たった3センチの根性   作:ダブドラ

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作者の都合で休載状態に陥ってしまい申し訳ないです。
感想で宮田一郎の呼び方について意見を頂いたのですが原作でも木村は宮田父の前で一郎のことを宮田と呼ぶ描写があるのでそうさせていただきました。


第8話 初めての試合

スタッフの声を聞いた俺はガウンを羽織り、篠田さんと共に控え室から出る。さあ、いよいよだ。転生した俺にとってはデビュー戦となる試合が。

 

通路を抜けた先には、スポットライトに照らされたリングだ。真っ直ぐ歩みを進め、リングに上がる。回りを見渡すと、観客で埋まっている席が見える。この集客力、さすが鷹村さんだな・・・

 

反対の通路から相手の須山が出てきた。気合いの入った表情だ。俺はロープを掴み考えを纏める。相手はインファイター。俺と体格はさほど変わらない。カウンターをとれるかが勝負だ。

 

「始まるぞ、落ち着いていけ」

「はい!」

 

篠田さんに声をかけられ相手の方へ向き直る。相手も準備万端らしい。前傾姿勢でガードを固めている。俺もオーソドックススタイルの構えをとる。

 

「只今より、ジュニアライト級6回戦を行います。ROUND1、ボックス!」

 

レフェリーの合図と共にゴングが鳴った。遂に始まった。緊張しながらガードを上げて様子を伺う。ステップを踏みながら足を使う用意をする。須山はじっとこちらを伺っている。・・・仕掛けるか。

 

足を使い動きながらジャブを打ち込む。須山はガードを固めたまま微動だにしない。手応えも対してないから効いちゃいねえだろうな。ならもっと攻めるか。スピードを上げつつフックを打っていく。ジャブと組み合わせ緩急をつけたコンビネーションだ。

 

右、左、右とフックが須山のガードにめり込むがその度に嫌な予感がする。須山から威圧感を感じる。スピードに頼ってはいけないことは分かっているがスピードで突き放さないと何かある気がしてならねぇんだ。とスピードを上げて攻め続けた。しかし・・・

 

ゴングが鳴った。1ラウンド終了だ。俺は須山の様子を伺いつつコーナーへ戻る。

 

「どうだ、1ラウンドやってみての感想は」

「何か隠してますね。攻めても手応えがたいしてなかったんで」

「そうか・・・だがいい攻めだったぞ。この調子で自分のペースを保つんだ」

「保てるか不安ですけど、努めます」

 

スタミナはまだまだ大丈夫、打ってこなかった事は気がかりだが今はKOする道を考えねえとな。そろそろ2ラウンド目だ。俺は拳を握り締め、立ち上がる。相手コーナーを見つつ前へ出る。須山も前に出てくる。

 

ゴングが鳴った、その時だった。俺の体は大きく後退させられた。須山が右ストレートを俺のガード目掛けて打ってきやがった。すげえ威力だ。ガードごと吹き飛ばされた。直ぐにガードを上げながら顔を上げると、須山が目の前に来ていた。

 

須山のラッシュを受ける。ガードを固めてどうにか凌ごうとするが、今にもガードを崩されそうだ。須山はこれを狙っていやがったのか。多分追いかけて捉えるよりハナから動かさない方が良いとふんだんだろう。だから1ラウンド目は動かず丸まってやがったのか、このラウンドで仕掛ける為に。

 

多分奴は俺が減量があるからとスタミナに弱点があると思っているはずだ。間違ってはないが少し違う。今の俺はスタミナも余裕がある。1ラウンド打ち続けた程度で弱るほど柔な鍛え方はしちゃいないさ。

 

ガードをこじ開けられるまで時間の問題だというところで俺は前に踏み込んだ。ボディー狙いだ。しかし狙いは外れたらしい。須山が距離をとりやがった。ラッシュが止まった事は幸いだが狙いがバレちまった。

 

・・・不味いな。

カウンターをとる隙が見当たらねえ。相当なダッシュ力だ。反応する前に距離を詰められちまった。まだ余裕はあるがこのままやってもジリ貧だ。打つ手を探さないと勝てねぇな。

 

互いに様子を伺う。沈黙が流れている。距離を保ち徐々に前のめりになる須山に応えるようにガードを下げた。相手のセコンドがざわついている。構わず向かってくる須山を迎え撃つようにバックステップを踏んだ。

 

須山の連打。相変わらずの直線的な連打をノーガードでかわしていく。半身に切り替え右ボディーからのジャブ。アウトボクシングにしては攻撃偏重のスタイルだ。相手が直線的なファイターだったお陰でできる戦法をとりつつカウンターを叩き込んだ。

 

このラウンドで決めてやる!

 

 

 

side:鴨川

 

木村が優勢のまま試合がすすんでおる。ええ攻撃じゃ。無駄のない回避からの素早いコンビネーション。

はて..?どこか懐かしさを感じるわい。

 

「会長、木村のやついい動きじゃないですか?」

「うむ、練習の成果がでておるな。宮田とのスパーリングがいい刺激になったんじゃろう」

「しかしガードを下げるなんて危険ですよ。やめた方がいいのでは..」

「八木ちゃんの言うことも一理ある。しかし儂は木村を信じてみたい」

 

そうじゃ。そっくりなんじゃ。儂が現役だった頃、肩を並べ共に戦った男、猫田銀八に。猫田のスタイルは今の木村のようにガードを下げ、回避しつつ攻める野性的なスタイルじゃ。リスクは高いが木村の回避技術は目を見張るものがある。そこは合っておるのじゃろう。

 

