たった3センチの根性   作:ダブドラ

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4ヶ月以上お待たせし申し訳ありません。
色々と落ち着きましたので投稿再開します。


第15話 リバーブロー

side:木村

 

「宮田の奴クリンチしやがった!」

 

「それほど宮田が追い詰められてるんだ。一歩に」

 

「し、信じられん」

 

青木と藤井さんが驚いている。当然だ。

あのプライドの高い宮田がクリンチをしているのだから。こんな事は初めてだ。

 

宮田はそう簡単に離れる気はないらしく、一歩も動揺している。

 

一歩は宮田を引き剥がす術自体は持っている。ただ焦ってるんだ。焦りが思考を邪魔しているせいでその発想に至ってない。

 

「落ち着け一歩!お前の距離に宮田が来てくれたんだ。チャンスだぞ!」

 

一歩目掛けて声を出す。クリンチしているということは宮田が至近距離にいるということだ。

 

鷹村さんが俺にやって見せたあのパンチ、強靭な足腰を持つ一歩なら出来るはず。後に幕之内一歩の得意技になるパンチを。

 

 

 

 

 

「俺の時とはまた違う苦戦の仕方してるな」

 

「そう言われれば木村の時はカウンター含めペースの取り合いだった。だが今の宮田はリズムそっちのけでカウンター合わせにいこうとしてんな」

 

「一歩みたいなパワーのあるファイターは積み上げたリズムを簡単に崩してくるからな」

 

「相手にしたくねえな・・・」

 

 

 

それからクリンチしたまま1分が経過した。

2人は互いに動く気配がない。気になるとすれば、

一歩が足の向きを僅かに動かそうとしている。

 

狙うつもりだ。ガラ空きのあの部分を。

 

 

 

 

 

side:一歩

 

 

不味い、早くしないとラウンドが終わってしまう!

 

宮田君が飛び出してきた瞬間、手を出せて入れば良かった。後悔しても遅いけど、そう思ってしまう。これ以上時間を与えれば宮田君の足が戻ってしまう。そうなったら形勢は一気に不利になる。

 

策が浮かばず途方に暮れていた時、木村さんの声が聞こえた。チャンスだぞ、という言葉で我に返った。

 

そうだ、宮田君が至近距離にいるこの状況は僕からすればこれ以上ないチャンスじゃないかと気づき一つだけ方法を思い付いた。

 

だけど腕が動かしにくくなってる。

空間さえ、溜めを作る空間さえあれば・・・

 

クリンチしている手をほどこうとしてもうまく体が動かない。しっかり組みつかれてる・・・

 

腰の入ったパンチは打てないけどやるしかない。

僕は掌を上に向け握り込み、肘を引ける限界まで引いて宮田君の腹部、肝臓へ拳を叩き込んだ。

 

拳がめり込む感触と同時に宮田君の手が緩んだ。すかさず抜け出しストレートを打つ。とにかく距離を取るために。

 

クリンチされる前の距離感に戻った所で構えを取り直した。鋭い目つきの宮田君が僕を睨んでいる。

 

ガードを固めて前に出て行く。ジャブの連打を無理やり突っ切り左右のフックを宮田君に叩きつける。ガードの上から何度も何度も打ち込んでいると、僕と宮田君の間に、大きな影が割り込んできた。

 

 

「2ラウンド終了だ。2人共コーナーに戻れ!」

 

その影が鷹村さんであると認識した途端、ゴングが聞こえた。鳴っていたんだ。

 

宮田君の背中を見ながら、僕はコーナーに戻った。

 

 

 

side:宮田

 

 

「どうだ一郎、ダメージの程は」

 

「足は大分戻ってきてる。ただ早く決めないとやばそうだ」

 

「クリンチが思わぬ隙を生んだか。あのリバーブローは私も想定外だった」

 

「あのスペースであんなパンチが出せるとは思わなかったし、このダメージが出てくるまであまり時間がないんだ。」

 

