。

 

「女心はわからん……」

 

 大和と間桐がそんなやり取りをしている隣で、モルガンは黙々とケーキにクリームを塗っていた。大和かモルガン、どちらかが1人でやるのではなく、せっかくだから途中交代でやればいいと間桐が助言したのだ。大和が前半で、モルガンが後半。監修は間桐桜である。

 

「そういえばライダーさんは?」

 

「ライダーなら今ドライブしてるよ。イリヤさんの車を借りて」

 

「イリヤさん車あんの!? あぁいや、あの城にいるならそれぐらいあるか……」

 

 自分の名前を出されたことにイリヤが反応し、みかんを5段まで積んだところで台所へと目を向けた。

 

「私の車の話?」

 

「そうですそうです。なんかイメージつかなくて意外だなと。衛宮先輩より年上なら、免許持っててもおかしくはないんですけど」

 

「そうね。免許は持ってるわ。ふふっ、あとで見せてあげてもいいわよ? 私の車強いんだから」

 

「強いって何」

 

「あれはたしかに、強い車ですね」

 

「でしょ?」

 

「だから強いって何? 車に使う表現じゃないよね!?」

 

 ライダーが帰ってくればわかるとのことで、細かな説明は省かれた。

 

「ヤマト。形を整えられたと思うのですが、どうでしょうか?」

 

「うん? うぉっ! すげぇ!! 初めてだよな!?」

 

「トネリコさんお上手ですね……。自信無くしそうです」

 

「? 写真の通りにしただけですが」

 

「初めての方でそれができる人はいないんです! えぇ……トネリコさん姉さんタイプなんだ……」

 

 間桐的にはあまりそのカテゴリには入ってほしくなかった。むしろ、ぽんこつエピソードを聞いていた分、自分よりの人間だと思っていた。

 本人は自覚していないが、間桐の料理の成長率だって世間的に見れば異常である。ハイペースである。比べる相手が悪いだけ。といっても、彼女の姉に料理の腕はないが。悲惨なことになるが。

 

「クリームを整えることはできましたが、ここからクリームで飾り付けるのは難しそうですね」

 

「やってみるか?」

 

「向いているとは思いません」

 

「それで味が落ちるってわけでもないんだから」

 

「……では」

 

 パレットナイフでクリームを整えるのはまだいい。やり直しが通用するから。だが、クリームでの飾り付けとなると、ほぼ一発勝負である。

 

「やはり難しいですね」

 

 2人に見守られながら一通りやってみたモルガンが、小さく肩を落としながら呟いた。写真にあるものを真似ようとした。基本に忠実にするのが、料理の極意だと大和に言われているから。

 それをやろうとしたのだが、うまくはいかなった。ケーキの横側で、波打つクリームを一周させようとしたが、それは途中で切れてしまっている。ツギハギの工程がまんま残り、ケーキの上で何ヶ所か盛ろうとしたクリームも、失敗して潰れている。イチゴ等でのカバーが、むしろ不格好に見えなくもない。

 

「おれは好きだぞ」

 

 目を伏せたモルガンの横で、それでも大和は優しく笑った。

 

「こういうのって、作った人の頑張りが見えやすいからな」

 

「はい。というか、私が初めて作った時より上手なんですから自信を持ってください」

 

 モルガンは大和と間桐に視線を向けて驚いた。そこには嘘も気遣いもなかったから。大和の気持ちは本物で、モルガンが作ったことに喜んでいる。間桐にあるのも、純粋な嫉妬と喜びだ。モルガンのセンスへの嫉妬と、教える相手の潜在能力への喜び。

 モルガンにとっての失敗を、この2人は本気で失敗だとは捉えていない。

 

「やってくれてありがとう、トネリコ」

 

「いえ……」

 

『■■■■■ー!!』

 

「ちょうどライダーたちも帰ってきたね」

 

「バーサーカーさんとドライブ行ってたのか。……バーサーカーさんが乗れる車あるのか?」

 

