たった3センチの根性   作:ダブドラ

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遅くなりましたがいよいよ木村と宮田のスパーです。


第4話 木村VS宮田

いよいよ宮田とのスパーだ。

試合じゃなくスパーだってのに緊張している。

手が震えてやがる。

あの宮田一郎と今日、スパーとはいえ手を合わせるのだ。

あのカウンターを自分がもらうかもしれない・・・・・・・

 

いや、違う。かもしれないじゃない。一発は確実にもらうことになる。何故なら俺からカウンターを打たせにいくのだから・・・・勝つために。

 

俺は今地下のリングで宮田を待っている。

上のリングも使えるが外から丸見えであり中に入らずとも選手の写真が取り放題だ。

それは選手のプライバシーが侵害されることになる。

今の宮田はノーライセンスだから尚更避ける必要がある。

スパーの準備としてバンテージを巻き、シャドーをしていると・・・・・

 

「ほう、キレのいいジャブだな」

 

宮田の親父さんが入ってきた。

その後ろには・・・宮田一郎だ。遂に来たか。

 

「木村、今日はよろしく頼むぞ」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

シャドーを見られた動揺が出ただろうか。声が変になっていなかったか?・・・・大丈夫だ。やって来たことをやるだけだ。

 

「木村さん、今日はよろしくお願いします。本気でやらせてもらいますよ」

「お、おう。よろしく」

 

宮田と挨拶を交わし、グローブをつける。

そしてそのままリングに上がる。

 

「ヘッドギアはいいんですか?木村さん」

「ああ、宮田が本気でくるなら俺も本気でいかなきゃな」

「分かりました・・・いきますよ」

 

宮田が僅かに笑みを浮かべている。本気でくるな。

ヘッドギア無しでのスパー。鷹村さんに打たれ続けたお陰でヘッドギア無しの感触は掴めている。

後は俺の実力がどこまで通用するか・・・・だ。

 

「木村ぁ惨めな負け方すんなよ!」

「宮田に一発かましてやれい!」

 

青木と鷹村さんも見に来たか。相変わらずだな・・・

だがお陰で落ち着いた。

両拳をつき合わせ、気合いを入れる。

よし、いくぞ!

 

「スパーは4ラウンド、2ノックダウン制だ」

 

宮田の親父さんから説明が入る。

プロの4回戦と同じルールだ。宮田も来年プロテストだからな。感覚を覚えるためだろう。

互いに向き合い、ゴングを待つ。

 

「では始めるぞい」

 

鴨川会長がレフェリーとしてリングに上がり、ゴングが鳴った。俺と宮田は同時に構えをとる。俺はオーソドックススタイル、宮田はヒットマンスタイルだ。

片方のガードを下げ、手を出しやすくする攻撃的なスタイル。

宮田のスピードならガードの欠点も無いに等しいか・・・

 

どう出るか考えつつステップを踏みリズムを刻む。

宮田も軽快なフットワークを見せてくる。

・・・・・・誘ってきてるな。まずは様子見だ。

 

左を打つ用意をし、間合いを詰める。

まだ、もう少し・・・ここだ!

左の2連打を打つ。かわされた。

速い・・・俺よりずっとスピードがある。

だがこの距離なら届くはずだ。再度左を引いてワンツーの体勢に入ろうとしたときだった。

 

宮田が目の前にいる。スタイルは変えず何か誘っているようだ・・・まさか、至近距離の打ち合いをする気か?

ガードを上げ、向き合うように立つ。

受けて立つぜ、負けねぇぞ宮田!

 

凄まじい左の差し合いからの、パンチの応酬。

俺も宮田も紙一重で避ける。クリーンヒットは未だ無し。連打を止めようと右を振り抜いた。

その瞬間、自分の目の前に天井が広がっている。

 

・・・・・何故だ?何故天井が目の前にあるんだ?

視線を下に向けると、左を戻す宮田がいた。

カウンターか!カウンターをもらったのか。

足が言うことを聞かない。クソっ、動け!動けよ!

もたもたしている内に、宮田が飛び込んできた。

 

ヤバい、いまもらったら終わりだ・・・

頼むから動いてくれ・・・頼む・・・

願いながら両足に力を込める。想像以上のジャストミートだったらしい。足が揺れていやがる。

咄嗟にガードを上げ、ロープに背を預ける。

来やがった。

 

連打を受けながら足を庇う。ロープの反動を使って衝撃を殺す。足が戻るまで耐えろ、耐えるんだ。

ガード越しに宮田が必死の形相を浮かべているのが見えた。明らかに宮田が優勢なのに何故必死なんだ?

