今回から第二章のスタートです。オリジナル展開が増えてくるのでお楽しみに。
第18話 新人王戦へ
side:木村
一歩がプロテストを受けて1ヶ月が経った。俺は回避に磨きをかけている最中だ。
この1ヶ月の間に一歩はデビュー戦ともう1試合共にKOで勝利。デビュー戦の相手はもちろん小田裕介だ。
強い右ストレートを持ってはいるが一歩には当たらず、パワー負けする形になった。
もう1試合の方も相手の頭突きには驚いたものの2ラウンドでKO。
これらの結果から一歩はフェザー級きっての
ハードパンチャーと一部のファンから注目されるようになった。
デビュー戦といえば、宮田と間柴も鮮烈なデビューを飾った。宮田は打ち合いを制してからの華麗なカウンターで1ラウンドKO。
間柴は得意のフリッカーで相手を滅多打ちにし同じく1ラウンドKO。間柴の相手に至っては血まみれだったらしい。
有望な新人が多数デビューするって事でボクシング界は盛り上がっている。そんな中、いよいよあれが迫っている。
「東日本新人王戦が、もうじき開幕される。」
集合した俺たちに向けて、会長が宣言する。もうすぐ一歩の新人王戦が始まるんだ。
トーナメント形式で進行され、その組み合わせがいよいよ発表される。
東日本新人王になれば全日本新人王決定戦が待っている。俺が棄権してたなんて屈辱だ。
「組み合わせについては、後日発表する。話は以上じゃ。練習に励めよ。」
「「はい!」」
会長の話の後、俺と一歩でスパーをする。しかしどこかぎこちない気がする。一歩の振りが僅かに大きい。
「おい一歩!振りがでけえ、もっと小さくしろ。ジジイに言われてただろ?」
「す、すみません、鷹村さん。緊張しちゃって。」
「始めてのでかいトーナメントだもんな。しょうがねえよ」
「木村さんも試合が近いのに、すいません・・・」
「そう暗い顔すんなよ、続けるぞ。」
俺はそのまま2ラウンドに渡るスパーを終えた。途中、会長が何か電話している声がしたが・・・まあいいか。
「なあ青木、今日店に行ってもいいか?」
「おう、勿論良いがどうしたんだよ急に?」
「何、一歩も連れていこうかと思ってよ。」
「なるほど、んじゃ待ってるぜ。」
そうして青木に許可を取り、一歩を誘った。嫌な顔など勿論せず了承してくれたので、ジムを出て店を目指す。
目の前に見覚えのある暖簾が下がっている。店というのは青木がバイトしているラーメン屋の事だ。
実は俺が木村になってからまだ一度も行った事が無い。
ずっと食べてみたいと思っていた青木のラーメンを食べられるという夢にまで見た展開に俺は少しはしゃぎ気味だった。
「青木さんが待ってるのってここですか?」
「ああ、早く入ろう。待たせちゃ悪いからな。」
急ぎ足で暖簾を潜る。食欲をそそるスープの匂いに包まれながら店内に入ると、そこにいたのは・・・
「おう、待ってたぞお前ら!」
「鷹村さん!?」
「来てたんすか!」
「話してたのが聞こえたからな。俺様も来てやったんだ。」
偉そうな鷹村さんの横に一歩が座り、俺もそれに続く。餃子の焼ける匂いがする。腹が減ってきた・・・。
「何でも好きなもん食えよ一歩。俺の奢りだ。」
「青木さん、良いんですか!」
「プロデビュー祝いもしてなかったしな。」
「青木がそう言うならお言葉に甘えようかねえ。」
「鷹村さんは早くツケを払ってくださいよ!」
「青木、ラーメンと餃子な。」
「木村はいつものだな。ちょっと待ってろ。」
3人それぞれが注文を済ませ、新人王戦の話題になる。
鷹村さんも真面目に答えてくれるといいんだが・・・
「そういえば、皆さんは新人王戦どうだったんですか?」
「「ギクッ」」
俺と青木が同時に動揺した。答えづらいが答えるしかないだろう。鷹村さんのドヤ顔がムカつくが仕方ない。
「俺様はあっさり全日本取っちまったから、あんま覚えてねえな。」
「流石鷹村さんだ・・・。木村さんはどうだったんですか?」
「ああ、俺は体調崩して出られなかったんだ。」
「彼女に振られたんだったか?」
「やめて下さい鷹村さん!違いますって!」
「な、なんかすいません・・・。じゃあ青木さんは?」
「え!?お、俺はだな・・・。」
青木が口ごもった。当然だろう。初戦負けの上、青木に勝った相手は次で負け、勝った相手は次で負けを繰り返してたそうだからな。真偽はともかくフルラウンド打ち合った事は評価するべきかな。
今俺が説明した事をそのまま鷹村さんが一歩に告げている。一歩も気まずそうな顔になっちまったじゃねえかと思いながら待っていると、お待ちかねのラーメンが出来たらしい。
「待たせたな、出来たぜ!」
「頂きます、青木さん!」
一歩に続いて俺も手を合わせ箸を手に取る。まずは一口、スープを飲んでみる。
・・・・・・美味い!
