ゼロから始めるヒロインRP   作:カチュア

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評価・感想ありがとうございます。
衝動と勢いが途切れるまでは頑張って書きます。


一話

 どうやら予感は当たってしまったようで、少年は路地裏の先でチンピラ三人組に袋叩きにされていた。

 蹲った背中を殴られ覆った腕ごと顔を蹴られ、絶体絶命のピンチといった様子。

 

 ……異世界人、割と容赦ないな。一人は刃物も持ってるし、流石に助けないとヤバいかも。死んじゃいそう。

 

 ここで助けに入るのヒロインっぽいし、なんて考えてない。別に考えてないけど、――せっかくの登場シーンなんだし、素敵に決めなきゃね。

 イメージはクール系なヒロインで、いざ。

 

 

 「「――そこまでよ」」

 

 

 意気込んで発した声は、思いっきり別の声と被った。

 

 ……誰だ、この大事な場面の邪魔をしたのは。

 恨めしげに声を被せた下手人を見やると、同じタイミングでこちらを見た紫紺の瞳と目が合った。

 

 俺より頭一つ分ほど背の高い、長い銀髪の美少女。

 その髪は腰まで届き、肌は透き通るように白く。纏う衣服も白を基調としていて、派手すぎる装飾はないが荘厳さを醸し出している。迷いなく見据える瞳と凛とした立ち姿は、薄暗い路地でも損なわれることない存在感を放っていた。

 

 視線が交わったのは一瞬。少女はすぐにチンピラへ向き直り、動揺する彼らへ剣呑な敵意を飛ばす。

 

「それ以上の狼藉は見過ごせないわ。そこまでよ」

 

「そうね、今なら見逃してあげるから、その男からから離れて――」

 

「今なら許してあげる。だから、潔く盗んだ物を返して」

 

 まぁ味方がいるなら心強い、と一緒に攻めようとしたら……この子今なんて?

 

「盗んだ物?」

 

「お願い、あれは大切な物なの。他の物なら諦めもつくけど、アレだけは絶対に駄目。いい子だから大人しく渡して」

 

 早口で捲し立てるように懇願する少女。しかし、対するチンピラ達の顔には戸惑いの色が浮かぶ。恐らく彼らも、俺と同じく彼女の言葉に同じ違和感を覚えたのだろう。

 

「おい、こいつを助けに来た訳じゃねぇのか?」

 

「……変な格好した人ね。私に関係あるかって聞かれたら、無関係って答えるしか無いわ」

 

 代表して投げた大柄の男の疑問に、遠回しに助けに来たわけではない、と答える少女。

 その答に全員の困惑が強まり、場の空気がなんとも言い難いモノになっていく。

 えぇ、これどういう状況?

 

「じゃあ、そっちのお前は?」

 

「………なんか、この流れでその男を助けに来たって言いづらいから、私も彼女と同じってことにしといて」

 

 雰囲気に負けた。こんな空気じゃ「助けに来たわ!」なんてヒロイン風吹かせられない。これ以上状況を悪化させてたまるか。

 

 俺の言葉でチンピラ達は思いっきり眉を顰めてより困惑した表情をし、地面に倒れ伏せる少年は絶望したような視線を向けてきた。

 ごめん許して。困ってるのはこっちも一緒なんだから……

 

「こいつが関係ないって言うなら、俺たちは別口だ!なんか盗まれたんなら、さっきのガキだろ!」

 

「そうだ!あっちに逃げてった!壁蹴って、屋根伝っていったぞ!」

 

 チンピラ達の続けざまの弁明に、今度は少女の方が困ったような表情を浮かべる。

 どうやら少女は何か勘違いしているっぽい?おかけで俺の適当な言い分は聞き流してくれたようで何よりではあるが。

 

「あら、人違いですってよ。どうする?お姉様」

 

「私、あなたのお姉ちゃんになった覚えは無いのだけれど……でもそうね、嘘は言ってないみたい。なら、先を急がないと」

 

 おっと、つい口が滑った。

 ほら、金髪と銀髪の対比だし、身長差ももいい感じだし、何よりお互い美少女じゃん?

 姉妹ってことにすればごまかせるんじゃないかって、ね?

 

 そんなことを考えているうちに、少女は立ち尽くす男たちの横を抜け、路地の奥へと走って行く。

 人情とかその辺、割とドライな世界なんだな……おや?

