ゼロから始めるヒロインRP   作:カチュア

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四話

 日もだいぶ傾き辺りが薄暗くなってきた頃、俺達は王都のはずれ、貧民街と呼ばれる場所を歩いていた。

 先程までいた大通りとは打って変わって、すれ違う人影はまばらでその誰もに生気がない。家屋も寂れているものが多く、失礼だが名の通りの貧民街って感じだ。

 

 そんな場所にジャージ姿の男が一人に金銀髪の美少女二人。場違い極まりない俺たちがなぜここに居るのか、それは銀髪の彼女――サテラの探し物がここにあるかも、という情報を嗅ぎ付けたからである。

 ちなみに、急いでいるってのに迷子の女の子を見捨てられない誰かさんのお人好しさが実を結んだ結果だ。俺はもう何も言わない。

 

「それに加えて、盗んだ子の名前は恐らくフェルト。居るとしたら盗品蔵って場所だって情報も掴んだ。そう、他ならぬ俺の功績で!」

 

「役に立てたのが嬉しいのは分かるけど、そうやって自慢げに言うのはすごーく格好悪い」

 

 スバルは貧民街の住人と相性が良かったようで、有益な情報を聞き出すことに成功している。確かに、浮いてるのは主に俺とサテラだけでスバルはこの場所にいても違和感無い……は流石に失礼だわ。ごめん。

 

「残る問題は徽章を取り戻す方法ね。上手く交渉して買いもどせ、とは言われたけど」

 

「盗られたものを返してもらうのに、どうしてお金が要るのかしら……」

 

「って言っちゃうぐらいに正直者じゃ、交渉でも逆に吹っ掛けられちまうだろうな。俺は無知蒙昧の無一文だし……頼みの綱は君だけど、どうにかできそう?」

 

 うーん。スバルに比べたらお金もこの世界の知識も多少はあるけど、それで上手くいくとは到底思えない。

 

「正直厳しいわね。そもそもこんな見た目じゃ相手にされないのがオチよ」

 

「有効策は無し、か。ま、とりあえず盗品蔵ってとこに向かおう。穏便に話し合いで解決出来る可能性だって無い訳じゃない」

 

 それは希望的観測がすぎるだろう。とは思うが、ここで話してても他の方法が増えることもない。結局、進むしか道は無いな。

 

 

 

 そうして十分ほど歩いた先。周りに比べて一回り大きい建物、盗品蔵であろう場所の前に俺達は着いた。

 

「さて、噂じゃこの中に蔵主が居て、盗品をまとめて捌いてるって話だが……作戦は?」

 

「正直にお願いして返してもらうわ。本当に困ってるのって」

 

 いやぁ、普通に無理だろうな。こんな所に住んでて盗品を取り扱ってる様な人間が相手だ。盗まれる方が悪いだの言われて追い返されるか、足元見られて吹っかけられるか、何にしろ碌な結果にはならないのが目に見えてる。

 

「よし分かった。ここは一旦、俺に任せてくんない?」

 

「正気?」

 

「想定の一段上の返しが来たな……残念ながら正気だよ」

 

 あれ、無知蒙昧で無一文って自分で言ってたの誰だっけ。そんな人が任せてほしいだなんて言ったって、ねぇ?

 同意を求めてサテラに視線を向ける。彼女は一瞬の逡巡を見せたが、

 

「私は、スバルに任せてみる」

 

 そう迷い無く答えた。

 まじすか姉さん。あなた、この人にかなり足引っ張られてたと思うんだけども。

 

「自分で言っといてなんだが、ホントにいいの?」

 

「何か考えあってのことなんでしょ。スバルはここでそんな嘘言う子じゃ無いって思うから」

 

「意外な評価を頂けて光栄だよ。その通り、詳しくは言えないけど切り札があるんだ。誓って嘘じゃ無い」

 

「やっぱり。あなたも、スバルを信じてあげて。うまくいったら儲けものぐらいの気持ちで、ね?」

 

 諭すような声音でこちらに語りかけるサテラ。

 やばい、この子のヒロイン力が高すぎる。そんな顔して言われて、断れる男は居ないよ。俺今女の子だけど。

 

「はぁ、分かったわよ。スバルに任せる。一応これ渡しとくから、使えそうなら使って」

 

 少しでも何かできることをしようと、俺はローブから硬貨の入った袋を出し、スバルに渡す。

 

「いいのか?」

 

「大した金額じゃ無いから、望みは薄いけど。一文無しで乗り込むよりはマシでしょ」

 

「このツンデレさんがよ。ありがたく受け取るぜ」

 

 別にあなたの為じゃないんだから、勘違いしないでよね。マジで。

 

「じゃあ行ってくる。帰りは遅くなるかもしんないから、二人で先にご飯食べてて」

 

