1LDKの女王モルガン   作:粗茶Returnees

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15話目 モルガンと親子②

 

 スピネルを探すのは容易ではない。なにせ少女にとって初めてのデパートであり、この冬木市自体が初めての場所だ。

 モルガンは少女が日の光を苦手にしていると言った。だからといって、絶対に避けないといけないわけではないとも。あくまで、無意識のうちに避けようとする。その程度のものらしい。

 ならば、その気になれば外に出られる。ここに来ている事自体が、その証拠でもある。

 

「外に出てたらいよいよ探し切れないな。館内放送でもしてもらうか?」

 

「……あの子はきっと、それに従わないでしょう」

 

「想像できるなー」

 

 館内放送をしてもらったとしても、無視してどこかに行きそうだ。今だって、スピネルとはぐれたわけではない。スピネルが意図的にいなくなったのだ。その理由は、大和にもモルガンにも予測できない。

 

「こっち方面に靴屋はないんだよな。……フードコートはあるけど」

 

「セイバーではないのですから」

 

「ははっ、たしかに」

 

「ですが……あの子が行きそうな所に見当がつかないのも歯がゆいですね」

 

「……そうだな」

 

 今になって実感する。バーヴァン・シーのことを、本当の意味で知っていたわけではないのだと。何も分かっていない。どうやって生きさせるのか、それしか考えていなかったのだから。

 

「そこまで思い詰めるなよ。これから知っていけばいい。それをできる時間と余裕が、こっちにはあるんだから」

 

 けれど、異聞帯ではなかったものが、こちら側ではある。せっかく2人とも召喚されたのだから、それを活かさない手はない。

 たとえ還る日が来るのだとしても。ここでの日々を忘れてしまう可能性があっても。

 

「ヤマト。急に踏み込んだり距離を詰めてしまうと、警戒される可能性はありませんか?」

 

 それはそうと、話をするにしても、少女が身構えてしまうのではないだろうか。

 そこまではいかなくとも、戸惑わせる可能性がある。さっきもそうだった。目を丸くしていた。

 

「その懸念はもっともだな。でも、いずれは踏み込まないといけないことじゃん? それに、トネリコは言葉にできてないことが多いっぽいし」

 

「そうですか?」

 

「スピネル相手には、足りてないと思う」

 

 言葉が足りない印象などなかった。モルガンはものをはっきりと言うから。けれどどうだろう。スピネルが相手になった途端、モルガンは言葉よりも行動で示しているように見える。

 本人は接し方に困っているようだが、むしろ行動自体は何も問題ない。()()()()()()()()()()()()()()、彼女が娘のことを愛していることが、これでもかと分かってくる。過保護にさえ感じるほどだ。それが当の娘にイマイチ伝わっていないのは、言葉が足りていないから。少なくとも大和はそう感じた。

 

「気持ちってさ、言葉にしないと伝わらないことが多いんだ。行動だけだと、相手の見方に委ねてしまうから」

 

 それを言うのは、モルガンに言うのは、残酷であると同時に、響きにくいことなのだろう。

 何千年間も、妖精を助けるために尽力し続けた。育ててくれた一族を滅ぼされても、魔女だと蔑まれ、迫害されようとも。それでもと抗い続け、妖精を救おうとした。それでも、どれだけ努力を積み重ねても、妖精たちの気まぐれでそれを無に還された。最後の希望(ウーサー)を殺された。ロンディニウムを滅ぼされた。

 話し合いなんて無意味だ。理解なんてしてくれない。言葉をどれだけ重ねようとも、その言の葉は気まぐれという風であっさりと吹き飛ばされる。

 それを思い知らされ、絶望し、恐怖と支配で国を1つにしたのが、異聞帯のモルガンだ。その彼女に「言葉を重ねろ」と大和は言う。

 

「……そんなもの……!」

 

 たとえそれが大和の言葉であったとしても、それに納得はできない。賛同できない。

 スピネルは、バーヴァン・シーは他の妖精とは違うと分かっていても、根本はやはり妖精なのだ。その在り方は変わらない。変えられない。人間で言うところの、性根というやつだ。

 それを変えるのは難しい。モルガンは誰よりもそれを知っている。ギフトという強引な手段を使ったとしても、それは仮初なのだ。だから、言い聞かせようとしてひどく苦労した。長い時間を要した。残酷で残忍な妖精騎士トリスタンとするまで、時間はかかった。言葉だけでは、どうにもならないから。

 

「そんなものでもだよ。言葉だけではもちろん薄っぺらい。行動が伴わないと説得力がない」

 

「知っています。ですが、それでも届かないのです。何も変わらなかった」

 

「だから言葉を尽くすことはやめたんだよね?」

 

「はい」

 

