たった3センチの根性   作:ダブドラ

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第2話 木村達也が減量する理由

転生した俺にとっては初戦になる試合が決まった事を告げられた後、俺は篠田さんに話しかけられた。

篠田さんとは鴨川ジムのトレーナーで、俺や青木のチーフトレーナー兼セコンドをしてくれている人だ。このジムならではのかけ声である、

「ガッツでガッツンガッツンだ!」の生みの親でもある。

 

「なあ木村、お前の階級なんだが・・・」

「階級ですか?」

「ああ、お前も入門して2年が経とうとしている。ジュニアライトじゃそろそろキツくなってきただろうと思ってな。どうだ。階級を上げてもいいと思うが」

「いや、俺はジュニアライトのままでいきますよ」

 

この答えはすぐに出た。ジュニアライト級でなければ、

間柴とのタイトルマッチが出来ない事は当然なのだが、木村達也というボクサーがジュニアライト級に拘る最も大きな理由は青木だ。

まず、木村と青木は背格好が全く同じ171cmで、適正階級は共にライト級である。

しかし二人揃ってライト級でデビューしてしまうと、どちらか片方しかチャンピオンになれないのだ。

つまり、二人でチャンピオンになるために、どちらかが階級を下げる必要があった。そして階級を下げる事を選んだのが木村というわけだ。

階級を下げるとは減量するということ。

木村は平常時で60kgあり、ジュニアライト級のリミットはおよそ58kg。

俺がジュニアライト級で試合をする場合、最低2kgの減量が必要になる。おそらく3kgは落とさなければならないだろうな・・・

減量と言えば普通は勝つために、有利に戦う為にするもんだ。本来の階級じゃ力負けするが、下の階級なら自分の方が強い。だったら体重を落として下の階級でやればいい。

これが一般的な発想だ。

だが木村は青木の為に減量する事を選んだんだ。転生した俺がそんな木村の思いを裏切れる訳がない。

だから階級変更だけは、それだけはしたくない。

それが「俺」が減量する理由だ。

 

その日は会長から帰っていいと言われたので帰ることにした。木村達也の家は花屋「木村園芸」を営んでいる。記憶している範囲でジム周辺を歩き、どうにか到着した。既にシャッターが降りている。

 

「ここがこれから俺の家ってことになるのか・・・」

自分の両親とはいえ初対面だ。

緊張しながら中に入ると・・・

「達也、おかえりなさい」

「おお達也、今日は遅かったじゃないか」

40代半ばの男女が迎えてくれた。両親だ。

「ただいま。実は試合が決まってさ。会長と話してたんだ」

「そうか。頑張れよ、達也」

「ああ。頑張るよ。・・・・悪いけど、スパーリングで打たれちまったからもう寝るわ」

「そう、お休み」

「お休み、母さん、父さん」

そう言って俺は自室へ向かった。

穏やかな人だったな。まさに理想の両親って感じだ。

自室のベッドに横たわり、俺はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

side:篠田

 

木村のヤツがジュニアライトのままでいくと言った時、あまりにも直ぐに答えを出したものだから

正直驚いてしまった。あいつが何故階級を変えないかは何となくわかる。

全く友人思いなヤツだ・・・・と思っていたら、

 

「篠田君、ちょっと来てくれんか」

「会長、どうされました?」

何だろうか。会長が呼び出すとは。

「少し、話がある」

 

ー会長室ー

 

「篠田君、木村の階級なんじゃが・・・」

「ああ、それなら私の方から何度か提案しています。しかし、木村は階級を変える気はないと」

「ううむ、ジュニアライト級ではいずれ限界がくるとおもうのだが・・・」

「確かに、木村にとって減量がキツい事は事実です。しかし、木村が階級を変える気はないと言い切った時、彼の目に強い決意を見ました。」

そうだ。あの時の木村の目は、強い光が灯っているようだった。

 

「ふっ・・・そうでなければ二年も続けとらんか」

「ええ、私は木村という男に任せても良いと思います。」

正直気になっている。この先木村がどうなるのか。

 

「そうじゃな、木村の方から言い出すまではやりたいようにさせるか。篠田君、木村の事は任せたぞ」

「わかりました。木村が何処までいけるか、見届けるのも私の役目ですから」

 

そう言って会長室を出ようとした時だった。

 

「そうじゃった、言い忘れとったが、木村の試合前に、最終調整のスパーリングをさせる」

「スパーリングですか?相手は?」

「うむ。八木ちゃんには伝えてあるが、スパーの相手は・・・・」

 

 

 

 

side木村

 

今日はミット打ちやサンドバッグ中心にパンチの確認だ。昨日の鷹村さんとのスパーじゃ一度もパンチを打てなかったからな。

 