 

「――それはそれとして、見過ごせる状況じゃないの」

 

 言うが早いか、振り返った少女は掌をチンピラ達に向け、――虚空から生まれた氷塊が、彼ら目掛けて放たれた。

 棒立ちしていた男達は突然の事に反応できず、苦悶の声を上げて次々に吹っ飛ばされる。

 

 魔法。

 異世界ファンタジーならお約束のそれ。実際に目にするのは初めてであるはずだが驚きや感動はない。ここじゃ当たり前だと体が知っているようだった。

 っていうかちょっとさ、

 

「助けるなら助けると、最初からそう言ってよね」

 

 余計な気を遣わずに済んだのに――と。

 

 起き上がろうとチンピラの無防備な背中に、右手を銃のように構え狙いを定める。イメージするのは氷。たった今目の前で放ってくれたおかけで形を浮かべやすい。

 体内を流れる何かを感じる。これがマナってやつかな。これを指先に集めるようにイメージして……お、出来た。あとはこれを飛ばすっ。

 

「ばん」

 

 指先に浮かんだ氷礫を、適当な掛け声とともに射出する。思い描いた通りに氷礫は飛来し、命中。チビの男一人を吹き飛ばして昏倒させることに成功した。

 よし、残り二人。  

 

「やってくれやがったな、クソアマ!」

 

「調子乗んじゃねえぞ、クソガキが!」

 

 口汚く罵声を飛ばしながら立ち上がってくるチンピラ達。怒りのままに今すぐにでも飛び掛かってきそうな勢いだ。

 

「威勢がいいのは結構。だけどケンカを売る相手は間違えないことね」

 

「今引き下がるなら追わないわ。こっちも急いでるの」

 

 威嚇の意味を込めて魔法を発現させる。今度は先の尖らせた氷柱だ、当たったら痛いぜ。

 その光景に一瞬で顔を青褪めさせたチンピラは、昏倒した仲間を拾い上げて走り去っていく。舌打ちに、「次に会ったら覚えておけよ」なんてらしい捨て台詞も残して。

 

「ふう、良かった。あ、あなたは大丈夫?ケガとかしてない?」

 

「ええ、おかげさまで。それよりも……」

 

 へたり込んでいるジャージの少年を見やる。

 顔は痣だらけで、服も煤けてボロボロ。ところどころ切れて血もでていて、満身創痍といった有様だ。

 視線が向いたことに気づいた彼は、壁に手をついてゆっくりと立ち上がる。

 めっちゃフラフラしてる。無理しない方がいいんじゃ……

 

「ありがとう、助かった……。なんか急いでるんだろ?俺のことは気にせず行ってくれ。俺ってば体が丈夫なのだけが取り柄――あれ」

 

 あーあ言わんこっちゃない。思いっきり顔から倒れた。痛そう。

 その衝撃で気絶してしまったようで、再び起き上がってくる気配は無い。

 このまま放っておくわけにはいかないからなぁ……しょうがないから面倒見てあげよう。寝起きに「起きた?」って声かけるのはヒロインのお役目だ。

 

「この人は私が何とかしますので、用があるようなら行ってください」

 

「……いえ、私が治療するわ。この子に聞かなきゃいけないことがあるもの」

 

「何か物を盗られたような口ぶりでしたが、急がなくていいんです?さっきの男達の言い分を信じるなら、下手人はとっくに逃げてしまってますよ」

 

「だからよ。あの人たちが見てたなら、この子も何か知ってるはず。助けたことの対価に、その情報を教えて貰わなくちゃ」

 

 強情だな、この子。

 倒れた少年に近づき体勢を楽にさせてあげる少女。その手から青白い光が溢れ、見る見るうちに少年の顔の痣や腫れが収まっていく。 

 この少女、対価だのなんだの言って、さも自分本位に行動してるように振舞っているが、根っこはいい人なんだろうな。見知らぬ人に気を遣ったり、手を差し伸べることができる時点でそれは明らかだ。

 見た目も良ければ性格も綺麗ときた。こんな子に助けられたら惚れちゃうよ全く。

 

 ちなみに俺はちゃんと自分本位で動いたからね。見た目は負けじと美少女だけど残念ながら中身が付随してない。

 ……こんなんでヒロインロールとかやってられるのか、俺。


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