アルビオンASMR、メリュジーヌちゃんに囁かれたい   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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メリュジーヌちゃんと二度寝して、毛布に包まりたい

「うーむ」

 

 早朝、キッチンの前に玲は腕を組み頭を捻っていた。

 キッチン設備そのものは非常に整っている。玲とメリュジーヌの家はフランスの片田舎のへき地にありながらも設備のクオリティは高い。自家発電機があり、カルデア式の魔力と電力を変換可能な変圧器もある故に家電系も大体揃っている。たまに棚にアトラス院から横流しされた謎のアイテムもあるがそちらは基本無視。

 

「何喰うかなぁ」

 

 二の腕を軽く叩きつつ、玲は考える。

 最寄りの街まで車で一時間掛かる故に、食料調達は週に一回まとめ買い。森や湖で動物を狩れば肉類は手に入るが無論鮮度の問題もある。

 そのあたり、ちゃんと処理すればいいのだが、

 

「料理、難しい」

 

 玲・アウロラは全く料理ができないのである。

 そもそも彼は曲りなりにも魔術師であり、魔術の研究の為―――即ち、どれだけ加速できるか―――の為に食事を疎かにすることも珍しくない。最低限の栄養補給さえできるのならばそれでいいという考えだ。故に、近年普及している栄養サプリメントやエネルギーバーは重宝していた。

 ただ、

 

「せっかくメリーとスローライフできるし、いいもん食べたいよなぁ」

 

 料理、というのは人生の豊かさを広げるものだ。

 時計塔であったやたら家事の上手い魔術使いの料理には思わず驚いてしまったし、人類最後であったマスターは妙に懐かしそうに、嬉しそうに食べていたのが印象深い。

 なにはともあれ、料理である。

 最低限の用意はある。人畜無害を絵に描いたような平凡なるマスターからおすすめの調理器具は揃えているので問題はない。

 問題あるのは玲の腕である。

 この家に来てはや数日、錬成した名状しがたき何かは数知れず。

 メリュジーヌが張り切って狩ってきてくれた兎の肉が良く分からない何かになったのは苦々しい思い出だ。

 

「とりあえず手の付けようがないパンやジャム……卵くらい焼いてみるか……ハムエッグくらいできる……できる……できるといいなぁ」

 

 首を傾げ、希望的観測に縋ろうしていると、

 

「れぇーいー」

 

 ぽすりと、背中、というより腰に軽い衝撃。

 本当に軽いそれは、

 

「おはよう、メリー」

 

「んー」

 

 身長差的に背中の腰の位置にメリュジーヌがしがみついていた。 

 寝起きだからだろう、いつもはきりっとした鋭利な瞳も寝ぼけ眼で口ももごもごしている。

 可愛い。

 薄紫の飾り気のないパジャマは、少し大きくメリュジーヌの可愛さを引き立てている。

 

「今からなんか作るから顔洗ってこいよ」

 

「んーいらない」

 

「えっ」

 

「玲、料理下手だし」

 

「あっ、うん」

 

「私が頑張る方向で」

 

「あっ、はい」

 

「てわけでもっかい寝よ」

 

「ん?」

 

 腰のあたりからメリュジーヌに引っ張られ、玲の体がスライドしていく。

 玲もそこそこに鍛えているが、そもそもの身体能力の差がありすぎて抵抗する意味もなく、

 

「いや、メリーさん? 朝ごはんは?」

 

「ねーむーいー」

 

 ずるずるとキッチンからリビングへ。

 

「メリー? 俺は今から新しい段階へ上がろうとしていたのでそのまま進めさせてくれるとうれしいなって」

 

「それはただの徒労だから」

 

 取り付く島もなくリビングへ、それどころかそのままベッドに投げ飛ばされる。

 

「どーん!」

 

「かはっ!?」

 

