1LDKの女王モルガン   作:粗茶Returnees

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8話目 モルガンとフリーマーケット

 

 週末らしいことと言えば何だろう。家族や友人と出かける。バイトに奔走する。週末に休みがある人に「おファックですわ!」と言いながら出勤する。自由が増えるということは、それだけ人によって生活様式が異なることになり、誰かが休む時には誰かが働いていないと回らない社会になる。

 それは安定した国家運営を実現させる反動。資本社会の呼吸の証。町中を見てそれを肌で感じ取りつつ、モルガンは大和とある場所に向かっていた。

 自由が広がった現代だからこそできることの1つ。賑わいを見せるその場所。フリーマーケットである。

 

「自由な市場、ですか」

 

「そう。使えるけどもう使わないものとか、再生利用ができるものを持ってきて、売買したり交換したりする場。物は大切にしようってな」

 

「ヤマトは何か欲しいものでもあるのですか?」

 

「特には。掘り出し物でもあればいいなっていうのと、トネリコが楽しめたらいいなって」

 

「そうですか」

 

 一定範囲ごとで場所が決まっているのだろう。それぞれがテントの下で、長テーブルを設置してその上に商品を置いている。各々で工夫が施されていて、客の数もそれなりに多い。イベント好きな日本人なら、興味本位や気まぐれでひとまず足を運びにくることだろう。

 自分の国とは徹底的に異なる統治の仕方。汎人類史が、長い歴史と過激な歴史の末にたどり着いた1つの結論。

 

「……トネリコにとって、現代って生きづらいか?」

 

「なぜ、そう思ったのですか?」

 

「いや……ぼんやりとだけど、そっち(異聞帯)のことも記憶にあるから。違う場所って、思うことも多いんじゃないかなって」

 

「曖昧ですね」

 

「うっ」

 

「……たしかに日々違いを感じていますが、あなたの心配には及びません。時代や思想、そこに生きる者たち。それらによって、統治の方法は変わるものですから」

 

「それなら安心した」

 

 いっぱいいっぱいだった大和も、ある程度モルガンとの生活に慣れてきたからこそ生まれた懸念。気づき、心配になったこと。1つの国の為政者に、全く異なる在り方を見せつけているようなこの日々は、酷く残酷なんじゃないかと、そう思っていた。

 けれどそれは違った。モルガンは「違うもの」としてはじめから見ていて、「こういうもの」として受け入れていた。もしかすれば、どこか使える制度もあるのではと、観察もしているかもしれない。

 

「久しいな少年。寄っていかないかね?」

 

「わぉ言峰神父。なんであなたがここに?」

 

「見ての通り、私もこのフリーマーケットの参加者でね。教会の資金運用に苦労しているというわけだ」

 

「何でもできそうな雰囲気あるのに」

 

「ふっ、私はそこまで、器用ではないとも。というか経営学修めてないのにいきなり教会1つを1人で運営できるわけないじゃん」

 

「めっちゃ早口で本音が出ましたね」

 

「ヤマトこの者は?」

 

 大和の人間関係1つ1つに目くじらを立てるなど、そんな無粋なことはしない。

 モルガンにとっては初対面だから、説明がほしいだけだ。何より、こういう時は最初に紹介から入るものではないのか。今の流れでは、モルガンが割って入るまで2人で会話を続けそうな勢いだった。

 

「冬木市にある教会にいる言峰綺礼さん。通称麻婆神父」

 

「そんな通称がついていたとは」

 

 教会以外での目撃箇所が、麻婆豆腐を食べているところしかないのだから必然である。

 

「それで神父さん。こっちがトネリコ」

 

「少年君は他己紹介のやり方を学校で教わるといい」

 

「あれ?」

 

 上下関係が明確であれば、その場で最も立場の高い人間に紹介。それがなければ、相手方に身内を紹介し、次に身内に相手方を紹介だ。

 モルガンが女王であることを考えれば、間違ってはいない。けれど彼女のことを隠しておきたいのなら、先に言峰に紹介するべきだった。今回なら無知で誤魔化せるが、次回以降はそうもいかない。

 

「ヤマトが世話になったようですね」

 

「なに、職務を全うしたにすぎんよ」

 

 モルガンと言峰が視線を交わし、言峰は不敵に小さく笑みを溢した。モルガンの真名までは分からずとも、ある程度掴めるものもあるらしい。

 

「京坂大和。私の下を訪れなかったということは、()()()()()()かね?」

 

「そうですね。参加はしませんよ。巻き込まれたら話は別ですけど、そもそも()()()()()()()()()?」

 

 大和は言峰に左手の甲を見せた。聖杯に選ばれたマスターであれば、そこに3画令呪が刻まれる。衛宮士郎は普段それを隠して、イリヤなら堂々と晒している。その令呪を、大和は持っていない。だからこそ、大和自身がモルガンの召喚理由を把握していないのである。

 大和の手を見て言峰は鼻を鳴らす。それならそれでいいのだ。イレギュラーな存在が、乱入してこないのだから。そもそもイレギュラーはすでに身内にいる。増えては管理の苦労もひとしおだ。

