珍しくうちの担当ウマ娘が学園の施設で行うトレーニングに興味を示したので、恐らく使わないであろうトレーニング計画表を作り上げてから、練習場までやってきた。案の定コースや観客席を見回しても彼女の姿を発見することが出来ない。
「だ~れだ!」
急に視界が真っ赤に染まったので、担当ウマ娘の到着を確信した。赤シートでトレーナーの視界をフィルタリングしてくる存在は、彼女しかいないことを願いたいものだ。
「おはよう、それじゃあトレーニングを始めていくか」
「……トレーナー、あんまり疲れてるとストレスの感じ方が麻痺するらしいぜ」
彼女らしくない殊勝な声掛けだが、気分は好調である。
「なに、楽しくてやっているんだから苦じゃないさ」
「お前って奴が頼もしく見えてきたぜ……」
そう言いながらトレーニングウェアからオセロ盤を取り出した担当ウマ娘を見て、手に持っていた計画表を投げ捨てた。
「トレーナー、どっちが先に石を置き終えるか勝負だ」
「受けて立とう」
常識は計画表と一緒に捨て去ったので、一切の抵抗なくオセロの石を盤上に敷き詰めていく。真剣に勝負に取り組んでいると、更に彼女らしくない言葉が飛んできた。
「……トレーナー、マジで調子大丈夫か?」
「このテンションにも慣れてきたのかもしれんな」
彼女と専属契約を結んでから色々なことがありすぎて、多少突飛なぐらいでは驚かなくなってきている。今の胆力なら春の天皇賞も走破できるだろう。
「ちょ、ちょっと走り込んでくるわ」
「!?!?!?!?」
明日は未曽有の大災害が起きるかもしれない。避難先は実家にするべきだろうか、海外渡航もありだな。
「変なこと考えてんじゃねーよ、ただ単に運動したくなっただけだからな?」
「いよいよお前って奴が分からなくなってきたよ」
トレーニング計画表を拾い上げて、彼女の走りを見ることにした。久々どころかトレセン学園に来てから初めての指導であることに気付くのは、もう少し後の話だ。
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日が傾いて来たので、トレーニングを切り上げて撤収することにした。
「何だって今日は普通のトレーニングに乗り気だったんだ?」
「別に何だっていいだろ~」
「あまり無理して頑張らないようにな」
前例のない異変に気を遣ってくれているのだろうが、自分のトレーナーながら完全に感覚が狂っている。「今日のゴルシは変だな」と呟く変人を横目に、もう少しトレーナーには優しくしようと考えを改めるゴールドシップであった。