とにかく足が戻るまで踏ん張れ。そう言い聞かせながら前を向いた。

 

その時、宮田が下がった。打ち合いを嫌ったのか?理由がどうあれチャンスだ。

戻りかけの足に力を込め、ガードを下げる。

宮田が再び前に出ようとしたのを見て、俺は前へ踏み込んだ。

 

気づいた時には宮田と至近距離にいた。

鍛えこんだ足が活きたようだ。宮田が驚きの表情のまま左を打ち下ろしてくる。ヘッドスリップしつつ上体を捻る。焦ったらしく打ち下ろしが逸れた。

脇腹ががら空きだ。そこへめがけて渾身の右ボディーを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

side:宮田(一郎)

 

 

畜生、想定外だ。木村さんがここまで強いなんて。

ハンドスピードやフットワークは俺ほどじゃないが状況を見極める冷静さやロープを使う発想、何よりあのダッシュ力だ。一瞬でクロスレンジまで追い詰められちまった。そこからのボディーブローは効いたぜ。現に足を止められた。

 

そういえば、ボディーブローを打ってきた時の木村さんの目に強い光が灯っているようだった。

俺が下がったのもあの目を見たからだ。怖じ気づいたと思われるだろうな、父さんに。

 

ジャストミートだと思ったカウンターも耐えられた。

タイミングも呼び込みもバッチリだったんだがな・・・

一度でダメなら何度でも入れてやるまでさ。

ロープにもたれながらここまでの流れを振り返り、構えをとる。

 

負けるわけにはいかない。足だってまだ動く。手も出せる。まだ戦れる。

ダウンしなかった事を救いと感じつつ前に出る。

左で牽制し右を当てにいく・・・が当たらない。

さっきのボディーが効いてくる前にと思ったんだが想定より早くハンドスピードが落ち出した。

それに比べて木村さんは足が生き返ったらしい。フットワークが冴えている。

 

パンチを空振りさせられ続け、ゴングが鳴った。

1ラウンドが終わったようだ。

 

 

「一郎、お前が木村から一発もらうとはな」

「一発もらうどころかその後の俺のパンチは全て空振りさせられたよ」

「カウンターが決まらなかった事が痛手になったな」

「俺の感覚じゃジャストミートだった。今までにない手応えだったんだけどな」

「話せるくらいには余力があるようだな。次のラウンドはどうする?」

「おそらく木村さんは打ちにくる。そこでカウンターを合わせるだけさ」

「木村が何を企んでいるかわからんからな、最後まで気を抜くんじゃないぞ」

「OK、父さん」

 

立ち上がり、木村さんの方へ歩き出した。

さあ、2ラウンド目が始まる。

 

 

 

 

side:宮田(父)

 

 

「木村のヤツ、いけるんじゃないすか?」

「宮田が木村ごときのボディーブローを喰らった所を見るとあり得るが、まだ分からんな」

 

 

鷹村達がスパーの勝敗を語り合っている。

確かにこのままいけば一郎は負けるだろう。

一郎自身がジャストミートと言っていたカウンターを受けて尚あれほどのボディーブローを打つとは・・・・

 

私も正直驚かされた。ウォーミングアップでやっていたであろうシャドーのキレからして成長しているとは思ったが、ここまでとは予想外だった。

一郎についていけるだけのフットワークにハンドスピード。並大抵の努力じゃ身に付かん代物だ。

 

私が驚いたのは何よりあの目だ。

以前鴨川会長に聞かされた話だが、目が生きていると言うとき、それは目に強い光が灯っているように見えると言う。傷ついても闘志だけははっきりわかる相手は確かに目が生きていた。

 

木村もそうだ。一郎のカウンターを受けても目だけは死んでいなかった。その気迫に押されて、一郎は下がったのだ。実に見事な気迫だ。

 

今は2ラウンド目。木村が攻め、一郎が受けている状態だ。まだダメージが抜けてないとはいえ不味いな。

 

 

「アンタはどう思うよ?宮田は勝てると思うか?」

「鷹村か。このままでは無理だろうな。それは一郎も理解しているはずだ。木村の気迫は素晴らしいが、ここからどうするか・・・見物だな」

「俺様も同感だ。面白くなってきたぜ」

 

鷹村が話しかけてきた。面白くなってきた・・・か。

確かに滅多にお目にかかれないようなスパーになるだろう。

 

一郎のカウンターが木村を捉えるか、木村の策が一郎を破るか。このスパーがどんな結末を迎えるか、見届けさせてもらおう。

 

 




次回で決着です。
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