じゃが、木村があのスタイルを練習しているところを見たことがない。おそらく付け焼き刃じゃろうが、それでもここまで完成度を高くしてくるとは、見上げたやつじゃわい。

 

「儂はお主を信じよう。思う存分ぶちかませ!」

 

儂は木村に向かって篠田君と共に叫んだ。木村がそれに何と答えたかは分からんかったが笑みが溢れていることだけは良く分かった。

 

 

 

side:木村

 

「おい木村ぁ!!ガード上げろ!やられちまうぞ!」

 

青木の叫び声が聞こえる。会長にいいこと言われた後でこれかよ...俺がガードを下げているのには訳があり、やられるために下げては断じていない。青木に構わず左アッパーを当てて右ボディーを叩き付ける。

 

徐々に須山の動きが鈍くなっていく所を確認し、左拳を握り込み胸の高さに構える。焦ったのか右を大振りしてきた須山に左フックを当てて距離をとる。ダッシュしてくる須山に合わせて俺も踏み出した。そのまま構えていない右拳を振りかぶる。須山の方が速かった。

 

須山の右を喰らって膝が折れる。膝をつく前にロープにつかまりガードを上げる。少し低く構え、前に出る。ここぞとばかりに飛び込んでくる須山にアッパーを合わせ、下へ飛び込む。そのまま上へ向くと、須山が右を打ち下ろそうとしてくる。

 

須山の右を左で反らして右でカウンター。相討ちを防ぎ渾身の一発を叩き込んだ。須山はそのままうつ伏せに倒れ、レフェリーが駆け寄る。その後すぐにゴングが鳴った。勝ったんだ....勝った!やったんだ!

 

どうにかKO勝ちできた...鷹村さんに殺されずにすむぞ...

駆け寄って来た篠田さん達と会話していると、須山が近づいてきた。

 

「強いな、参ったよ。アウトボクサーだと思って警戒していたのが裏目に出たようだ」

「俺のほうこそ、ありがとうございました!途中の連打は効きました。攻めにいくのも命懸けでしたよ」

 

少し話した俺達は握手を交わし互いのコーナーへ戻った。篠田さん達が迎えてくれて、俺は控え室へ戻った。いよいよ鷹村さんの試合だ。KOしたことを報告しないと。

 

「鷹村さん!」

「どうした、木村じゃねえか」

「KOで勝ってきましたよ。鷹村さんも勝って下さい!」

「へっ、俺様が負けるわけがねえだろ。KOして当然なんだ、黙って見てやがれ」

 

相変わらず自信家だな・・・とにかく応援しないとな。

俺は青木と合流し、観客席に向かった。

勝ってくれよ、鷹村さん!

 

side:鷹村

 

畜生、スタミナが落ちてやがる。直前のアップで感じてたがやはり急ピッチの減量は無理しすぎたか・・・?

ええい考えても仕方がねえ。とにかく勝つ!それだけだ。

 

「いくぞ鷹村。用意じゃ」

「分かったよジジイ、俺様の勇姿を見せてやらあ」

「それだけの口が聞けるのならば大丈夫じゃろう」

 

大丈夫じゃねんだよな、それが。木村に見抜かれてたなんて、癪に触るったらありゃしねえ。さて、どこまで持つか、やってやろうじゃねえか。俺様はジジイと共にリングに向かった。

 

リングで待っていやがったのは相手の間嶋とか言う野郎だ。アウトボクサーらしいが、誰であろうと倒すだけだ。ゴングが鳴るまで、考えを巡らせる。

 

「それでは、ミドル級8回戦を行います。ラウンド1、ボックス!」

 

ゴングが鳴った。まずは様子見だ。アウトボクサーなんぞ敵じゃねえが、今の俺様のスタミナじゃ深追いは禁物。しっかり手の内見てやるぜ。

 

野郎が足を使いだした。基本通りの動きだぜ。相手の動きを先読みしてジャブを当てていく。しっかり一発一発確実に当てていくと、突然野郎が距離を詰めてきやがった。俺より小柄な事を活かしたか。

 

しゃらくせえ、終わりにしてやるぜ。

野郎の顔に右を打ち下ろす・・・何?何だ?何が起きた?カウンターしやがったのか! 向き直りジャブを打つ

が・・・クソッタレめ、当たらねえ。カウンターが効いてやがるのか・・・

 

ガードをあげつつ策を練る。アウトボクサーの教科書通りの足の使い方だ。完成度がたけえ。が、俺様の敵じゃない。あの程度の速さなら。

 

ガードを下げ相討ち覚悟で右。互いの顔面に入ったがそのまま野郎はよろけている。一気にきめようと近づくと、相手も応戦してくる。野郎の拳が当たる前に打つ事を繰り返す。野郎の膝が折れた、今だ!

 

「俺様はてめえより速えやつと戦ったことがある。貴様なんぞがこの俺様に勝てると思うなよ!!」

 

叫び様に右で野郎をマットへ叩きつけた。レフェリーが駆け寄って野郎の状態を見ている。早くしやがれ。

ようやくレフェリーが手を交差させた。俺様の勝ちだ。

 

俺様は左手を突き上げた。

 

side:木村

 

「ぶはあっ!ヒヤヒヤさせやがって!」

「全くだぜ。カウンター喰らった時はどうなるかと」

「でもよ、最後鷹村さん何か叫んでなかったか?」

「確かにな、まあ今は勝ったことを喜ぼうぜ」

「そうだな、労いにいってやるか!」

 

俺と青木は控え室へ駆けていった。

鷹村さんの勝利を祝いに。




次回、幕之内一歩の登場です。
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