 

「ならばよいとも。少年、せっかく来たのだから1つどうかね?」

 

「これが言峰神父じゃなかったら買ってたんだけどなー」

 

「失礼という言葉を知っているのかね?」

 

「神父さんには気にしなくていいものでしょ?」

 

 清々しい答えだった。高飛車な弟子を彷彿とさせる。

 

「それより神父さんこれ全部高くないですか? 宝物展だよこれ」

 

「どれも本物だ。知人の代わりに販売している」

 

「そっちのテーブルのが安く思えてくるトラップじゃん」

 

 言峰は、今日のフリーマーケットで2つの長机を確保していた。片側は10年来の付き合いである金ピカからパチったもの。どれもが馬鹿げたほどに高い値段だ。そしてその隣。こちらは言峰の私物から出してきたもの。こちらもそこそこな値段を張られているが、宝物のせいで金銭感覚が狂い、安く見えるというわけだ。

 

「教会で見かけたやつもありますね。これ売れるんですか?」

 

「高齢者の信者が買っていっている。ありがたいことにな」

 

「詐欺師に思えてくるな」

 

「定価だとも。上乗せはしていない」

 

「ヤマト。これらの物は高いのですか?」

 

「うん」

 

「この値段ですよね?」

 

 元から金銭感覚が狂っている彼女だ。金ピカ英霊の宝物ですら、高いとは思わない。

 そんなニュアンスを聞き取った大和は、顔を引きつらせながらモルガンに問う。

 

「……な、何か惹かれるものでもあったか?」

 

「いえそうではなく。この値段が高いと感じるラインなのだなと」

 

「おれが惨めに思えてくるからやめて!」

 

「ふん、安心したまえ少年。君は()()()()()()()()

 

「へ?」

 

 言峰がいるテントの対面。そこに構えられているテントの下で、長机に項垂れている赤い悪魔の姿がそこにあった。学校の話題の中心人物たるきらびやかな姿など、影も形もどこにもない。

 

「あの人の家って金持ちでしたよね?」

 

「散財したのだろうよ。後見人として資産の紐は握っていたが、今年度にそれを手放してね。半年であの有り様だ」

 

「ええぇぇ……」

 

「ちなみに本人の主観で値段が決められている。定価より高いぞ」

 

「転売詐欺じゃん!」

 

「売れぬのも当然ですね。魔術師としての才はあるようですが、商才は皆無と」

 

 ああはなりたくないなぁと、大和は深いため息と共に呆れ。それを受けてモルガンは、大和をそうさせないために金銭感覚のズレを埋めていこうと決める。自身の(マスター)に惨めな生活などさせられない。

 

「さてさて、他の店も見に行くか」

 

「そうですね」

 

「後ほど、また来たまえ」

 

「無理やり買わせる気ですか?」

 

「まさか。実はまだ、物を全て揃えているわけではなくてね。ここに到着していない商品もある」

 

「それを買うかはともかく、次に何を並べるのかは、楽しみにしときますよ」

 

 他の店を見て回るとは言ったものの、実は向かう先は決まっている。先ほど遠坂の成れの果てを見た時に、ついでに周囲の店も見た。その中で1つ、気になったものがあったのだ。

 そこに向かう道中、並んでいる商品も見て楽しみながら回る。モルガンが惹かれるものがあるか。彼女に似合いそうな何かはないか。それを密かに思いながら。

 残念ながらそういうものは見当たらず、大和たちは目的地に着いた。

 

「ライダーさんも参加してたんですね」

 

「や──京坂ですか」

 

 その名を発しかけた瞬間の殺気。それで理解したライダーは呼び方を変えた。俊敏な反応である。敏捷Aランクは伊達じゃない。

 

「ええ。今は席を外していますが、桜と一緒です。不要なものの処分に丁度いいと」

 

「他に使ってくれる人がいるなら、そっちの方が気持ちいいですからね」

 

「そういうことです」

 

「で、なんで間桐先輩が()()()()()()()()()()()()()?」

 

 置物のように黙って黄昏れていた間桐慎二が、話を振られたことで嫌そうな顔をする。溜まっている鬱憤もあったようで、大和による刺激で破裂した。

 

「抜け出せないんだよ! 僕の尻が嵌ってな!」

 

「先輩の尻ってそんな大きさじゃないでしょ」

 

お前が僕の尻を語るな!

