たった3センチの根性   作:ダブドラ

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一章は今回で最後、次回から二章が開幕します。


第17話 宿敵

side:一歩

 

「おはようございます!」

 

スパーの日から2日経って、休養を終えた僕はジムの扉を開けた。鷹村さんに木村さん、青木さんも皆練習している。

 

そのいつも通りの光景に、僕は違和感を覚える。いつもならもう来てる筈の宮田君がいない。

 

宮田君のお父さんの姿もない。一体どうしたんだろう?何かあったのかな・・・?

 

「おっ来たか、よう一歩。アップ済ませとけよ」

 

「は、はい・・・。わかりました」

 

木村さんに言われ準備運動を始める。

宮田君の事は気になるけど今はプロテストまで全力で練習しないと。

 

体が温まったところでサンドバッグを叩く。

大振りにしないで小さく細かく、数を積み重ね

る。会長に教わった事を反復していく。

 

「教えた事を意識出来ているようじゃな。その調子で励め」

 

「会長、ありがとうございます!」

 

「それと小僧、宮田一郎の事なんじゃが・・・」

 

「宮田君、何かあったんですか?ジムにも来てないし・・・」

 

「宮田一郎は、このジムを辞めた」

 

「え・・・?」

 

「昨日連絡があってな。ジムを移籍するそうじゃ」

 

宮田君が、辞めた・・・?ボクシングを辞める訳じゃないのはホッとしたけど、まだその事実が信じられない。

酷く動揺していると、木村さんに呼ばれる。

 

「ほれ、練習せんか。気を抜いている場合ではないぞ」

 

「おーい一歩、スパーやるぞ」

 

会長に背中を押され、リングに上がる。今日のスパーは身が入らなくて、いつもより打たれてしまった。

 

 

 

 

練習を終えた帰り道。途中にある橋の上で、声をかけられた。

 

「よう、幕之内」

 

「み、宮田君!?」

 

「そんなに驚くことでも無いだろ。挨拶に来ただけだ」

 

「ジムを辞めたって会長から聞いたんだ。挨拶ってもしかして・・・」

 

「ああ、その事さ。俺は別のジムでプロデビューする。やらなきゃならない事があるんでな」

 

宮田君本人の口から聞かされて、事実なんだと実感する。宮田君の目が、本気だからだ。

 

ポケットに隠した手は多分、固く握り締めてるだろうな。そのまま宮田君に質問する。

 

「やらなきゃならない事って?」

 

「お前と決着をつけることだ。幕之内。俺たちの試合はまだ終わってない。この決着は、プロのリングでつけようぜ」

 

口元をゆるめた宮田君に対して、僕も不敵に笑って返す。宮田君は僕の憧れであり、目標なんだ。

スパーじゃ一勝一敗で、まだ同点のまま。

この決着を、プロのリングで・・・。

 

「やろう、宮田君。プロのリングで。僕らの決着をつけよう」

 

「ああ、せいぜいそれまで負けるなよ?」

 

「もちろんだよ。勝ち続けて見せる」

 

宮田君が差し出して来た手を握ると、宮田君はそのまま行ってしまった。

 

このままじゃいけない。プロテストもそうだけど、誰にも負けないぐらい強くならなきゃ。

宮田君の前で威勢よく言ったんだから。

 

「ま、不味い!夜釣りの手伝いに遅れちゃう!」

 

時計を見て、僕も慌てて家に帰る。

 

そうだ。母さんにも心配かけないくらい、強くなるぞ!

 

 

 

 

 

side:木村

 

一歩と宮田のスパーから丁度一週間が経った。

この一週間で宮田は鴨川ジムを辞め、プロテストにも受かったらしい。

 

ジムの外で一歩を待つ。なにやら一歩も宮田と約束をしたようだ。それからは吹っ切れた様に練習に取り組んでいた。

 

これから行くプロテスト会場に、ヤツがいる。恐怖はあるが実際に会ってみたいという好奇心もある。とにかく狼狽えないようにしよう。

 

「おはようございます!木村さん」

 

「おう一歩、用意出来てるか?」

 

「はい、頑張ります!」

 

一歩の大声でこっちも活気づく。するとジムから鷹村さんが出てきた。

 

「よぉ、宮田はプロテスト受かったそうじゃねえか。これで一歩が落ちたりでもしたら、また差が開くなあ?」

 

いつも通りの煽り口調に苦笑いしていると、会長も姿を表した。鷹村さんに杖を突きつけている。

色々マズいんじゃないのか・・・?

