1LDKの女王モルガン   作:粗茶Returnees

3 / 18
 感想も評価もめっちゃ嬉しいです。ありがとうございます!
 今後ともこの作品にお付き合いいただけると幸いです。


3話目 モルガンとお出かけ①

 

 通販で買った服が届き、それを着たモルガンが部屋の中でくるりと1回転。軽く身体を動かし、その着心地を確かめる。

 服装自体はいたってシンプルだ。サーヴァントとしての服装を参考に、足首まで丈のあるスカートは黒色。シャツは白色にして、その上からカーディガンを羽織っている。髪型はポニーテールにして、髪を束ねるのはおなじみ黒のリボン。

 

「悪くはないですね。実物を見ずに買うのはどうかと思いましたが、サイズも特に問題ないです」

 

「ならよかった。これでモルガンも外出できるな」

 

「そうですね。胸周りが少々……窮屈に感じますが、そういうものでしたね」

 

「え? …………っ、はい……そうです」

 

「? なぜ照れているのですか?」

 

「追及はしないでください」

 

 言葉にするのも躊躇われる。ましてやそれを、自身の名義で買ったとなれば秘密にもしたい。できれば記憶から消したい。しかも、本人と一緒に買ったという事実が、少年の心にグサリと刺さっていた。刺激が強過ぎるどころじゃない。

 

「他にも服は買うつもりだけど、それは今度から直接店で買えるし、好きなの選んでいいよ。……予算は守ってほしいけど」

 

「資金が少ないのでしたね」

 

「うぐっ! ……はい」

 

「ご安心をヤマト。私に考えがあります」

 

「考え? 強盗はやめてよ?」

 

「なぜ私が賊の真似事をするのですか」

 

「ごめんなさい」

 

 心底嫌だったようで、ガチトーンで言われた。冗談でもそれに近いことは言わないようにしようと、大和は固く誓う。

 

「資金のやりくりなら心得があります。為政者たる者、自分の懐事情は豊かにするのが最低限の仕事です」

 

「最低限が早速難しいような……」

 

「それができぬ者が上に立ってどうするのですか?」

 

「返す言葉もございません」

 

 歴史を振り返れば、それができていなかったとされる諸侯や王がゴロゴロいたのだが、それを言っても彼女は鼻で笑って一蹴するのだろう。そういう者が治めるから滅ぶのだと。

 大和の資金難の原因はモルガンなのだが。モルガンもまた、それを理解しているから打開策を打ち出す。

 

「働く気?」

 

「私はヒトを使う立場であって使われる立場ではないです」

 

「だよね」

 

「それをしなくても資金の増やし方はあるでしょう?」

 

「……ギャンブル……」

 

「いいのですか? 私がやるとすべて当ててしまいますよ?」

 

「絶対やらないで」

 

「はい」

 

 そんなことが起きてしまうと、全国でのニュースで報道されてしまうし、警察が動いて不正がなかったかの調査も始まりかねない。いろんな意味で嫌だった。

 モルガンはそんな賭け事に手を出さない。大和の意向を汲んで、騒がれずに済むやり方で安定的に収入を得るつもりだ。

 

「株をやります」

 

「株もギャンブル性あるよな!?」

 

「それは素人がやるからです。ご安心を、私なら外しません」

 

「……高校生って株買えたっけ?」

 

「え?」

 

 戸籍上では存在しない。それがモルガンたちサーヴァントだ。買い物程度ならまだしも、契約を交わすようなやり取りではボロが出る。そうなると、やはり名義は大和のものを扱うしかない。だが、高校生で株に手を出せるのかを、大和もモルガンも把握していなかった。(高校生でも可能である)

 

 話は一旦保留となり、気を取り直して外出。2人並んで町中を歩くのは、なんだかんだで初めてだ。なんとなくむず痒くて落ち着かない気持ちを、大和は考え事をすることで抑え込む。

 たとえば、服を買って外出できるようにしたはいいが、1つ達成するとすぐにその次に出てくる問題とか。

 

「私のファッション……ですか?」

 

「うん。女性って鞄とか小物も含めてファッションらしいし。ほら、あそこの人とか」

 

 大和が指を差した方向では、大学生くらいの女性が友人たちと集まっていた。見ればたしかにそれぞれ小物を持っているし、アクセサリーを付けている者もいる。

 モルガンはそれを一瞥だけして、興味を示さなかったのかすぐに目を逸らした。

 

「私は気にしませんよヤマト。買い物程度なら、あなたが今持っているマイバッグがあれば十分ですし」

 

「いやでも財布とか」

 

