今月から再開しますので何卒宜しくお願い致します。
side:木村
青木の店に行った次の日、俺は誰よりも早くジムに来て一枚の紙とにらめっこしていた。
一歩の新人王戦のトーナメント表が出たのだ。初戦の相手はもちろんジェイソン尾妻。八戸拳闘会に所属している選手だ。
インファイターで得意なパンチは左右のフック。
原作じゃ辛勝といった感じでかなりギリギリの試合内容だったのが記憶に残っている。
俺が早く来たのは言うまでもなくトーナメント表を確認する為だと思うだろうが違う、実際は会長に呼び出されたからだ。
「おう、来たか木村。」
「おはようございます会長。」
「お主を呼び出したのは他でもない。新人王トーナメント一回戦の対策についてじゃ。」
「対策ということは、新しい練習メニューでも組んだんすか?」
「まあ間違いではない。メニューは当然組んである。本題は小僧のスパーリングパートナーの事じゃ。」
「俺がやるんじゃないんすか?」
ジェイソン尾妻の対策という時点で察してはいるが一応聞いてみる。
「今回の相手は木村とはタイプが違う。よって一時的にパートナーを交代してもらう。」
「誰と交代するんです?」
「その男はもうじき到着する。すぐにわかるわい。」
会長が言うやいなやジムの扉が開け放たれる。
入ってきたのはもちろん鷹村さんだ。
「オッス!来たぜジジイ。」
「来たか。それでは説明を始めるぞ。」
「やっぱ鷹村さんか…」
「木村ぁ、何か言ったか?」
「な、何でもないっすよ!」
心の声が漏れたのを誤魔化した所で会長が咳込んで話し出した。
「まず、一回戦が始まるまでは鷹村に小僧を任せたい。スパー相手としてみっちりしごいてやるんじゃ。」
「おう、任されたぜジジイ。」
「木村は小僧のスパーを見てその都度アドバイスをしろ。お主にとっても眼を肥やすええ機会じゃ。ただし己の練習も決して怠るなよ。試合が控えとるからな。」
「任せてください!」
「それでは木村はロードワーク、鷹村は詳細な説明をするから残れ。いいな。」
会長の指示を聞いた俺は用意を済ませる。
鷹村さん相手のスパーと聞いて何となく察したが自分の練習を疎かには出来ないので何も言わずにジムを出た。
side:一歩
「僕がプロボクサーかぁ…。」
そう言う僕の目線の先にはプロボクサーのライセンスが輝いている。
憧れのプロのリングでの試合は緊張したけど凄く楽しかった。勝った後の雨のような拍手が心地よくて。
あのリングで、また戦いたいと思ったんだ。
そしていよいよ新人王戦だ。宮田君との約束を果たすためにも負けるわけにはいかない。
「早速練習するぞ!」
僕はライセンスを握り締めジムへと駆け出した。
「こんにちはー!」
挨拶と同時にジムに入ると藤井さんが会長と話している。何だろう…?
「来たか小僧。ちょっと来い、話がある。」
会長に呼ばれたのでついて行くと木村さんと八木さんがそこにいた。
八木さんが紙を見てるので何となく呼ばれた理由を察した。
「新人王戦の1回戦で戦う相手が決まった。」
会長の言葉に息を呑む。
来た。気になって気が気じゃなかった一回戦の相手。
八木さんが教えてくれた情報によれば相手は僕と同じインファイターで、フック系のパンチが強いみたいだ。
それと何だか怖い…。
青木さんもびっくりしてた。
何かを考え込んでいた木村さんが急に会長室を出ていった。何だか真剣な顔をしてたな…。
藤井さんが相手のビデオを再生する。それを見た後会長が、
「最初に言う。ジェイソン尾妻は強い。黒人特有の筋肉のバネは脅威じゃ。それに加えテクニックとスピードも小僧より上なのは言うまでもあるまい。」
と言ったのを僕はただ聞くことしかできなかった。何故ならその通りだからだ。
僕自不器用なのはわかってる。だったら対抗する方法は限られている。
相手もインファイターなら打ち合いは避けられないだろうから打ち負けないようにならなきゃ。
「パワーで対抗しようと考えるのは間違っておらん。しかしそれだけでは勝てんぞ。」
「勝てないって…あっ!」
会長が何を言いたいか分かった。そりゃそうだ。
「気づいたか。打ち合いというのはパワーだけでは制する事は出来ん。いかに相手のパンチを貰わないかが鍵じゃ。」
「幕ノ内くんは今までの2試合どちらもガードが甘かったからな。無理もない。」
試合でガードが甘かったのは僕も反省している。そのせいで危うく負ける所だったから。
ガードを意識するためにピーカブースタイルの練習をしてるけどやっぱりまだ甘い部分がある。
いざ打ち合いになってガードを忘れない様にしないと。
デビュー戦の時と同じじゃ駄目なんだ。
「それではジェイソン尾妻の対策について説明する。小僧ついて来い。」
会長が練習スペースに向かったので僕も後を追うと、リングの上に鷹村さんがいた。その横に木村さんもいる。
「よし木村、リングに上がれ。」
「「えっ!?」」
木村さんと同じタイミングで声が出てしまった。僕じゃなかった事ではなく木村さんが驚いている事に対してだ。
「まず、小僧には試合まで鷹村とスパーリングをしてもらう。木村には手本として先にやってもらうぞ。」
「いやいやいや会長聞いてないっすよ! マジでやるんですか!?」
「僕もスパーの相手が鷹村さんだなんて聞いてないですよ! 死んじゃいますって!」
「やかましい!さっさと言う通りにせんか!」
会長に怒鳴られて木村さんは嫌そうな顔でリングに上がった。あそこに立っているのが次は僕だと思うとゾッとする。
「よし一歩、木村の動きをしっかり見とくんだぞ。俺様とやる時にすぐに伸びたんじゃたまらねえからな。」
「は、はい!頑張ります!」
鷹村さんに言われた通りに木村さんをよく見る。
…あれ?構えが違うような…。
いつもならオーソドックススタイルの木村さんが今日は前傾姿勢気味に構えている。ガードも高めだ。
すぐに飛び出せる姿勢。まるで…インファイターみたいな。
「お主の手本をするならアウトボクサーのやり方じゃ意味がないからな。木村も何か考えがあるんじゃろう。」
まさか、木村さんは僕の為にわざわざ…?
