たった3センチの根性   作:ダブドラ

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遂に一歩の入門です。


第10話 ボクシングの素質

side:一歩

 

遂に鷹村さんにボクシングを教えてもらえる事になった。ようやく見つけたやりたいことだ、悔いの無いよう頑張らないと。

 

「よし、ここで良いだろう。一歩、俺様を良く見てろよ」

「は、はい。分かりました」

 

鷹村さんに連れられた場所は河川敷でよく目立つ大きな木だ。木陰で休む人はよく見かける。一体何をするんだろう?

木と向かい合うように立つ鷹村さんを見ていると、突然木に向けてタックルをし出した。鈍い音と共に木が揺れ、葉が舞っている。

 

え・・・?

鷹村さんの目付きが変わったと思ったら目に見えないくらいの速さで手を突き出している。凄い・・・。

数秒経って鷹村さんの動きが止まりこっちに近づいてきた。

 

「一歩、先ずはこれをやってみな」

「やってみな・・・ってこれをですか・・・?」

 

鷹村さんの両手にはいっぱいの葉が収まっていた。

あの一瞬でこれだけの葉を掴んでいたなんて・・・やっぱりすごいや。僕にも出来るんだろうか?

・・・・・・いや出来なきゃいけない。ボクサーになるんだから。

 

「いきなり俺様レベルを目指せとは言わん。そうだな、10枚掴めたらボクシングを教えてやる」

「10枚・・・分かりました。頑張ります!」

「一つ言っておくとすれば、俺様の動きをよく覚えておくことだ。リミットは2日間、頑張れよ」

 

そう言うと鷹村さんは走っていってしまった。

2日間か・・・。時間はかぎられてる。

試しに一度やってみよう。僕は木の前に立ってみる。正面からのタックルは僕じゃ厳しそうなので木に背中をつけて思い切り押してみる。

 

舞い落ちる葉をめがけて掴みかかる。

1枚、2枚、3ま・・・あっ。3枚目が手からすり抜けるように落ちた。その後何度挑んでも2枚しか掴めなかった。

回りも暗くなってきたので家に帰り、鷹村さんの言っていた事を思い出す。

 

(俺様の動きをよく覚えておけ)

 

鷹村さんの動き・・・か。どんな動きしてたっけ。

確か・・・足はその場から動いていなかった。激しく動いていたのは上体だけ。後はとにかく速かった。

 

「一歩、お風呂入っちゃいなさい。もう遅いわよ」

「わかったよ、母さん」

 

母さんに声をかけられたので今日はここまでかな。明日はなんとしても進歩しないと。

 

 

 

──次の日

 

今日も放課後に河川敷に来ている。木に背中をつけて、思い切り背中で押す。落ちてくる葉をなるべくその場から動かずに掴んでみる・・・が、昨日と全く同じ結果だった。全身で動くと葉が自分の勢いでかえって逃げてしまう。そこまでは分かったのに・・・・・・

僕は今日も進歩できずそのまま家に帰った。

 

自室で横になり考える。

鷹村さんと僕の何が違ったんだろう?

あの時鷹村さんは・・・・・・あっ!

そうだ、思い出した。鷹村さんは手を出す瞬間握った手に若干空間を作っていた。力を抜いていたような感じだった。

 

そうと分かればと僕は急いで外へ駆け出す。近くの公園にも木は生えている。試してみよう。僕の記憶が正しいかどうか、これでわかる!

 

公園の木には充分に葉が茂っていた。僕は河川敷同様背を向けて立ち、思い切り木を背中で押した。

落ちる葉を見ながら構える。両手を胸の前に上げ、握り込む。頃合いを見て拳に空間を作り手を出す。

1枚、2枚、・・・3枚。

 

・・・・・・取れた?取れたんだ!遂に進歩したぞ!