「それもそこに入れればよいでしょう? たとえあなたが学校に行っていようと、そのバッグは家に置いていくのですから。……そうですね。強いて言えば、その時用の財布が1つあればよいですね」

 

「なるほど。モルガンのやり方は無駄がないよな。合理主義ってやつ?」

 

「ええ。ですが、私の統治下であろうと娯楽は認めますよ。私の支配が揺るがない程度なら」

 

 揺らぐなら、それを徹底的に破壊するだろう。冷たい目で、薄っすらと笑いながらそれを言う彼女に、大和は静かに納得した。彼女の人となりを少し分かった気がするから。

 そんな大和にモルガンは半歩近づき、覗き込むように顔を近づけて告げる。

 

「ですから、あなたも他の女性やサーヴァントに靡かないように。ヤマトは私の(マスター)なのですから」

 

「う、うん。それはもちろん」

 

 顔を近づけられて照れた大和は、こくこくと頷きながら僅かに距離を開けた。それを勘違い──するわけがないが──したことにして、モルガンは少年の腕を掴んで引き寄せる。腕を絡ませれば、少年の腕に彼女の柔らかな体が触れる。少年はそれで顔を赤くし、身体を強張らせた。

 

「ふふっ、愛らしいですね」

 

「かんべんしてください」

 

 少年の素直なギブアップ。そこが限度だと分かっているモルガンは、腕を離して少し距離を取った。それは最初よりも近い距離で、肩が触れるか触れないか程度。

 大和はそれに気づけないほどテンパっていて、モルガンはそれを見越してこうしている。作戦通り。

 

「ヤマト。あなたに頼みたいことがあります」

 

「頼みたいこと?」

 

 先程までの緊張も全て追いやり、大和はモルガンの話に耳を傾ける。その復帰の速さをモルガンは評価しているし、こういう時は面白くないとも思っている。

 

「外出中や他に人がいる時、私の名前は伏せておいてください」

 

「あーなるほど。それならなんて呼べばいい? ヴィヴィアン?」

 

「いえ、それでは隠しきれません」

 

 クラス名を提案しないのは、大和がモルガンのことをそれで呼びたくないから。美しい女性だと思っていて、そんな人をバーサーカーなどどうして呼べようか。会話ができないレベルで狂っていたら、あるいはそう呼んだかもしれないが。

 

「トネリコとお呼びください」

 

「トネリコ?」

 

「はい。その名前なら真名にたどり着けません。もっとも、顔でバレることはあるかもしれませんが。顔バレというやつです」

 

「覚えたての言葉を使いたがるのかわいいな」

 

 しかも軽くドヤ顔も入れているのだ。かわいいと思うのは仕方ない。普段の凛々しい姿とのギャップが強い。

 かわいいと言われたモルガン本人は、きょとんと目を丸くしていた。そんな褒め方をされたのは、記憶にない。

 

「……ヤマトほどではありませんよ」

 

「うーんすごい複雑」

 

 かわいいと言われるよりかっこいいと言われたい。そんな気持ちがあるのだが、モルガンにとってはその葛藤すらかわいらしく見える。まだまだ幼いと思えてくる。

 

「今日は買うものが多いのでしょう? 早く行きますよ」

 

 先を歩いた。ほんのりと熱くなった頬は、大和には見えない。

 

「先に服屋でもいいけど」

 

「それは後日で構いません。荷物が増えては大変でしょうから」

 

 魔術の使用を控えているのであればなおさらだ。

 

「……それなら尚更、服を先に買おう」

 

「ヤマト?」

 

「極力不便な思いはさせたくないから」

 

「……まったくあなたは……」

 

 不便を感じたことはないし、不憫を感じさせているのは自分だ。召喚されるはずのない存在を召喚して、本来なら不要な警戒をさせている。そうだというのに、大和はその事に何も不満を示さない。文句を言わない。それよりも、モルガンの生活を優先して気を配っている。

 その事に別の意図がないことは、モルガンの持つ『妖精眼』で分かっていた。他人に冗談を言ったとしても、モルガンにだけは誠実でいる。心の機微を隠そうとするのは、愛嬌として見逃すが。

 本音と建前を乱立しまくる人間たちは、『妖精眼』を持つモルガンにとって「気持ち悪い存在」として映る。けれど、すぐにそういうものだと認知したから、期待値だって存在しない。ゼロはゼロだ。

 

「ヤマトがそうしたいのなら許しましょう。ですが夕飯はどうするのですか?」

 

 大和は少し、特別だ。

 