 

「ゴチャゴチャ言うな鷹村。安心せい小僧、お前ならば間違いなく受かる。自分を信じるんじゃ」

 

「はい!会長、行ってきます!」

 

「うむ。それから木村、小僧を頼むぞ」

 

「わかりました、会長」

 

会長に頭を下げ、俺たちはプロテストの会場へ向かった。

 

 

 

 

side:一歩

 

プロテストの会場に着いた僕は今実技試験の準備をしている。筆記試験はなんとかなったんだけど、

ペンを落としたり回りから悪目立ちしてしまった。

 

良い人がいて助けてくれたから良かったものの焦ったなあ。筆記で落ちてちゃ目も当てられない。

緊張してトイレにいたら、木村さんもそこにいて、思わぬ張り手を食らった。

 

「緊張、してるだろ?」

 

「じ、実はそうなんでs・・・痛い!!」

 

「会長直伝の精神注入ってやつさ。俺も鷹村さんに何度されたことか」

 

「精神注入・・・ですか?」

 

「ああ、ヤバくなった時とかに喰らうと気合いが入るんだぜ。思いっきりやってこい!」

 

「はい、行ってきます!」

 

木村さんに気合いをいれてもらった後、僕は実技が行われるホールに来た。

 

ヘッドギアを着けてリングの方を見る。

本番さながらのリングの上でスパーが行われている。でもそこまですごいと思わなかった。

 

「続いて10番、11番の方、リングに上がってください」

 

実技の様子を見ていたところで番号を呼ばれた。いよいよだ。深呼吸をして、リングに上がる。

 

──なあ、あいつって筆記の

 

──ペン落としてたヤツだろ?

 

──ガチガチじゃねえか

 

──相手も余裕こいてるぜ

 

等々、僕を笑う声が聞こえてくるが全て無視。リングに上がって、構えをとる。

 

相手は同じインファイターみたいだ。姿勢が低いし思ったよりガードが固そうだ。

 

「それでは、これから実技を行う。二人とも練習してきたことをそのまま出せば良いからね」

 

レフェリーの説明を聞き、今までの練習を思い出す。ガードを意識して、小さく連打。よし、いくぞ。

 

「それでは始めるぞ、ボックス!」

 

そしてまもなく、ゴングが鳴り響いた。

相手が先制を仕掛けてくる。ワンツーだ。

 

(あれ・・・?)

 

遅い、パンチが遅く見える。木村さんや宮田君に比べれば大したことないぞ?

 

ジャブをウィービングで避けて前進、ストレートをダッキングで躱して隙だらけのところに思い切り右を振り抜いた。

 

相手は吹っ飛んで倒れた。レフェリーが間に入ってくる。倒れた相手にレフェリーが近づいて数分、ゴングが鳴った。

 

「よく頑張ったね。お疲れ様」

 

レフェリーに声をかけられ、リングを下りた。

僕の次に控えている背の高い人が、僕を見てニヤリと笑った。

 

その人のスパーを見て、僕は言葉を失った。

 

 

 

side:木村

 

「そろそろ一歩の番か」

 

ホールの上の方の座席で俺は実技の様子を見ている。原作に倣って鷹村さんみたいに一歩に張り手をかましたが果たしてどうなるかな。

 

「隣、いいかな?」

 

「藤井さん。いいっすよ」

 

「幕之内君の付き添いか?」

 

「ええ、会長の指示で。藤井さんも一歩を見に?」

 

「それもあるが、実はもう一人凄い新人がいるんだ」

 

「凄い新人って誰すか?」

 

「見ていれば分かる」

 

隣にやってきた藤井さんにそう言われリングを見つめる。すると一歩がリングに上がった。

 

まだ少し緊張してるな・・・。回りもザワついてる。相手は大したこと無さそうだが、どう出る?一歩。

 

ゴングが鳴った。相手から突っ込んでいく。まあそんなパンチじゃ一歩は捕まらないぞ。

 

ストレートを空振ったところに右を打ち込まれて相手は伸びちまった。一瞬だったな。

 