「でも……、いや、そうだな。まずはおれがスピネルと話してみるよ。第三者だから分かることもあるだろうし」

 

 まだモルガンの話しか聞いていない。スピネルからの話を聞いていないのに、何が正しいかなんて分からない。正直に、率直に話せばいいとは思っているが、的はずれなことを言ったらすれ違う。

 モルガンが多くを語れないのなら、ピンポイントに必要なことを話させればいい。そのための仲介役ぐらい、大和は進んで買って出るつもりだ。

 

「なんにせよまずは再会だな。会わないことには何もできない」

 

「そうなりますね。……()()()()()()()()()()()?」

 

 言葉の綾かと思ったが、引っかかった部分だから聞き返した。モルガンのその反応に、大和はこくりと頷く。ポケットから携帯電話を取り出して、それを揺らした。

 

「間桐に協力してもらってな。外に出てる場合を考えたら、人手がいるだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃のスピネルはというと──

 

「いーーやぁぁーーーー!!」

 

 絶叫しながらデパートの外を全力疾走していた。人の域を超えた英霊としての全力疾走である。少女の敏捷はAランク。この全力疾走は速度で言うと、時速60kmを優に超える。人にぶつかれば人身事故だ。人間ボーリングだ。高齢者じゃなくても死ぬ。

 けれどそこは心配ない。少女はちゃんと車道を走っている。ぶつかるものがあるとすれば、それは車両だ。無論、ぶつかればの話であり、少女は車両を華麗に避けながら走っているので万に一つもないのだが。

 

「なぜ逃げるのですか。敵意はありませんよ」

 

「信じられねぇよ! なんだそのデカブツ!!」

 

「これはレンタカーです」

 

「嘘つけ!!」

 

「■■■■ーー!」

 

「吠えてんじゃねぇか!! それバーサーカーだろ!」

 

「レンタルバーサーカー。略してレンタカーです。……ふふっ」

 

「うまくねぇからな!?」

 

 戦車以上の怪物を乗り回すライダー。これに追いかけられて逃げない者はいない。スピネルの判断は何もおかしくはなかった。

 あくまでバーサーカーは車両モード。身軽に車を躱すことができる自分なら、相手を振り切ることができる。そう思っていた時期もあったらしい。だが悲しいかな、このレンタカーは跳躍可能である。速度も同じ。振り切ることなどできず、かと言って追いつかれるわけでもない。

 

(なんでこいつら追いかけてくるんだよ……!)

 

 それは大和が間桐にお願いして、ライダーにスピネルを探してほしいと言ったからだ。彼女の俊敏さなら、広範囲を短時間で探れると思ったから。

 しかしスピネルはそんなこと知らない。突如現れたライダーwithBを警戒し、逃亡を始めたことでチェイススタートである。

 

「桜? ……ええ、分かりました」

 

 突如入ったマスターからの指示。ライダーはそれに忠実に従う。レンタカーの操縦は片手で、空いた手に鎖を出現させ、それをスピネルの横に投擲。

 

「は!? 休戦状態って話じゃなかったのかよ……!」

 

 反撃しようかと一度振り返り、歯ぎしりしてから進路を変えて逃亡を続行。反撃くらい許されるだろうが、スピネルはそうしなかった。モルガンの指示があるのと、大和をあまり困らせたくなかったから。心地よいのだ。あの隣は。

 

「ヤマトは一発殴る」

 

 それはそれとして、休戦状態って説明してきた大和は殴ろう。あのライダーは、全然攻撃してきたから。

 

「■■■■■■ーー!!」

 

「まさかバーサーカーまで……!」

 

 その咆哮に意識を向けないわけにはいかない。バーサーカーは狂化されたサーヴァントだ。理性なんてない。理性がないということは、何をしてくるか分からないということ。追われている状態なら、その咆哮が警報にもなる。

 

「……なにしてんだあれ」

 

 二足歩行に戻ったバーサーカーが、槍投げみたいな姿勢で助走を取っている。何か投げてくるのだろう。その何かは、バーサーカーの右手の中。妙に見覚えがあるというか、今日見たばかりの紫の髪がそこに見える。

 

「■■!!」

 

「正気じゃねぇだろ!!」

 

 バーサーカーである。

 

「くそっ!」

 

 あの巨躯から投げられた槍という名のライダーが、気をつけの姿勢を保ってスピネルへと飛んでいる。驚異的な体幹であるが、そんなことを評価している余裕はスピネルにはない。射線外へと緊急回避し、そのままそっちの方向へと走る。その際にバーサーカーにも目を配っておいたが、彼は何やらビルをよじ登っていた。

 

「キングコングか……?」

 

 親子揃って、妙な知識があるらしい。

 

