ゼロから始めるヒロインRP   作:カチュア

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二話

 頬のあたりに軽い刺激を感じ、水面から顔を出すように眠りから目覚める。

 一度目が覚めたらすぐに意識が覚醒するのがスバルの体質で、例に漏れずすぐに意識ははっきりする。

 

 そうして開いた目に最初に飛び込んできたのは、眩い金と輝かしい銀。それはあの時、薄暗い路地に響いた声の、先に立っていた光と同じ色。絶望に飲み込まれそうになっていたスバルを救い上げてくれた希望の輝きで――

 

「あ、目が覚めた?」

 

「寝起きに美少女から声を掛けてもらえるなんて、この世界はハーレムものだった……?」

 

「起きてないみたいね。えい」

 

「ぶりてぃっしゅ!?」

 

 頬に突き刺さるような痛み、いや実際に指をぶっ刺され、スバルは大きく仰け反る。

 

「起きてる、起きてるから!バッチリ目合ったよね今!」

 

「いきなり意味の分からない事を言い出したので、つい」

 

 スバルのすぐ隣にしゃがみ込み、覗き込むように見ていた金髪の少女。幼さの残る顔立ちだが、髪と同じ色をした瞳は底の見えない光を孕んでいる。位置的に、頬に指を刺してきたのは彼女だ。

 

 彼女は間違ったことはしていないとばかりに表情を変えず言い放ち、立ち上がってスバルの傍を離れる。それにつられるようにしてスバルも体を起こす。

 

「行動に移すまでが早いよ……こっちはついさっき散々顔を蹴られまくってトラウマに……あれ、そういえば」

 

 引き合いに出したことで、自分の体の異変に気付いた。

 眠りに落ちる前の出来事、チンピラ達に袋叩きにされ、死すらも覚悟した痛みがすっかり消えている。体や腕、足を確認してみても、痣や傷跡らしきものも残ってない。

 スバルの体が不死身のように魔改造されている線を切って捨てるのであれば、結論は出る。

 

「もしかして、治癒魔法とか使ってくれた感じ?」

 

「傷を治したのは私よ。それだけ元気ならもう大丈夫そうね」

 

 そう言ったのは、逆サイドで仁王立ちしていた銀髪の少女の方。

 こちらを気遣うような銀鈴の声音は優しく、しかしその紫紺の瞳はスバルの一挙手一投足を注視し、警戒しているのが分かる。

 ともあれ、自分を助けてくれた相手である事は間違いないため、礼を言おうと少女に向き直る。

 

「ありがとう。傷を治してくれた上に、起きるまで付き合わせちゃって……」

 

「勘違いしないで。あなたに聞きたいことがあるから残っただけに過ぎないわ。――あなた、私の盗まれた徽章に心当たりがあるわね?」

 

 そう言ってぐい、と詰め寄ってくる銀髪少女。嘘は言わせないとばかりにまっすぐ見つめてくる美しい顔に、スバルはつい赤くなって視線を逸らしてしまう。

 

「そうやってそっぽ向くのは、やましいことがある証拠。ちゃんとこっちを見て、知ってることを教えるの」

 

「いや、たぶん思ってるのと違う反応よそれ。せめてもうちょっと離れてあげて」

 

 男心に敏感な子がいてくれて助かった。もう少しで目が潰れるところだった――と、無駄な思考で落ち着きを取り戻す。

 

「申し訳ないんだけど、その徽章?に心当たりは無いかなぁなんて」

 

「そう、なら仕方ないわ。あなたは何も知らないっていう情報をくれたから、治療したことの対価は受け取ったわ。次同じ場面に遭遇しても助けに入るとは限らないから、せいぜい気を付けることね」

 

 さも正論のように早口で言いまくし立てる少女。彼女の望んだ答えなど、何一つなかったというのに。

 

 あっけにとられたスバルが何も言えずにいると、見切りをつけたのか視線をもう一人の少女へ向ける。

 

「それとあなたも。女の子が一人で危ないことしようとしちゃダメよ」

 

「それはお互い様じゃなくて?」

 

「私はちゃんと奥の手があったから大丈夫なの。ともかく、自分の身を大切にすること。いいわね?」

 

「あなたに言われるの、釈然としないわ……」

 

 不満げに眉を顰める金髪の少女をよそに、身を翻し表通りへ去って行く銀髪の少女。

 残された少女とスバルは目を合わせる。

 

「はぁ、なんかすごい人ね、あの子」

 

「……そう、だな」

 

 急いでるはずなのに助けを求める人を放って置けなくて、知らない人を付きっきりで看病して、見返りを求めるどころか負い目を感じさせないためにへたくそに言い訳して。まるでお人好しが服を着て歩いているような、そんな人。邪魔でしかなかったスバルを責めることだって出来た筈なのに、そんな素振りは一切見せず。

 

 彼女は、すべて自分の為の行動であると、本心で思っていることが分かってしまって。

 

「そんな生き方、絶対損するばっかじゃねえか――!」

 

「あ、ちょっと!?」

 

 スバルは自然と駆け出していた。素直じゃなくて世話焼きで、底抜けにお人好しな銀髪の後ろ姿を追って。

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