「ううん、違うよ京坂くん。バーサーカーとドライブじゃなくて、()()()()()()()()()()()だよ」

 

「頭大丈夫か間桐?」

 

「こらバーサーカー! 何時だと思ってるの! 静かにしなさい!」

 

 大和が間桐に腹パンされている傍らで、イリヤが縁側からヘラクレスを叱る。そのヘラクレスの代わりに、搭乗者であるライダーことメドゥーサがイリヤに謝罪した。楽しいドライブになったから、ついテンションがハイになったのだと。

 

「どうやらあのバーサーカーは、変形機能を持っているようですよヤマト」

 

「トネリコまで何言って……変形しとる!!」

 

「ふふん。すごいでしょ? あれが私の車。バーサーカー号よ!」

 

「かっけぇぇ!! 名前以外はかっけぇ!」

 

 大興奮している大和は、イリヤにスネを蹴られた。モルガンが防御を張ったことで、蹴った本人が涙目である。

 

「みんなこっちにいらっしゃーい! ライダーさんも帰ってきたんだから、クリスマスパーティー始めるわよ~! ほら、セイバーちゃんもこのサンタ帽子被って」

 

「あの、大河。このプレートは……」

「それは外しちゃ駄目」

「はい……」

 

 バーサーカーは霊体化し、メドゥーサは靴を脱いで家に上がる。広い衛宮家の食卓はいつも少人数で広々と使われていたのだが、今日のこの人数だとぴったりだ。長方形の机で、長い左右に3人ずつ。藤村と衛宮が、短い辺にそれぞれ座っている。なお大和は、モルガンとイリヤに挟まれている。

 

「それじゃあみんなコップ持って~。乾杯するわよ~!」

 

 音頭を取るのは決まって藤村だ。便宜上彼女が最年長であることと、その手のことが向いているから自然とそうなる。

 今度はモルガンもアルトリアも遅れない。藤村の声に合わせて乾杯した。離れている相手もいるため全員とはできないが、それはそれ。楽しければ何でもいいのだ。

 

「じゃんじゃん食べちゃいましょ! セイバーちゃんも遠慮はしなくていいからね~」

 

「ありがとうございます大河!」

 

「でもデザートは食べちゃ駄目よ~」

 

「あぅ。……士郎! デザートは食後に食べるものだと聞きました! つまり今あるケーキはデザートでは──」

「駄目だぞ」

「かはっ!」

 

 屁理屈も途中でぶった切られた。それに見かねた衛宮は、自分の分のケーキを分けることに。甘い男である。

 

「ヤマトはケーキから食べるのですか?」

 

「トネリコと作ったやつだからな。ひとまず一口だけ」

 

 生地を作ったのは衛宮と間桐だ。言うなれば、みんなで作ったケーキ。ケーキは大まかに分ければ、生地とクリームである。当然種類によって変わるが、今回のケーキはそういうものだ。ショートケーキだ。

 生地だけが良くても駄目。クリームだけが良くても駄目。どちらもが支え合って、1つの品になる。その片翼を、大和とモルガンで担った。

 モルガンは大和がケーキを食べるのをじっと見つめていた。人知れず息を呑み、左手でスカートをぎゅっと掴む。

 

「美味しい」

 

「……! 本当、ですか?」

 

 疑う余地はない。それの真偽なんて自身の"眼"で視えている。それなのに、言葉を自然とか溢れでていた。

 1人で作ったわけじゃない。生地はそもそも関わっていないし、クリーム作りだって大和との共同作業だ。何1つ、1人だけで作ったものはない。それなのに、その言葉が胸に染み込んでいく。その笑顔に、ぐっと心を掴まれる。

 

「改めて、一緒に作ってくれてありがとう」

 

 

「士郎入るわよー」

 

 空気を一切読まない声が聞こえてきた。玄関が開けられる音も、人が上がってくる音も聞こえてくる。その音は2つで、1人は声からして女性だ。そしてそんな行動を取る衛宮の知り合いは、1人しか浮上してこない。

