たった3センチの根性   作:ダブドラ

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遅くなり申し訳ありません。第6話です。


第6話 新しい武器

宮田とのスパーから3日が経った。

カウンターを二度喰らいダウンしたためにダメージ抜きの休養中だ。減量はスパー前から着手していたので問題なく落とせている。休養で体が鈍らないように簡単な筋トレ程度なら大丈夫と篠田さんから許可をとってあるので無理のない範囲で体を動かす毎日だった。

 

そんな休養が終わり、俺にとっての初戦まで後一週間という今日。俺はある問題にぶち当たっている。

 

 

・・・・・・武器がねえ。

 

 

いや何を言ってるんだ宮田とのスパーでカウンターを手にいれただろと思う人の方が多いだろうが、あれはカウンターへのカウンターで宮田のようなカウンターパンチャー限定だ。リスクもでかい。

 

今俺が言ってる武器というのはサンデーパンチの事だ。以前にも決め手がないと言ったように現在の木村にはサンデーパンチがない。例えば青木のカエルパンチのようにここぞという時に自分から打つ必殺技が。

 

件のカウンター返しは特定の相手専用なのでサンデーパンチにはなり得ない。言ってしまえばドラゴンフィッシュブローを今すぐ開発してサンデーパンチにすることもできる。だがそんなことして試合に出てったら間柴や他の選手に対策材料を渡してることにかわりない。

 

こんな時期の試合映像を間柴が見る訳がないと思うかもしれないがこのタイミングで出したら今後戦う相手に確実に対策される。そうなったらタイトルマッチもクソもない。だからこそ武器が必要なんだ。

 

俺はロードワークをこなしながら必殺技を模索していた。

 

 

side:青木

 

「必殺技の開発に付き合ってほしい?」

「ああ。今のままじゃ中途半端なんだよ。ビシッと決めるための決め手が俺には必要なんだ」

「もちろん手伝うけどよ、俺が相手でいいのか?」

「技のレパートリーが豊富な青木じゃなきゃ務まんねえんだよ」

「しょうがねえな・・・・・・よっしゃ!この青木様に任せとけ!」

 

 

今日も普段通り練習しようとしていたら、どういう風の吹き回しか知らねえが木村が急に話しかけて来やがった。必殺技ねえ・・・確かにあいつはここぞって時に決め手がないせいでもたつく事が多かった。木村自身悩んでたんだろうな。一肌脱いでやるとするか。

 

鷹村さんが会長とロードワークに行った事を確認し木村とリングに上がる。木村は普段より調子が良さそうだ。

 

「それで、どうすりゃいいんだ?」

「そうだな・・・一度普通にスパーさせてくれねぇか?」

「いいぜ、打ち合ってる間に思い付くかもしれねえしな」

 

そういって互いのコーナーに下がる。

正直言ってしまえば不安はある。その理由としてここ最近木村が別人並の成長を遂げている。

正直羨ましい程に。特にあの宮田にスパーで勝っちまった時は喜びと同時に嫉妬のような感情が湧いた。

今じゃあいつの方が俺より強いだろう。

 

だが俺だって強くなっている。木村がダメージ抜きのために休んでいた3日間、俺は鷹村さんのスパー相手をやらされ続けた。お陰で散々打たれたが今までより打たれ強くなった。新しく開発中の必殺技だってある。今までとは違う俺を見せてやるぜ。

 

篠田さんにゴングを鳴らしてもらいスパーが始まる。木村はオーソドックススタイルの構えを取り、ステップを踏んでいる。俺も負けじとリズムを刻む。

少しずつ距離を詰めていき、ミドルレンジに差し掛かった所でジャブを打つ。

 

当たらねえ。全て避けられる。流石に宮田レベルのハンドスピードに張り合っただけの事はある。だが俺はジャブを空振りさせられる事も構わず打ち続ける。

スピードや動体視力は俺じゃ相手にならねぇレベルだと悟り、開発中の新技の体勢に入る。ガードを上げ、拳を内側に捻るようにして握る。踏み込んだ後右を捻りながら打つ。それと同時に逆方向に上体を捻る。

 

喰らえ木村ぁ!これが俺の新技、きりもみコークスクリューだ!

