第1話 初めてのスパーリング
「はぁ・・はぁ・・ぜぇ・・ぜぇ・・」
「どうした青木ィ!もうバテたのかぁ?」
「鷹村さん・・・流石に速すぎますよ・・」
「あぁ!?木村も弱音を吐く余裕があんなら走れ!」
何故いきなり青木が息切れしているかって?簡単な話だ。
ロードワークがキツすぎる。
鷹村さん何故か珍しくハイペースで走りやがって・・・
かく言う俺も息切れ寸前ではあるが・・・・只、正直ここまで鷹村さんについていけるなんて思わなかった。転生前の俺は運動が苦手でも得意でもない、普通な男だった。 ジョギングもしたことなんて殆んどないし・・・
そもそもロードワークも初めてだ。
そんな俺だが今は木村達也なのだ。
原作では木村は運動神経が良くスポーツも万能だったはず。ボクシング以外は何でも器用にこなしていた。
「ボクシング以外」は・・・な。
鷹村さんはボクシングの天才でも他がからっきしで、俺と青木はボクシングは弱くても他が何でも出来る。まさに正反対。
しかしこれは原作であればの話だが。
何を隠そう俺ははじめの一歩を最新刊まで読み込んでいるのだ。つまり先の展開を知っている事になる。
当然、木村達也というボクサーの欠点も知っている。
だが先ずは、その欠点を無くすよりもボクシングを覚えなければならない。
何故ならロードワークはまだ単純に走るだけ(一歩はシャドーを途中に入れていた気がするが)なので俺でも出来た。しかしボクシングとなるといくら体が出来ていても技術が無ければ意味がない。
技術的には素人の俺には欠点以前の問題である。
練習するしかない・・・・よな。
頭の中でそんな事を考えながら、俺は初めてのロードワークをやりきったのだった。
ー鴨川ジムー
「ジジイ帰ったぞー」
「会長戻りました・・・ってあれ?」
「何だいねえのかジジイめ」
「何処に行っちゃったんでしょう」
ジムに帰ったはいいが、会長がいない。ロードワークに行く前はいたはずだ。何をしているんだろう.....等と考えていると、
「まっその内帰ってくんだろ。練習するぞ青木村ぁ」
「くっつけないで下さいよ鷹村さん」
他愛もない会話をしつつ鷹村さんと青木は着替えだす。
「木村ぁ何してんだよ。練習始めるぞ」
「あ・・あぁ」
不意に青木に声をかけられ咄嗟に返事をした。
見とれてしまった・・・これがボクシングジムか。サンドバッグにスパーリング用のリング、パンチングボールなどの器具がある。ミットやグローブ、ヘッドギアもある。本当に鴨川ジムなのか・・・
そういえばロードワークにいなかったし、カレンダーの日付からして一歩はまだ入門してないんだな。
そんな考え事をしつつ練習着に着替え、回りを見ると、
鷹村さんはサンドバッグを叩き、青木は縄跳びをしている。
「俺もやってみるか」
とは言ったものの、どうするか...初めての練習で何をすればいい?パンチングボールでも叩くか?
等と悩んでいた時だった。
「おい木村ぁ、スパーやるぞ」
「え、お・・俺っすか?」
「頑張って生き延びろよ木村」
「生き延びろって無茶な・・・」
嘘だろ・・・・いきなりあの鷹村守とスパーしろと?
生き延びられる気がしない・・・・・はぁ・・・
ため息を吐きながらヘッドギアとグローブを身につけ、リングに上がる。
「よっしゃ、やりますよ」
「その意気やよし!んじゃいくぜ?」
「お願いします!」
俺がその言葉を言うや否や鷹村さんが飛び込んでくる。
なんて威圧感だよ・・・と思いつつ構える。
オーソドックススタイルというやつだ。直後、鷹村さんの左が飛んできた。速えぇ!! ガッガードを・・・
慌てながらガードを固める。速射砲のような左ジャブが俺のガードに叩きつけられる。
なんて破壊力だ・・・ガードしたってのに腕が痛ぇ。
「怯んでる場合か!くるぞ木村ぁ!!」
青木が叫んでいる。何だ?そう思いつつ振り返ると・・・
「隙だらけだぞオラァ!」
鷹村さんが右を振りかぶっていた・・・・
「起きろ木村ぁ」
・・・・ううっ・・・何だ?青木か?