 

 正論である。

 

「僕だってこんな目に合うとは思わなかったさ! 今朝いきなり桜とライダーが部屋に来たと思ったら──」

 

『兄さん客寄せをしてもらっていいですか?』

 

「──とか言って、僕の返事を待たずに自転車の籠に押し込んできたんだ! 僕がこんな目に遭ってるのはお前のせいだからなライダー!!」

 

「桜を後ろに乗せるのですから、あなたは前に入れるほかないでしょう」

 

「人を籠に入れるって発想がおかしいんだよ! お前なら往復できるだろ!! はあ、はあ。ったく、おかげで今日の僕はみんなのお笑い者さ。お前も笑えよ、京坂」

 

「ハハハハハ! ズボン破けてパンツ見えてやんのー!」

 

「最低だ……! 最低最悪の情報を叩き込みやがったこの後輩!!」

 

 喋る相手が来たことで、不満をぶつけるように叫びまくっている間桐慎二だが、それはまさに逆効果であった。なにせ彼が叫ぶほどに人の注目が集まり、その数だけ彼は覗き見えるパンツを晒しているのだから。籠の網越しであるため、変にアブノーマルである。

 

「おいライダー! ギッタギタに裂いてやれ!」

 

「あなたのパンツ(ズボン)をですか? それともパンツ(パンツ)をですか?」

 

「パンツしか選択肢にないじゃないか……!?」

 

「何を騒いでるんだ慎二。離れていても聞こえてきたぞ」   

 

 味方がいないと軽く絶望した間桐慎二の下へ、友人であり正義の味方たる衛宮士郎が現れた。その手はイリヤと繋いでおり、アルトリアは藤村と食べ歩き中である。

 

「いいタイミングだ衛宮」

 

 救世主を見たようにその顔は喜びに染まり、

 

「あ、わり。俺の知ってる友人じゃなかったや」

 

「おい待て衛宮!」

 

 一瞬で地に叩き落とされた。

 

「というかおい! なんでその手で子供の目を覆ってるんだよ!」

 

「いや、イリヤにはまだ早いというか……」

 

「僕は規制される存在(喋る18禁)とでも言いたいのか……!?」

 

「シロウ。私をレディとして扱ってくれるのは嬉しいけど、子供扱いするのはどうなのかしら?」

 

「子供扱いってわけじゃなくてだな……」

 

 場の混沌がそれなりに広がったところで、やはり衛宮が対応することになった。困っていると知って、友人を助けないわけがない。ライダーや桜が放置したのは、籠を壊す以外の手段を持ち合わせなかったこと。そしてそれをやりたくなったからだ。

 衛宮士郎なら問題ない。解体し、元に戻すだろう。実は衛宮がここに来たのも、桜から連絡を受けたからである。その桜は凛の様子を見に行っているが。

 

「いや~面白いもの見れたし満足満足。トネリコ的には、今のマイナスかな?」

 

「いえ。あなたの本質は揺らぎませんから」

 

「……これって褒められてる?」

 

「無論です。だからこそ私は、あなたの側に居続けるのです」

 

「…………ありがと」

 

 大和がどういう人間なのか。それはとっくに分かっている。初めて知った時から、彼のことは見抜いている。 

 それは視えるからであり、彼がモルガンに対して真摯に向き合うから。

 自分との決定的な違いを感じつつも、それでも"いいな"と思えているのだ。

 

 

 他にも回って適当に時間を潰せたところで、大和はモルガンと一緒に再度言峰の下を訪れた。そこに行くだけで気付ける変化。それこそ、言峰の言っていた物が到着した証。大量のダンボールによって築かれた山である。

 

「なんですかこのダンボールの山。ダンボールなんて誰も買いませんよ?」

 

「中身が持ち運びに不便なものでね。ダンボールがあった方が便利だということだ」

 

「なおさら買わないのでは?」

 

「なに。私はこれを販売するつもりはない」

 

 ならばなぜ大量に持ってきたのか。

 

「在庫処理に協力したまえ」

 

 そういうことである。

 大和とモルガンは半眼で言峰を見つめた。

 

「私が持っていても仕方のないものだ。欲するものが持つべきだと思わないかね?」

 

「中身が分かればね?」

 

「聖杯だとも」

 

「……は?」

 

「聖杯。そういったのだ。贋作ではあるがね」

 

 聞き取れなかったのではない。理解が追いつかなかったのだ。聖杯を配るとはどういうことなのか。そもそも聖杯がなぜ顕現していて、ダンボールに敷き詰められているというのか。

 

「全てで48個。倉庫に置いていても場所を取るから困っている。贋作と言ったが、聖杯は聖杯だ。使い道はある。君も1つくらい持っていても損はないのではないかね?」

 

 大和も、モルガンも。聖杯にかける願いなど持っていない。それを持っていても仕方がないのは、言峰と同じだ。

 大和はモルガンと顔を見合わせ、しばらく考えてから結論を出した。

 

「2個貰ってもいいですか?」

 

「ふっ、構わんさ。──喜びたまえ少年。君の願いは、ようやく叶う」

 

 言峰がダンボールを2つ手渡し、モルガンと大和がそれぞれ1個ずつ持つ。それを持って、中にそれがあるのを感じて大和はいい笑顔を浮かべた。

 

「自家製ポップコーンできそうだな!」

 

 世界一無駄な使われ方が決まった瞬間である。

 

 




聖杯の贋作:魔術師の求める万能の願望器にはなれない器。冬木の高齢者たちからは「最新型炊飯器」「最新型鍋」「最新型電子レンジ」など、何にでも使える万能調理器具として喜ばれている。電気代不要。

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