あっさりした醤油スープで、堪らなく美味い。
漫画飯と言われる物は良く見てきたが、まさか実物を食べられるとは思っても見なかった。
怪しまれるのでリアクションを我慢しながらいよいよ麺をすすってみる。
スープが良く絡んでいて当然美味い。
今まで食べたラーメンで一番美味いという安直な感想しか出てこない。それ程に美味い。
「美味しいです、青木さん!」
「やっぱ美味いな、青木の作るラーメン。」
「へへっ、だろ?」
「ボクサー引退してもその後の心配いらねえんじゃねえか?」
「縁起でも無いこと言わないで下さいよ鷹村さん。」
ある程度ラーメンを味わった所で餃子を齧る。絶妙な焼き加減に溢れ出る肉汁。これまた美味いな。
何もつけなくても充分美味い。通いたくなる訳だ。
「しかし、俺らもうかうかしてられないな。試合も近いし一歩に抜かされる日も近いかもしれんし。」
「お、おい木村やめろよ。まだ一歩に負けるわけ無いだろ。」
「もう抜かれてたりしてな。」
「た、鷹村さんまで!?」
「青木よりか強いと思うぜ?」
「俺よりかってなんすか俺よりかって!?」
鷹村さんと青木の喧嘩を仲裁しラーメンを食べ終えた後、俺は一歩と腹ごなしにシャドーをした。
一歩曰くシャドー中の俺は何時もより嬉しそうな顔をしてたらしい・・・。
side:鴨川
小僧の新人王戦が始まると聞いてジムも一層活気づいてきよった。
ワシは今ある男に連絡を取ろうとしている。現役だった頃からの親友に。
木村のファイトスタイルがヤツと似た部分が多い為、ワシより適任だろうと踏んだからじゃ。
「会長、あの事を木村君にいつ伝えるつもりなんです?」
「次の木村の試合が終わってからにするつもりで打ち合わせておる。八木ちゃん、相手の資料を集めておいてくれ。」
「分かりました。早速取り掛かりますね。」
八木ちゃんに礼を言った直後、電話が鳴った。
急いで受話器を取る。
「鴨川じゃが。」
「久しぶりダニ!源ちゃん。」
「久しぶりじゃな。手紙が行っとるはずじゃが・・・」
「手紙なら届いとるダニ。ワシに鍛えて欲しいボクサーさいるダニか。」
「同封した試合のビデオを見れば分かるじゃろうが、お主の方が適任じゃと思うてな。」
「確かに鍛え甲斐さありそうダニ。燃えてくるダニよ。」
「およそ1ヶ月後に控えている試合が終わった後に頼みたい。存分にしごいてくれて構わんぞ。」
「分かったダニ。ワシに任せろダニ!」
「それじゃあ、頼んだぞ。猫ちゃん。」
電話を切った後、ワシは柄にもなく興奮しとった。木村のこれからが楽しみじゃわい。
実はタイトルを変更しました。理由はタイトルから木村に結び付かないと思ったからです。
青木のラーメン屋でのシーンはタイトルマッチと並んで書きたかったので念願かなった形になりました。
次回もお楽しみに。