 

「やったああああ!」

 

両手を上げ叫んでしまった。でもこれで3枚目の壁を越えた。後はひたすら繰り返すのみだ。でも夜中に飛び出してしまったので早く戻らなきゃな。

 

 

 

 

 

──鷹村の言いつけから2日後

 

僕はまた河川敷にきた。何度か繰り返しやっているけど10枚を越えたことがない。最高で7枚までしか掴めていない。今日が鷹村さんとの約束の日なのに・・・

 

途中でいつも手が出なくなるんだよな・・・

やり過ぎても良くないらしいし。鷹村さんが来るまで時間はまだあるし、練習しないと。

それから鷹村さんが来るまでひたすら練習したが一度も成功しなかった。

 

 

「おっ、やってんな一歩」

「鷹村さん、こんにちは」

「どうだ、進歩したか?俺様の動きを思い出してやったか?」

「はい!そりゃもうお陰様で少しは進歩できました!」

「そうか!そんじゃ本番だな。用意できたら俺様に言え」

「はい、分かりました」

 

言われた通り僕は手首などを確認する。やり過ぎてたのか関節に痛みはあるけど動かせる。多分これが最後になると思う。さあ、やるぞ!

 

「鷹村さん、お願いします!」

「よし、それじゃ始めろ」

「はい!見ていてください」

 

用意ができたことを告げ木の下へ向かう。練習通り背を向けて立つ。そのまま背中で木を押し、直ぐに構える。

拳に隙間を作り前へ出す。無我夢中で葉を掴んでいく。時間が経過し葉が落ちきった事を確認し両手を徐々に開く。

 

その手には・・・10枚丁度の葉が収まっていた。

やった、やったんだ!ちゃんと10枚掴めたんだ!

 

 

「やったああああ!できた、できました!」

「鷹村さん見てください!1枚、2枚、3枚・・・丁度10枚あるでしょ!?」

「お、おお。やったな一歩、いいジャブしてたぜ」

「ジャブ?」

「おう。ボクシングの基本だ。試合の立ち上がりや相手を牽制するときに使うパンチでコイツをまずは鍛える事から始めるといい。」

「なるほど、頑張ります!」

「そうだ一歩、お前時間あるか?」

「僕は大丈夫ですけど、何ですか?」

「なら俺様についてこい」

 

そう言うと鷹村さんは走っていってしまった。

僕もそれに続く。ようやくボクシングを教えて貰えるんだ。頑張るぞ!

 

 

 

 

 

side:鷹村

 

まさかここまで一歩の成長が早いとは思わなかった。

ヒント出しすぎたな。後はジジイに認めさせるだけだがあのジャブを見るに素質はありそうだ。面白くなりそうだぜ。

 

ジムの前に来たところで一歩を待つ。しっかりついてきたな。それじゃ行くとするか。

 

「それじゃ一歩、行くぞ」

「行くってジムに入っていいんですか?」

「勿論だ。その資格は得てるからな」

「よろしくお願いします!」

 

一歩を連れてジムに入る。俺様の横にいる一歩に視線が集まってんな。無理もねえ。青木村共も来やがった。

 

「「鷹村さんおかえりなさい」」

「おう、お前らに紹介したい奴がいるんだ」

「幕之内一歩です。よろしくお願いします!」

「入門希望っすか?珍しいな、木村ぁ」

「そうだな、でも鷹村さんが連れてきたってことは見込みがあると?」

「そうだな、素質はあると思うぜ」

 

一通り事情を説明した後、一歩をサンドバッグ前に立たせる。グローブをはめて構えさせ、パンチを打たせる。

 

「ジャブはいい。んじゃストレートを打ってみやがれ」

「ストレート・・・ですか?」

「先ずは思いっきりサンドバッグを殴ってみな」

「は、はい。やってみます」

 

すると一歩はおもむろに右を振りかぶり、サンドバッグへ打ち込んだ。形はなっちゃいねえが威力はある。こいつは光るな。

 

「悪くはねえがもっといけるな。肘から引いて腰を入れ、肩で拳を打ち出す。肘、腰、肩の順にやってみな」

「肘、腰、肩ですね。分かりました。やってみます!」

 

俺様のアドバイスをブツブツ呟きながら体を動かしている。さあどうなるかな。

顔つきが変わった一歩が俺様のアドバイス通りの動きで右ストレートを打った。

 

瞬間ジムの空気が変わった。

こりゃすげえな。久しぶりにここまでの強打者に出会ったぜ。一歩が殴ったサンドバッグは大きく揺れ、ジムは静まり返っている。

 

「う、うわ、これが僕の・・・」

「落ち着け一歩、ちょっと見せてみな」

 

動揺している一歩のグローブを外し、バンテージをほどく。

拳は血こそ出てないが皮が所々剥けている。流石の俺様もホッとしたぜ。ここで拳を壊されちゃ入門以前の問題だからな。

 

「おい、何だ今のパンチ」

「すげえな、入門希望のレベルじゃねえよ」

「痛そうだなー」

 