 その後もライダーとの追いかけっ子をしていたスピネルだが、それは少女にとって予想外の形で終わりを迎えた。

 ビルをよじ登って以降姿を消したバーサーカーが、スピネルの前方にあるビルの上に現れた。また何かしてくるのかと、警戒しながら睨みつけて気づく。またもや誰かしらを掴んでいることを。()()()()()()()()()()()()

 

「……は? いやいや……何しようとして……」

 

 見たことある少年だ。スピネルがこちらに来て初めて出会った少年だ。その彼がバーサーカーにがっしり掴まれていて、緩やかに投げ捨てられた。

 

「ばっ……!」

 

 なんで捕まってるんだとか。お母様はどうしたんだとか。思考が掻き乱されるのも関係ない。待てと言ったって止まらない。落下は始まっている。

 考えるよりも先に体を動かした。変則的であれ、あれでも一応はスピネルのマスターということになっている。そうではなくとも、彼を助けられるのに何もしなかったらそれこそモルガンに叱られる。失望させてしまう。

 いや、そんなことは関係ない。漠然と、だが確信を抱いて足を動かす。()()()()()()()()()のだと。

 必死に走った。スピネルなら間に合う距離だ。ライダーのことも、バーサーカーのことも頭から捨て去って、その目には大和だけを映す。

 

「──!」 

 

 大和が何か言っているがそれは耳に届かない。

 スピネルは走り抜け、跳躍し、逆さになって落下している大和を摑まえた。

 

「いや~助かった! ありがとうスピネル!」

 

「なんか余裕そうね。もしかして私が助けるって信じてたとか言う? だとしたら馬鹿よ。こんなの、お母様のためなんだから」

 

「同じじゃん」

 

「違うわよ! 過程が違うの! ワンクッション挟んでるでしょ。それに、もし私が見捨てたらどうするつもり?」

 

「その時は私が助けた」

 

「お母様……」

 

 やっぱりいたようだ。姿が見えなかったのは、霊体化していたからだろう。

 

「ひとまずスピネル。手を放してくれないか? 頭に血が上りそうだ」

 

 今も逆さになっている。スピネルは大和の足を掴んでそのまま着地したからだ。彼女の中での葛藤の結果が、見事に現れている。

 

「あとこれだとスカートのなかぁっ!?」

 

「死ね! この変態死んじゃえ! 助けるんじゃなかった!」

 

「これは庇えませんよヤマト。……見たくなるのものなのですか?」

 

 手放された直後にスピネルに蹴られている大和を、さすがにモルガンも擁護できない。

 

「チラリズムと言いますか……いやそれは置いといて」

 

「なに流そうとしてんの変態ブタ野郎」

 

「いやそれを言うとずっとあの状態にしてたスピネルが見せたがりというか、痴女ということに嘘ですごめんなさい」

 

 今度はモルガンに抓られた。

 落下の理由はスピネルを自ら来させるため。見つけても逃げていくのなら、こっちのやり方にすればいけそうだなと。なんとも安直な賭けである。しかも分が悪い。スピネル本人に委ねる作戦なのだから。打算だって、無いに近い。

 それが成功したのは、ライダーとバーサーカーのおかげだ。この英霊たちが、スピネルを追いかけ回したことで、少女の思考する余裕を削っていったから。

 

「まさか外にいるとは思わなかったけどな」

 

「……気づいたら外にいたのよ」

 

「そっか」

 

 そこの追及はせず、大和は屋上にいるヘラクレスに手を振った。無事だということと、協力のお礼を篭めて。

 

「スピネル」

 

「……お母様……」

 

 気まずそうに視線を逸した。それはまさに、悪いことを自覚している子どもの姿そのもの。彼女の前では、この子はただの女の子になるようだ。

 叱られると、そう身構えている少女にモルガンは何もしない。行動では、何も示さない。それは異聞帯にいた時と同じだ。変わらない。一方的な施しだけ。

 

「私に、お前の時間をくれないか」

 

「……」

 

「……謝罪と、これからのために」

 

「ぇ……。お母様……何を言って?」

 

「私はお前を分かっていなかった。いなくなった理由も、見当が今もついていない」

 

 そこを言及されてスピネルは息を呑んだ。その理由自体は自覚している。ちゃんと説明できる。けれど、それを言うのはとても恥ずかしかった。プライドが邪魔をする。

 

「私がお前にどうしてほしいかを話す。だから……いや、お前はお前の話せる時に、私に話してほしい」

 

 それでいいかという、モルガンからの提案だった。そしてそれは、スピネルへのお願いでもあった。

 今までにそんなことはなかった。こうしろという指示があっただけ。

 

 果たしてスピネルは、困惑の末にそれに頷き、そしてモルガンの親バカが加速した

 

 

 

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