痛む体を起こし前を見る。そこには・・・・
「ゲッ・・・青木?どうしたんだその顔」
顔面を腫らした青木がロープに寄りかかっている。
「どうしたもこうしたもあるか!てめえのせいだぞ!?お前が鷹村さんの右を顔面にもらって気絶したせいで、俺がスパーする羽目になったじゃねえか!」
「気絶?俺が?」
そんなまさか・・・振り返ったあと右をもらうまでは覚えている。だがそれからは覚えていない。
マジで気絶したのか・・・
「お?木村気づいたか!続きやるぞ!」
「まだやるんですか・・・」
「当たり前だ!早く準備しろ」
ここで俺が退いたら、青木の犠牲が無駄になる・・・
よし、やるぞ、やってやるぞ。
「お願いします!」
俺は再度リングに上がる。
俺がリングに上がった事を確認するとすぐに鷹村さんは左を打ってきた。先ずはガードで受け止める。
全くすげえ破壊力だぜ・・・と思いながら両足で踏ん張りを効かせてその場に踏みとどまる。
「何!?」
・・・ん?今鷹村さんが何か呟いていたような・・・・いや、今はスパーに集中しろ。そう自分に言い聞かせ、構えをとる。 鷹村さんが左を2連打してくる。俺はそれを1発目はガード、2発目はヘッドスリップで避けた。
避けられた?・・・・今確かに避けたぞ?鷹村さんの左を。
「マジかよ....」
青木も何やら驚いている。俺が避けたからか?
何にせよ避けられたと言うことはかなり大きな進歩だ。
「よーし、いけるぞ!」
自分を鼓舞し、構える。俺の用意が出来たと判断したのか鷹村さんが左右を打ってきた。これがワンツーか。
俺は左を避けて前に出ながら右をガードする。顔しか狙われていないためガードしながら近づくが・・・ある程度近づいたところで気づいた。この状態...腹ががら空きじゃねぇか!早く距離を・・・そう思った時だった。
「かかったな!木村ぁ!」
笑いながら鷹村さんが上体を捻っている。
ボディーブローだ! 俺は咄嗟にバックステップをする。
「甘い甘い!」
距離をとったにも関わらず、目の前に鷹村さんはいるままだ。踏み込んで来やがった・・・
更に運の悪いことに背後はロープだ。最悪の状況だ・・・
いや、まだ突破口はある。一か八かやるしかない。鷹村さんのグローブが俺の腹に正面から迫ってくる。俺は腹をガードし残った力を両足につぎ込んで思い切り再度バックステップした。
ボディーブローがガード越しに突き刺さるのが分かる。そのまま俺は腹を抱えてうずくまった。
「おい木村っ大丈夫か!?」
「あ...ああ、大丈夫だ。危なかったぜ 」
「あのボディー喰らって良く立てるな」
「何、賭けに勝ったってだけさ」
「賭け?」
「鷹村さんのボディーが当たる前にガードしながらロープごとバックステップしたんだ。鷹村さんの腕に合わせてな」
「首捻りでダメージ殺すみたいな事か」
「そういうことだ。まあ俺が満身創痍で且つロープ際にいたから出来たことだ。条件が運良く揃ったってだけさ」
・・・・本当に運が良かった。ロープ際にいなければ間違いなくボディーをモロにもらっていた。
鷹村さんは拳一つ分の隙間があればパンチが出せる。
多分俺とギリギリまで密着して打つつもりだったんだろうがコーナーでなくロープに寄せた事が唯一のラッキーだった。速水がやっていたロープの反動を使うという発想が出てくれたお陰で今立てている。
「・・・・・チッ」
「鷹村さん何か機嫌悪そうだな・・・」
「そりゃそうだろ。木村に2発しかクリーンヒットさせられなかったんだぜ?」
2発?それしかクリーンヒットしなかったのか?
気絶前の右ストレートと最後のボディーブロー・・・
確かに2発だ。俺なんて一発もパンチ出せなかったけど・・・多分木村ごときに避けられたって怒ってるだろうな・・・・後で締められる覚悟をしておくか
シャワーを浴びて着替えを済ませて戻ると、2人の男性がいた。鴨川ジム会長の鴨川源二会長に事務の八木さんだ。
「会長、お帰りなさい」
「ジジイ何してやがった?」
「ある大事な相談をね」
「なんだそりゃ?早く教えろジジイ!」
「そう焦るでない。まだ木村がおらんじゃろうが」
何やら俺待ちのようだ。早く行かなくては。
「すいません会長。シャワー浴びてました」
「木村も来たな。揃ったということで発表する」
発表・・・・何だろうか。気になるな。
「まず、一ヶ月後に鷹村の試合が決まった」
「よっしゃあ!ようやく決まったか!」
「てことはマッチメイクの相談してたんすか?」
「そういうことさ。鷹村君の階級では選手が少なくて中々試合相手が見つからないから、手当たり次第に声をかけないといけないからね」
鷹村さんの所属するミドル級は日本人の選手人口の
少なさに加え平常時ヘビー級の体格の鷹村さんとやりたがる選手が少ない事もあり、マッチメイクに多大な時間と労力を必要とするため、会長や八木さんの苦労もうかがえる。
と解説しているうちに、会長が続けて言う。
「鷹村の試合の前座は木村じゃ。」
「・・・・俺っすか?」
「貴様以外に木村はおらんぞ」
「せめて俺様が試合するリングをしらけさせんなよ?」
「わかってますって。任せてくださいよ、鷹村さん」
こうして、転生した俺にとっての初戦が決まった。試合は1ヶ月後。俺は拳を握り締め、試合が決まった喜びで今にも溢れそうな笑みを堪えていた。
今後の方針等はここに希に書きます。