「幕之内も初めて打ったのだろう。打たれ強くない一郎にまだダメージが見えない所を見れば分かる」

 

ジャストミートなら沈んでいた。いつこのダメージが出てくるか分からない今、速攻で決めに行かないといけない。

 

さっきの連打にしても、ゴングがあと数秒遅ければ倒されていただろう。幕之内のスタミナはまだまだ残っている。あのカウンターでこれかよ・・・

 

次も幕之内は仕掛けに来る筈だ。爆弾を抱えている今の俺の状態はあいつにとってチャンスになる。カウンターを狙うならここしかない。

 

多少なりとも雑になる事を祈るぜ。幕之内。

 

 

「一郎、そろそろゴングだが次はどう行く?」

 

「おそらく攻めに来るだろうから、カウンターを狙うチャンスだと思うんだ」

 

「確かに鴨川会長や木村なら攻めろと言うだろう。

リバーのダメージをあの2人が見逃す筈はないからな」

 

「どんな入れ知恵をしてくるか楽しみだよ」

 

立ち上がり反対コーナーを睨み付ける。

 

なあ、幕之内。スパーはまだまだ終わらない。

 

最後まで付き合ってもらうぜ・・・!

 

 

 

side:一歩

 

「宮田の奴め笑っておる。おい小僧、ここが正念場

じゃ。落ち着いていけよ」

 

「は、はい!」

 

とは言ったもののどうしよう・・・。水を飲みながらこれまでを振り返る。

 

リバーブローなんて初めて打った。練習こそしていたけど人に打った事はなかったんだ。

結果的に上手くいったけどそれも運が良かった。

 

カウンターを貰っちゃいけない。僕ももう長くは保たないだろうから。

でも僕には前に出るしかない。

 

「会長、宮田君だってダメージがあるはずです。ここで退いたら次はないと思います」

 

「ならばお主のありったけをぶつけてこい!宮田に勝ってこい!」

 

「・・・はい!」

 

会長に背中を押されコーナーを出る。

ガードを低めの位置にしながら宮田君の方を見ると、

これまでとは違う構えでリズムをとっている。

 

狼狽えるな!覚悟は決めたんだ。

 

勝負だ、いくぞ宮田君!

 

「ラウンド3、ボックス!」

 

鷹村さんの掛け声に合わせて前に出る。僕の間合いに入りさえすればチャンスはある。

 

距離が詰まってきたところで右を打つ・・・だけど、そこに宮田君はいなかった。

 

(・・・っ!?)

 

横から衝撃が走る。咄嗟にガードを固め丸くなる。衝撃が来る方向が次々に変わっていく。

 

間違いない。宮田君は僕を軸に回転しながらジャブを

打ってるんだ!ガードすれば耐えられる威力だけど段々早くなっている。

 

数を貰えば流石に耐えきれない・・・。どうする?

いや違う!悩む必要なんてない。

 

僕は右を出せるように握り込んでおく。ガード越しに

宮田君を見据えながらひたすら目で追い続ける。

そして宮田君が拳を振りかぶったタイミングで一気に距離を詰める。

 

もう手が届くという距離まで近づいたその瞬間、顔面に鈍痛が走る。

 

「がっ・・・ぁ・・・」

(意識が・・・マズい・・・堪えろ・・・)

 

 

「ぐっ・・・うああああああ!!」

 

飛びかけた意識を必死でつなぎ止め、右を振り抜いた。

 

 

 

 

side:木村

 

「一歩がドギツいのいれやがった!」

 

「カウンターを堪えられるだけの余裕なんざなかったはずだ。あいつの我慢強さは筋金入りだな」

 

一歩の奴無茶しやがって・・・。意識飛びかけてたんじゃないのか?と心配はするも一歩の目の光を見て安心した。

 

まだ生きているからだ。

 

カウンターを堪えている一歩にショックを受けたのか宮田の動きが止まる。

 

