たった3センチの根性   作:ダブドラ

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大変お待たせ致しました。次回から話のテンポを上げる予定です。


第20話 猫田と木村

 

side:木村

 

俺が鷹村さんに気絶させられた後、一歩がリングに上がりこっぴどくやられたらしい。

 

それから2週間経って試合当日。前日時点で鷹村さんのフックをダッキングで躱す事には成功し一先ず仕上がっている。

 

一歩の次に試合が控えている俺は控室のテレビで試合を見ていた。

 

一歩も尾妻も引かずに打ち合っている。

ただ微妙に尾妻が押しているか。

 

2ラウンド目の時点でどちらもノーダウン。ダメージでいえばどっちがダウンしてもおかしくはない。

 

おっ、一歩が盛り返して来たな。尾妻が後退し始めた。ロープすれすれまで下がった所で一歩が右ストレートを打つ。

 

尾妻もそれを迎えに行き両者の右が交差する。リーチの差で一歩が膝をついてしまったが尾妻の膝も震えている。

いままでの打ち合いで何発かボディに貰ってたのが効いてきたらしい。

 

それを見逃さなかった会長がすかさず発破をかける。

立ち上がった一歩を見た尾妻が戦慄しているのが分かる。

 

あれで立たれたらそりゃそうなるわな。焦っている尾妻が攻めに出たが案の定雑になった。ただ一歩もダウンの分動きが鈍い。

 

よろけた一歩目がけて尾妻が右フックを打とうとする。これを待っていたと言わんばかりにフックを躱した一歩は尾妻の肋へパンチを放った。

 

そのままよろけた尾妻へ一歩の右がクリーンヒット。

尾妻は立てず試合は終わった。

 

顔の半分を腫らした一歩の激励を受けた俺はガウンを羽織りリングへ向かう。

 

今の俺がどこまでやれるか、試させて貰うぜ。

 

 

side:鷹村

 

試合を終えた一歩をからかいに青木を連れて控室に来たんだが木村の様子がおかしい。

 

「お前ボロボロのくせによく打ち勝ったな!」

 

「や、止めて下さい青木さん。痛いですって…。」

 

青木がやかましいのはいつもの事だがそれに木村が乗ってこない。試合直前だからといえばわからないこともないが…。

 

何かを考え込んでいやがるのは間違いない。もうすぐてめえの番だってのに何するつもりだ?

 

まあ考えても仕方がねえ。試合が始まりゃハッキリする。

 

俺様は木村の肩に手を置き、

 

「んじゃ観客席で見てるぜ。負けんじゃねえぞ。」

 

とだけ言って控室を出ようとする俺様を木村が立ち上がる音が引き留めた。

 

「言われなくても負けませんよ。」

 

木村の一言を聞いた俺様はニヤリと笑いながら観客席へと向かった。

 

 

 

 

「この試合、木村は何かする気だぜ。」

 

「木村さんがですか?」

 

「ああ、控室で妙に静かだったろ。ありゃ緊張してたからだ。それに木村にしては珍しく自信ありそうな面してたからな。」

 

「確かにそうっすね…。何する気だ?木村のヤツ。」

 

「木村さん出てきましたよ!」

 

一歩の声を聞いて青木とリングの方へ向き直る。木村が堂々とリングへ歩いてくる。相手も中々いい面してるじゃねえか。

 

木村が何を企んでるのか、見せてもらおうじゃねぇか。

俺様が腕を組んだと同時にゴングが鳴り響いた。

 

 

 

side:木村

 

リングに相手が上がる。タイプはガチガチのインファイターで足はそこまで速くはない。

 

普段のアウトボクシングで迎え撃てば何てことはない相手だ。だが今回は相手がインファイターであることに意味がある。

 

コンディションの確認を兼ねて軽くジャンプしてみる。足は良く動く。踏み込みもバッチリだ。

 

パンチも悪くない。減量に伴うスタミナの減少も前より抑えられている。練習の成果は確実に現れているよう

だ。

 

周囲の歓声が会場内に響き渡る。そういえば前よりファンが増えてきたらしくチケットも少し売れるようになったらしい。

 

「落ち着いて距離を取ればお主にとっては怖くはないじゃろう。ただし油断はするなよ。」

 

会長のアドバイスに頷きながらリング中央へ。

そのまま相手と向かい合う。

 

しっかりガードを上げてこちらを睨んでくる様がどこか一歩を思わせるな。

 

「ラウンド1、ボックス!」

 

試合が始まった。

レフェリーの掛け声とゴングを聞いて構えを取る。カウンターを警戒してるのか相手は前に出ようとしない。

 

互いに見つめ合ったまま時間が過ぎていく。一向に相手は動く気配がない。

 

(それならそれで構わないさ。餌を撒くだけだ。)

 

保っていた距離からジャブを打つ。ガードの上からお構いなしに2発3発と重ねていく。

 

ガードしている相手の表情が変わってきた。少し前のめりになってきた気もする。

 

様子を見ていた俺の眼に左を構える相手がいた。俺のジャブを貰いながら強引に来たようだ。

 

時は来た。後は勝つだけだ。

 

柄にもなく俺の口元はニヤけていた。

 

 

 

side:鷹村

 

「おい木村ぁ!なに打ち合ってんだ離れろ、危ねえぞ!」

 

「どこ見て言ってんだ青木ィ、木村は打ち負けちゃいねえぞ。」

 

「青木さん!木村さん押してますよ!」

 

木村はジャブを餌に相手を前に出てこさせたんだ。

いつもよりジャブが遅かったんでまさかとは思ったが、やりやがったか。

 

面白え、好きだぜそういうの!