 

「遠坂?」

 

「アーチャーが妙にケーキ作るのを張り切っちゃったから、どうせ人が集まってるだろうなって思ってお裾分け」

 

「あ、ああ……」

 

 ピシッとその場の空気が凍る音がした。藤村ですら箸を止めて固まり、間桐は黒い笑みを浮かべてその女性の肩を掴む。

 

「さ、桜? どうしたの、なんか怖いわよ……?」

 

「ふふ、ふふふふ。姉さん。少し、あちらでお話しましょう?」

 

 姉さんもとい遠坂凛が間桐に連行され、その様子に大和とモルガンは首を傾げた。この2人だけは、アーチャーの料理の腕を知らないから。

 

「何かまずかったかね?」

 

 連行されるマスターを見送り(見捨て)、アーチャーがリビングの様子を見ながら問いかけた。それで的確に察せられたのならまだよかったが、この男「何かやっちゃったな」ぐらいしか読み取れていない。女心が絡んでいるから。

 そんなアーチャーもといエミヤに、アルトリアがため息をつきながら冷めた視線を向けた。それをエミヤは、これ幸いとアルトリアに説明を求める。

 

「アーチャー。あなたに人の心はないんですか?」

 

「まさか君にそんなことを言われる日が来るとは思わなかったよ。セイバー」

 

 

 

 

 

 宴もたけなわ。途中で不穏な空気が流れなくもなかったが、その元凶たる1品をモルガンと大和の知らぬところで、アルトリアとヘラクレスが食すことで解決。大いに愉快な時間は流れ行き、モルガンは眠っている大和を連れて帰宅した。

 夜遅くではない。藤村の入れ知恵の結果、大和は眠らされてモルガンにお持ち帰りされているのだ。なおその先は大和の家だが。

 

『イブってね、大切な人と過ごしたいって人もいるのよ。今の日本だと結構主流なんだけど』

 

 大和には聞こえない声量で、藤村がモルガンに言ったのはそういうことだ。大和は、「泊まっていってもいいぞ」という衛宮の誘いを断った。その最大の理由は、モルガンのことだ。今は周りに、アルトリアにすら正しく認識されていないが、いつそれが解けるとも分からない。面倒事は避けたいと思うのは、大和らしい行動だ。

 だが藤村がそんな理由を理解しているわけがない。パーティーに参加するだけして、結局帰るのなら、()()()()()()だと藤村が解釈するのもおかしくないのだ。

 

『大和にとってトネリコちゃんは、それだけ大切なんじゃないかしら』

 

 混乱の渦に叩き込まれた。考えが纏まらなくなった。だからモルガンは、誰にも気づかれないように、イリヤすら気づけないほど慎重に大和に眠気をかけていった。

 眠る前に帰ろうと促し、2人で帰路につく。途中で大和は眠りにつき、誰の目にも映っていないことを確認したモルガンは、大和を連れて家へ転移。靴と上着を脱がせたら、大和をベッドに寝かせた。

 

 そうして今にいたる。

 すやすやと眠る彼を見つめながら、彼女は思考をぐるぐると回していた。どれだけ考えても、一向に手がかりがない。陸地が見当たらない。

 

「ヤマト……」

 

 眠る彼の頬に触れた。

 それだけで、胸にある「何か」が揺れた気がした。数時間前までは普通だったのに、今は名前を呼ぶだけで胸が、少し苦しい。締め付けられる。

 

『トネリコちゃんにとって、大和ってどんな子?』

 

 暗がりの中、彼の顔に魅入る。

 その唇に触れたいと過ぎり、それを脳が正しく認知して、その先まで考えそうになった途端、ボンッと顔が一気に熱くなった。

 

──わからない(知らない)

 

 彼をずっと見ていたい(直視できない)

 

──わからない(憶えてない)

 

──ヤマトは……(マスター)

 

 本当に? 本当にそれだけだろうか?

 

 

──わたしにとって、ヤマトは……

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。