すかさず一歩が攻め立てていく。右、左、右、左・・・

絶え間なく続く連打。宮田は徐々にロープ際に寄りつつあるがガードを固めたまま。

 

このままならガードが開くのも時間の問題だ。

しかし宮田が諦めている筈はない。親父さんが黙ったままなのも気になるな・・・。

 

「勝てるぞ一歩!決めちまえ!」

 

「青木、そいつはどうかな」

 

「何だよ木村ぁ、あれなら一歩が勝てんだろ」

 

「宮田の親父さんが黙ったまま、宮田自身もガードしたまま。俺にはなにかあるとしか思えねえ」

 

「確かに・・・。一歩の動きも鈍ってきてるし、まだ終わらねえか」

 

「見届けようぜ、このスパーの決着を」

 

そういって青木とともにリングを見つめた。

見届けるために。

 

 

side:宮田

 

畜生、しくじった!あのカウンターを打ち返せるとは思っても見なかった。完全にやられたよ。

 

今はガードを固めて幕之内の動きが鈍ってくるまで待つんだ。カウンターさえ入れば倒せる!

 

しかし幕之内のパンチは衰えない。何度打っても重さが変わらない。これじゃガードを崩される・・・。

 

ロープに近づいてきたと同時に幕之内が突進してくる。咄嗟に薙ぎ払うように手を出すが当たらない。瞬間、腹に激痛が走る。

 

「が・・・ガハッ・・・」

 

視線を下げると腹に深々と拳が刺さっている。さっきより威力もスピードも増している・・・。膝が折れ崩れ落ちそうになる体をロープをつかみ強引に支える。

 

動こうとするとドッとダメージが出てきやがった。

(リバーのダメージか、こんなところで・・・)

 

幕之内の方を見ると呼吸が荒く、両手を下げている。あいつだって限界なんだ。俺がくたばってどうする。

 

構えてふらつく足を抑え一歩の前に立つ。

 

これで最後だ。幕之内!

 

目の前目掛けてただ手を出し続ける。殴られれば殴り返す。ガードなどしない。純粋な殴り合い。

 

互いにふらつき出したところで右を振りかぶる。これで最後だと言わんばかりに。

 

「うおおおおおおお!!」

 

自分を奮い立たせ右を振るった。

 

 

 

side:一歩

 

ロープ際にいる宮田君目掛けひたすら連打する。一度途切れたら終わりだ。気を抜いたら今までのダメージが噴き出してくるから。

 

宮田君の腕に隙間が見え出した。ガードがもう少しで

開きそうだ。続けて連打を繰り出そうとした瞬間、宮田君が左を振り上げた。薙ぎ払う気だ。

(今だ!)

 

正面に思い切り踏み込む。距離を詰め、眼前には宮田君の腹がある。そこめがけて思い切り殴り付けた。

 

ボディブローが上手く決まり宮田君がロープに寄りかかる。

 

すかさず攻めようとしたら突然足が動かなくなる。

(今までのダメージが・・・!マズい・・・)

 

宮田君がゆっくりと立ち上がり僕の前に立つ。すぐさま殴り合いが始まった。

 

互いに引かぬまま殴り合って、とうとう僕も限界だ・・・

次が最後の一発になると確信し構えを取る。

 

今までにない声を張り上げ殴りかかってくる。

僕も叫びながら左を構え前に出る。

 

これで最後だ、宮田君!

 

互いの拳が交差する。それはほぼ同時に互いの顔面を捉えた。

 

 

拳が離れ互いに後退する。僕は咄嗟にロープを掴んだ。すぐに顔を上げて宮田君の方を見ようとした瞬間だった。

 

僕は誰かに腕を掴まれた。

その直後ジム内に大きな声が響き渡った。

 

 

 

 

「一歩の勝ちー!」

 

 

 




次回からスパーの後を少しと新人王編のスタートです。
木村も同時進行で試合させるのでお楽しみに。
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