嫌嫌リングに上がったように見えたけどやっぱり凄い。鷹村さん相手でそんな事ができるなんて。
ちゃんと見ないとな。見て勉強するんだ。
よろしくお願いします、木村さん!
side:木村
完全に想定外だった。まさか鷹村さんとやるとは思ってなかった。原作じゃそのまま一歩がスパーやってたのに会長は一体何を考えてるんだ...?
でも折角のチャンスだ。鷹村さん相手にどこまでやれるか分からないが精一杯やろう。一歩に手本を見せなきゃいけないしな。
リングに上がった俺は構えを取る。一歩を意識しインファイターに近い物だ。
構えの違いに気づいた一歩の顔付きが変わった。真面目モードに入ったな。
「では説明する。ジェイソン尾妻に勝つためには奴の得意パンチであるフックを攻略せねばならん。したがって鷹村には左右のフックを打ってもらう。小僧はそれを躱し空いたボディへ一撃を入れる事を目標とする。」
「フックを躱してボディへ…。」
「フックの打ち終わりは脇腹ががら空きになる。相手が焦って大振りになれば尚更な。」
鷹村さんの言葉を聞いた一歩がシャドーをし始める。ホントに真面目だよなぁ。
「小僧、スパーが始まるぞ。しっかり見とけよ。」
「あっ、はい!すいません!」
「木村ぁ、今までの鬱憤晴らさせてもらうぜ。」
「八つ当たりだ…。」
「死ぬなよ木村ぁ!」
青木め縁起でもねぇ事言いやがって。
睨まれながらコーナーへ下がる。さて、いくか。
「では、始め!」
会長の掛け声と同時に鷹村さんが迫ってくる。ガードを固めて俺も前に出る。
鷹村さんのフックが絶えずガードに叩きつけられる。一発防ぐ度に上体が大きく揺れる。
「オラオラァ!避けてみろ木村ぁ!」
畜生、動けねえ。避ける隙も与えない程の連打。動けないなりにガード越しから鷹村さんの手を観察する。段々パンチが見えるようになってきた。
鷹村さんが右フックの体制に入った途端に脳内に映像が流れる。原作で何度も見たシーン。
俺はフックをダッキングで躱した。眼前にはがら空きの脇腹がある。
(今だ!)
好機とボディブローを打つが防がれる。流石に対応力が段違いだ。
距離を取って体制を整えるとすかさず前へダッシュし距離を詰める。そら来た。
右フックをガードで受け止め左フックをダッキング。
再びのチャンス。
もう一度ボディブローを打とうとした瞬間背中に何かが突き刺さる。
リングに沈んだ俺はそのまま気を失った。
畜生、当たらなかった…か…。
side:鷹村
「鷹村さんエルボーは卑怯っすよ…。」
「木村さんしっかり、しっかりしてください!」
一歩が木村をベンチへ運んでいる。俺様がエルボーをぶち込んだせいだ。
木村のボディを貰うわけにいかなかった俺様はつい肘を使ってしまったのだ。
2度も躱された。俺様のフックを木村にだ。
つい熱くなっちまったぜ。
あいつ前より回避に磨きがかかってやがった。まだまだ強くなるだろうな。
木村を運び終えた一歩がリングへ上がる。
一歩も気合が入ったのかやる気に満ちた顔してやがる。これからとことんしごいてやるから楽しみにしておけよ。
俺様はニヤリと笑い一歩と向き合う。ピーカブースタイルで余計に小さく見えるぜ。
ジジイの掛け声が響く。反射的に構えを取り、俺様は一歩を迎え撃つのだった。
新人王戦は所々省略します。(オリジナル展開などの都合により。)
尾妻戦前のスパーをどうしても書きたかったので今回書きましたがこのままいくといつタイトルに挑戦できるか分からないのでご理解頂けると幸いです。