 そしてそのままメリュジーヌが覆いかぶさり、息つく間もなく布団に包められていた。体重が20キロ程度とはいえいきなり飛びつかれては動きは止まってしまう。

 流石は最速のランサーその一瞬で既に二度寝の体勢を完了していた。

 彼女の髪から、花かなにかの甘いに香りが漂ってくる。

 

「んふふー」

 

 満足気に息を吐くメリュジーヌは大変可愛い。

 密着した彼女の体温はかなり低い。人の形をしているが妖精だからか竜だからか、変温動物というほどではないにしても体温が外気温の影響を受けやすいらしく、冷える夜は大体こんな感じだ。

 

「竜だからー。ドラゴンだからー寝るには体温がー必要ーなーの」

 

 間延びしたそんな声を、彼女は耳元に囁いてくる。

 

「……まぁ、いいのかぁ?」

 

「えぇ、予定なんてないでしょう? ダメになりましょう? 二人ぼっちなんだから、私たち。誰も咎めないわ」

 

 メリュジーヌの言うことは正しい。

 基本的に彼女は間違えない。

 いつだって冷静な判断を下す。

 最も、今玲にしがみ付いている姿は冷静とは程遠い、とろけた姿ではあるのだが。

 体温の低い彼女と低めの気温とはいえ一緒に毛布の中にいれば暖かくなってしまう。

 

「んふぅー」

 

 暖かい布団の中、ひんやりしたメリュジーヌの体温と柔らかい彼女の体、穏やかな日差し。

 耳元にはもうすでに半分寝入ってしまった彼女の吐息。

 これで眠くならないはずがなく、玲の瞼もすぐに重くなってきた。

 玲はメリュジーヌのつむじに額を合わせ、メリュジーヌは玲の首筋に顔をうずめる。

 眠る時の二人の定位置だ。

 そうして二人で毛布で包まりながら、穏やかな眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速の飛翔において問題となる物理法則法則はいくつかある。

 細かいことを上げていけばキリがないが、最大の問題は空気抵抗だと玲は思った。

 加速すればするほど、空気の壁が立ちはだかるという物理的課題。おおよそそれを飛翔体のフォルムからとっかかりを無くすことで抵抗を減らすしかない。

 が、

 

「二人で行く以上お姫様だっこだとひっかかりが多すぎんだよな」

 

 リビング、暖炉の前。

 メリュジーヌは胡坐の中に収めながら二人で毛布に包まり、彼女の形のいい頭と柔らかい髪の上に顎を乗せながら玲は呟いた。

 夜、今日も今日とて大気圏突破に失敗しつつ、夕食を終えた上での団欒で、

 

「人体である以上仕方ないさ、レイ」

 

 身長差的にメリュジーヌは玲の体にすっぽり覆われている。小さな体からは完全に力を抜いて、はちみつ入りのホットミルクのマグカップを両手に。

 朝、というより午前中とは違って意識も口調もはっきりとしている。

 季節は夏の終わりで、日中日差しがあれば汗が滲むが、夜になればそれなりに肌寒い気候。

 

「空気抵抗や慣性は音速超過程度であれば基本は無視できる。私単体であればね。ただ玲のブースト載せて、レイを抱っこしていくとちょっとねぇ」

 

 頭の位置を変えず、器用にコップだけ傾けてメリュジーヌはホットミルクをこくこくと嚥下し、息を吐く。

 

「無理に行くと、レイの体が割れるかな。私の腕を起点に、三分割。あはは」

 

「笑えないんだよなぁ」

 

 成人男性のバラバラ死体を抱えながら飛翔する幼女なんてどんなホラーだろうか。

 しかし、それ以前に、

 

「もうちょっとかっこよく飛べないかなぁ」

 

 かっこよさは大事だ。

 速いということはそれだけでかっこいい。

 この世で一番大切なのはどれだけ加速するかだ。

 その点、メリュジーヌは機能美の極地でありコンマ秒以内に最高速に到達する至高の飛翔体だ。戦闘装束である騎士甲冑は流線形で武器である双剣も高速機動の邪魔にならないフォルムを保っている。