「藤村先生が、時間ある時に遊びに来いって言ってたからそれで解決。いつでもいいって言ってたし」

 

「あの指導者の家ですか」

 

 モルガンは僅かに警戒心を生み、

 

「いや衛宮先輩の家」

 

 自覚する前にそれを霧散させた。

 

「あの者の家に? 呼んだのはフジムラですよね? まさか同じ家で生活を?」

 

「先生は先生の家があるよ。細かいことは知らないけど、衛宮先輩が弟分なんだってさ。独り身になった先輩の後見人って立ち位置らしいよ」

 

「そういうことですか」

 

 最低限の情報を得たモルガンは、それならいいと賛同を示した。先に連絡を済ませておこうという話になり、大和は携帯電話で衛宮に連絡を済ませる。

 

「先輩も歓迎だってさ。なんか居候ができて、その人の紹介もしときたかったとかなんとか」

 

「居候?」

 

「衛宮先輩の家でかいしな。部屋ならわりと余ってるだろうし。……そのうちホームステイ先とかになりそう」

 

「ヤマトは広い家に憧れでも?」

 

「ずっとそこに住みたいかと言われると微妙だけど、ちょっとくらいは住んでみたいかな」

 

「そうですか」

 

 ふむと唸ってモルガンが思慮にふける。その様子に何かを察した大和が、今の生活でも満足していると慌てて付け加えた。

 

「今度城を建てます」

 

「建てなくていい!」

 

「一晩で建てられます」

 

「人の話聞いてる!?」

 

「……すごいの建てますよ?」

 

「うっ……、せめて高校卒業してからでお願いします」

 

「卒業……あと2年半ほどですか。すぐですね」

 

 体感がバグっていると思ったが、彼女の生きた年齢を思い出せば、そんな感覚にもなろうと想像がつく。

 大和にとっては長い期間で。モルガンにとっては瞬きの間。

 その感覚の違いは、けれど何かに支障をきたすわけでもない。その違いを少し寂しく思うくらいだ。

 それを隠すように大和は話題を服に変えた。これから買うのだから、その選択も自然なものに見える。

 

「トネリコはどういう服装が好み?」

 

 それを隠せるわけもなく、けれど知らないフリをしてモルガンもその話題に乗る。

 

「特に好みはありませんが、そうですね。あまり派手過ぎないものが好ましいですね」

 

「ってなると、今の服もわりと良さげ?」

 

「はい。なにせ自分で選んだ服ですからね」

 

「言われてみればたしかに!」

 

 女性用のを買ってしまったという衝撃ばかり気にして、そのことがすっかり抜け落ちていたらしい。数ある中から、本人が選んで決めた服なのだ。そりゃ好みの服装にもなる。

 

「ドレス調のものもいいですが、それはヤマトが困るのでしょう?」

 

「それを着て参加するパーティーがあればいいけどね。そういうのないし」

 

「コスプレに見えてくると。遺憾です」

 

「そうなっちゃってるんで」

 

 そうこう話していれば、目的地に到着した。

 モルガンは当然ながら初見であり、大和も慣れないなりに誘導してレディースコーナーへ。どういうものがあるのか、一通り見てから考えることとなり、モルガンと共に店内を回っていく。男1人で残るなど、大和には耐えられない。鋼の意志はこの手のことに無力なようだ。

 

「柔らかな色合いのものが多いですね」

 

「色合いで女性らしさってのも出るからね」

 

「言わんとすることは分かりますが……こうまで色の近いものばかりあると呆れてしまいます」 

 

「幅広い色というより、極端だもんな。店は他にもあるから、ここじゃなくてもいいぞ」

 

「では他の店も見ましょうか」

 

 そう言って店を出ようとすると、ちょうどレディースコーナーの端で大和は知り合いと顔を突き合わせてしまった。

 それが知り合いだと認識した瞬間笑顔が固まり、ぎこちない動きになる。

 

「あらあなたこの前の」

 

「これはどうも寺と結婚された方」

 

「そんなものとはしてないわよ! 宗一郎様ともまだだけど! あなたこそ、とうとう女装癖に目覚めたのかしら」

 

「目覚めてねぇよ! 悪趣味キャスターさん!」

 

「誰が悪趣味ですって! 客観的に見れば否定はできないけれど

 

 この女。真名はメディア。ギリシャ神話に登場する魔女の1人であり、大魔術師としても魔術界隈で名高い。クラスはキャスターである。

 当然ながら、モルガンにも分かることがある。

 

「(ヤマトこの女、サーヴァントですよ)」

 

「(え? いやこの人はキャスターさんで………………キャスターなのか)」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。