「おぉ木村、来たか」

「おはようございます。篠田さん」

「体は暖まっているようだな」

「ええ、ロードワークも済ませて来ましたからね。バッチリですよ」

「それは良いことだ。早速ミット打ちするか?」

「はい!お願いします!」

 

篠田さんに挨拶を済ませた俺は、ミット打ちの為にバン テージを巻く。シャドーボクシングをロードワーク中にやった程度なので不安はあるが、やるしかない。

グローブを着けてリングに上がる。

 

「よし、先ずは基本的なコンビネーションから、打ってみろ」

「お願いします!」

 

オーソドックススタイルの構えを取り、左ジャブを打つ。2発、3発と重ね、4発目で右を打つ。ワンツーだ。

 

「いい感じだ。その調子で打ってこい!」

「はい!」

 

休むことなく左右を打ち、時折くるフックを避ける。

ダッキングはまだ慣れないが、安定はしてきた。

ある程度打ち続けていると、

 

「今だ右ストレート!」

 

そう篠田さんが言った事を聞きつつ左足で踏み込む。

肘、腰、肩と一歩が言っていた事を思い出し、腰を入れて右を振り抜く。

心地よい音がミットから響く。

 

「よし、休憩だ。休んだら続きをするぞ」

「はい!」

 

グローブを外し、ベンチに腰かける。

はぁ・・・はぁ・・・結構疲れるな・・休まず打ち続けたらそりゃそうか。

だが思ったより上手く打てたぞ。特に最後の右は爽快だった。

 

「木村のくせにいいパンチ打つじゃねえか」

「青木か・・そりゃ誉めてんのか?」

「誉めてるさ。いつもよりパンチのキレがいいもんでよ」

「そうか?まあいつもより上手く打てた気がするな」

 

青木が誉めてきやがった。親友とはいえああも素直に誉められるとなんだかムズムズするな・・・

そのまま青木と話していると、

 

「木村、ミット打ちの続きやるぞ」

 

篠田さんが声をかけてきた。時間か。

俺はグローブを着けて再度リングに上がる。

 

「今度はフックやアッパーも打ってみろ」

「はい!お願いします!」

 

先程同様ジャブにワンツー、ストレートを打ちつつフックを織り混ぜていく。直線的な軌道のパンチのみから横軌道のパンチが入ることでグッとやりにくくなるが、

構わず打ち続ける。

そしてフックに慣れるまで打ち続けたところでモーションを変える。腕を横につけ、右足を前にして踏み込み、体ごと突き上げる。アッパーだ。俺は余力をつぎ込み、アッパーを放った。

 

「よし、そこまでだ。キレのある良いアッパーだったぞ」

「はぁ・・・はぁ・・・ありがとうございました」

 

篠田さんに礼を言い、リングを降りた。

俺がミット打ちをしている間青木は基礎トレ、鷹村さんはサンドバッグを叩いていたようだ。

休憩していると鷹村さんが

 

「木村ぁ!調子良さそうだなぁ」

「鷹村さんこそ減量大丈夫ですか?」

「俺様の心配出来るほど余裕なんだなあ?なら前座らしく派手にKO飾って欲しいもんだねえ」

「俺だってやってやりますよKOくらい」

「言ったな?KOだぞ?判定まで引きずりやがったら承知しねえぞ?」

「うっ・・・だ・・大丈夫ですよKOしますから」

 

畜生め。無駄にプレッシャーかけてきやがって・・・

やってやるさ、俺にとってのデビュー戦でKO勝ち出来ればこれ以上の事はない。

そんな事を思っていたら・・・

 

「まあ俺様の前座なんだ。KOくらいできて当然だからなあ」

鷹村さんが嫌味を言っている時だった。

「KOできなきゃ一生俺様のぱし・・イテェ!」

鷹村さんの頭に杖が叩きつけられた。会長だ。

「おいクソジジイ!痛ぇじゃねえか!」

「練習もせんとくだらん事をペラペラと・・・もっと真面目に取り組まんか!この馬鹿者が!早うロードワークに行ってこんか!」

「畜生!覚えてろよ木村ぁ!」

 

何で俺のせいなんだよ・・・

杖を振り回した会長に追い出された鷹村さんはロードワークに行ってしまった。

開け放たれたジムの扉を閉めて戻ると、篠田さんに呼び出された。

 

「木村、試合の一週間前にスパーリングが決まった」

「スパーリングですか?篠田さんがそう言うということは、青木や鷹村さんじゃないですよね?相手は誰なんですか?」

「相手は・・・・・宮田一郎だ」

 

・・・・・・は?

 

 




今回から別キャラ視点が入ります。
宮田とのスパーは次の次くらいの予定です。

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