 彼女の飛翔に関して文句のつけようがない。

 むしろ手離しで賞賛するし、それが惚れこんだ理由の一つでもある。

 彼女が飛翔し、加速し続ける姿を見るだけでテンションは無限に上がっていくだろう。

 のだが、

 

「メリュジーヌが、俺を、お姫様だっこ……」

 

 バラバラ死体を抱える幼女以前に、成人男性をお姫様抱っこする幼女はちょっと気になる。

 それは男としてのささやかなプライドだ。

 なのだが、

 

「何を言うの。君は弱いんだから、そうするのが当然だよね?」

 

 プライドを正面からぶつけることを、後頭部を首筋に擦り付けながら囁いてくる。

 こと砲撃戦においては人類でも最強クラス(大艦巨砲主義の魔法使いには負ける)であり、聖杯戦争において、氷国の皇女とさえ砲撃戦を行った玲に対して。

 それは傲慢ではなく純粋たる事実。

 英霊である前から妖精であり、その上で竜であり、その竜としての性質でさえ埒外であるメリュジーヌ故の絶対的上位視点。

 私が上で、それ以外は下。

 魑魅魍魎、埒外存在が集った聖杯戦争でもそれは変わらなかった。

 

「だから」

 

 ぺろりと、小さく真っ赤な舌が玲の首筋をなぞる。

 

「これが自然の掟。玲は私の言うことに絶対―――そうでしょう?」

 

 ぞくりと、背筋が増える。

 冷たい舌に体が震える。

 蠱惑的な仕草と声、そしてそれだけではなく生物的圧倒的強者から下される宣告。

 腕の中にすっぽり収まった少女に生殺与奪の権を奪われている事実。

 或いは屈辱に感じてもおかしくなく、

 

「―――あぁ、それもそうか」

 

「いい子ね」

 

 玲はそれに抗うつもりはなかった。 

 奪われるというのなら出会った時から既に魂ごと奪われている。

 そしてその身を捧げるには三か月分の闘いは十分だった。

 英霊と戦い、マスターを殺し、悪魔を見つけ出し、精霊と交渉し、死徒さえも滅殺した。意見がぶつかることもあったし、全く同じ考えの時もあった。

 そういうことも全部超えて、今二人は世界に二人ぼっちなのだから。

 色々関わった者は多いけれど、これでいいと思う。

 

「安心して玲。私たちの望みは必ず叶える。私、最強なので」

 

「説得力あるなぁ」

 

「くすくす」

 

 笑いながら今度は額をこすりつけてくる。

 彼女は、少なくとも今妖精の、人の形をしたメリュジーヌはスキンシップが好きだ。とにかく距離感が近い。

 好きというより、

 

「私は即決即断がモットーよ」

 

 玲の考えを見越したように息を吐きながら彼女は言う。

 

「寡黙で控えめで大人しいメリュジーヌ。だけど、やると決めたことは最速で確実に行います。つまりこれはそういうこと」

 

「じゃあいつもすり寄ってくるのもそういうこと?」

 

「えぇ、そういうこと」

 

 くすくすと、彼女は笑いながらすり寄り吐息を漏らす。

 可愛らしい、だけどどこか空間に響き渡る様な声で。

 それもまた彼女の魅力の一つだ。

 そんなことを思ってしまうあたり、本当に全部彼女に奪われているのだろう。

 全く恐ろしいドラゴンである。

 同居して一週間程度でこれだ。

 今後どうなっていくかある意味で恐ろしい。

 

「……じゃあさ、メリュジーヌ」

 

「うん?」

 

「俺もいい感じにかっこよく一緒に空を飛ぶのもそういうことで……」

 

「いや、それとこれとは話が別でしょ」

 

 




続けて書こうかなと思ったけど秒でネタが尽きてしまった。

続くかどうかは分かりませぬ。


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