 

木村の回避は相手の距離でも冴えている。手数で押してきたか相手が徐々に逃げ腰になっていく。

 

相手のフックを躱してボディへ1発。下がった顎へ立て続けにアッパー。俺とスパーした時木村が狙っていたコンビネーションだ。

 

しかし相手はインファイターらしくタフだ。効いてる筈だが怯まず打ち合っていられるあたり相手も仕上がってるな。

 

「やっぱり木村さんのパンチ力じゃ倒しきれないんじゃ…。」

 

「相手もまだまだって感じがするぜ。早いとこカウンター取れってんだ。」

 

「そうでもないぜ。よく見てみろ。」

 

俺様の視線の先には相手からダウンを奪い拳を掲げる木村の姿があった。

 

「ダウン取りやがった!何が起きたんだ?!」

 

「ガードそっちのけで打ち合い続けたらそうなるわな。」

 

相手はガードも忘れて木村と打ち合っていた。被弾し続けた分のツケが回ってきたってとこだな。

 

フックをモロに食らってダウンしたんだ。だがタイミングで倒したようなもんだしあれなら立つだろう。その証拠に藻掻いてやがる。

 

かろうじて立った相手がファイティングポーズを取った所でゴング。1ラウンドが終わった。

 

 

side:木村

 

「言いたいことはあるが後にしておく。相手はまだ死んでおらん。気は抜くなよ。」

 

「はい、しっかり決めてきます!」

 

コーナーで会長から釘を刺される。インファイトの感触は分かったが中々危険だったな。回避もギリギリだったし何発か貰ってしまった。

 

ダメージはそこまで大きくはない。スタミナもまだ残っている。次のラウンドに向けて回復の為に水を飲む。

 

「セコンドアウト!」

 

レフェリーの声を聞いて立ち上がる。向かいにいる相手がガードをガッチリ固めている。

 

「ラウンド2、ボックス!」

 

2ラウンド目が始まるやいなや突っ込んでくる相手に負けじと俺も前に出る。

 

左のショートアッパーで相手のガードに隙間を作る。僅かな隙間へ強引にストレートをねじ込む。

 

浅かったが後退した相手へ近づきつつジャブを連打。手応えからしてさっきよりガードが緩くなったか。

もう少しで崩せそうだ。

 

その時相手の目付きが変わった。

 

続けて打ったジャブを躱され懐へ入られる。ボディを一発貰ったがお返しに右フックを当てて距離を戻す。

 

(相手のパンチは軽くない。なるべく早く倒さないとだな。)

 

間髪入れずに打ち合いに持ち込む。焦っている相手へ何度も左右を叩きつけてガードを揺さぶる。

 

相手の表情が曇り始めた。ここぞとばかりに大きく右を振りかぶる。すかさず右を構えて飛び込もうとする相手に合わせて前に出た。

 

相手の右が当たるタイミングで顔との間に左拳をねじ込みパンチを逸らす。

 

そのまま相手の顔面目がけて右ストレートを叩き込む。拳を振り切って前を見ると相手はうつ伏せに倒れている。

 

相手に近づいたレフェリーが両手を交差した。

 

「勝者、木村!!」

 

レフェリーの宣言に合わせて会場内に歓声が湧く。

 

(どうにかなったか…。)

 

少し脱力気味に俺はリングを後にした。道中見覚えのある老人が客席にいた気がした。まさか…な。

 

控室で会長の説教が始まる。篠田さんがフォローしようとしてくれているがお構いなしだ。

 

 

「全く無茶しよって。アウトボクシングを徹底すればあれほど苦戦はしなかったじゃろう。」

 

「確かにそうなんですけど、俺がどこまでやれるか確かめたくなっちゃいまして。」

 

「インファイターと言うには甘い点が目立つが所々褒め所はあったと思うぜ。」

 

「僕も凄かったと思います。勉強になりました!」

 

鷹村さんと一歩のフォローに会長は不満そうな顔をして控室を出た。

 

しばらくして青木が、

 

「会長が誰か連れてきたぞ?」

 

と言ったので慌てて着替えを済ませると、同じくらいの体格の老人を連れて戻って来た。やっぱ気の所為じゃ無かったか。

 

 

「大事な話の前に紹介する。この男は猫田銀八。ワシが現役だった頃の戦友じゃ。」

 

「猫田だニ。よろしくだニ!」

 

「会長の現役時代の戦友って…。」

 

「そんな人が何でここに?」

 

「まあ待て、本題はここからじゃ。猫ちゃんには木村のトレーナーになってもらう。」

 

「お、俺のトレーナー!?」

 

猫田さんとこんなに早く出会った事にも驚いたが今の発言で更に驚いた。

 

「源ちゃんさ頼まれて試合も見てただニ。いいショートアッパーだったニ。」

 

「木村のファイトスタイルや成長ぶりを見ての判断じゃ。みっちりしごいて貰え。」

 

あの猫田さんにボクシングを教われる。こんな機会間違いなくもう来ない。

 

俺は笑みを浮かべて答えた。

 

「よろしくお願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鴨川の拳を受け継ぐ一歩。団吉の拳を受け継ぐ真田ときて猫田は?となったので木村の師匠になって貰おうと思いこういったシナリオにしました。

次次回あたりでアンケートをとる予定です
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