ジムの練習生共がざわついていやがる。

いい反応するじゃねえか。青木村も驚いてんな。

 

「見たか?俺様の人を見る目を!」

「すげえ新人すね・・・あのパンチ力」

「アンタが威張ってるのはどうかと思いますけど」

「何だと青木ィ?よーし、リングに上がれ。血祭りに上げてやる」

「いや冗談、冗談っすよ!いやー凄いな鷹村さんの見る目は」

 

青木め、生意気な事言いやがって。あとで木村共々絞めてやろう。

俺様達の騒ぎを聞いたのか否か、ジジイが帰ってきた。

いよいよ一歩の試練が始まるな。

 

side:木村

 

鷹村さんがロードワークに長時間行っていた理由は案の定一歩だった。一歩の葉掴みってもっと時間かかってるイメージだったから驚きだな。

原作通りの強打も羨ましい限りだ。

会長が帰ってきて何やら鷹村さんと話している。

そういや青木が絞められかけた時に鷹村さん俺の事もにらんでたような・・・青木の奴め。

そうこうしている内に話を終えた二人がこっちへ来た。

会長は一歩と話し出した。

 

「お主が入門希望の小僧か」

「幕之内一歩です」

「ボクサーになりたいのか?」

「はい!」

「ならお主の根性見せてみんか。丁度ええ、宮田とスパーじゃ」

「宮田とやらせんのか?ってか宮田の奴来てんのかよ」

「つい先程な。とにかくリングに上がれ。入門試験じゃ」

「あっ、はい!お願いします!」

 

「何で宮田なんすかね?」

「おそらく相性だな。俺様はともかく、青木じゃ変則過ぎてまともなスパーにならん。木村は逃げ切られて終わる。ある程度近づいてきて尚且つ打ち合いも多少はする宮田が適任だと踏んだんだろ」

 

なるほどな。青木は変則、俺は回避主体だ。練習生じゃおそらくやられるし宮田が適任なのも頷ける。

ここから一歩と宮田の因縁は始まるんだもんな。

今は見届けるとするか。幕之内一歩がスタートラインに立てるかどうかを。

 

少しして宮田が現れた。俺と宮田のスパーの後から宮田が冷たくなった気がする。気にしてもしょうがないが。

 

「・・・という訳じゃ。頼めるか、宮田?」

「分かりました。会長が言うなら」

「それではリングに上がれ。始めるぞい」

 

会長の掛け声で一歩と宮田がリングに上がる。

一歩は緊張しているらしく、固まっているが宮田は余裕そうな表情だ。

 

「それではスパーを始める。4ラウンド2ノックダウン制じゃ」

「始めるぞ。ラウンド1、ボックス!」

 

3ラウンドに渡るスパー。一歩は鷹村さんのアドバイスをうけながら健闘した。しかし結論から言えば、一歩の負け。だが俺の知る展開とは違った。一歩の右ストレートが宮田に入ったんだ。

 

一歩もダメージがあったためダウンこそさせられなかったが宮田の足を揺らすほどのダメージだった。その後は宮田がクリンチで2ラウンド目を使って回復し3ラウンド目、一歩がカウンターをモロに食らってTKO。

 

 

 

「小僧、明日からビシビシいくぞ。覚悟しておけよ」

 

スパー後の会長の言葉を聞いて一歩の入門を確信した。

青木と鷹村さん、練習生の皆で一歩を囲む。

 

「あ、あの・・・いいんですか?これから通っても」

「ジジイがああ言ってんだ。歓迎するぜ」

「俺は木村ってんだ。よろしくな、一歩」

「青木だ。いいパンチだが、まだまだ未熟だな。俺がみっちりしごいてやるぞ」

「「お前に人を未熟という資格はねえ!」」

「ふげえっ!ひ、酷い・・・」

 

「ぶっ、あはははっ!」

「何笑ってんだ一歩ォ!」

「すっすいません!ただ、何か楽しくて」

「これからよろしくお願いします。木村さん、青木さん」

「「おう、よろしくな」」

 

この後数十分程談笑しその日は終わった。

この時の俺は、明日から試練が待ち受けていることをまだ知らない。




一歩と宮田のスパーは木村視点で短くしました。リベンジの二度目のスパーをお楽しみに。(木村のタイトルマッチまで何話かかるか不安な筆者より)
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