 

 

 

 

 

 

side:木村

 

畜生。青木の新技とやらにまんまと引っ掛かっちまった。きりもみコークスクリューをこのタイミングで開発したとは思ってもみなかった。コークスクリューの捻りを上体を逆方向に捻る事で殺しただのストレートにする、一見無意味なパンチ。だが実際受けてみると見事に虚をついて来やがった。

 

普通にコークスクリューを打つよりストレートの方が出が早い。コークスクリューが来ると思った奴はその分早くパンチが当たるから当然驚くだろう。俺がいい例だ。だがコークスクリューか・・・何か掴めそうなんだが出てこない。

 

のけ反った上体を起こし右を振り抜く。青木に休む暇を与えんとばかりに連打する。ガードを上げさせ空いた脇腹にボディーブロー。追い打ちで更にアッパー。足を使って距離を取り、様子を伺う。

 

思った以上に技が浮かばないままスパーをしている。このままいったら技が浮かぶ前に終わってしまう。浮かばないと言ったのは、新しく出てこないという意味で実は一つ考えはある。青木はさっきの連打が効いたらしく足が重くなっている。ここで試してみるか?やるしかねぇよな。

 

以前から考えていた必殺技を試すべく体勢を変える。左を普段の構えよりも少し前に突き出し半身に構える。今までの俺じゃとても使えない構えだ。オーソドックススタイルよりジャブが届きやすくなる攻撃的な構え。突き出した左の狙いを定め、前に出る。その勢いでジャブを打ち更に距離を詰める。

 

青木が驚いた表情を浮かべている。そりゃ突然構えを変えたとなりゃ驚くわな。俺は構わず前に出る。青木はジャブやストレートで応戦してくるが全てガードや回避で捌いていく。連打を捌ききったと思った瞬間、青木が笑みを浮かべている。・・・何だ?何を狙っている?

 

怪しみつつ青木の手に視線を向けると、青木の右手は見覚えのある捻り方をしていた。二度目は喰らわないと思ってたんだがな・・・。このままいけば顔面に喰らう。どうする?きりもみコークスクリューの打ち下ろし。喰らえば相当な痛手だが、今は半身に構えている。これなら受けられる。俺は肩を突き出して踏ん張った。

 

──ショルダーブロック

 

青木の拳は俺の肩に突き刺さった。ショルダーブロックなら肩の厚い筋肉で受け止めるため普通のガードよりダメージを軽減できる。青木の拳の下に潜るように踏み込み青木の上半身へ倒れ込む。右を溜めながら。

 

青木によりかかるように倒れ込んですぐ、上体を捻りつつ右を打ち上げる。青木の腹にアッパーが突き刺さる。そのまま拳を振り抜くと青木がダウンした。篠田さんがゴングを鳴らし、スパーが終了する。

 

「大丈夫か?青木?」

「ああ、どうにかな。全くすげえな、俺の新技をもう捌くなんてよ」

「あれはマジで効いたさ。2発目も危なかった」

「いきなり構えが変わりやがったから焦ったぜ」

「秘密兵器ってやつさ。試運転は上出来だったよ」

 

青木と反省を述べあっていた所に篠田さんが来た。何やら雑誌を手にしている。

 

「木村の試合まで後一週間だからな。相手の事も見返しておくといい」

「はい、分かりました」

 

そういって篠田さんから雑誌を受けとる。雑誌の名前は「月刊ボクシングファン」聞き慣れた名前の雑誌、その現物を手に取れるとは夢にも思わなかった。はじめの一歩ファンなら誰もが知るこの雑誌に目を通していく。後ろの方に試合の告知があった。

 

鷹村さんの下に俺の名前がある。相手は長谷川ジム所属の須山というらしい。試合をみた限り生粋のインファイターだ。互いの名前の下に戦績があり、見てみると須山が7戦5勝2敗5KO、俺が5戦4勝1敗3KO・・・・・・ん?

 

1敗?俺既に負けてたのか?一体いつ負けたんだ?

はじめの一歩という作品において選手の戦績が一歩以外かなり曖昧なのは気になっていたがまさかここで気にすることになるとは。一歩のデビューを基準に推測した物しかない以上俺にも何でかは分からん。

 

「篠田さん、俺の戦績の一敗ってどこで?」

「何を言ってるんだ木村、新人王戦の1回戦でお前体調崩して棄権したじゃないか」

 

よりにもよって棄権かよ。新人王を棄権負けしたのは知ってはいたが失念してた。まさか俺の唯一の負けが棄権だなんて・・・。後々キャリアに響くんじゃないのか? 愚痴を吐いても仕方ない。この試合でKOできなきゃ鷹村さんに殺されちまう。何がなんでも勝たねえとな。

 

俺は雑誌を篠田さんに返した後、グローブをはめ直してサンドバッグを叩き始める。ボディーやジャブを中心に半身の構えを馴染ませるように打っていく。会長や鷹村さんが帰ってきた後、俺と青木で鷹村さんにスパーを挑んだがこっぴどくやられちまった。

 

俺にとっての初戦まで、後一週間だ。

 




あと3話くらいで一歩が出てきます。


追記:試合戦績の数値を訂正しました。木村も相手も6回戦ボクサーです。
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