「やるな。無駄のない回避から強烈な右。破壊力は勿論回避も良くなっている」

 

「まだまだ伸びますよ。アイツは」

 

「幕之内ではないもう一人、出てくるぞ」

 

「あれは・・・やっぱりか・・・」

 

藤井さんの目線の先には長身痩躯で色白の男・・・身長より長い手を持つ死神"間柴了"がいた。

 

ようやく会えたぜ。いずれ俺が挑戦する相手。じっくり見せてもらおうか。お前のボクシング。

 

「やっぱりって、知ってたのか?」

 

「いえ、会場で見かけて一人だけ違うなと思って」

 

「流石の観察力だ。彼のボクシングは完成度が高い。良く見るんだ」

 

ゴングと同時にリングを凝視する。

 

間柴はヒットマンスタイルの構えで、リズムを刻んでいる。さながら鎌を研いでいるようだぜ。

 

相手が動いた。仕掛ける気だが・・・。

 

 

「フリッカージャブか・・・」

 

鞭のようにしなるジャブの連打が相手を寄せ付けない。長いリーチによって軌道が普通じゃない。ありゃ躱せないだろうな。

 

相手のガードがゆるんだ所に右の打ち下ろし。

チョッピングライトだ。動きが止まった所に間髪入れずラッシュ。

 

「もう終わったんじゃないのか!?」

 

「あの容赦の無さも彼の強みだ」

 

レフェリーの制止も聞かずにラッシュを続行し、相手は完全に気を失っている。一歩も唖然としてやがるな。

 

にしてもあのフリッカー。俺にどうにかできるのか?

ジュニアライトに階級を上げればフェザーの時よりずっとフリッカーも厄介になる。

 

タイミングさえ掴めればなんとか・・・なるか。まだヤツのボクシングを見る機会はあるんだ。じっくり研究させてもらうぜ。

 

「俺は一歩の所に行ってきます」

 

「わかった。後で幕之内君にも話を聞かせてもらおう」

 

「そう言っておきますよ」

 

そう言って藤井さんと別れて一歩の所に向かった。

やはり思い詰めた顔をしている一歩を労ってやる。

 

「お疲れさん。いい右だったじゃねえか。藤井さんも驚いてたぜ」

 

「ありがとうございます。でも・・・」

 

「一歩の次にやってたやつか?」

 

「はい。流石にやり過ぎなんじゃないかと」

 

「レフェリー無視したのはマズいが、あれくらい容赦無く打てなきゃ、プロとは呼べないぞ」

 

「そうなんですか・・・。あっそういえば、その人変なジャブを打ってたんですけどあれって何ですか?」

 

「フリッカージャブだな。腕をしならせて打つジャブで、当たった所が腫れやすい。有名なトーマス=ハーンズの得意技だ」

 

「ハーンズってあのハーンズですか?凄いや...」

 

フリッカーについて語っている間に藤井さんがやってきたようだ。その背後にヤツもいた。

 

こちらを睨み付けてやがる。

 

「やあ幕之内君。プロテストお疲れ。いいスパーだったよ」

 

「藤井さん、ありがとうございます」

 

「ところで、君達に紹介したい人がいてね。彼は東邦ジムの間柴君。幕之内君と同じフェザー級の新人だ。こちらは鴨川ジムの幕之内君。もう一人はジュニアライトの木村選手だ」

 

「間柴さんですね。よろしくお願いしま・・・」

 

「オレがいる限り、お前はフェザーの頂点には立てねェ。何なら階級変えるか?」

 

「僕には約束があります。それを果たす為にも、階級を変えるつもりはありません」

 

「・・・ヘッ」

 

一歩も言うようになったな。感心していた俺の前に、間柴が立っている。いよいよご対面か。

 

「アンタ、ジュニアライトって言ったな?ならいつか戦るときがあるかもな。アンタにも階級を変えるのを勧めるぜ」

 

「その時は、本気でやらせてもらう。俺にも意地があるんだよ」

 

 

言い返すと、間柴はニヤリと笑って会場を後にした。

 

そうして、一歩のプロテストは幕を閉じた。

 

 

 

 




いよいよ間柴が登場しました。
二章からは文章の量を2700字~2900字くらいに減らします。
今後ともよろしくお願いします。
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