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

 

「作り置きしておくから、帰ったら温めて食べるのよ」

 

 そう軽く茶番を交わした後、スバルは恐る恐る盗品蔵へ入っていった。

 ……こんだけ表で騒いどいて、家主から何もアクションがない事が少々気になる。任せるって言った手前俺から動くことはしないが、警戒は怠らないようにしよう。

 さりとて、手持ち無沙汰になった俺とサテラ。賑やかし役が居なくなってすっかり静かになっちゃったな。そうだ、今のうちに一個聞きたかったことを。

 

「その、サテラってさ……やっぱり偽名?」

 

「……バレてたんだ」

 

 最初に暗い顔で名乗られたときからな。名前を呼んでも反応が薄い時もあったし、気づかない方が難しくない?いや気づいてないっぽい人いたわ。さっきまでそこに。

 

「ごめんなさい」

 

「あ、いや、謝らなくていいのよ。誰にでも隠し事くらいあって当然。私なんてそもそも名乗ってすらない訳だし」

 

「ううん、そうじゃなくて。あなた達を遠ざけようとしたこと。こんなに一生懸命に手伝ってくれてるのに、私は……」

 

 名乗った時と同じ顔で、俯きがちにサテラは言う。

 俺達をたちを遠ざけるために偽名を、ね。それも彼女にとってあんまいい意味じゃない名前なんだろうな。じゃなきゃあんな顔しない。他人に迷惑を掛けたくないがために自己犠牲を厭わない精神。それはもう、優しいの度を超えている。

 

「多分、そんなに気に病むことじゃないわ。最初に言ってた通り、スバルは自分の我儘であなたを手伝ってるだけだし、私もやりたいことやってるだけ。結果それであなたの足を引っ張って、むしろ迷惑かけてるのはスバルと私まであるわ」

 

「……ありがとう。でも、スバルが帰ったらちゃんと謝るわ」

 

 謝る意味あるかなぁ。遠ざけられたことどころか偽名にすら気づいてない様子だったけど。……まぁ俺が口出すことじゃないな。せいぜい煽ってやるぐらいか。

 

 お互いに無事に事が片付いた後の光景を考え、場の空気が柔らかくなった気がした――その時だった。

 

「――――ぁっ!」

 

 呻き声。次いで、何かが倒れたような音。盗品蔵の中からだ。

 

「今の……まさか、スバルに何か?」

 

「私、中を見てくるわ!あなたは周囲の警戒をお願い」

 

 サテラの反応は速く、気づいた時には扉の前に居た。

 本当に行かせていいものか、と疑念が頭をよぎるが、俺が行ってもきっと力不足。彼女に任せる他ない。

 

「慎重にね」

 

 と、そう言葉をかけることしか出来なかった。

 

 

 

 それから数分経った。が、中から二人が出て来ることも、ましてや物音すらしなくなった。焦燥感が胸を掻き毟る。明らかな異常事態であるのは分かっているが、俺は動けずにいた。サテラに言われたせい、じゃない。力不足、なんて建前。実際はただ臆病なだけだ。

 こういうところは死んでも演じてても変われないらしい。なんとまあ情けないことだろうか。

 

 んなこと考えてる場合じゃない。乗り込むのか、又は人を呼んでくるのか。とにかく動けよ、俺。

 

 ――ふいに、盗品蔵の扉が軋んだ音を立てた。

 

「――あら、もう一人。あの子らのお友達?」

 

 出て来たのは、知らない女。髪も外套も暗闇から産まれたかのような黒で染め、病的に白い肌だけが薄暗がりの世界に浮かんでいた。

 

「残念だけど、あの子達はもうここにはいないの」

 

 

 ――その手に握られたナイフから、赤黒い液体が垂れてるのが見えて。

 

 

「でも安心して。あなたもすぐに会わせてあげる」

 

 

 いやにこびり付く血の匂いに、女の纏う異様な雰囲気に、理解できないその言葉に、もう動くことなんて出来なくて。

 

 

「だから、貴方のお腹の中身も愛させてちょうだい?」

 

 

 途端、焼けるような熱が、全身を襲った。

 

 発生源は腹部。何かが止めどなく溢れ出ている感覚。気づけば地に倒れ伏している。熱は収まらない。視界が霞む。涙が零れている。熱を超えて痛みがくる。意識が混濁する。熱くて、痛くて、熱くて痛くて、痛い。痛い、痛い痛い痛い痛い死ぬ痛い死ぬ痛い死ぬ痛い死――

 

 

 プツリ、とナニカが切れた感覚と同時、意識は闇に落ちた。

 

 




 主人公が死んじゃったので終わりです。ご愛読ありがとうございました。







 流石に嘘です。続きます。
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